デジタル化は府中町を良くするのか 

2023年3月20日

2023年3月議会一般質問

はじめに

 「府中町政のデジタル化」「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)」(以下、DXと略記)について質問いたします。

1.自治体DXの推進とは何か

自治体DXとは 

自動計算機から始まった「デジタル技術」は、今日ではインターネット、AI(人工知能)、ビッグデータの活用、クラウドほか、多様な発展を遂げています。これらの「情報通信技術を用いた情報の活用」を通じて、「あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展」をもたらそうというのがDXです。

経産省の「『DX推進指標』とそのガイダンス」では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と説明されています*1)

このようにDXは、民間企業が「競争上の優位」をもたらすための手法、ビジネスモデルとして考え出されました。

自治体DXはこの民間企業の手法を自治体に取り入れて自治体のあり方を変えようとするものですが、「情報通信技術を用いた情報の活用」にとどまらない側面をもっています。

*1)「経産省DXレポート」(2021年)はDXの定義としてIT専門調査会社の以下の文章を紹介している。「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」。

自治体DX「推進の意義」

 政府の「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(2020年)は、「自治体におけるDX推進の意義」について次のように述べています。

デジタル改革が目指すデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を掲げ、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進める*2)

総務省は2020年に「自治体DX推進計画」(以下「推進計画」)を、2021年に「自治体DX推進手順書」(以下「手順書」)を策定し、本年1月、「手順書」を改定しました。

「推進計画」は、「改革の基本方針」を引用し、自治体DX、すなわちデジタル化の推進によって、①住民の利便性を向上させ、②業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げ、③データの様式の統一化等を図りつつ、多様な主体によるデータの円滑な流通を促進すると述べています。

*2)「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」、2頁。

 

自治体DX推進計画策定の目的と推進体制

「自治体の情報システムの標準化・共通化」は、国が主導し、自治体は足並みを揃えて取り組むことが求められています。独自の動きは許さない。

強力に「標準化・共通化」を進めるために、次のような推進体制を構築するとしています。

第一に、首長、CIO、CIO補佐官を含めた「全庁的なマネジメント体制の構築」です。CIOは「Chief Information Officer」の略で「最高情報責任者」のことです。 経営に関する最大の権限と責任を持つCEO(「Chief Executive Officer」、「最高経営責任者」)と一文字違いで紛らわしいですが、CIOは情報部門に関する最高責任者という位置づけになります。

第二に、全庁的なDX推進のために「外部人材の活用・職員育成」の図ること。

第三に、「計画的な取組み」で、「自治体DX推進手順書」を2020年12月に策定しました。

第四は、都道府県による市区町村支援で、デジタル技術の共同導入、人材確保などを都道府県が支援し、市区町村に個別の施策を着実に推進させることです。

重点取組事項

「推進計画」は重点取組事項として6項目を挙げています。

第一に、自治体の情報システムの標準化・共通化です。「基幹系20業務システムについて国の策定する標準仕様に準拠したシステムへ移行」する。当面はこの20についての情報システムが一本化されます。全国1741市区町村すべてが共通したものを使う。今まではそれぞれの自治体が実状に応じてシステムを作ってきたわけですが、今後はそういうことをしてはいけない。カスタマイズ禁止です。

第二に、マイナンバーカードの普及促進です。2022年度末までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有することをめざすという方針でした。普及率は今年2月末が63.5%でしたが、マイナポイントによる追い込みで3月1日現在、普及率は75%となっています。

第三に、行政手続きのオンライン化です。当面、児童手当や保育所の申し込みなど子育て15手続、要介護・要支援認定の申請など介護11手続、全部で31の手続をマイナポータルからマイナンバーカードを用いてオンラインでできるようにする*3)

第四に、AI・RPAの利用推進です。AI (Artificial Intelligence)は人工知能、RPA(Robotic Process Automation)は、業務を自動化するシステムを意味します。当町でも令和4(2022)年度予算で、紙のデータをデジタルデータへと変換するAI-OCR、定型業務をパソコンやサーバー上にあるソフトウェア型のロボットが代行・業務自動化するRPAが導入されました。

第五に、テレワークの推進です。国土交通省の「令和3年度テレワーク人口実態調査結果」によりますと、テレワーカーは27%となっていますが、勤務日のどの程度がテレワークなのか、週1日なのか3日なのか完全テレワークなのか不明です。

日経BP 総合研究所の調査では、「緊急事態宣言が発出された直後は、週3日以上テレワークした人の割合は63.9%」*4)となっています。

しかし、宣言が解除されると実施率は下がり、発出されるとまた上がる、というジグザグの動きをし、2020年10月は37.6%まで下がっています。いわば緊急避難的措置としてテレワークが広がったわけです。

そもそも出勤せずにテレワークで済む仕事はそう多くはありません。

国交省の調査でも、テレワークを実施していない理由の第1番目は「仕事内容がテレワークになじまない」で57.4%です*5)

一般企業ですらこういう状況です。市区町村の仕事でテレワークでできる仕事は極めて限定的なのではないでしょうか。今年度(2022年度)、当町で在宅勤務をしたのはわずか7人、計10回にすぎません。町の仕事のほとんどが人との対応を必要とし、かつチームワークだからです。一人自宅でできるような仕事はあまりないと思います。

第六は、セキュリティ対策の徹底です。

以上のような自治体DXは2021年1月を起点として既に始まっており、ゴールは2026年3月。あと3年でやりとげろというわけです。

 

*3)他に被災者支援(罹災証明書)、自動車保有(4手続)。

*4)「進む『テレワーク離れ』、出社を促す意外な理由が調査で判明」日経BPホームページ、2022年11月30日。

*5)「なじまない」と回答した人の仕事内容は接客が22.5%、製造、建設などの現地作業が22.1%、医療・介護などが16.4%、運転、清掃などの現地作業が9.6%となっています。仕事内容ではなく「仕事のやり方、進め方」などがテレワークになじまないという回答も24.4%あった。

 

デジタル化推進体制とデジタル人材

2021年に策定し今年1月に改定した「自治体DX推進手順書」は、手順とともに「自治体DXの取組を担うデジタル人材の確保・育成」の全体像を体系的に示すことを目的としています。

このデジタル人材を外部、すなわち民間企業に求める。「手順書」は、「各部門の役割に見合ったデジタル人材が職員として適切に配置されることが望まれるものの、十分な能力・スキルや経験を持つ職員を配置することが困難な場合や、特に高度なデジタル分野の知識・スキルが求められる場合には」「外部人材の活用を検討することも必要」だとしています*6)

「検討することも必要」といいますが、「推進計画」および「手順書」全体からうかがえるのは、「外部人材ありき」です。

「手順書」は自治体DXに必要とされる人材像を①プロデューサー(CIO補佐官)、②プロジェクトマネージャー、③サービスデザイナー、④エンジニア、の4つに分類しています。

大きな問題点は全庁的なデジタル変革を主導する役割を担うプロデューサーです。民間企業の人材をCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)やその補佐官という要職につけ、トップダウンでDXを推進する体制をつくる。

神奈川県は、LINEの現役の執行役員をデジタル戦略本部室CIO兼CDO(Chief Digital Officer、最高デジタル責任者)*7)に採用しました。身分は会計年度任用職員です。

山形県酒田市のCDOは、最高デジタル変革責任者(Chief Digital-transformation Officer)というそうですが、株式会社NTTデータの代表取締役社長が就任しています。補佐官もNTTデータの課長です。

福山市は、富士通の現役社員をCDO(最高デジタル責任者)にしました。業務請負契約です。

CDO統括補佐官はTISの社員を業務委託契約で採用しました。TISは日本旅行ではなく、資本金100億円、従業員数約5,500人のIT企業です*8)。CDO補佐官は2人でLINEとGMOインターネットグループ*9)の社員がなりました。

小さな自治体も例外ではありません。人口3,400人の福島県磐梯町のCDOは一般社団法人Publitecの代表理事が就任しています。

プロデューサーとしての外部人材は、責任者として組織に組み込むのか、補佐官としてアドバイザー的に位置づけるのか、二つのやり方があるようです。

酒田市は、市長の下にNTTデータの社長がCDOとして位置づけられ、NTTデータの課長が補佐官、その下にデジタル変革戦略室、その下に各部課がある。NTTデータが酒田市の事実上のナンバー2になっているわけです。

磐梯町でもCDOはアドバイザーではなく、各課の上、副町長の下に位置付けられています。

佐藤淳一町長は「CDOを置く際に重要なのは、実際に機能するかどうかです。行政組織の中で、アドバイザーという位置付けの外部の人が助言しても全然機能しません。みんな話を聞くかもしれませんが、結局、『それをやろうとすると、こんな問題やあんな問題が発生して、うまくいきません』と言われ、何も進まない状況になってしまいます」と、外部人材の強力なイニシアチブが必要だと言います*10)

福山市も当初、各部局の上にCDO、CDO統括補佐官、CDO補佐官を位置づけ、各部局に業務上の指示ができる、となっていました。市とGMOインターネットとの協定書も同社の社員であるCDO補佐官が「各プロジェクト行動の具体を指示」すると記載されています*11)

(2021年4月 福山市 定例市長記者会見資料)

公務員ではなく、自治体とは直接の雇用関係もない、業務委託契約や労働者派遣契約で、職員に業務上の指示をすることはできません。

福山市は議会などから「違法ではないか」と指摘され、「指示をする」という文言を「助言、支援」に変更しました*12)

「推進体制」を表す図も、CDOを総務局担当副市長の横に移し、「必要に応じ意見を聴取する」と表現を変えています。文言は変わっても、デジタル改革の司令塔という位置づけはそのままです。「助言、支援」という名目で事実上の「指示」がなされる危険性があります。

 

*6)総務省「自治体DX全体手順書【第2.0版】」2023年、36頁。

*7)「CDOは、DXを通して新しい業務プロセスやビジネスモデルを生み出したり、会社組織を変革します。経営の視点に立ち、社内だけでなく顧客や競争相手まで視野に入れて行動するのがCIOとの大きな違いといえます」インフォマティカHP。

*8)プレスリリースには次のように紹介されている。「TISインテックグループのTISは、金融、産業、公共、流通サービス分野など多様な業種3,000社以上のビジネスパートナーとして、お客様のあらゆる経営課題に向き合い、『成長戦略を支えるためのIT』を提供しています」。

*9)資本金50億円でインターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、暗号資産(仮想通貨)事業などを手がけている。

*10)「まずはDXで庁内改革、そして官民共創へ」、HP「新・公民連携最前線」日経BP、 2021年5月18日。

*11)本多滝夫・久保貴裕『自治体DXでどうなる地方自治の「近未来」』自治体研究社。

*12)福山市「行政版デジタル化実行計画【第1.1版】」2022年4月。

2.アジャイル・ガバナンス

 

アジャイル・ガバナンス原則

2021年9月、デジタル庁がスタートし、同年12月、政府は、デジタル臨時行政調査会(臨調)を開き、官民で共通の指針となる「デジタル原則」*13)を策定しました。

そのうちの一つが「アジャイル・ガバナンス」原則です。

「アジャイル」(Agile)は敏捷、機敏、ガバナンス(governance)は、統治、支配、管理などと訳されます。機敏な統治とは一体どういう意味でしょうか。

経産省の報告書は、「《アジャイル》(Agile)とは、ソフトウェア開発の手法に由来する言葉で、事前にシステムの要件や仕様を固定するのではなく、要件や仕様に変更が生じることを前提に、機敏かつ柔軟に開発を行い、常に検証を重ねていく手法のことをいう。この手法をガバナンスに応用したものが、《アジャイル・ガバナンス》である」*14)と説明しています。

経産省の『アジャイル・ガバナンスの概要と現状』(2020年、以下「概要と現状」と略記)という報告書は、「アジャイル・ガバナンス・モデル」には、①「マルチステークホルダー」、②「アジャイル」、③「マルチレーヤー」3つの要素があるといいます。

*13)(1)デジタル完結・自動化原則、(2)アジャイルガバナンス原則、(3)官民連携原則、(4)相互運用性確保原則、(5)共通基盤利用原則。

*14)経産省『アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて』2021年。
 
①マルチステークホルダー

第1に、主体はマルチステークホルダーだといいます。

ステークホルダー(stake holder)とは、企業が経営をするうえで、直接的または間接的に影響を受ける利害関係者のことです*15)

「概要と現状」は、マルチステークホルダーは、①企業、②政府、③コミュニティ、個人の三つで、「中心的な役割を担うのは、サービスや商品の提供を通じて価値創出に貢献している企業」なのだといいます。

そして、「政府は、ルール形成やモニタリング、執行等を一手に担うモデルから脱却し、企業をはじめとするステークホルダーが適切なルール形成を行うよう、関係者を集めて議論を促進したり、企業が適切なモニタリングや情報提供を行うようなインセンティブ付けを行ったりするファシリテーターの役割を求められるようになる」と述べています。

政府の意思決定に民間企業を深く関与させよ、政府はファシリテーター(調整役)として後に引っ込め、と言っているわけです。

現在の自治体は、住民が選挙によって選んだ首長と議員が「ともに住民の代表者として自治体の意思を公式に確定する権限」*16)をもっています。

働く職員のみなさんは、「日本国憲法を尊重し、かつ擁護すること」「地方自治の本旨を体する」こと、「全体の奉仕者として誠実かつ公正に職務を執行すること」という『誓約書』に署名してからでなければ、その職務を行なってはならない」とされています。

このように住民自治と団体自治のうえに自治体行政はなりたっている。そこへ「民間企業も《ステークホルダー》だから意思決定に参加させよ」と割り込んできた。地方自治への露骨な介入がもくろまれています。

*15)英語の「stake(掛け金)」「holder(保有する)」が由来とされ、1984年に哲学者のR.エドワード・フリーマ「Strategic Management: A Stakeholder Approach」の中で使用したのがビジネス用語として浸透するきっかけになったといわれている。

*16)大森彌『自治体の長とそれを支える人びと』第一法規、3頁。

②アジャイル

第2に、手法はアジャイルだといいます。なぜ、アジャイルという手法をとるのかというと「不確実性の増加する社会においては、事前に正しいルールや責任の所在を定めておくことが困難である」からだといいます。

しかし、ここには論理の飛躍とすり替えがあります。「不確実性の増加する社会」だから「事前に正しいルールや責任の所在を定めておくこと」が必要なんです。ステークホルダーとして行政に割り込むだけでなく、ルールづくりにも参画し、しかも何か問題が起きても法規制から逃れるようにしたい。迅速な統治(アジャイルガバナンス)には、法は邪魔だということです。

「概要と現状」は、「規制の設計への関与」という項目で「いかなる規制も、制定時点での社会状況を前提としているものであるが、そのような規制によってイノベーションが妨げられないよう、イノベーションを起こそうとする者と規制当局との間で、規制の在り方について対話の機会を設けることが非常に重要である」*17)と述べています。

規制よりイノーベーション(技術革新)を優先せよ、ということです。「規制緩和」によって大企業は相当な利益を上げています。それだけでは足りず、企業を「規制を設計」する側にせよ、とまで言い出したわけです。

*17)「概要と現状」、35頁。

 

「免責制度」・「訴追延期合意制度」

そのあり方は、まことに企業にとって都合のいいものです。

「厳格責任制度を単純に導入すると、予見不可能な事故について、企業が過剰な回避行動をとってしまい、イノベーションが阻害されてしまう」。だから、「免責制度と共に、いわゆる訴追延期合意制度(Deferred Prosecution Agreement:DPA)と類似した仕組みの制裁制度を併せて導入し、イノベーションとリスクをリバランスし続けるインセンティブを与えるよう制度設計することも考えられる」*18)

ある企業が損害を与えたり、事故を起こせば当然訴えられます。そうならないために、損害や事故の責任を負わない「免責制度」と「訴追延期合意制度」と類似したものを作れと言っています。

「訴追延期合意制度」はアメリカの制度ですが、企業が違法行為を認めて、捜査への協力、制裁金の支払い、コンプライアンス体制の強化、外部の独立した第三者によるモニタリングを受け入れれば、刑事裁判手続が一定期間延期され、その期間中に合意内容が完全に遵守されれば、刑事裁判を取り下げる。これと同じような制度を日本でもつくれと言っているわけです。

法的規制を企業の自主規制に取り替えてしまう。今の法制度を根幹から変えることになるでしょう。

 

*18)同40頁。

政策決定への関与

それだけではありません。

「政策決定への関与」という項目もあります。「デジタル技術の進展に伴い、個人やコミュニティによる政治的意思決定への参加方法も多様化できるようになっている。伝統的な『一人一票』という手法や、『力のある者によるロビイング』といった方法を超えて、より実質的にステークホルダーの声を公共政策に反映させることが重要である」。

「一人一票という手法」というのは選挙のことです。主権者である国民、住民の声よりも、「ステークホルダー」という名の民間企業の意向を「公共政策に反映させる」ことが重要だと主張しているわけです。

③マルチレイヤー

第3に、構造はマルチレイヤーだといいます。「個々の主体が行うガバナンスを、都度調査しなくても信頼できるような仕組みが必要である。そのために、様々な機能の重要な結節点に、信頼の基盤(トラストアンカー)を設置することが望ましい」と「概要と現状」は述べています。

現状では、行政が民間企業に何らかの仕事を委託する場合、様々な審査、調査がある。それを省略できるようにしよう、一旦審査に通れば、その後は「顔パス」にしようというわけです。

民間企業が、「ステークホルダー」という看板を付けて行政に入り込む。一旦入ったら「顔パス」で施策に手を突っ込み、ルールも政策も決める。

現在でも大企業は審議会など諮問機関を通じて政府の政策形成・法律立案に深く関わり、自分たちの要求を国や自治体の政策に反映させています。しかし、それでは足りないので直接乗り込んで「ルールの遵守者から設計者へ」と新たな段階に踏み込もうというわけです。
 
こういう「アジャイル・ガバナンス」の流れと自治体DXを重ね合わせると、CIO(最高情報責任者)、CDO(最高デジタル責任者)およびその補佐官を民間企業から任用し、全庁的なデジタル変革を主導する役割を与えることは大変危険で、地方自治を変質させるおそれがあります。

そこで伺います。

①民間企業の外部人材を強力な権限をもつCIO(CDO)統括補佐官として任用することや、民間企業をステークホルダーとして町のルール形成に関与させることは自治を弱めることになるのではないでしょうか。

総務企画部長 「ディー・エックス推進計画」では、CIOのマネジメントを専門的知見から補佐するCIO補佐官等の役割が明記されています。ICTの知見を持った上で、自治体現場の実務に即した技術の導入の判断や助言を行う職とされており、外部専門人材の活用を積極的に検討すること、とされています。

ただし、そのような外部のデジタル人材は極端に対象者が少ないうえ、大規模な自治体はまだしも、小規模な自治体が単独で確保することは困難であり、ほとんどの自治体で設置していないとともに、町においても、現段階において、任用は想定していません。

しかし、CIO補佐官等のレベルではなくとも、自治体にとってデジタル人材の確保は課題となっています。

広島県では現在、高度な知識・技能等を有するデジタル人材を、県と市町共同で採用・配属する制度を検討しています。

町では、ITスキルやデジタル力の向上を目的とした、職員の研修参加の促進や、「ITパスポート」資格の取得に伴う、職員への費用助成などを行っています。 

可能な範囲でデジタル体制づくりを推進したいと考えています。

3.自治体情報システムの標準化・共通化

カスタマイズ禁止

二見議員 つぎに「自治体情報システムの標準化・共通化」について質問します。

これまで、自治体の情報システムは、それぞれの自治体の特性、職員の使い勝手のよさなどを踏まえて、ソフトやハードの設定を変更(カスタマイズ)して使ってきました。このカスタマイズをやめて全国で同じものを使うことにしようというのが「自治体情報システムの標準化・共通化」です。

総務省の資料によりますと、「標準化・共通化」の理由を3つあげています。

情報システムをカスタマイズすることは、

①「維持管理や制度改正時の改修等において、自治体は個別対応を余儀なくされ負担が大きい」

②「情報システムの差異の調整が負担となり、クラウド利用が円滑に進まない」

③「住民サービスを向上させる最適な取組を迅速に全国へ普及させることが難しい」

だから、「標準化・共通化」することによって、①人的・財政的な負担を軽減し、②自治体の職員が住民への直接的なサービス提供や地域の実情を踏まえた企画立案業務などに注力できるようにして、③オンライン申請等を全国に普及させるためのデジタル化の基盤を構築するのだと言います。

3つめの「デジタル化の基盤の構築」はできるでしょうが、あとの2つはその通りになるのか、実効性が疑わしい。

ガバメントクラウド

現在はシステムの稼働やインフラの構築に必要となるサーバーやネットワーク機器、あるいはソフトウェアなどをそれぞれの自治体で保有し運用していますが、これをクラウドに移行する。行政に関わる業務システムをまとめて、ひとつのクラウド上の基盤に構築するので「ガバメントクラウド」と呼ばれています。自治体も政府のつくった「ガバメントクラウド」を利用しなさいと言っています。

デジタル庁はガバメントクラウドに移行することで運用コストが3割削減できると言っていますが、そのことも疑問視されています*19)。一般的にクラウドは、初期費用は抑えられるものの、運用コストは割高です。初期費用もタダではない。クラウドに障害が起きたときでも住民サービスに支障が出ないようにバックアップのシステムも必要です。

「標準化・共通化」によって職員の負担が軽減され、その分、住民へのサービス向上、地域の実情を踏まえた企画立案業務などに注力できるというのも疑わしい。これまでのIT化も職員の負担軽減に繋がりませんでした。

*19)「『2000億円で25年末に完全移行』は可能か、自治体システム標準化に3つの課題」日経XTECEホームページ、2022年3月3日。

 

「標準化・共通化」によって失われるもの

標準化されるのは、①児童手当、②子ども・子育て支援、③住民基本台帳、④戸籍の附票、⑤印鑑登録、⑥選挙人名簿管理、⑦固定資産税、⑧個個人住民税、⑨法人住民税、⑩軽自動車税、⑪戸籍、⑫就学、⑬健康管理、⑭児童扶養手当、⑮生活保護、⑯障害者福祉、⑰介護保険、⑱国民健康保険、⑲後期高齢者医療、⑳国民年金、の20業務で、広範囲にわたります。

「標準化・共通化」の問題点は、「標準化・共通化」そのものです。

これまで独自の施策にあわせて、各々の自治体がカスタマイズしてきたシステムを使ってきました。当町の予算書をみても実にさまざまなシステムが運用されています。これを全国で共通の画一的なシステムに合わせると、どうしてもはみ出るものがある。しかし、それを町の施策にあわせてカスタマイズしてはならないというのが総務省の立場です。

ではどうするのか。ガバメントクラウド上のシステムとは別の、町独自のシステムをもう一つ作れば、お金も労力も負担になる。それを避けようとすれば、システムにあわせて独自の住民サービスを諦めざるをえない。

まさかそんなことはと思うでしょうが、実際にありました。富山県上市町(かみいちまち)では、2018年、議会で「3人目の子どもの国保税免除、65歳以上の重度障害者の医療費窓口負担免除」という提案があったところ、町長は「自治体クラウドを採用しており、町独自のシステムのカスタマイズはできない」と拒否しました。

上市町を含む、富山県内の6市町村は「富山県情報システム共同利用推進協議会」を設置し、共同利用型クラウドを運用しています。

資料によると「事業実施の目的」の第1は「経費の削減」だといいます。

「業務パッケージシステムを原則ノンカスタマイズで共同利用することにより情報システム関連経費やマイナンバー対応経費を削減する」。ノンカスタマイズですから共通の画一的なものにするということです。それで経費を削減する。

第2は、業務の標準化・効率化を挙げています。

「情報システムの共同化作業の中で、市町村独自ルールを見直し、業務の標準化及び効率化を図る」。「情報システムの標準化・共通化」のために、「業務の標準化・効率化」をするというのです。これでは本末転倒です。

こういう事態にならないのか、大変憂慮しています。

そこで伺います。

②町の業務システムと標準仕様にはそれぞれ違いがあると思いますが、移行について現状はどのようになっているのでしょうか。 

総務企画部長 「DX推進計画」の「重点取組事項」にある、「自治体の情報システムの標準化・共通化」は、住民基本台帳や税などの20業務について、令和7年度末までに標準準拠システムへ移行することが求められているものです。

町では、県内各市町の取り組み状況やベンダー企業などから情報収集を行うとともに、今年度、標準化・共通化に係る基本方針の策定、並びに対象20業務の所管課で構成する推進体制の立ち上げを行いました。

対象業務ごとに、現行システムと国が示す標準仕様書との差異について比較する、「フィット・アンド・ギャップ分析」は、来年度実施することとしています。

窓口業務の廃止縮小

二見議員 最後に、行政手続のオンライン化について質問します。

総務省は「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書」を策定し、原則、全自治体で、マイナポータルからマイナンバーカードを用いて、住民に身近とされる31手続をオンラインでできるようにするとしています。

「行政手続の原則オンライン化」といい、川崎市では、今年4月から「子育て、介護、福祉、地域での活動、被災者支援・防災、消防、教育などすべての行政分野における手続で、法令等により対面による審査・指導・相談や、証拠資料の原本提出が必要となるものを除いた2,650手続」を原則オンライン化します。

手続がオンラインで出来ること自体はいいことだと思いますが、心配なのは、オンライン化に伴い窓口の無人化や廃止・縮小が進められるのではないかということです。

「スマート自治体研究会報告書」*20)は「スマート自治体の実現に向けた3原則の1番目に「行政手続を紙から電子へ」を掲げ、「住民にとって、窓口に来ることは負担」、「現状のサービスのあり方を前提とせず、窓口に来なくても所期の目的を実現できないか、常に考える」としています。

*20)総務省「『Society 5.0時代の地方』を実現するスマート自治体への転換」2019年。

内閣官房オープンデータ伝道師、総務省地域情報化アドバイザーほか、政府の様々な諮問機関で専門委員などを務める三菱総合研究所の村上文洋(ふみひろ)氏は「民間ではすでに窓口の廃止が進んでいる。自治体においても、窓口を便利にするのではなく、窓口をいかになくすか(来なくてもよいように)考えるべき」*21)と主張しています。

村上氏は、「スマートフォンになれていない高齢者のために、相談や手続ができる場所」は残しておく必要があると述べています。
要するに入力をサポートする場所があるだけです。

*21)村上文洋「窓口を便利にするのではなく窓口に来なくてもよくする」『ガバナンス』2019年7月号。

現在は、各部各課の職員が町民のみなさんに対応し、手続を進めています。当然ながら、担当している部署の仕事を理解している。しかし、「行政手続の原則オンライン化」が進んだ近未来の窓口では、パソコンやタブレット端末の入力についてだけ相談に応じる人がいるだけになる。

これを読んで、めざすはNTTなのだと気づきました。NTTはすべてのお客様窓口を廃止し、手続きは電話かネットです。これに極力近づけたいということなのでしょう。

町民の方々が単なる申請で役場を訪れる場合もあるでしょう。しかし、申請に当たって相談したい、相談のうえ申請したいということもある。困っているがどういう手続をしたらよいのか分からない人もいます。

現在は、行政手続はオンラインでできるようにするというのが「行政手続の原則オンライン化」の意味のようですが、今後、行政手続はオンラインでするのが原則という意味に変わるのではないか。窓口が縮小され、対面での申請、それと一体になった相談がしにくくなるのではないか。とても心配です。

そこで、伺います。

③申請と相談は一体のことが多く、オンライン申請の促進が窓口業務の廃止・縮小とならないようにすべきだと思いますが町としてはどのように考えていますか。

総務企画部長 マイナンバーカードを利用したオンライン申請に関し、子育て・介護関係の26手続きを行うことのできる「ぴったりサービス」について、システム改修を既に終えるとともに、転出先の自治体だけで転出手続きが完了する「引っ越しワンストップサービス」について、先月から運用を開始しています。

オンライン申請の普及による人件費の削減は、一般的にデジタル化の一つの目的であるとは考えますが、現段階で、窓口業務の廃止・縮小について、具体的な計画はありません。

必要な申請・相談体制は維持し、住民サービスの低下にならないよう対応していきたいと考えています。

 

《2回目》

「全庁的なマネジメント」をするデジタル人材の任用は現段階では考えていないという答弁で、少しほっとしました。

ただ「小規模な自治体が単独で確保することは困難であり、ほとんどの自治体で設置していない」ということでしたが、さきほど紹介した磐梯町以外にも小規模な自治体でデジタル人材を受け入れているところがあるんです。

今年度(2022年度)、「地方創生人材支援制度」を使ってNTT東日本、NTT西日本、NTTドコモ、日本情報通信、LINE、日立システムズ、ソフトバンク、富士通、NECなどからの「デジタル専門人材」56人が、全国46自治体へ派遣されています。

そのうち、町は10で、村も1つあります。町村だから「ない」とは言えないんですね。

また、「県と市町共同で採用・配属する制度を検討」しているとのことですから、民間のデジタル人材が複数の自治体を掛け持ちで担当し、その人が担当する自治体全体の司令塔になる可能性はあるわけです。

県がどういう提案をしてくるのか分かりませんが、CIOやCIO補佐官などの要職に外部人材をあてないようにしていただきたい。

職員の研修についての答弁もありました。ぜひ内部人材を養成して、自治体DX、デジタル体制づくりに取り組んでほしいと思います。

オンライン申請が進んでいくと窓口が廃止、縮小されるのではないかという質問に対しては、「現段階で廃止縮小は考えていない」「住民サービスの低下にならないようにする」という答弁でした。
町長の所信表明にも「笑顔の役場」という言葉がありましたが、笑顔で対応する職員が減ったり、いなくなったりすることのないようにしていただきたいと思います。

民間人材の危うさ

「アジャイル・ガバナンス」は、私も今回初めて知りました。「そんなばかげた話はない」と思われたのではないでしょうか。

経済産業省に設置された「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」の報告書の内容を紹介したまでで、私の創作ではありません。

民間企業から派遣される人材が行政に関与し自らの企業に利益をもたらす、法律や条例を都合よく変える、なにか問題を起こしても責任も取らない。こういうアジャイル・ガバナンスのあらましを知人に話したところ、「出来の悪いSF小説のようですね」と言われました。

おぞましい暗黒世界(ディストピア)ですが、壮大さもなく、自分たちにとってあまりに都合よく、虫のいい話だからでしょう。

SF小説なら駄作ということで済むのですが、遠い未来でも近未来でもなく、アジャイル・ガバナンスは部分的にではあるけれども、始まっています。

第一に、デジタル庁です。

2021年9月に発足しましたが、600人の職員のうち、250人が民間からの登用です。2022年12月現在では職員800人うち民間からの登用は300人となっています。

組織図をみますとデジタル大臣のすぐ下に「デジタル監」とあり、浅沼尚(たかし)氏が就任しています。浅沼氏はJapan Digital DesignのChief Experience Officerでしたが、この会社は三菱UFJフィナンシャル・グループの内部組織が独立してできたものです。

デジタル庁ができて担当大臣は現在の河野太郎氏で3人目ですが、浅沼氏は発足時からずっと「デジタル監」を務めています。「デジタル監」の位置づけはナンバー2ですが、事実上の責任者、トップなのです。「デジタル改革の司令塔は民間人材で」を率先し範を垂れているのです。

民間人材の98%が非常勤です。非常勤職員には国家公務員の兼業規制が適用されず、その多くが出身企業の業務にも従事しています。なかには兼業している企業にいながらデジタル庁の仕事をしている人もいる。

「東京新聞」は企業との癒着について次のように伝えています。

政府のデジタル事業の発注を一手に担う同庁では、事業を受注する企業との癒着防止が発足前から課題となっている。そのため、民間出身の職員が関与する事業に対して、兼業する企業からの入札を禁じる規制を設けた。だが、職員が「兼業先と情報交換を行っていない」などとする申請を同庁が認めた場合、一転して入札が可能になる例外規定も入った。

癒着防止の規制に関して、同庁が〔9月末に開いたコンプライアンス委員会では「企業が本当に落札したい案件であれば、誰が誰とどんな接触をしたかは隠蔽するだろう」とする懸念が有識者から上がった。また「企業側への事後的なペナルティーが必要だ」と規制強化を注文する声があった*22)

*22)「デジタル庁の民間登用は98%が非常勤 企業との兼務で癒着防止に甘さ?」東京新聞web、2021年10月16日。

第二に、東京オリンピック・パラリンピック大会です。

大会組織委員会の元次長や大手広告代理店・電通の幹部らが次々逮捕されました。汚職、談合の両事件に深く関わったのが組織委員会の専任代理店を務めた電通です。大会組織委員会に派遣された電通職員が電通に仕事を発注する。

TBSの「報道特集」をみて驚きました。番組では次のようなことが報じられています。

組織委員会に出向していた電通社員が社内向けに作成した資料には 「電通の利益を最大化するよう、組織委員会に社員を派遣すべき」という内容が記載されていたという。

組織委員会元職員「素人組織ができることは、もう電通に頼ることしかできない、付け込まれる隙をずっと持っていた」。

電通出身の組織委員会元職員「正直言うと広告業界が麻痺しているのは間違いない。組織委員会側にノウハウが全くない。言いなりにならざるを得ない」

私には東京五輪における電通社員と「デジタル人材」が重なってみえます。

第三に広島県教育委員会です。

平川理恵教育長は、リクルート出身の民間人材。2010年に全国で女性初の公立中学校民間人校長として横浜市立中学校に着任。湯崎知事がスカウトして2018年から教育長を務めています。

彼女の場合には、出身であるリクルートへの利益供与があったわけではありませんが、自分と親しい関係にあるNPO法人、業者、個人に対して発注したことが発覚。タクシー代に年間100万円も使っていることも明らかになりました。また、広島県教委がNPO法人との委託契約の違法性を調べた弁護士に調査費約3千万円を支払ったことも問題になっています。

地方自治法違反や官製談合防止法違反という指摘がありましたが、結局おとがめなし、「アジャイル・ガバナンス」の免責制度が先取りされているかのようです。

行政のデジタル化は当然やっていかなければなりません。しかし、デジタル化を口実にして先ほど質問したような問題が起きてくる可能性があります。

今後どのようになるのか、まだよく分からない点がありますが、デジタル化が「住民の福祉」の後退ではなく増進に繋がるようにして欲しいと思います。

 以上で、質問を終わります。


《参考文献》

本多滝夫・久保貴裕『自治体DXでどうなる地方自治の「近未来」』自治体研究社
稲葉一将・内田聖子『デジタル改革とマイナンバー制度』自治体研究社

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