「選挙に行こう!」 第3章 社会保障改悪 3つのデマを斬る

3-2.財政危機論 

2つめは財政危機論です。

上の図表をご覧下さい。国の借金の推移です。どんどん増えて、1212兆円。目もくらむような数字です。10年間で300兆円も増えました。

そこから消費税率のさらなる引き上げと社会保障費の削減は避けられないという結論になるわけです。

しかし、本当にそうか。なぜ、こんなに国の借金は増えたのか。

借金増加の原因を探ることが大切なんです。

 

上の図表は財務省作成の「一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移」です。

赤い線が歳出で青いのが税収(歳入)。ほぼ平行だったのが、1989年からワニの口のように広がっています。歳出が増えていく一方、税収は伸び悩んでいる。いったい何があったんでしょう。

 

①法人税率を下げた

法人税率は1984年から87年には43.3%でした。消費税導入の1989年は42%に下がり、消費税率を5%に引き上げた1997年の2年後には30%に。その後も下がり続けて、いまは23.2%になっています。半分近くまで下がったんですね。

この低い法人税率すら払っていない大企業がたくさんあります。

「大企業優遇税制」と呼んでいますが、税率は同じでも実質的には払わなくてよい様々なしくみがあるからです。

トヨタは儲かっているにもかかわらず、2009年から2013年までの5年間法人税ゼロでした。次の記事を読んでみて下さい。

トヨタ自動車は、2015年3月期の連結決算で、グループの最終利益が2兆円を超えました。利益が2兆円を超えたのは、日本の企業としては初めてのことです。このトヨタ、2009年から2013年までの5年間、実は国内で法人税等を払っていませんでした。2014年3月期の決算発表の際に、豊田章男社長が衝撃的な発言をしたのを覚えている方も多いかもしれません。
「一番うれしいのは納税できること。社長になってから国内では税金を払っていなかった」この言葉に、度を失った人は多いのではないでしょうか? 日本最大の企業が、日本で税金を払っていなかったというのです。(大村大二郎「純益2兆円なのに。トヨタが5年も法人税を免れた税法のカラクリ」ネットサイト「MAG2NEWS」、2015年7月16日)

 

大企業は笑いが止まらない

トヨタはなぜ5年も法人税を払わなくて済んだのでしょうか。記事の続きです。

トヨタが、5年間も税金を払っていなかった最大の理由は、「外国子会社からの受取配当の益金不算入」という制度です。これは、どういうことかというと、外国の子会社から配当を受け取った場合、その95%は課税対象からはずされる、ということです。

たとえば、ある企業が、外国子会社から1000億円の配当を受けたとします。この企業は、この1000億円の配当のうち、950億円を課税収入から除外できるのです。つまり、950億円の収入については、無税ということになるのです。

大企業はいまやグローバル企業で全世界に生産拠点を持っています。トヨタは北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニアの28カ国に子会社がある。子会社からの利益を株の配当として受け取り、その95%が非課税となる。笑いが止まりませんね。

「外国税額控除」というのもあります。大企業の海外子会社や出資会社がその国で支払った税金を、日本の企業(本社)が払ったものとして、日本の法人税から差し引く制度です。

「研究開発税制」は、法人税額から試験研究費の額に税額控除割合(6%~14%)を乗じた金額を控除できる制度です。多額の研究開発費を使うことができる大企業にとってうまみが大きい。研究開発費に多くを割くことができない中小企業は恩恵にあずかることができません。

これ以外にもさまざまな、大企業にとって使い勝手のよい税制があり、有能な公認会計士や税理士を雇って節税に努めるわけです。

 

資本金10億円以上の大企業(金融業・保険業を含む)の内部留保は2020年度に467兆円。19年度から7兆円増え、過去最高額を更新しました。

内部留保とは使うあてのない、企業にため込まれた資金です。設備投資や賃上げに使わず、ひたすらため込む。私のおなかに付いている脂肪のようなもので役立つどころか不景気という「病気」のもとなのです。

儲かっているのに、税金も払わずぶくぶく太っている。それが日本の大企業の姿です。

 

法人税減税の財源

 

消費税導入の1989年度から2019年度までの消費税収と法人税の減収を表したグラフです。

消費税収の累計が396兆円ですが、法人税率の軽減と大企業優遇税制の強化による減収が298兆円。消費税は「福祉や社会保障のため」ではなく、法人税減税の財源だったのです。

②所得税の累進(=「所得の再分配」)が弱まった

所得税の姿も変わりました。

1984年~1986年の所得税の最高税率は70%で、個人住民税を合わせると88%でした。

所得が上がるにつれて小刻みに税率が高くなる。それが消費税導入とともにどんどん平坦になり、現在の最高税率は45%、個人住民税を合わせても55%にすぎません。金持ち減税です。

1999年(平成11年)に個人住民税をあわせた最高税率65%が50%に下がったとき大金持ちはどれだけ減税されたのか。トップテンのお名前と減税額を紹介しましょう。

一番目の里見さんの会社、サミーはパチスロ・パチンコ、ゲームのメーカーです。あとはだいたい分かると思います。サラ金が多いですね。

1、里見治(サミー会長)  10億6423万円
2、福田吉孝(アイフル社長) 7億2089万円
3、武井健晃(武富士専務)  5億7420万円
4、豊田章一郎(トヨタ自動車名誉会長)2億9072万円
5、稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)2億0138万円
6、木下恭輔氏(アコム会長)1億6458万円
7、毒島邦雄氏(三共会長) 1億4083万円
8、木下盛好氏(アコム社長)1億3469万円
9、毒島秀行氏(三共社長)    9752万円
10、福田安孝氏(アイフル取締役)7181万円

 

景気よく減税するものですから所得税収も当然減りました。

1991年に26.7兆円だったものが2000年には13.0兆円、2010年には13.0兆円に。グラフには出ていませんが、2020年度は19.2兆円でした。1991年度と2020年度で比べると7.5兆円も税収が減ったのです。

1億円を超すと下がる所得税負担率

岸田総理が総裁選の時に使ったグラフです。岸田氏は、成長と分配の好循環に向けた政策の1つとして、「金融所得課税」の見直しを掲げましたが、衆議院選挙の自民党の公約には入っていません。どうやら総裁選限定の「公約」だったようです。

さて、年収1億円を超すと税の負担率が下がる。累進課税なら所得が増えるほど負担率が高くならないとおかしい。なぜこういうことになるのでしょう。

所得税は株や土地取引で得たもうけは他の所得と分離して申告することができ、金融所得は税率が一律20%(国税と地方税)と低く抑えられているので所得が1億円を超えると、税金の負担率は低くなります*2)

 

白黒でわかりにくいのですが、一番左の「所得500万円以下」が27.8%となっている白いところが給与所得で、「3000万円以下」ではだいたい半分。

所得が増えるにつれ、給与所得の比率は減ってゆきます。代わりに増えていくのが一番下のグレーの部分、株の譲渡による所得です。大金持ちは働いて収入を得るのではなく、株の売買で収入を得ている。その税率は一律20%で低い。

所得が1億円を超えたところで金融所得の比重が高くなって、所得税の負担率が下がるというしかけなのです。

税の公平とはなにか

今までの話で理解していただけたと思うのですが、社会保障の削減も消費税の増税も避けがたいわけではない。社会保障費の増大や財政赤字の増大を口実にして消費増税し、そのかなりの部分を法人税減税と金持ち減税(所得税)にあてている。自公政権はそういう道(政策)を選択しているのです。

違う道(政策)を選べば、税収不足を減らし、社会保障財源と消費税の減税、廃止することができます。

労働法制を強化し、短時間就労であっても均等待遇を実現すること、ワーキングプアをなくしていくことも大切です。きちんとした収入があれば税も負担できます。

東京国税局長だった志場喜徳郎*3) という人が次のように書いています。

負担の公平は租税の命です。公平を欠いた税制や税務行政は崩壊し、国家は穴の開いた船のように沈没してしまいます。能力のあるものはより重く、能力の少ないものはより軽く負担するのが負担の公平ということでしょう。……こんにち、世界各国のほとんどの税制は、各人の能力によって税を負担するという考え方のうえに成り立っています。(志場喜徳郎『税を見る目』1967年*4)

応能負担原則と呼ばれているものです。消費税導入以後、応能負担原則は著しく歪められました。


*2)他の収入では330万円から694.9万円までの所得の税率が20%で、それを超えると23%から45%まで段階的に税率が上がる。

*3)のち大蔵省証券局長1920年-1994年)
*4)富山泰一『消費税によらない豊かな国ニッポンへの道』あけび書房、2009年より重引。

NEXT  自己責任論(自助・共助・公助)  》

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください