広島豪雨土砂災害(2014年)を考える
以下は2014年に広島市安佐南区・安佐北区を襲った豪雨土砂災害の後に書いたものです。5年経ちましたが基本的な状況は変わっておらず、昨年(2018年7月)の西日本豪雨土砂災害、今年の台風15号、19号の襲来による深刻な事態を生んでいます。(2019年10月16日記)
●豪雨による甚大な被害
2014年8月20日未明、広島市内を襲った記録的な豪雨。
豪雨による土砂災害では過去最大規模の甚大な被害をもたらしました。
9月4日現在、死者72人、行方不明が2人。避難所での生活を余儀なくされている人は、414世帯、857人です。
8月27日、安佐南区八木8丁目に支援に入りました。
大きな石が上流から流れてきており、いかに水の勢いがすごかったのかが分かります。
家の中に入り込んだ土砂は、1メートル以上の高さに。かんたんに天井に手が届きました。このうずたかく積もった土と岩をかき出して、バケツリレーで離れたところに移す。これが私たちの仕事です。
家の外側は電線に頭がぶつかりそうなくらい土砂が堆積。この土砂を取り除くのは重機でなければ無理でしょう。みんなで力をあわせて奮闘しましたが、泥の排出は遅々として進みません。
●天災であるとともに人災
このような災害がなぜ起きたのでしょうか。天災(自然災害)であることは当然ですが、人災(社会災害)でもあると思うのです。4点ほど指摘したい。
第一に、無計画な開発です。
宅地開発は民間業者まかせで、規制らしい規制がほとんどない。だから本当なら建ててはいけないようなところに家が建っている。
広島にかぎりませんが、乱開発によって山の斜面に、はいつくばるように家が建ち、団地になっています。集中的な豪雨が降ればどこが崩れてもおかしくないのです。
第二に、広島県の砂防予算です。
1994年からほぼ98年まで170億円の砂防予算がついていました。
99年に大雨による土砂崩れがあり、この年は330億円。2000年は200億円で、そこから右肩下がりで減少。2012年には80億円まで減ってしまいました。
その一方で高速道路をつくる予算は11年から14年で1650億円。一年あたり410億円です。山を削り、海を埋め、高速道路をはりめぐらすためにお金をつぎ込む。県民の安全のための予算はけちる。こういう県政、そして国政、市政のあり方が被害を甚大にしたといえるでしょう。
●自然破壊が背景に
第三に、人工林の荒れです。
日本の国土の7割近くが森林で、世界有数の森林国です。人工林が4割を占めています。
木材消費量の8割弱が輸入材。日本は林業を保護・育成してきませんでしたので、人工林は荒れ放題。
「人工林は、放置され間伐が遅れると、木が込み合い、日光が林内に入らず、下草が育たなくなります。落ち葉や下草から作られる土壌が貧弱になると、林地に表面侵食が起き、土砂崩れが起きやすくなります。森林の洪水緩和機能も、土壌が「落ち葉や下草つき」で豊かでなければ発揮されません」(「水害の多発からニッポンの森林を考える」WEDGE2011年07月31日)
人の手が入っていない人工林はもろく、国土保全機能は著しく低下しています。
(一番大きな土砂崩れが起きた安佐南区八木地区の森。間伐がされておらず、細い木ばかり)
第四に、今回のようなゲリラ豪雨が頻発する背景に地球温暖化がある、ということです。
温暖化を引き起こしているのは温室効果ガス。日本は世界第5位の排出国です。
2009年に「2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減する」と国際公約したものの、福島原発の事故を口実にこの目標を撤回してしまいました。火力発電が温室効果ガスのほとんどを占めているからです。
バイオマスや地熱、小水力など再生可能エネルギーへの転換を図ってこなかったことに問題があります。もちろん、日本だけの問題ではありませんが、「先進国」として再生可能エネルギーへの転換を推進し、途上国にその技術を普及し、資金を援助することによって温暖化にブレーキをかけることができたはずです。
●生活再建支援を早く
阪神淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、その後も全国各地で自然災害が起きています。
それなのにどうして、こうも対応は後手後手なのでしょうか。
日本にも「災害救助法」があり、避難所、炊き出し、物資提供、仮設住宅、障害物除去、遺体の埋葬について規定しています。条文の少ない簡素な法律です。機動的・弾力的な運用をするためには、あまり細かいことまで決めない方がいいからです。
しかし、実際には硬直的な運営がなされてきました。
「食料費は一人一日1010円以内、避難所設置費用は一人当たり一日300円以内、避難所の開設期間は7日以内、被災者の救助は3日以内、仮設住宅の費用は一戸あたり238万7000円」(津久井進『大災害と法』岩波新書)。
東日本大震災が起きた2011年の基準です。被災者は救われない。
アメリカ合衆国にはスタフォード法という災害対策法があり、生活助成、住宅の確保、がれきの撤去などが迅速におこなわれます。(自由法曹団「震災問題訪米調査報告」」1995年)
医療・食料・消耗品の供給、仮設住宅の提供、家賃補助、住居補助補修費の支給、個人の建物補修に最高20万ドル、家財の補填のために最高4万ドルの低利融資、最高22500ドルの個人・家族援助金……。
1ドル=100円なら225万円ですが、購買力平価(どのくらい物が買えるのか)を加味すれば300万円から400万円ぐらいをポンとくれるのです。
それだけあれば当面の暮らしには困りません。
アメリカのことをすぐまねしたがる日本政府ですが、この法律だけは全然まねようとしません。
安倍首相は、集団的自衛権を閣議決定した7月1日の記者会見で「いかなる事態にあっても国民の命と平和な暮らしは守り抜いていく。内閣総理大臣である私にはその大きな責任があります」をはじめ、わずか10分のあいだに「国民を守る」と7回も言いました。
今回の災害を知っても、2時間もゴルフを続けた安倍首相。
国民の命など眼中にないという本性がくっきり。
誰かが「政治家は何を言っているかではなく、何をするかで判断すべし」と言ってましたが、まさにその通りですね。
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