教員の長時間労働・多忙化とその是正について  一般質問

2019年3月15日 府中町議会第1回定例会 一般質問

はじめに

いま、教員の長時間労働、多忙化を解決することは極めて重要かつ緊急性の高い課題となっています。

中央教育審議会(中教審)は文部科学大臣からの諮問を受け、今年(2019年)1月「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」という答申(以下、中教審答申あるいは答申)を出しました。

答申は「教師の長時間勤務の是正は待ったなしの状況」「直ちに改善が必要な差し迫った状況にある」という認識のもと「なによりも文部科学大臣及び都道府県教育委員会、市町村教育委員会等が今以上に本気で取り組むことが必要である」とし、「文部科学省には、働き方改革に必要な制度改正や教職員定数の改善などの条件整備」を何よりも求めています。

1.教員のおかれた実態

昨年、文科省が発表した2018年度「教員勤務実態調査」(2016年10月~11月に実施)からみえる教員の労働実態をまず紹介します。

・月曜日から金曜日までの平日、小学校でも中学校でも一日ほぼ12時間働いています。定められている勤務時間は8時15分~16時45分ですが、実際には小学校勤務で7時30分~19時01分、中学校勤務で7時27分~19時19分も働いている。

・法律で定められた休憩時間は45分で、実際には小学校で6分、中学校で8分です。

・土曜日と日曜日も、一日あたり小学校で2時間以上、中学校で4時間半働いています。中学が多いのは部活動のためです。

・週当たりの残業時間は、小学校24時間30分、中学校29時間41分にのぼり、1か月を4週とすれば、小学校98時間、中学校118時間44分残業していることになります。

厚労省は、これ以上働くと死ぬ可能性があるとする「過労死ライン」を定めていますが、残業が月45時間を超えると過労死のリスクは高まり、1か月あたり80時間を超える時間外労働が2カ月から半年、続く場合は過労死ラインを超えるとされています。小学校、中学校ともに、教員の平均的な働き方が過労死ラインを超えるという異常事態です。月に60~80時間残業をすると、くも膜下出血や脳梗塞といった脳血管疾患、心筋梗塞や狭心症といった心疾患のリスクが2~3倍になるそうです。

長時間労働は、うつ病などの精神障害も引きおこします。「公立学校の教職員に占める精神疾患による病気休職者数は、ここ数年5,000人前後(全教育職員数の0.5%強)で推移して」おり、「休職者のうち2割程度の者が退職に至っている」(23頁)と答申は述べています。

いま紹介した労働時間は平均値ですから、さらに長く毎日十数時間働いている教員もいます。厚労省の『過労死等防止対策白書』(2018年)の調査結果は、通常期における平日1日の実勤務時間について、

「10 時間超 12 時間以下」の教員が小学校51.3%、中学校47.6%、 「12 時間超 14 時間以下」の教員が小学校23.3%、中学校31.6%、

「14 時間超 16 時間以下」がなんと小学校2.1%、中学校3.7%もいます。8時間以内という人は1%もいません。(『白書』108頁)

しかも、これは通常期で、卒業入学期である3月4月はさらに忙しく、労働時間はさらに延びるわけです。

1966年、公立学校の残業時間は週あたり小学校で2時間30分、中学校で4時間弱ですから、一日1時間あるかないかです。それから50年が経ち、2016年には小学校で24時間30分と約10倍、中学校は29時間41分と約7.4倍になっています。

教員の長時間労働は、子どもや保護者にとっても深刻な問題です。

何より、授業準備の時間が足りません。「実態調査」では、小学校教員は1日6コマ分近い授業(4時間25分、小学校の1コマは45分)をしていますが、準備は1時間17分です。いま教室には「もう、塾でやったよ」という子どもから、「おれ、勉強しないことにした」という子どもまで、様々な子どもたちが学んでいます。その子どもたちが「面白い」と食いついてくるような授業をするためには、教材研究が必要です。

また、「先生、遊んで」「先生、話をきいて」という子どもたちの声に応じたり、いじめなどの深刻なケースに対応するための時間や心の余裕がなくなっています。保護者と意思疎通をはかるための時間も十分にとれません。教育は子どもとの人間的な触れ合いを土合に営まれ、保護者との風通しのよさがそれを豊かにします。そのための時間が奪われていることは、子どもにとっても保護者にとっても、深刻な問題です。

ですから、教員の長時間労働、多忙化を是正することは、先生方の労働条件の改善として重大かつ緊急性が求められているとともに、子どもの教育条件としても大切な国民的課題なのです。

2.教職員増こそ必要

教職員に対する調査で、「過重勤務の防止に向けて必要だと感じる取組み」の第1位(78.5%)にあげられているのは「教員の増員」です(『白書』115頁)。「日本教育新聞」のアンケートでは、教育委員会の97.2%が国に定数改善を望んでいます(2018年1月1-8日号)。

中教審の議論でも、「持ち授業時間数の上限を」「人材確保、予算確保を」と、多くの委員から教職員の定数増を求める意見が相ついで出ました。要するに、教育に関わるほとんどの人たちが、学校現場に教員を増やすことこそももっとも効果的な問題解決への道だと考えているわけです。しかしながら、今回出された中教審答申は、定数の抜本的な増加について述べられていません。

財務省は、2016年に全国の公立小中学校の教職員定数を今後10年間で約5万人削減する案を出しましたが、文科省は「定数改善計画がないこの10年間では、小・中学校の通常学級に通う児童生徒1人当たりの教職員定数は、約2%に留まっている」なかで激増する課題に対応しなければならないと反論しました。

「激増する課題」として通級指導――通級とは軽度の障害をもつ児童生徒が、通常の学級に在籍しながら、障害の状態に応じて特別な指導を受ける教育形態だそうですが――を受ける児童生徒2.3倍になっていることや日本語指導が児童生徒1.5倍となっていることをあげました。

また、10年ほど前の『文部科学白書』(2009年版)では、「教職員数の充実」という項目を立てて「子ども達一人一人のニーズに応じた教育によりその可能性を最大限に伸ばすため、教職員や特別支援教育支援員など専門スタッフの配置を充実することが重要となっています」(33頁)という認識を示していたわけです。安倍内閣への配慮、忖度なのでしょうか、今回の答申には「教職員数の充実」ということは全く反映されていないわけです。

さて、かつてはほとんど問題にならなかった先生方の長時間かつ過密な労働実態ですが、なぜこんなことになったのか。そこには、次の三つの根本的な問題があります。

(1)国が、教員の授業負担を増やした

第一に、国が教員の授業負担を増やしたことが、今日の長時間労働の根底にあります。
教員1人あたりの授業負担は長い間、「1日4コマ、週24コマ」とされ、それを満たすことを目標に、定数配置が行われてきました。ところが、国はその基準を投げ捨て、教員の授業負担を増やしたのです。

その一つは、1992年から部分実施され、2002年に完全実施となった学校週5日制を、教員増なしで行ったことです。「1日4コマ」という基準に従えば、勤務日が週6日から5日に減れば、担当できる授業も6分の5(約17%)に減るはずです。ところが、学校週5日制に伴う授業減は約7%にすぎず、教員の1日あたりの授業負担が増えました。

その後も教員増なしに、さらに授業が増やされたことです。国は、2003年には学習指導要領を上回る授業時数の確保を求めるという異例の通知を出し、2011年には、「脱ゆとり」「ゆとり見直し」の号令のもとに標準時間も増やしました。しかし、いずれも教員は増やさない。だから教員の負担は増える。極めて当たり前のことです。

その結果、小学校の多くの教員が1日5コマ、6コマの授業をしています。1日6コマの授業をこなし、法律通りに45分間の休憩をとれば、残る時間は25分程度しかありません。そのなかで授業準備や採点、各種打ち合わせや報告書づくりなどの校務が終わるはずがなく、長時間の残業は必至です。

45分の休憩も.冒頭で紹介したように実際には小学校で6分、中学校で8分です。中学校での授業負担は1日約5コマですが、部活動指導などのため小学校以上の長時間労働となっています。

そこで伺います。

①教員の負担軽減、長時間労働をなくすためには教員増がもっとも重要だと考えますが、教育委員会の見解をお聞かせください。

教育部長 最初に、あらゆる職業にも共通して言えることですが、長時間勤務の縮減の方策として、仕事を減らす(業務削減)、仕事を任せる(外部委託)、人を増やす(人員増)の大きく3点の手段が考えられます。これらの手段をバランス良く効果的に取り組んでいくことが、長時間勤務の縮減につながっていくと考えています。

業務改善の取組や働き方改革の問題は、財源の問題など、どうしても難しい課題もありますし、保護者や地域の方々に理解と協力を求めなければならないこともあります。まずは教職員が何のために業務改善を行うのかを問い、教職員の意識改革を行う必要があります。業務改善の取組は単に時間短縮を行うだけではなく、教員の子供と向き合う時間が十分に確保され、教育の質を高めていくものであるということを踏まえて取り組んでいく必要があると考えています。

1点目の教員増について、教員を増やすことが最も効果的であるという指摘ですが、現在は、県の基準に基づき、小学3年生以上は40人で学級編制を行っているところです。少人数学級は、児童生徒一人ひとりの状況をより丁寧に把握することができ、個々のつまずきなどに対する指導がより丁寧に適切に実施できる効果があるものと認識しております。

少人数学級の拡大(県費負担の教員増)については、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(いわゆる標準法)」にもとづく県の基準による措置なしに実施することは困難であり、国が責任をもって標準法の改正を行い、進めていくべきものであると考えております。県に対しては毎年、広島県町村会を通じ、県予算並びに施策に関する要望として標準法改正による35人学級の導入を要望しているところです。

(2)学校のかかえる課題が増え「教育改革」による負担も増大

ふたみ議員 第二は、1990年前後から、不登校の増加、いじめ問題など学校のかかえる課題が増えたことにあります。「貧困と格差」が広がるもとで、子育てへの不安や困難が深まり、保護者との関わりも複雑さを増しました。こうしたもとで、教職員の負担は増えざるをえませんでした。

しかも同じ時期に、国や自治体は、全国学力テストや自治体独自の学力テスト、行政研修の増大、土曜授業、教員免許更新制、人事評価、学校評価など多くの施策を学校に押しつけました。それらが積み重なり、教職員の多忙化に拍車をかけました。答申でも、学校及び教師の業務が膨大になり、その範囲の明確化が必要だと認めています。施策の多くは、「競争と管理」によって子どもや教職員をおいたてるもので、そのことが教育現場をさらに疲弊させています。

現場の声をふまえ、過大な授業時数の見直しや行政研修・各種研究授業の簡素化など「文科省通知」にもある事項を含め、大胆な見直しが求められます。勤務の適切な割り振りの推奨など労働時間短縮のための措置も重要です。さらに、教育施策によって現場の負担を再び増やさないよう、「何かを加えるのなら、何かを削る」を鉄則とすべきです。

そこで伺います。

②業務の削減について町として既に実施していること、今後検討していることがあれば教えてください。

教育部長 府中町においては平成29年度から文部科学省の「学校における業務改善加速事業」を県内で唯一受託し、県教育委員会と連携して、業務改善を進めているところです。

教職員の印刷業務やアンケート集計等の事務作業を支援するスクールサポートスタッフや、これまで担任教員が対応してきた個々の生徒や保護者への相談等に、専門的な立場から対応を行うスクール・カウンセラー、福祉機関等との連携を行い家庭への支援や働きかけを行うスクール・ソーシャル・ワーカー等、外部の人材を積極的に活かすことで、長時間勤務の削減も目指し、平成31年1月に実施したアンケートによると、子供と向き合う時間か確保できていると感じる教員の割合は、小学校が91.1%、中学校が83.1%となっており、これまでの調査の中では過去最高の結果となっております。

また、調査の時期や学校種によって多少の増減はありますが、教員の1週間当たりの合計勤務時間を町全体の平均で文科省の事業を受託する前と今年度(平30)を比較しました。5月で27時間減、10月で4.0時間減、1月で2.7時間減となっており、1日平均で算出すると約30~48分の縮減効果が出ているところです。

来年度につきましては、児童生徒の出席簿の管理や指導要録、成績処理等を町の統一仕様としてシステム管理する「校務支援システム」を導入することとしており、更なる業務改善を目指したいと考えております(中教審資料では、平日30分、年間約120時間の軽減効果があると示されている)。

(3)「残業代ゼロ」法(給特法)が、長時間労働を野放しにした

ふたみ議員 第三に、公立学校の教員が、法律(公立学校教育職員給与特別措置法)で例外的に「残業代ゼロ」とされてきたことも重大です。わずか4%の教職調整額を支給するだけで一切残業代を払わない。

給料月額の 4%分というのは、1966 年度に文部省が実施した「教員勤務状況調査」において一週間における時間外労働の合計が、小中学校で平均 2 時間程度だったことから算出されたものです。ところが今日では、週に小学校24時間30分、中学校で29時間41分もの残業を余儀なくされています。

この「残業代ゼロ」「定額働かせ放題」という事態は、学校現場における時間意識を希薄にしました。いくら残業しても払わない=払われない残業時間をカウントする意味がなくなり、残業時間が延びることを気にかけなくさせました。さらに、国や自治体のコスト意識も希薄にしました。残業代の増大ということにならないのでつぎつぎ学校現場に新しい教育内容や課題を押しつけることになった。

教員の平均的な労働実態が過労死ラインを超えるような事態になっても、文部科学省の見解は、「時間外の業務は……内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない」というものです。最高裁もこれを追認しています。

給特法により、1生徒の実習、2学校行事、3職員会議、4非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合等という「超勤 4項目」以外については、法的には残業をしていないことになっているのです。

答申は「給特法のために、学校の勤務時間管理が不要であるとの認識が広がり、また同時に教師の時間外勤務を抑制する動機付けを奪い,長時間勤務の実態を引き起こしているとの指摘がある」(44頁)と認めざるをえませんでした。

残業代の不払いは、民間企業や私立・国立の学校では「労働基準法違反」です。しかし、公立の学校ではそれが「合法」とみなされてしまっているのです。
残業代を支給することは当たり前の働くルールであり長時間労働に歯止めをかけるしくみの一つです。教員の適用除外が誤りであったことはいままで述べてきました教員の労働実態が裏づけていると思います。

そこで伺います。

③実態にそぐわない給特法を改正し、割増賃金を支払う残業代の制度を導入することは、長時間労働に歯止めをかける仕組みの一つだと考えます。その上で残業時間の上限を厚生労働大臣の告示である「週15時間、月45時間、年360時間以内」とする制度に変更する方向で検討することが重要だと考えますが、この点について見解をお聞かせください。

また、今年4月から労働時間把握が使用者(行政、校長)の法律上の強い義務となります。問題の多い自己申告制ではなく、タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認することが求められます。現在の労働時間把握はどのように行っているのが、今後どのようにするかについてもお答えください。

教育部長 教員の自発性や創造性といった職務の特殊性と勤務態様の特殊性に着目して制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる給特法。昭和46年制定)」により、教員には、勤務時間の内外を問わす包括的に評価した教職調整額を支給し、時間外勤務手当を支給しないことや、正規の勤務時間を超えて勤務を命じる場合は、いわゆる超勤4項目に関する業務に限定されることが定められました。

平成31年1月の中教審答申においても、この給特法が長時間勤務の実態を引き起こしているという指摘や課題が示されましたが、労働安全衛生法に基づく勤務時間の上限に関するガイドライン(時間外勤務は月45時間)に基づいた在校時間の縮減のための取組を徹底することや、教員の働き方改革を確実に実施し、成果を出していくことを求めるにとどまり、給特法の具体的な見直しについては言及されておりません。

教育委員会としましては、この中教審答申や県教委が定める方針等を踏まえ、具体的には子供と向き合う時間が確保されていると感じる教員の割合が80%以上、時間外勤務が月80時間を超える教員が0人となること等を目指した「府中町立学校における働き方改革取組方針」を定めることとしており、この上限ガイドラインの趣旨も踏まえたものにしたいと考えております(3月策定予定)。

なお、労働時間の具体的な把握につきましては、全ての学校において、各自が専用パソコンによって出勤時と退校時の時間をワンクリックで確認し、自動的に入校退校記録が処理され、在校時間や時間外累計処理ができる仕組みが整っており、客観的な記録を把握しております。

3.「消える残業」――変形労働時間制

ふたみ議員 答申は「一年単位の変形労働時間制を適用することができるよう法制度上措置すべきである」と提言しています。答申もいうように「公立学校の教師も含めた地方公務員に対しては適用除外となっており、地方公務員については現在、一年単位の変形労働時間を導入することはでき」ません。

一年単位の変形労働時間制とは、一年間のなかで閑散期(業務量が比較的少ない時期)の労働時間を短くし、その分だけ繁忙期(業務量が比較的多い時期)の労働時間を長くしようというものです。一年単位の変形労働時間制において閑散期として想定されているのは「夏休み」です。

しかし昔とは違い教員は出勤して仕事をしています。答申にも「夏季休業期間の勤務時間(持ち帰りを含まない)は、小学校教諭で8時間3分、中学校8時間28分」と述べられているように8時間めいっぱい働いているわけです。だから「実際に学校現場に導入するに当たっては,長期休業期間中の業務量を一層縮減することが前提となる」と書かざるをえなかったのです。

教員は「夏休み」期間を含め、定時の終業時刻よりも早く帰れるような日が続く月はありません。8 月にも残業があり,それ以外の月はほぼ過労死ラインを超える業務量となっています。
変形労働時間制は一部の民間企業においてはすでに導入されていますが、労働時間が短くなったというような話は聞きません。

ある社会保険労務士はインターネットのサイトで「祝日などのある月と他の月を平均することにより各月の所定労働時間を長く取ることもでき、残業時間削減の効果が高い制度です」と正直に書いています。正確には残業時間削減ではなく、支払う残業代を減らすことのできる制度です。

先ほども申しましたように、現在、教員に残業代は支給されておりません。では何が変わるのか。残業時間は減らないのに残業としてカウントされる時間が減るだけ。いま流行している統計偽装と本質は同じです。

問題の根本にある教員定数や「残業代ゼロ」の見直しを行わず、「変形労働時間制」の導入によって見かけの残業時間を減らす。これでは異常な長時間労働が制度化・固定化され、新たな矛盾も生じ、問題は解決しません。

そこで伺います。

④変形労働時間制では問題は何一つ解決しないと思いますが、教育委員会は変形労働時間制の教育現場への導入についてどのようにお考えですか。

教育部長 中教審答申では、1年単位の変形労働時間制の導入について、児童生徒が学校に登校し、授業のある課業期間と、登校しない長期休業期間とでは、その繁忙・閑散の差が実際に存在しており、1年単位の変形労働時間時間制を適用することができるよう、法制度上措置すべきであると示されたところです。

また、導入の前提として、長期休業期間中の勤務を縮減するため、部活動の休養期間の設定や指導時間の縮減、参加する大会の主催者に対する日程や規模等の見直しの検討の要請など、検討すべき事項も多く示されたところです。制度の導入にあたっては、国や県の状況を注視し、慎重に検討していく必要があると考えております。

4.非正規雇用と教員のなり手不足

ふたみ議員 2月28日付「中国新聞」は広島県議会で、教員確保が論戦テーマとなっていると報じています。今年1月末現在で小中学校と義務教育学校で計74人の教員が配置出来ていません。
昨年11月27日付「中国新聞」は「常勤教員の不足数は(11月)15日現在、小学校が12市町の45校で48人、中学校が14市町の22校で25人の計73人に上る。ベテランの大量退職などが背景にあり、一時的に授業ができないケースも生じた」と伝えました。府中町も中学校で欠員が1名とあります。

記事は「教員不足の背景には、国の公務員削減の流れに沿った正規教員(再任用などを含む)の人数の抑制がある。公立小中学校の定数に占める正規教員の割合(5月1日現在)は、広島市を除く県内で本年度は90・5%。広島市を含めていた10年度と比べると、O・4ポイント下がった。定数に足りない分は臨時教員を充ててきたが、採用数が増えている正規教員への合格などで、なり手が減少している」

非正規教員が全体の1割を占めています。

広島県の教員採用受験者数は2015年度に3519人でしたが年々減少し2019年度には3062人となっています。受験倍率も4.1倍から3.1倍へと減っています。

過労死ラインを超えるような過酷な労働実態は学生にも知られるようになり、教員を志望する学生を減らすことになっている。過酷な労働実態はまた、毎年大量退職を生み、それを補うべく大量採用するがまた辞めていくという悪循環を引き起こしています。正規採用を抑制して臨時採用で穴埋めしていくという教員政策の失敗です。

答申は「教師とは崇高な使命を持った仕事」であるとか「教師は魅力ある仕事」といった空文句で「これから教師を目指そうとする者の増加」(8頁)を期待しているようですが、きちんとした待遇=正規教員を増やすことのない「働き方改革」ではとても実現不可能と思われます。

湯崎県知事は「臨採教員を全て正規教員に切り替えると、新たに約7億円の人件費が生じる」「財源の確保に努める」と答弁しました。あたかも大きな負担であるかのような口ぶりです。しかし、その一方で69億円もの建設費を投じて「グローバル人材」の育成をうたった超エリート中学・高校を今年4月開校させます。ごく一握り――中学校1学年40人、高校1学年60人の中高合わせて300人――のための学校さえつくらなければ、広島県内全ての小中学校、義務教育学校あわせて約23万人の児童・生徒のために正規教員を増やす約10年分の予算があったのです。

そこで伺います。

⑤府中町の非正規雇用、臨時採用教員の実態と教員不足の状況がどのようになっているのか教えてください。

教育部長 学校には正規雇用されている教員の他に定数内臨採(欠補)や産休・育休代員、病休・休職代員、介護休暇代員などの臨時的任用、特定の時間にのみ教科指導等を行う非常勤講師もあり、多様な勤務形態による職員が勤務しております。

1月現在で府中町の小学校の県費の正規教員(=定数)117人中、欠補や産育休代員等の臨時的任用職員は19名となっており、割合にして162%の職員が正規雇用ではない者となっています。(6人に1人が非正規雇用)。また中学校は、62人の正規教員(=定数)の中で臨時的任用職員は8人となっており、割合にして12.9%の職員が正規雇用ではない者となっています(8人に1人が非正規雇用)。

安定した学校運営を行うためには正規教員の配置が必要であり、非常に厳しい現状です。非正規雇用の職員(正規教員ではない臨時的任用職員)は原則年度内の雇用となっており、雇用が不安定であるという課題は認識しており、できるだけ正規の教員を配置していくことが望ましいと考えておりますので、正規教員の増員(定数内臨採の解消)につきましては、任命権者である県に対して強く申し入れているところです。

5.町独自の人的措置について

ふたみ議員 いままで縷々申し上げましたように、教員の多忙化、長時間労働の是正には教員を増すこと、増員が欠かせません。教員の採用は県の仕事であり、そのための予算措置は国に責任があります。しかしながら、国も県も増員には消極的であり、町としても、国、県への要望、町としてできる独自の措置を進めて頂きたいと思います。府中町はその点で頑張っているということも聞きます。
そこで最後の質問です。

⑥業務改善に関わる、町独自の人的措置はどのようなものがあるのでしょうか。お答えください。

教育部長 業務改善にかかわって府中町では県の措置に加えて町独自措置しているスクール・カウンセラー(中学校区に週1日+町費3日措置)や、町費単独の教育支援員(小15人・中3人)や学校生活・学習支援員(小7人・中1人)、給食指導支援員などを措置しているところです。県費単独で措置しているスクール。ソーシャル・ワーカーもありますが、教育委員会としましては、こうした教員以外の外部の人材を積極的に活かしながら、教員の長時間勤務のさらなる縮減を目ざしていきたいと考えております。


《第2問》

ふたみ議員 まず、町として、スクール・サポートスタッフ、スクール・カウンセラー、、スクール・ソーシャル・ワーカーなど、外部の力を活用して教員の業務削減が進んでいることを評価したいと思います。

答弁にありましたように、業務削減、外部委託、人員増のいずれもが必要とされていると思います。しかしながら、この3つのなかで要をなすのはやはり人員増です。人を増やして、教員一人当たりの持ち仕事、負担を減らす。そのことなしに業務削減と外部委託だけでは異常な残業を大きく削減することはできません。部長が「指導がより丁寧に適切に実施できる効果がある」と言われました少人数学級も教員増によるものです。

「意識改革」も確かに必要かもしれませんが、教員の平均的な働き方が過労死ラインを超え、授業準備もままならず、数分の休憩時間しかない。こういう働き方をしている教員にいったいどんな意識改革を求めるというのでしょうか。

「教員の子供と向き合う時間が十分に確保され、教育の質を高めていく」ことの要に人員増が据えられなければならないことを改めて強調しておきたいと思います。
もちろん、人員増は町単独では難しいことも承知しております。第5の質問に対して「安定した学校運営を行うためには正規教員の配置が必要であり」、正規教員の増員を県に対して強く申し入れていると答弁されました。引き続き、県に対して要望を続けていただきたいと思います。

第3の質問、教員の残業の規制についての認識をお伺いしましたところ、「時間外勤務が月80時間」を超える教員をゼロにすることをめざすと答弁されました。月80時間は過労死ラインを超えています。これでは教員の生命と健康を守り、児童・生徒への行き届いた教育を受けさせることはできません。月45時間を上限とするガイドラインに沿った取り組みが求められます。

最後になりますが、この質問を準備して、いまから40年ほど前、中学校で先生が、「学校、スクールという言葉の元々の意味は余暇、ひまだ」と話されたことを思い出しました。

古代ギリシャ語のスコレー (scholē)が学校という言葉の源であると。暇だから勉強するということではなく、労働から解放された自由な時間、学んで自らの能力を高めるという積極的な意味なんだと思います。学ぶ場にはゆとりがないといけない。

いま日本の学校は、この学校の語源からいかにかけ離れたところに来てしまったんでしょう。教師も生徒もスコレー、自由な時間を奪われ、そのことがさまざま問題を引き起こしています。

学校にゆとりを取り戻すことは、町政だけでは完結しない全国民的課題ですが、私たちとしては、あれは国の問題、県の問題とだけ言っているわけにはいきません。すでに業務削減など対策を立てつつあるようですので、引き続きピッチをあげて教員の長時間労働削減に努力していただきますよう要望して私の質問を終わります。


全日本教職員組合(全教)元書記長の今谷賢二さん、全教広島書記長の神部泰さんに本稿を読んでいただき貴重なアドバイスをいただきました。

また、下記にある党の政策「教職員をふやし…」と党文教委員会責任者、藤森毅さんの論考からは引用符なしで質問に織り込んでいることをお断りします。

《参考文献》
日本共産党「教職員をふやし、異常な長時間労働の是正を 学校をよりよい教育の場に」(2018年11月)
藤森毅「教職員の異常な長時間労働の是正を――党提言のインパクト」『前衛』2019年1月号
藤森毅「教職員の異常な長時間労働の是正を」『議会と自治体』2019年2月号
学校の働き方を考える教育学者の会」2018年12月4日記者会見資料
金子真理子「非正規教員の増加とその問題点」『日本労働研究雑誌』2014年4月号

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