いつまでも来館者のある歴史民俗資料館に

今回、私以外に西友幸議員、梶川三樹夫議員も歴史民俗資料館について一般質問しました。このような場合、答弁の重複を避けるために、共通する質問については一括して答弁することになっています。以下の記録は、私が質問したこと、それへの答弁をまとめたもので、議事録に基づくものではありません。

また、教育部長が、三人の質問に対して総論的に述べた部分を記録の最後に付してあります。


 

8番 二見伸吾 2022年6月議会

 

はじめに

本年4月、歴史民俗資料館がリニューアルオープンしました。大変立派な展示施設になったと思います。

資料館のオープンはゴールではなく、新たなスタートです。のちほど述べますが、オープン当初は来館者も増えるものの、時の経過とともに減少し、10年、20年経つと、ほとんど人の訪れることのない施設になってしまう。せっかくリニューアルしたわけですから、それを契機にして、いつまでも人の訪れる資料館をめざす必要があり、これからが正念場といえます。

1.博物館としての歴史民俗資料館

 歴史民俗資料館は美術館や科学館などとともに博物館に分類されます。博物館は「資料の収集・保管、展示による教育、調査研究」を一体として行う機関であり、人々が、モノ(博物館資料)を通じて文化・歴史・自然を考え学ぶ場です*1)

教育基本法は、図書館、公民館とともに博物館を社会教育施設としてあげ、社会教育法も、「図書館及び博物館は、社会教育のための機関とする」と規定しています*2)
全国に博物館は、6000近くもあります*3)

博物館法のうえでは、教育委員会が所管し、館長と学芸員を配置すること、年間150日以上開館することなどを条件とした「登録博物館」が全国で914館、学芸員に相当する職員を配置し、年間100日以上を開館することなどを条件とした「博物館相当施設」が372館あります。

これら以外に、法的規制を全く受けない「博物館類似施設」が4452館で全体の8割(78%)を占め、当町の歴史民俗資料館もここに分類されます*4)
 
博物館建設2つのブーム

戦後、博物館建設は2つのブームがありました。

第1期建設ブームは1960年代から70年代にかけての時期です。「高度経済成長期における急速な宅地造成などから、文化遺産を守り、保存する機運」*5)が高まったことや「明治百年(1968年)記念事業」の一環として全国に博物館(主として県立)が作られます。70年代になると、田中角栄による「列島改造論」(1972年)、「第三次全国総合開発計画」(三全総、1977年)と軌を一にして博物館が市町村に広がりました*6)

1973年に「公立博物館の設置及び運営に関する基準」が作られ、76年には地方交付税の単位費用算定基礎に博物館費が計上されました。翌77年に文部省は社会教育施設活動促進費補助の対象に博物館活動を計上し、文化庁が「市町村立歴史民俗資料館の設置・運営のあり方」を示します。

1970年には、登録施設161、相当施設177、その他が745、計1083施設でしたが、類似施設を調査対象に含めた1987年には、登録施設513、相当施設224、類似施設1574、計2311施設となり、ほぼ倍化しました。

第2期建設ブームは、1990年代から2000年代にかけての時期で、2008年には登録施設907、相当施設341、類似施設4527、計5775施設となり、1987年の2.5倍、1970年の5.3倍です。第2期は、「ふるさと創生事業」(1988-89年)が契機となり、市町村を中心に博物館が急増しました。

その後は、横ばいで2018年は、登録914施設、相当372施設、類似4452施設、計5738施設です。

地方自治体による博物館、歴史民俗資料館の設置が、政府によって奨励され、「類似施設」を中心に博物館が増えました。

 

*1)博物館には動物園、植物園、水族館、美術館、科学館、プラネタリウムも含まれる。

*2)教育基本法第12条第2項「国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない」

社会教育法第2条は「社会教育」を「主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動」とし、第3条で、「社会教育の奨励に必要な施設の設置及び運営、集会の開催、資料の作製、頒布その他の方法により、すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成する」こと、「国民の学習に対する多様な需要を踏まえ、これに適切に対応するために必要な学習の機会の提供及びその奨励を行うこと」を国および地方公共団体の努力義務としている。
*3)文科省パンフレット「これからの博物館」2011年。2018年は5738館(文化庁ホームページ)。
*4)広島県内の歴史博物館・資料館は81施設あるが、登録博物館は6施設にすぎず、あとは全て博物館類似施設である。
*5)「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準について」(文科省ホームページ)。

*6)三全総は「急速な都市化、情報化の進展は、地方都市の生活環境の画一化をもたらし、固有の風土の中ではぐくんできた地域の文化と景観の維持、発展は困難となり、それぞれの地域の持つ個性と魅力は失われつつある」という認識のもと、「文化会館、博物館、美術館、図書館、文化財の保存・活用のための施設」の総合的な整備、「史跡、名勝、天然記念物、埋蔵文化財等の保存整備」を課題として掲げた。

2.博物館のかかえる問題

博物館は、現在、大きな問題を抱えています。

第一に、入館者が少ない。年間入館者が5千人未満の施設が全体の4分の1以上。設置者別でみますと町村立の博物館の半分近く(45.5%)が5千人未満。館種別でみると郷土系の44%、歴史系の30%が5千人未満となっています。

第二に、施設の老朽化、昨年までの府中町歴史民俗資料館の姿です。2019(令和元)年度『日本の博物館総合調査報告書』(以下、『調査報告書』)*7)によりますと、「施設や設備の老朽化が問題になっている」と回答した博物館は全体の4分の3(76.9%)を超します。しかし、建替えは容易ではありません。

第三は、財政難です。『調査報告書』によりますと、中央値が示す「普通の博物館」*8)の経費は、「事業費」541万円、「管理費」700万円、「人件費」906万円となっており、全国にある多くの博物館、資料館は極めて厳しい財政状況です。博物館に対する公費(社会教育費)は減少傾向にあり、1993年には1館あたり8,070万円でしたが、2015年には2,570万円にまで減ってしまいました*9)

調査・研究は博物館の基本的な機能であり、市民に博物館の活動の成果を還元、発信する展示・教育機能の基盤となるものですが、半数以上の博物館が調査・研究に充てる予算がありません。

資料購入予算がない館が全体の6割(60.5%)を占めます*10)

公立博物館施設整備費補助金が1998(平成10)年に廃止されたことに加え、2004(平成16)年度から2006(平成18)年度の「三位一体改革」*11)が地方財政を窮地に追い込みます。このことが当然、博物館の財政と運営にも影響を与えました。

第四に、職員体制が極めて不十分なことです。

常勤の館長がいる館は全体の6割(59.5%)。中央値が示す「普通の博物館」の職員体制は、常勤職員が3人、うち学芸員資格保有者1人、非常勤職員1人です。常勤職員は減少傾向、非常勤職員は増加傾向にあります。学芸員がいない博物館は全体で16.5%、郷土系は29%、歴史系は20%を占めます。町村立博物館の3割(29%)に学芸員がいません。

*7)公益財団法人日本博物館協会(日博協)が全国の博物館を対象に実施する、博物館の管理運営全般についての総合的な調査。2019年に調査を依頼した4、178施設のうち、有効な回答があった施設は2、314 で、全体の55.4%となっている。
*8)「博物館」の大きさ、財政はきわめて多様で、収入・支出についても、ほとんど「ない」に等しい館から億単位の収入・支出がある館まで、極めて幅が広くなっている。しかも、金額の小さな方に偏って分布している。それゆえ、平均値よりも中央値(母集団の分布の中央にくる値)の方が代表値にふさわしく、「ごく普通の博物館」の姿により近い。(飯田浩之「今回の調査で見えてきた日本の博物館」(2019年版『日本の博物館総合調査報告書』)

*9)みずほ総合研究所『平成30年度「博物館ネットワークによる未来へのレガシー継承・発信事業」における『持続的な博物館経営に関する調査」事業報告書』9頁。
*10)前掲、2019年版『日本の博物館総合調査報告書』5頁。

*11)①地方への補助金削減、②地方交付税削減、③地方への税源移譲、の三つを同時に行い、「中央主導の政治から、地方自治体が税金をより効率的に使えるようにして、地方分権を促進する」ことが謳われたが、補助金と地方交付税削減にみあう税源移譲はなされれず、6兆円以上の財源不足を地方財政にもたらしただけであった。

 

3.歴史民俗資料館のあるべき姿

文化庁は、1977(昭和52)年に「市町村立歴史民俗資料館の設置・運営のあり方」(以下、「あり方」と略記)を定めました。

「あり方」は「各市町村立歴史民俗資料館は、国立歴史民俗博物館、都道府県立歴史民俗資料館との連絡協力関係を強めるとともに、相互の連携を密にし、情報資料の交換や次に掲げるような資料館活動を活発に行うことが望ましい」とし、その活動内容として「収集保存活動」 「調査研究活動 」「公開展示活動」「学習活動」の4つをあげています*12)

「学習活動」については「地域の特性を考慮」しつつ、「文化財見学(学習)会の開催」、「文化財研修会(研究会)の開催」、「物づくり実演(研究)会の開催」、「民俗芸能等の伝習会の開催」、昔話など「口頭伝承の研修会」、「生活文化財の研修会(伝習会・体験学習会)」、「芸術文化に関する住民の参加する活動」を継続的に実施することが望ましいとしています。

まさに歴史民俗資料館の「望ましい」あり方、追求すべき姿だと思います。

そこで質問です。

①運営に関わる経費はどの程度見込んでいるのでしょうか。資料購入費は予算化されているでしょうか。

教育部長  今年度の運営に関わる経費として、「下岡田官衙遺跡国史跡記念シンポジウム」の開催費用、シンポジウムの内容を記録した冊子の作成費、資料館2階ギャラリーで行う企画展に伴う費用など約220万円を予算計上しております。

また、歴史民俗資料館での資料は、現在保管している遺物等の資料を使用することから、新たに資料を購入する必要はないため、予算化はしておりません。

②公民館・歴史民俗資料館には収蔵庫はないようです。資料の保管はどのようにするのでしょうか。

教育部長  現在、旧歴史民俗資料館に保管されている資料については、整理を行っています。

議員の言われるとおり、府中公民館及び歴史民俗資料館内には収蔵庫は設置しておりませんが、資料の保管については、府中小学校東棟の1階・2階の一部に収蔵する予定です。

③調査研究ですが、下岡田官衙遺跡が「安芸駅家の可能性が高い官衙遺跡であり、山陽道沿線における官衙の展開を知る上でも重要な遺跡である」として国(くに)史跡に指定されました。資料館としても調査研究を継続的に進めていく必要があると思いますが、どのようなかたちで進めていく計画でしょうか。

教育部長  下岡田遺跡は昭和38年から発掘調査を開始して以来、第11次調査まで実施し、令和2年3月に下岡田遺跡発掘調査報告書を作成しております。

また、下岡田遺跡の包蔵地内で建物の建築等が行われる場合は文化財保護法に基づき調査を行います。調査結果により重要な埋蔵物が出土された場合は調査内容をまとめ、出土された埋蔵物を資料館で展示していきたいと考えております。

今後、下岡田官衙遺跡保存活用計画及び整備計画を策定後、下岡田官衙遺跡区域内を公有化した場合には、必要に応じて調査研究を行うよう考えています。

④展示の更新について計画はあるのでしょうか。中長期的展望にたった展示の維持保全計画、予算、展示更新のための積立(基金)は考えていますか。展示室に隣接するギャラリーは、小さいながら企画展ができ、小回りのきくスペースです。企画展を通じて常設展へと導くこともできます。ギャラリーの使用計画はどうなっていますでしょうか。

教育部長 展示の更新は、現在保管している遺物の中で活用できるものは、展示物の入れ替えをしていきたいと考えています。

また、展示更新のための積立(基金)の設置については、現在考えておりませんが、多くの予算を伴う展示更新の費用などについては、第5次総合計画及びその実施計画の中で検討してまいりたいと思います。

(ギャラリーの使用計画について)

多くの方に歴史民俗資料館に来館していただくため、今年度は下岡田官衙遺跡国史跡記念シンポジウムやふるさと再発見講座を開催するほか、ギャラリーの有効活用を考えています。

ギャラリー展示につきまして、4月のオープニングではマツダ株式会社のご協力により「府中町とマツダの百年、そして未来」と題した企画展を、今月は「水分森林公園 豪雨災害からの復旧」と題した企画展を行っています。

今年度は、このほか昆虫展や下岡田遺跡のパネル展など町主催の企画展を3回程度開催し、来年度以降も年3、4回程度開催する予定です。

企画展が開催されない期間は、公民館活動団体による作品展などを開催し、年間を通じて、多くの方が歴史民俗資料館にお越しいただけるよう運営してまいります。

*12)「あり方」は以下のように「活発にすべき」活動を列挙している。ア.収集保存活動…実物資料の収集保存、視聴覚資料の収集保存、台帳、調査票の作成。イ.調査研究活動…調査研究、研究成果の発表、収蔵品目録・図録の刊行、調査報告書、研究紀要の刊行、映画の製作。ウ.公開展示活動…常設展示の開催、民俗芸能等の公開、展示に関する解説目録・図録・案内書等の刊行。
 

《2回目》

4.持続可能な歴史民俗資料館

 
1回目の質問では、歴史民俗資料館の現状について伺いましたが、2回目は、資料館の「これから」について質問いたします。

旧歴史民俗資料館は1984年、役場新庁舎の完成、移転に伴い、旧庁舎を活用して設立。40年近く経って今回の移設・リニューアルとなりました。

旧資料館も立派な展示だったと思いますが、老朽化し、いつの頃からか人の訪れない施設になっていたと思います。新しい資料館も、しばらくの間は多くの入館者が見込まれるでしょうが、やはり時間の経過のなかで、入館者が減っていくことは避けられない。

「全国から人が訪れるような」といったことは考えなくていいと思いますが、町民のみなさんがしばしば訪れ、いつまでも活用される「持続可能な歴史民俗資料館」をめざす必要があります。

「新しい時代の博物館制度の在り方について」(2007)

2006(平成18)年、文部科学省生涯学習政策局に「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」が設置され、翌2007(平成19)年に報告書「新しい時代の博物館制度の在り方について」がまとめられました。

日本博物館協会がまとめた2つの報告書*13)を踏まえ、これからの博物館は、「資料の収集や調査研究等の活動を一層充実させるとともに、多様化・高度化する学習者の知的欲求に応えるべく、自主的な研究グループやボランティア活動などを通じて、学習者とのコミュニケーションを活性化していく必要がある」とし、「市民とともに資料を『探求』し、知の楽しみを『分かち合う』博物館文化の創造」を掲げています。

*13)文部省委託調査報告書「『対話と連携』の博物館」2000年、「博物館の望ましい姿-市民とともに創る新時代博物館-」2003年。

地域博物館
 
実は、その実践は1970年代半ばから始まっています。1976(昭和51)年に開館した、平塚市博物館(神奈川県)が提唱した「地域博物館」づくりです。地域博物館とは、従来型の展示中心の博物館ではなく、市民とともに活動する、教育や普及活動を重視した博物館のあり方をめざすものです。

「一つの事柄を学問分野にとらわれないいろいろな見方から知ることの出来るような博物館」、「教育普及活動を重視し、テーマを持つ総合博物館」であって、「市民に何度も足を運んでもらえるような密接なつながりが、絶対条件として要求される」と定義づけられています*14)

平塚市博物館は、学習活動の場が充実し、博物館活動の主役となっています。伊藤寿朗(としろう)氏の『ひらけ、博物館』には次のように紹介されています。

「たとえば、セミのぬけがら調査。最初の年、自然観察サークルで小学生対象の観察会をひらく。ぬけがら集め、夜の羽化観察、セミの声を録音し、サークル活動のまとめをつくった。2年目は、館の行事として自然観察入門講座を小中学生対象にひらいた。ぬけがらから種類を見分ける方法などの資料をつくった。そして、3、4年目で市民参加のぬけがら調査へ。館は寄せられたデータを整理して館のニュースに発表し、特別展にしたて、研究発表にまでまとめあげた」*15)

「石仏を調べる会」「海岸の漂流物を拾う会」「平塚クモの会」、「湘南昆虫研究会」、鳥の集団ねぐらを生態調査する「ねぐら研究会」、「古文書講読会」の常連から生まれた「平塚地域史研究会」などの市民サークルが博物館を拠点に活動しているといいます。

伊藤氏は、平塚市博物館のこういう取り組みを「調告・研究、収集・保管、公開・教育、〔これら〕ひとつひとつの活動が、地域という場で有機的に組み合わされ、発展していく代表例である」と評価しています。

収集した資料を展示することで終わるのではなく、それを町民のみなさんの学習、調査、研究へと促し、府中町をよく知って、よりよい町づくりに生かしていく。「参加し体験するという、継続的な活動をとおして、知的探究心を育くんでいく(要求を育くむ)こと」*16)が歴史民俗資料館に求められているのではないでしょうか*17)

*14)浜田弘明『博物館の新潮流と学芸員』御茶の水書房、2012年、37頁。
*15)伊藤寿朗『ひらけ、博物館』岩波ブックレット、1991年、28頁。

*16)伊藤寿朗「地域博物館論」(長浜功編『現代社会教育の課題と展望』明石書店、1986)246頁。
*17)伊藤氏は、博物館の教育的課題として「第一に、物を正確に見、そして正確に表現しえる技術的能力。第二に、自分のもつ経験や知識をとおして、新たな課題を見直し、また自力で体系化していく構想的能力。第三に、ひとつの事物・事象から、別の価値を発見し、つくりだしていく多義性の理解。」をあげている。(同上、284頁)

 

博学連携

歴史民俗資料館を含む博物館は、図書館とともに社会教育のための機関であり、「主として青少年及び成人」(社会教育法第2条)がその対象となっています。しかし、今日では学校教育にとっても博物館の果たす役割が増しています。

1990年代後半から、社会科、理科を中心に、教科として博物館利用が盛んになり、2000年から段階的に始められた「総合的な学習」*18)によって、博物館の教育的役割は一層強くなりました。

「今日では、博物館と小中学校とが連携して、授業のサポートなどを行う『博学連携』が盛んになっており、博物館(学芸員)は、児童・生徒を受け入れるばかりではなく、学校への『出前授業』なども行い、博物館の理解者と未来の博物館利用者の開拓にも力を入れている」*19)

このように歴史民俗資料館と学校教育を結び合わせていくことは重要だと思われます。

*18)文科省は、「総合的な学習」について次のように位置づけている。「総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすものである」(文科省ホームページ)。
*19)浜田前掲書、16頁。

そこで質問です。

⑤当町の歴史民俗資料館も、「教育普及活動を重視し、テーマを持つ総合博物館」「町民(市民)のみなさんに何度も足を運んでもらえるような」博物館をめざすべきだと考えますが、町の見解をお聞かせください。

社会教育課主幹 歴史民俗資料館へ何度もお越しいただけるよう、府中町歴史・文化財ガイドクラブによる調査研究や「ふちゅう大好きキッズ育成プロジェクト事業」での講座の他、公民館活動で学ばれた成果をまとめるなど、さまざまなテーマをもった催しを、公民館との協働で企画し、誰もが気軽に立ち寄り、学べる歴史民俗資料館としていきたいと考えております。

この「ふちゅう大好きキッズ育成プロジェクト事業」についてですが、「歴史」・「自然」・「モノづくり」の3つのテーマで、各テーマ定員を10名として、年間30名の小学生・中学生を対象に講座などを実施し、生まれ育った府中町を学び好きになる事業です。

⑥学校教育との結びつき、「博学連携」の取り組みについて計画があれば教えて下さい。

社会教育課主幹 教育部長の答弁にもありましたとおり、歴民俗資料館を学習の場として活用していただくため、本年4月、町教育委員会では、歴史民俗資料館の見学を取り入れた歴史学習の小学校学習指導案を作成しております。

また、来年度から使用する小学校の社会科副読本に下岡田官衙遺跡について新たに盛り込む他、中学生が歴民俗資料館を学習の場として活用できるよう新たに学習指導案の作成も現在検討しております。

その他、現在、ICTを活用して、学校でいつでも歴史民俗資料館の展示された遺物の写真などの資料を活用できるようにもしております。

今後も、歴史民俗資料館を学習の場として活用することで、学校と歴史民俗資料館の連携を深めていきたいと考えています。

5.資料館の発展に欠かせない学芸員

職員体制の拡充

つぎに職員体制についてです。

1回目の質問で申しましたように、標準的な博物館の職員体制は、常勤職員が3人、うち学芸員資格保有者1人、非常勤職員1人というものです。残念ながら、現在のところ歴史民俗資料館専任の職員はいません。学芸員もいない。

博物館法はその第4条で「博物館に、専門的職員として学芸員を置く」とし、「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」と規定しています。

歴史民俗資料館が、教育・普及、「博学連携」を進め、町民(市民)のみなさんに何度も足を運んでもらえるような施設になるためには、学芸員や専任の職員が必要です。

過去2回、梶川三樹夫議員が学芸員の配置について質問しました。答弁は、学芸員を配置する必要性について理解しているが、常勤職員を配置するかどうかは、限られた財源と運営スタッフの中で幅広く検討」*20)したい、これまでの発掘成果の展示のほか、所蔵資料の保管、展示及び調査研究を行う職員の配置が必要であると認識」している、というものでした*21)

*20)2018(平成30)年12月議会 梶川三樹夫議員の質問に答えて教育部長答弁。
*21) 2020(令和2)年12月議会 梶川三樹夫議員の質問に答えて教育部長答弁。

そこで質問です。

⑦資料館もリニューアルオープンし、現時点で学芸員の配置、職員体制についてどのようにお考えですか。

社会教育課主幹 下岡田官衙遺跡は、埋蔵文化財として国史跡指定を受けており、埋蔵文化財の保存活用や歴史民俗資料館の展示物の管理などの業務を行うためには、埋蔵文化財業務に精通した職員の配属が必要と考えております。

現在は、学芸員の資格をお持ちではありませんが、埋蔵文化財の発掘調査の経験がある会計年度任用職員を1名雇用しております。

学芸員の配置については必要であると認識しておりますが、資格の有無ではなく、埋蔵文化財の調査などに知識及び技能を有する人材の雇用をしていきたいと考えております。

《3回目》

教育普及活動や学校教育との結びつきにも力を入れているという答弁でした。また、埋蔵文化財に精通した職員が必要で、現在は発掘調査の経験をもつ方を会計年度任用職員として雇用しているとのことでしたが、学芸員資格をもっている常勤職の採用、埋蔵文化財に詳しい常勤職員を採用すべく努力していただいきたいと思います。

本年4月8日、博物館法の一部を改正する法律が可決、成立しました。

文部科学省は今回の法改正について、「博物館の事業の見直しを行うとともに、博物館登録制度を改め、博物館の『底上げ』、『盛り立て』を図るもの」*22)と説明しています。しかし、財政的な裏づけはほとんどなく、「底上げ」「盛り立て」は、かけ声だけです。

また、博物館法の目的に、「文化芸術基本法」(2017年)の精神に基づくことがつけ加えられました。「観光立国推進法」*23)(2006年)や「文化観光推進法」(2020年)*24)と相まって、観光やまちづくりへの貢献に力点が置かれています。国立教育政策研究所は「観光立国に資する社会教育事例集」を2009(平成21)年に発行しました。

文化芸術と観光やまちづくりなどとの連携はありうることですが、本来の役割――「資料の収集・保管、展示による教育、調査研究」がおろそかになるようなことがあってはなりません。

2017年(4月16日)、山本幸三・地方創生大臣(当時)が、地方創生に関するセミナーの中で、観光振興をめぐり「一番のがんは文化学芸員と言われる人たちだ。観光マインドが全くない。一掃しなければ駄目だ」と発言し、厳しく批判されました。

この発言の背後には、インバウンド観光の推進――自治体が訪日外国人観光客をうまく取り込んで稼ぐ、博物館をその手段にする、という考え方があり、これまでの博物館、そして学芸員の努力を否定するものです。

青森市にある棟方志功記念館が2023年度に閉館すると地元紙が伝えました*25)。「新型コロナウイルスが影響した入館者数減少による運営難、施設老朽化などが要因」だといいます。

棟方志功という高名な版画家の博物館でさえ、入館者が減れば経営がたちゆかなくなり閉館に追い込まれる*26)。博物館に対する国の助成があれば、閉館は防げたはずです。

公立私立問わず、博物館に対する国の助成はありません。博物館受難の時代といえるでしょう。そういうなかでも、当町の歴史民俗資料館が、さまざまな制約を乗り越え、「地域博物館」として引き続き発展することを期待、要望して私の質問を終わります。

*22)文科省ホームページ「今日の出来事」2022年4月15日

*23)観光庁はこの法律について次のように説明している。
「(1)昭和38年に制定された旧「観光基本法」の全部を改正し、題名を「観光立国推進基本法」に改めることにより、観光を21世紀における日本の重要な政策の柱として明確に位置付けています。
(2)観光立国の実現に関する施策の基本理念として、地域における創意工夫を生かした主体的な取組みを尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の持続可能な発展を通じて国内外からの観光旅行を促進することが、将来にわたる豊かな国民生活の実現のため特に重要である という認識の下に施策を講ずべきこと等を定めています。
(3)政府は、観光立国の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、「観光立国推進基本計画」を定めることとしています。
(4)国は、基本的施策として、国際競争力の高い魅力ある観光地の形成、観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成、国際観光の振興、 観光旅行の促進のための環境の整備に必要な施策を講ずることとしています。」

*24)文化庁はこの法律について次のように説明している。
「文化の振興を、観光の振興と地域の活性化につなげ、これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出することを目的とするものです。このためには、文化施設が、これまで連携が進んでこなかった地域の観光関係事業者等と連携することによって、来訪者が学びを深められるよう、歴史的・文化的背景やストーリー性を考慮した文化資源の魅力の解説・紹介を行うとともに、来訪者を惹きつけるよう、積極的な情報発信や、交通アクセスの向上、多言語・Wi-Fi・キャッシュレスの整備を行うなど、文化施設そのものの機能強化や、さらに地域一体となった取組を進めていくことが必要となります」(文化庁ホームページ)。

*25)「Web東奥」2022年6月18日

*26)「棟方生誕100年となる2003年には約6万6500人が訪れたが、コロナ禍となった20年は例年の半数以下の約7300人、昨年は約6400人まで落ち込んでいた」(「河北新報」2022年6月19日)。

 


教育部長 本年4月1日に府中町歴史民俗資料館は府中公民館と複合化を行い、先人が築いてきた町の歴史を町内外に発信していく拠点、また、町のあゆみを児童生徒が学習する場として、町にとって必要な生涯学習の推進を図る施設として開館しました。

歴史民俗資料館と公民館との複合化により、公民館の利用者は、自分たちの町の歴史を身近で気軽に触れられ、歴史民俗資料館を訪れた来館者は、公民館で活動している様々な人の姿や、そこで作られる作品に触れることができ、生涯学習、また、歴史文化を情報発信していく拠点として、多くの町民の皆様にご利用いただく施設として運営をはじめています。

歴史民俗資料館の入館者の状況ですが、4月は3,122人、5月は2,103人で、合計で5,225人となっております。

多くの方に歴史民俗資料館に来館していただくため、今年度は下岡田官衙遺跡国史跡記念シンポジウムやふるさと再発見講座を開催するほか、ギャラリーの有効活用を考えています。

また、町の歴史を子どもたちへ伝承していく取り組みとして、小・中学生を対象に、ふちゅうを学び、ふちゅうを好きになる事業、「ふちゅう大好きキッズ育成プロジェクト事業」を実施します。

この事業は、昨年度に続き実施するもので、小学4年生から中学2年生を対象に、歴史民俗資料館を活用し、下岡田官衙遺跡から発見された土器・瓦の観察、遺跡の現地見学、8月に開催する記念シンポジウムへの参加など、計5回の講座を行う予定です。
その他、学校教育の側面では、歴民俗資料館を学習の場として活用するため、本年4月に町教育委員会が学習指導案を作成し、町内小学校へ提示しております。

具体的には、小学6年生の社会科で単元名を「府中で実感!律令国家の世界へGO!~府中町歴史民俗資料館見学を通して~」と題して、律令国家の仕組みについて学んだ後、歴史民俗資料館に行き、木簡(もっかん)や安芸の国の駅家(うまや)などの資料を見学したり、説明を受けたりする中で、実感を伴った理解につなげてまいります。
また、小学3・4年生の社会科においても、「人々のくらしとうつりかわり」「郷土の伝統文化と先人たち」の単元で資料館を活用するよう働きかけております。
その他、町教育委員会では、来年度から使用する小学校の社会科副読本に下岡田官衙遺跡について新たに盛り込むよう改訂作業を進めている他、中学生が歴民俗資料館を学習の場として活用できるよう新たに学習指導案の作成も現在検討しております。

今後も、魅力ある歴史民俗資料館となるよう工夫していきたいと考えております。

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