「選挙に行こう!」 第2章 社会保障改悪の40年

コロナによる医療崩壊・保健所の機能マヒはなぜ起きたのか
 
新型コロナウィルスの感染拡大によって私たちは大変な目にあっています。

安倍政権は対応を間違えた。全く効果のないアベノマスクに507億円も使いました。これは感染症に関する研究を行っている国立感染症研究所(感染研)の基盤的経費(2020年度21.6億円)の23年分にあたります。マスクなど配らず、感染研の予算を増やせばよかったのです。

Go To キャンペーンも大失敗。感染の第5波を招きました。新型コロナの怖いところは症状が出ない人がいることです。症状の出ていない元気な感染者が移動すれば、ウイルスが全国に広がります。政府は「GoToトラベルが感染拡大の主要な要因であるとのエビデンス(証拠)は、現在のところない」と言い張りましたが、感染が爆発的に拡大したので中止せざるをえませんでした。

このような安倍・菅政権の対応のまずさも問題なのですが、医療と社会保障を削り続けてきたことが「検査ができない」、「入院ができない」という事態を生み出したのです。

具体的には3つの問題があります。

 医師が少ない

ひとつは医師不足です。人口1000人あたりでも病床100床あたりでも医師の数が少ない(図表2-2)。

人口当たり医師数はOECD加盟国中下から4番目で、病床当たり医師数も最下位です。経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、日本の医師数はデータのある30カ国中26位と最低に近い。医師総数で日本は32万人ですが、OECD30カ国の平均水準から見て11~12万人も少ないのです。

また、欧米には病院とほぼ同じ機能をもつナーシングホーム*1)がありますが、日本にはありません。OECDの統計にはナーシングホーム精神科病院で働く医師数は含まれていません。その数を加えれば欧米の医師数はもっと多いわけです。

感染症の専門医はさらに深刻です。現在、専門医は1500人いることになっていますが実際に診療・治療ができる感染症科医は500人ほど(図表2-3*2)

日本感染症学会は2010年に「感染症専門医の医師像・適正数」を発表しましたが、そこには「病院に勤務する感染症専門医の人数は3,000~4,000人程度が適正と考えられる」と書かれています。

図表2-3

医師が足りず、感染症専門医は絶対的に不足している。これが新型コロナ感染症に対応できなかった根本要因の一つです。


*1)アメリカのナーシングホーム(nursing home)は、日常的な介護、医療サービスを必要とする重度の要介護者を対象とした施設。入居者は老人だけでなく若年であるが高度の障害をもつ者もいる。病院ではないものの、病院にほぼ近い設備と体制を有しており、看護・介護職員を配置し、24時間介護にも対応している。また、原則として、施設職員によるケア、必要に応じ外部スタッフを利用して施設内での看取りも行う(医療経済研究機構「諸外国における介護施設の機能分化等に関する調査報告書」47頁、2007年)。
*2)池田光史「【最前線】コロナの医療現場で、専門医たちが見ていること」Newspicks 2020年3月3日。

 

 ▼1980年代「臨調行革」が出発点

なぜ医師を増やさなかったのか。

それは「医師が増えると医療費が増える」という間違った考えに固執しているからです。1981年、鈴木善幸内閣が、第二次臨時行政調査会(臨調)を設置。「増税なき財政再建」「小さな政府をめざす」「政治の無駄をなくす」といった耳障りのいいスローガンを使い、少なくない国民が期待を寄せました。

しかし、臨調にもとづく「行政改革」が進められると、その実態は、社会保障費や教育費など国民生活の土台となる予算を削ることだったのです。

医師数抑制政策もこの臨調行革の一環でした。

1982年7月、「行政改革に関する第3次答申―基本答申」が出されます。「医療従事者について,将来の需給バランスを見直しつつ,適切な養成に努める。特に,医師の過剰を招かないよう合理的な医師養成計画を樹立する」。

答申を受けて、政府は1982年9月の閣議で「医師・歯科医師の養成計画について検討する」と決定し、1984年以降、医学部の定員を減らしていったのです。
 
 ▼さらなる削減が求められている病院・病床

病院も減らしました。20年で約1割減っています。広島県は1990年には38病院ありましたが、2017年には31病院になっています(図表2-4)。

 

図表2-4

病床数も1990年153万床から2015年133万床へと20万床も減っています(図表2-5)。

 

図表2-5

2014年、医療・介護総合確保推進法がつくられました。「効率的な医療提供体制」の実現をめざし、2025年を目標に病床削減を都道府県に計画させ、医療費を抑制しようというものです。

 

しかし、厚労省の思惑通りには進まなかった。それぞれの地域の実情を考えれば、簡単に減らせるはずなどないからです。

そこに財界から圧力がかかりました。経済財政諮問会議で中西宏明・経団連会長ほか4人の「民間議員」が意見書を出して、地域医療構想の遅れを問題にしました。

厚労省はこれを受けて2019年9月、424病院を名指しし、「削減が必要」としたのです*3)

厚労省が特に減らしたいのは、「高度急性期」および「急性期」の病床だということが上の図表から分かると思います。カネとヒトのかからない「回復期」「慢性期」へシフトする。医療費の削減が目的だからです。

感染症病床は1998年には9210ありましたが、2018年には1882まで減少。8割もカットしたのです。


*3)広島県内の「再編・統合の議論の必要がある」とされた病院
 北広島町豊平診療所(北広島町)2019年に44床を全てなくし、外来のみの無床診療所となった。/吉島病院(中区)/安芸市民病院(安芸区)/広島西医療センター(大竹市)/済生会呉病院(呉市)/呉市医師会病院(呉市)/呉共済病院忠海分院(竹原市)/因島総合病院(尾道市)/三原赤十字病院(三原市)/三原市医師会病院(三原市)/府中市民病院(府中市)/府中北市民病院(府中市)/庄原赤十字病院(庄原市)

 

ICU(集中治療室)の病床数は、どうでしょう、

「日本集中治療医学会」は昨年4月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する理事長声明」を出しました。

「新型コロナウイルス感染症がオーバーシュート(爆発的患者急増 引用者)した場合の医療体制で最も重要なことは、如何に死者を少なくするかということであり、集中治療体制の崩壊を阻止することが重要ですが、本邦の集中治療の体制は、パンデミックには大変脆弱と言わざるを得ません」と述べ、日本の集中治療室が少ない(人口10万人あたりのICUのベッド数は5床程度)ことに対して警鐘を鳴らしました。

これに対して厚労省は、ICUを増やす手立てを取るのではなく、「ICUに準じた機能を持つ病床」を加えるべきだと反論し、「人口10万人当たりICU等病床数」と「等」の字を加えて13.5と水増ししたのです。定義を広げることで感染者の急増に対応できるわけもなく、多くの自宅療養者、死者を出すことになりました。

 

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