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2020-05-30

「平成の合併」は広島県内自治体に何をもたらしたのか

はじめに

  これからの地方自治体はどうなっていくのか。2014年の増田レポート起点にした「地方消滅論」。それとセットになった地方創生。そして、2018年4月に第一次報告、同年7月に第二次報告が出された「自治体戦略2040構想」。

2019年11月に開かれた「ひろしま自治体学校」で岡田知弘氏の講演「《自治体戦略2040構想》と地方自治」を聞き、2000年代初頭から始まった市町村合併(いわゆる「平成の合併」)が地方創生、自治体戦略2040構想と変容を遂げていく歴史的過程を総体としてとらえなければ、2040構想を正確に理解することはできないと実感した。

私は、この課題に取り組み、「《平成の合併》、地方消滅論・地方創生と府中町」(2019年の12月議会)、「《自治体戦略2040構想》と府中町」(2020年3月議会)と2回に分けて一般質問した。

本稿は、そのうち「平成の合併」に関わる部分をもとに加筆訂正したものである。

7割の自治体が消滅した広島県

21世紀の初頭、自治体合併、いわゆる「平成の大合併」の嵐が吹き荒れた。広島県は86市町村が23市町となり、自治体減少率73.3%で全国一位である(1999年3月末と2008年10月1日との比較)。実に7割を超す市町村が消滅した。全国では1999年には3232あった市町村が2010年には1727となり、2019年現在では1718まで減っている。1514もの自治体が消えてなくなり、減少率は47%だ。

この合併による自治体消滅は国の方針、施策によるものである。

 治省が1999年8月に「市町村合併の推進についての指針」を出した。そこには、「21世紀の到来を目前に控え、地方分権の推進、少子・高齢化の進展、国・地方を通じる財政の著しい悪化など、市町村行政を取り巻く情勢は大きく変化しています。こうした中にあって、基礎的地方公共団体として総合的に住民サービスの提供の責務を負う市町村は、その行財政基盤の強化や広域的対応が強く求められており、市町村合併の推進が大きな課題となっています」としたうえで、「市町村合併の効果」として3点あげている。

第1に、「地域づくり・まちづくり」ができる。

 「広域的な観点からのまちづくりの展開、重点的な投資による基盤整備の推進、総合的な活力の強化、地域のイメージアップ、環境問題、観光振興など広域的な調整が必要な施策の展開などが可能となる」。

第2に「住民サービスの維持、向上」となる。

「住民にとってサービスの選択の幅が広がるとともに、現在のサービス水準を確保しつつ、より高い水準のサービスを安定的に受けられるようになる」。

第3に「行財政の運営の効率化と基盤の強化」ができる。

 「行財政運営の効率化により、少ない経費でより高い水準の行政サービスが可能になるとともに、総合的な行政が展開できる」。

「より高い水準の行政サービス」となったか?

  この3つのうち達成できたものがあるのだろうか。かろうじて「少ない経費」があてはまるぐらいだ。

表1を見ていただきたい。県内の市町の合併前と昨年(2018年)の歳出総額である。

2018年は豪雨災害があって、災害復旧費によって歳出が増えているので、それを除いた額も載せてある。

災害復旧費を除くと、合併した17市町のうち11市町が合併前の7割から8割に歳出が減っている。

7割台が安芸太田町、神石高原町、世羅町。8割台が北広島町、安芸高田市、庄原市、大崎上島町、府中市。

9割台が呉市、三次市、江田島市、三原市。

合併市町で増えているのは、廿日市市の132%を最高に、東広島市、福山市、広島市、尾道市であるが、尾道市以外は人口が増えているか横ばいの自治体である。

必要な住民サービスは変わらないなかで、予算も減って、「より高い水準の行政サービス」を提供することは至難の業であろう。

第32次地方制度調査会(第25回専門小委員会2019年10月10日)に提出された答申(案)には、合併によって「多くの市町村において行財政基盤が強化」されたと書かれているが、この表からも分かるように実態と全く違う。

人口、職員数、議員定数はどうなったか?

 

表2は合併前の2000年と2015年の人口を国勢調査で比べたものである。県内で増えたのは広島市、福山市、東広島市、府中町、坂町の5つ。あとはみんな減っている。

一番減少率が高いのが安芸太田町で、かつての加計町、筒賀村、戸河内町の合計が2000年には9181人だったが2015年には6472人となり、30%も減った。

安芸太田町を含め7割台が4市町(安芸太田町、江田島市、大崎上島町、神石高原町)、8割台が10市町(呉市、尾道市、府中市、三次市、庄原市、安芸高田市、北広島町、世羅町、竹原市、大竹市)。9割台が4市町(廿日市市、三原市、海田町、熊野町)となっている。

表3は、職員数と議員定数である。

 まず職員数から見てみたい。2000年代初頭には県内市町村の職員は、24500人いたが2018年には20300人まで減少している。県内全体の減少率は17%である。東広島市を除き、合併した市町もそうでないところも減っているが、やはり合併市町の減少率の方が大きい。最も職員を減らしたのは大崎上島町、世羅町、神石高原町で減少率は4割ほど。安売りのうたい文句ではないが「2割、3割は当たり前」となっている。

2018年、西日本豪雨災害が起きたが、庄原市は職員が少なくなって対応が困難だったと聞いた。合併前、2004年の東城町、西城町、口和町、高野町、比和町、総領町、そして庄原市の職員数の合計は630人だった。それが2017年には3割近く170人も減らされて460人となっている。

 広島市に合併した旧湯来町の住民は「合併して除雪車の回数が減った。佐伯区役所に電話しても、湯来町には雪が積もっていることを知らない職員が多い」と嘆いた。湯来町が合併する目的の一つに観光振興があった。「新たな観光施策の展開が可能となり、道路交通網の整備や広範な宣伝・誘客活動などにより、来訪者のより一層の増加が期待できます」と広島市・湯来町合併建設計画に書かれている。

しかし実際はどうだったか。地元の人たちの努力にもかかわらず、合併による効果はほとんどなかった。2013年には老舗旅館が湯治客、観光客の減少によって「赤字が続き今後の売上回復の目処が立たなく」なり事業を停止したことがその証左である。

議員はどうか。合併市町の議員定数は2000年代初頭に1211人だったのが18年には405人と67%も減少した。呉市は、134人から32人へ、庄原市は82人から20人へ、安芸高田市は76人から18人へ、いずれも76%減。三次市が97人から24人へ75%減である。議員の方は6割減、7割減が当たり前という結果になった。

4月10日付「中国新聞」は「旧町広がる議員不在」という記事を載せた。県内4市の旧7町を地盤とする議員が不在だという。旧7町とは布野町(三次市)、豊浜町、豊町、下蒲刈町(以上、呉市)、内海町(福山市)、総領町(庄原市)、豊栄町(東広島市)である。

かつての議員定数は、布野町(11)、豊浜町(10)、豊町(11)、下蒲刈町(10)、内海町(12)、総領町(8)、豊栄町(12)であった。

 当たり前の話だが、自治体があれば、そのなかの住民から議員は選ばれる。そこに自治の力が働く。しかし、合併し行政が広域化され、議員定数が削減されれば、議員は広域化された行政区のどこから選出されるかは分からないし、たいていが人口の比較的多い中心部からの選出が増えていくことになる。その裏面が議員不在旧町である。

自治体議員の重要な仕事の一つは住民の声を聞き、それを行政に伝え、要求・要望を実現することにある。合併に伴う議員数の大幅な削減は、地域の問題を発見し解決する力を大幅に削いだといえよう。

総務省「平成の合併について」(2010年)

総務省は2010年に「平成の合併について」という総括文書を公表した。「人口減少・少子高齢化等の社会経済情勢の変化や地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立を目的として、平成11年以来、全国的に市町村合併が積極的に推進されてきた」と述べている。この総括文書は合併による主な効果として「少子高齢化への対応」をあげていますが、まったく対応できなかったということは、さきほど紹介した県内の統計からも明らかだ。

総括文書は、①周辺部の旧市町村の活力喪失、②住民の声が届きにくくなっている、③住民サービスの低下、④旧市町村地域の伝統・文化、歴史的な地名などの喪失、の4点を合併による問題点・課題としてあげ、大失敗だったことを認めざるをえなかった。

また、「平成11年以来、強化された財政支援措置等により全国的に行ってきた合併推進も10年が経過し、これまでの経緯や市町村を取り巻く現下の状況を踏まえれば、従来と同様の手法を続けていくことには限界があると考えられる。したがって、平成11年以来の全国的な合併推進については、現行合併特例法の期限である平成22年3月末までで一区切りとする」と述べ、2010年に「平成の合併」は一応の終焉を迎えることとなった。

まとめにかえて

  県内はもちろん、全国でも「合併をしてよかった」「合併によって町が発展した」というような話は一つも聞いたことがない。合併によって衰退し、聞こえてくるのは「合併しなければよかった」という後悔の言葉ばかりだ。

  昨年11月に日弁連が「平成の大合併を検証し、地方自治のあり方について考える」シンポジウムを開催した。調査結果によると「合併した町村は、人口減少率が高い傾向にあ」り、「旧町村地域の役場機能の縮小が原因の一つ」と分析し、「役場機能の縮小は、周囲の飲食店や宿泊業の需要減にもつながり、旧町村の就業者数が減るようにもなっている」という評価を下した(「朝日」2019年11月7日)。

  府中町は、合併をめぐり町内を二分するような事態となった。議会でもよく論議し住民投票も行い、僅差ではあったが合併を退け、自治を守った。

今後新たに「自治体戦略2040構想」に基づく、圏域づくりが進められようとしている。これは形を変えた、巧妙な自治体合併である。

すでに県内市町は満身創痍である。2040構想の実施を何としても止めなければならない。

 


※議会の質問準備ならびに本稿の執筆にあたって、小林正典著『平成の大合併の検証と展望』(2009年広島自治体問題研究所)を参考にさせていただいた。この労作なくしては本稿の執筆ははるかに困難だったと思う。記して感謝申し上げます。

広島自治体問題研究所『ひろしま地域とくらし』2020年6月号(№438)掲載。

 

ふたみ伸吾 ほっとらいん

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