ピケティ 「21世紀の資本」を読む

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(1)資本主義は格差を広げる

●ピケティ・ブーム

トマ・ピケティの『21世紀の資本』が話題です。

700ページ近い大著ですが10数カ国で100万部を突破。昨年(2014年)末に発売された日本語版も13万部売れています。

ピケティの他の本も含め、書店で平積み。解説本も出版され、「東洋経済」「ダイヤモンド」などの経済誌が特集を組んでいます。

『21世紀の資本』には何が書かれているのでしょうか。

ピケティは17世紀以降の各国の統計をたんねんに調べました。

そこから導き出した彼の結論は、r>gです。rは資本収益率でgが経済成長率。

ざっくりといえば株式や不動産による儲けが資本収益で、経済成長は労働によってつくり出されます。

r>gとは、国民の所得の伸びよりも、資本の収益の伸び方が高いということを意味しています。

富める者はますます富み、貧しい者はさらに貧しくなっていくのが資本主義なのです。

●経済成長しても豊かにならない

長期的なデータによると、ヨーロッパとアメリカは20世紀のほんの一時期(1910~50年)格差が縮小しましたが、再び格差が拡大しました。

日本は1950~60年代にもっとも格差が縮小し1990年代以降、格差が拡大しています。欧米でも日本でも歴史的な傾向は格差拡大なのです。

経済学の主流派(近代経済学)は、資本主義が発展すると、格差は縮まり、みんなが豊かになると主張してきました。

経済成長こそが大切だということです。ピケティは近代経済学の立場に立っていますが、この通説をデータに基づき批判。資本主義は格差を広げることを裏づけたのです。

(2)格差の拡大は運命ではない 

資本所得への課税と累進課税

ピケティは、長期的な傾向としては格差が拡大すると言いつつ、20世紀には格差が縮小したと指摘しています。これはピケティの大切な視点です。

格差が縮まった第一の要因は資本所得への課税です。配当、利子、利潤など企業の儲けに対して税金をかけるようになりました。

第二には累進(るいしん)課税です。累進課税とはグラフにあるように所得が多くなるほど税率が高くなる税制のしくみです。お金のあるところから税金を取るということですね。

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所得の再分配と社会権

第三は、社会保障による「所得の再分配」です。累進課税によって高所得者から税収を得、それを格差を縮小するために使うことを「所得の再分配」といいます。

教育、医療、年金、雇用保険、公的扶助(生活保護)などを公的責任で実施し、人びとの暮らしを支えることです。

「ゆりかごから墓場まで」という言葉で有名な、イギリスのベヴァリッジ報告が第二次世界大戦中につくられ、20世紀後半、社会保障は世界に広がりました。

ピケティはまた、「現代の所得再分配は社会権に基づいている」と言っています。社会権とは人間らしく生きる権利や教育を受ける権利などのこと。この社会権によって「所得の再分配」は裏書きされたのです。

労働者の権利とたたかい

残念ながら、労働者の権利とたたかいについてピケティは触れていません。

第1次世界大戦が終わり、国際連盟とともにILO(国際労働機関)が設立され、労働者の権利が国際的に認められていきます。労働者がよりよい労働条件をかちとる権利を手にし、たたかったことが格差を縮小したもう一つの要因だったことをつけ加えておきたいと思います。

(3)格差を縮めるための処方箋

世界的な累進資本課税

ピケティが格差解消のために提唱しているのは「世界的な累進資本課税」です。

資本税とは、法人税や固定資産税、相続税、富裕税などのこと(日本には富裕税はありませんが、スイス、オランダ、ノルウェー、インドなどにはあります)。

国の枠組みを超えて「資本税」を徴収することによって、グローバル化し見えにくくなっている企業の利潤のゆくえを捉まえようとするものです。しかしその実現性は残念ながらほとんどありません。

累進課税を元に戻す

でも大丈夫。国際的な資本税を導入しなくても、格差を縮小することはできます。それは1980年代からどんどん緩められてきた累進制を元にもどす。お金のあるところからちゃんと税金を取ることです。

表1  所得税の最高税率
75%→50%→37%→40%
1987年~1989年~1999年~2007年~

【表1】にあるように最高税率は75%から40%まで引き下げられました。

1999年、所得税の最高税率が50%から37%に下がったとき、大金持ちは億単位で恩恵を被っています【表2】。

表2 これだけ減税された
(所得税と個人住民税)

①里見治(サミー会長)  10億6423万円
②福田吉孝(アイフル社長) 7億2089万円
③武井健晃(武富士専務)  5億7420万円
④豊田章一郎(トヨタ名誉会長)2億9072万円
⑤稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)2億0138万円

法人税率も30年間で大幅に引き下げられました【表3】。

表3 法人税率
43.3%→37.5%→30%→25.5%
1984年~ 1990年~ 1999年~ 2012年~

1989年から2011年までの減税額はなんと153兆円。
庶民には増税し、大金持ちと大企業には減税して格差を拡げたのです。

安倍政権は今後2年間で法人税と法人住民税を1.6兆円も減税しようとしています。大金持ちと大企業には大盤振る舞い。

アメリカは 富裕層に増税し、中低所得者の減税に充てる税制改革を打ち出しました。日本も見習ってほしいものです。

(4)ピケティとアベノミクス 

紙幣を印刷するのは簡単

ピケティは今年(2015年)1月に来日。シンポジウムやインタビューでアベノミクスを手厳しく批判しました。
批判のポイントは2つ。金融緩和と消費増税です。
まず金融緩和から見てみましょう。
「もしお札を刷ってさらにマネーの供給を増やすと、資産価格のバブルを引き起こしやすくなる。株価を押し上げることにはなりますが、格差が広がる恐れがある。はっきりと有効かどうかを答える自信はありませんが、いずれにしても税制を変えるよりも、手軽という意味で短絡的な手法だと感じています」。
ピケティは、分かりやすくするために金融緩和を「お札を刷って」と表現していますが、実際に紙幣を大量に増刷するわけではありません。
日本銀行から金融機関に供給する資金を増やすのです。「大胆な金融緩和」は、アベノミクスの三本の矢の一つ。
日本経済が停滞しているのはお金が不足しているからで、市中に出回るお金を増やせば、景気がよくなるハズという考えに基づく政策です。
 
金が増えても景気よくならず

日銀が民間金融機関に供給している資金の総額のことをマネタリーベースといいます。2012年末に132兆円でしたが、14年末には296兆円と2倍以上に増えました。しかし、金融機関の貸出もGDP(国内総生産)も横ばい(グラフ参照)。2016011717223150d

(単位:兆円)

金融緩和しても貸出も経済全体も伸びず、当然、私たちの暮らしもよくなっていません。お金を増やせば経済がよくなるという「手軽で短絡的な方法」は、やはり効果なし、なのです。

(広島中央保健生協「憲法診断」№46,48,50,51)