●第5号議案 一般会計予算
第5号議案「令和4(2022)年度府中町一般会計予算」に賛成の立場から討論をおこないます。
▼交付税が増えて町債が減る
まず歳入です。
大きく変動があったのは、地方特例交付金、地方交付税、そして分担金及び負担金、町債のなかの臨時財政対策債です。
地方特例交付金の減少は、新型コロナウィルス感染症対策地方税減収補填特別交付金*1)、約7900万円が特例措置終了により皆減したことによるものです。
2021年度は、町債がほぼ倍増しましたが、その原因は国が地方交付税を減らして臨時財政対策債に振り替えたからです。
2022年度は過去最高の地方税収等を背景に、国は地方公共団体への交付税を増やし、臨時財政対策債を大幅に減らしました。その結果、当町も、地方交付税は6億円から17億円となり、臨時財政対策債は18億円から6億円になりました。臨時財政対策債は事実上の地方交付税ですので、実質はほぼ変わりません。
分担金及び負担金は、公共施設管理者負担金1億3千万円が皆減したことによって44.6%減っています。この負担金は土木費の都市計画費に同額計上されており、歳入・歳出ともの皆減ですので影響はありません。
このように数字上の変化は大きいようにみえますが、実質的にはさほどの変動はなく、ほぼ例年並みの180億円の歳入となっています。
*1)新型コロナウイルス感染症の影響により令和2年2月以降の収入に相当の減少があり、納税することが困難である事業者等に対し、無担保かつ延滞金なしで1年間徴収を猶予する特例措置。
つぎに歳出です。
▼不育症治療費助成事業
第1に不育症治療費助成事業です。妊娠しても流産や死産を繰り返すことを不育症といいます。現在、不育症患者は妊娠経験者の4.2%、患者数は3.6万人と推定されていますが、厚労省の不育症研究班は、検査と治療によって85%の人が出産までたどり着けると報告しています。
不育症の治療は、保険対象外となっており、出産までにかかる費用は分娩の費用も含めて平均でおよそ120万円かかり*2)、なかには3年間で治療費や通院の交通費が250万円になったという人もいて、重い負担となっています。
国の助成制度は令和3年に始まりましたが、先進医療検査費用に対して1回につき5万円が上限です。また、実施主体は、都道府県、指定都市、中核市に限られています。
そういうなかで当町が町単独の新規事業として、不育症の検査と治療にかかる費用を一人あたり年間30万まで助成する事業をスタートさせることは、高く評価できます。不育症に悩む女性とパートナー、家族にとって朗報です。
*2)「〝赤ちゃん授かれないのは同じ〟『不育症』も支援拡充を」(NHK NEWS WEB、2020年10月7日)
▼重層的支援体制準備事業
第2に、重層的支援体制準備事業です。「重層的支援」とは耳慣れない言葉ですが、厚労省の資料は次のように説明しています。
「相談者の属性、世代、相談内容に関わらず、①包括的相談支援事業において包括的に相談を受け止める。受け止めた相談のうち、複雑化・複合化した事例については②多機関協働事業につなぎ、課題の解きほぐしや関係機関間の役割分担を図り、各支援機関が円滑な連携のもとで支援できるようにする」。
また、長期にわたりひきこもりの状態にある人などは、アウトリーチ、すなわちこちらから出向いて③継続的支援事業をしなさい。相談者の中で、社会との関わりが薄くなっている人には④参加支援事業を利用させるようにしなさい。
このほか、⑤地域づくり事業を通じて住民同士のケア・支え合う関係性を育むほか、他事業と相まって地域における社会的孤立の発生・深刻化の防止をめざす。
高齢者分野、障害者分野、子ども分野、生活困窮者分野というともすれば縦割りになりがちだったものを重層的に支援していくことはとても大切だと思います。
ただし、厚労省のいう、①包括的相談支援事業、②多機関協働事業、③継続的支援事業、④参加支援事業、⑤地域づくり事業という5つの事業が相互に重なり合いながら、町全体の体制として本人に寄り添い、伴走する支援体制を構築していくためには、その大がかりな構想にふさわしい人的な体制が必要です。
会計年度任用職員の事務員1人、保健師1人で大丈夫なのでしょうか。各担当課からの「多機関協働」で進めるのでしょうが、かなめとなるスタッフを増やすべきです*3)。
*3)予算特別委員会厚生分科会は、審査過程における主な意見として「重層的支援体制準備事業では、複雑化・複合化する支援ニーズに対応するため、必要な専門的知識や技術を有した人材の育成・確保にも取り組」むことをあげている。
(厚労省「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」より)
▼自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)・AI
第3に、自治体のデジタル化についてです。
今回、総合行政情報システム構築事業が2億3千万円、債務負担行為として、内部情報系システムデータ移行業務委託料1千万円(2022~23)、内部情報系システム使用料3億円(2022~28)が計上されています。
総合行政情報システム構築事業として、紙のデータをデジタルデータへと変換するAI-OCR、定型業務をパソコンやサーバ上にあるソフトウェア型のロボットが代行・業務自動化するRPA(Robotic Process Automation)、公共施設予約システム拡充が予算化されています。いずれも事務効率化のために必要な事業と思います。
また、債務負担行為として今後実施される内部情報系システムの構築ですが、内部情報系システム*4)とは、役場内部の事務処理の効率化を図るためのシステムをいい、財務会計、人事給与、文書管理などを電算化・システム化することにより事務の効率をはかり、迅速・正確な行政サービスを提供するものだとされています。
これもまた時代の要請といえるでしょう。
2019年から始まっています「子どもの予防的支援構築事業」は、子どもの育ちに関係するさまざまな情報をもとにAIを活用してリスクを予測し、児童虐待を未然に防ごうとするものです。ここにも個人情報を含むさまざまなデータが蓄積されます。
健康づくり啓発事業では、健康マイレージアプリが導入されますが、これもデジタル化です。スマートフォンは個人情報の塊のようなものです。アプリの使用は、少なくてもアプリを提供する企業には、その情報が把握されます。
一般的に、アプリは広告会社に販売できる情報を求めています。現在でもさまざまな健康アプリが使用されています。すでに販売された健康系のアプリデータには、氏名、メールアドレス、運動習慣、食生活、医学的症状、場所、性別などの情報が含まれていたといいます*5)。私たちは、便利なアプリの代償として個人情報を差し出しているわけです。
こういう点について慎重に検討してほしいと思います。というのも、国が地方行政のデジタル化の柱の一つに「官民データ連携」「公共データのオープン化」をあげ、自治体の持つデータの「利活用」を積極的に推進しようとしているからです。
第32次地方制度調査会の答申は、「各地方公共団体が制定している個人情報保護条例においては、個人情報の定義や制度内容に差異が存在するほか、独自の規制を設けている場合もあり、官民や官同士での円滑なデータ流通の妨げとなっている」とまで述べています*5)。
自治体の持つ情報を民間企業に積極的に提供せよ、個人情報を保護する条例や規定は邪魔だ、といわんばかりです。
自治体のデジタル化、AIの積極的活用そのものは、進める必要があります。しかし、いま申しました個人情報保護の問題がある。
また、デジタル化によって職員の負担軽減、職員がメインの業務に集中できるようになる、と言われていますが、これまでの歴史が示しているのは、新しい技術の導入が労働者の負担軽減ではなく「人減らし合理化」という結果をもたらしてきたことです。
役場のデジタル化が働きやすい職場環境と町民サービスの向上となるよう十分注意していただきたいと思います。
*4)証明書発行等、住民サービスの業務を進めるためのシステムを住民情報系システムという。
*5)Thorin Klosowski(原文/訳:堀込泰三)「あなたの情報が売られている? 健康系アプリがデータを販売する理由」ライフハッカー日本版、2014.05.17)
*6)知識・情報の共有による課題解決の可能性を広げ、効果的・効率的にサービスを提供するためには、地方公共団体が全て自前で行うよりも、組織や地域の枠を越え、官民が協力して、相互のデータの利活用や、アプリケーション開発等の取組を進めることが重要である。また、そのためには、公共データのオープン化等によるデータ利活用環境の充実も求められる。
現在、官民や地域の枠を越えた社会全体のデジタル化を進めるに当たり、データ利活用の円滑化を図る観点から、国際的な制度調和の動向も踏まえ、官民を通じた個人情報保護制度のあり方に関する議論が行われている。各地方公共団体が制定している個人情報保護条例においては、個人情報の定義や制度内容に差異が存在するほか、独自の規制を設けている場合もあり、官民や官同士での円滑なデータ流通の妨げとなっていると指摘されている。一方で、個人情報保護に関して地方公共団体が果たしてきた役割にも留意する必要がある。そこで、地方公共団体における個人情報保護に関する規律や国・地方の役割分担のあり方を検討するに当たっては、地方公共団体の意見を聞きつつ、データ利活用の円滑化に資する方策について積極的に議論が進められることが期待される。
(総務省「自治体情報システムの標準化について」)
▼子ども医療費助成事業
これで最後ですが、子どもの医療費助成についてです。府中町は1973年、府中町乳児等医療費支給条例を制定し、小学校に入る前まででしたが、医療費を無償にしました。
当時としてはきわめて先駆的な事業でした。2016年には、入院は中学校卒業まで、通院は小学校卒業までの医療費を無償(一部負担金あり、所得制限あり)といたしました。大きな前進ではありましたが、現在、県内23市町で18歳まで通院が無料なのが6市町、中学校卒業までが7市町となっています。府中町と同じく小学校卒業までが8市町(広島市は2022年度から)。
府中町より悪いのは海田町と熊野町だけです。
財政的に楽ではないと思いますが、他の市町にできて府中町にできない特段の事情はないはずです。子どもの医療費、通院も中学校3年生まで無料にすることを改めて求めます。
以上、問題点や要望も含め、予算についての私の見解を述べました。予算に反対しなければならないほどの問題はありません。以上をもって賛成討論といたします。