もくじ
府中町は、就学前まで子どもの医療費を無料(一部負担金なし・所得制限あり)にしてきました。
2014年に「小学校6年生まで無料に」という運動が起き3875人分の署名が集まりました。
残念ながら府中町議会はこの請願を2015年3月議会で否決。
しかし、4千人近い町民の願いを無視できず、今年(2016年)3月議会に、小学校卒業までの医療費助成(1医療機関につき1回500円、月4回まで=上限2千円)を提案しました。
助成の対象が広がることは歓迎しますが、その一方、就学前まで無料が崩されるという問題があります。私たちは町議選でも「就学前までの無料を維持すべき」だと訴えてきました。
今回新たに、貧困対策=低所得者の負担軽減を目的として「住民税非課税者の一部負担金を不要とする改正」提案が出されました。
以下は、私が本日(12月9日)行った、町長提案に対する「質疑」です。議案「質疑」デビューです。
子どもの医療費を助成する意義
(議員番号)7番、二見伸吾です。
今回の「府中町乳幼児等医療費助成条例の一部を改正する条例の一部改正」は、住民税非課税者の一部負担金がなくなり、約500人の子どもの家庭にとって負担が軽減されるわけですから、当然賛成です。
しかし、問題点もあり、質問をさせていただきます。
第1に、子どもの医療費を助成することの意義について質問します。
町長は、厚生委員会での質問に答える形で、保護者の負担軽減と住民の満足度については効果があるとしながらも、「健康増進に効果があるという学術的な研究はない」と述べたと聞きました。
町長のおっしゃる「健康の増進」が具体的にどういうことを意味しているのかわかりませんが、「健康を増進する」ということが「医療機関にかかることによって、より健康になる」という意味であれば、そういう研究成果はないと、私も思います。なぜなら、子どもたちが医療機関にいくのは「健康を増進する」ためではないからです。
内閣府の出している『子ども・若者白書』の平成27年版によれば、「0~14歳では呼吸器系の疾患が最も多く,とりわけ1~4歳では全体の半数を占めている」とあります。呼吸器系の疾患とは、要するに風邪とかインフルエンザのことです。
風邪やインフルエンザで医療機関にかかったからといって、「健康の増進」、すなわち、風邪になりにくくなるとかインフルエンザにかかりにくくなるようなことはあるはずがありません。
「命を守る」「命を救う」という物差しを
では「健康の増進」につながらなければ意味がないのか。そんなことはありません。
インフルエンザは今も猛威を振るっていますが、 インフルエンザ脳炎・脳症といって、けいれん、意識障害、異常行動などを起こし、血管が詰まったり、多くの臓器が働かなくなって、命に関わる重篤な事態になることがあります。5歳くらいまでの乳幼児で発症することが多く、国内で年間100~200人の子どもたちがインフルエンザが関係していると考えられる脳炎・脳症で死亡しています。
「単なる風邪」と思って医者に行かず、肺炎などになり重篤化して命にかかわることもあります。初期症状が普通の風邪と非常に似ているため見過ごされることも多く、命を落としてしまう「心筋炎」というような病気もあります。
経済的負担を考えずに医療機関にかかれることは、病気の重篤化を防ぎ、命も救うことに繋がります。子どもの医療費の助成による効果を「健康の増進」という物差しではなく、「命を守る」「命を救う」という物差しで測れば、極めて大きな効果があると思うのですが、町長はどのようにお考えですか。
よりよくする競争はすべき
第2に、子どもの医療費助成の充実について質問します。
「子どもの医療費助成が自治体間の競争になっており、そのような競争に巻き込まれたくない」というようなことが言われているようです。
しかし、より良くする競争はおおいにやったらいいのではないでしょうか。広島県は子どもの医療費への助成がきわめて遅れており、今頃になってにわかに「競争」などと言われる状況になっています。しかし、隣の岡山県では27市町村のうち、入院通院とも中学校卒業まで一部負担金なし、無料という自治体が、15市町村。高校卒業まで、あるいは18歳までが6市町村、あわせて21市町村なんですね。中学校卒業までが岡山県ではスタンダードになっている。
広島県は通院でいいますと、23市町のうち、就学前までが6市町、小3までが2市、府中町と同じように小6までが4市町、中学校卒業までが5市町、高校卒業までが6市町です。自己負担なしは2つしかありません。
このように岡山県と比べて、きわめて遅れた状況になっている。それぞれの自治体が努力して引き上げなければ、広島県内の市町は岡山県よりずっと遅れたままです。
町長は、「結婚、妊娠、出産、育児、子育て」の各ステージで切れ目のない施策を行い、「広島都市圏で一番の子育てしやすいまち」をめざされています。競争がいやだというのでしたら、県内の市町が協調、共同して岡山県なみ、中学校卒業まで入院・通院とも自己負担なしの助成をするように呼びかけるおつもりはありませんか。ご見解を伺います。
現行の「乳幼児等医療助成制度」のもつ弱点・矛盾を広げる
第3に、今回の「改正」が、現行の「乳幼児等医療助成制度」が持っている弱点、矛盾をさらに広げるものとなっていることを指摘しておきたいと思います。
その弱点とは、所得によって医療負担が階層化し、子育て世代のなかにさまざまな住民感情が生まれ、相互に対立するような方向性をもっているということです。
現行でも受給資格要件があり、扶養親族等の数によって532万円から684万円の年間所得がある家庭の乳幼児は、受給の対象になっておりません。広島県の決めた要件でありますが、これが新たな助成制度にもそのまま引き継がれます。
助成対象外の子どもは約1500人、府中町にいる0歳から小学校6年生までの子どもの16%です。この子たちの親は助成がなく、医療費の2割ないし3割を負担する。所得が高いのだから負担できるだろうという考えもあるでしょうが、本人たちは、たくさん税金を払っているのにサービスを受けられないことに当然不満をもちます。
助成の対象になる子どもは約5300人で、その1割の530人が今回の改正によって一部負担金が免除されます。
84%の子どもの家庭は1回500円、上限2千円を払い、受給資格要件から外れた16%の子どもの親は2割ないし3割を窓口で払う。そして非課税世帯は免除される。
数千円のことが多いと思いますが2割ないし3割を払う人、500円の人、払わなくていい人。このように医療機関の窓口で、3種類の支払い方が生まれます。
狭い町です。とうぜん病院で同級生や知り合いの人と一緒になる。そこにさまざまで複雑な思いが生じることになるとは思いませんか。この点を大変危惧しております。
この気分・感情を放っておくと、制度そのものを危うくします。
いま生活保護をはじめさまざまな社会福祉サービスが攻撃にさらされていますが、その一つは「税金はわれわれが払い、サービスを受けるのはあの人たちだ」というバッシングです。こういう感情の対立を生まないためにも、どの子どもも等しくサービスを受けられることが必要です。
低所得者への軽減負担はもちろん必要ですけれども、そういう弱点を孕んでいること、今後の課題としてぜひ検討していただきたい。
以上3点ですが、質問は最初の2点で、3点目は検討課題として提起いたしました。
質問を終わります。
町長の答弁(二見メモによる)
(1)医療費助成の意義
1回目の答弁では答えなかったので、再質問したところ「二見議員のいわれるような効果はあると思う。だからこそこういう提案をした」と答弁。
(2)子どもの医療費の「自治体間競争」について
したくはないがやらざるをえない状況である。
(助成拡大への協調・共同した取り組みは)町村会として県へ要望した。国へも全国一律の制度をつくるよう要望している。
(3)所得によって医療負担が階層化することの問題
(答弁は求めなかったのですが…)
医療費の助成は「現物給付」ではなく「金銭給付」であり、所得に応じた社会福祉サービスは現下では妥当。
所得が高くて助成を受けられない府中町職員はいない。
今回の一部負担金の免除は子どもの貧困対策として行われるものである。
府中町職員の例を出されたが、それは共働きでもそうなのかと再質問すると、「この助成の資格要件は世帯の所得ではなく、主たる生計維持者(所得の多い方)の所得による」という答弁でした
(3)についての「答弁」で、医療費の助成が「現物給付」か「金銭給付」か※など、問いただしたいことがいくつかありましたが、「答弁を求めない」と言ったわけですから、それ以上の追及はせず「今後の経過をみながら、引き続き論議していきたい」と締めくくりました。
※医療費を無料にすることは、お金を渡すのではなく医療というサービスを直接提供するわけですから、現物給付です。児童手当などお金を支給することが金銭給付。金銭給付の場合は使い道は「自由」なのです。町長の認識は間違いです。
社会保障の考え方は、課税は所得に応じた累進なのですが、給付は公平・無差別平等が原則です。しかし、日本ではこのことがあいまいにされ、給付も所得に応じてするのが当たり前であるかのようになっています。課税も給付もでは国民的(全町的)な合意をつくることができないのです。