児童・生徒の不登校について 府中町議会 一般質問 2025年9月8日
もくじ
以下の原稿は、府中町議会の公式記録ではありません。また、年号については西暦に統一しています。
1.不登校の実態
■この10年で急増する不登校
子どもの不登校はこの10年で3倍と急激に増加し、2023年には小学校、中学校あわせて35万人近くになりました。
3年前(2022年)に益田芳子前町議が一般質問で不登校について取り上げ、21年の数字をあげていますが、24万5千人でした。2年間で10万人以上増えているわけです。これまで少なかった小学校低学年でも増えています。
1991年からの約30年間でみますと、在籍児童生徒に占める不登校児童生徒の割合は1991年には0.47%であったのが2001年には1.22%で10年間で2.6倍に増えました。
2013年は1.17%で、その後の10年間は横ばい・微減。それが、2023年には3.72%となり、10年間で3倍も増えています。
文科省も「不登校児童生徒数は11年連続で増加し、過去最多となっている」と認めています。
当町の場合、2003年には小学校15人、中学校48人、あわせて63人でした。その後2008年までデータがないのですが、2009年から15年まで小中あわせて61人から76人のあいだで推移しています。
2018年が40人、20年は44人と減り、23年が133人、24年が129人と激増しています。
(府中町教育委員会提供資料より二見作成)
■不登校の要因見いだせず
文科省の委託事業「不登校の要因分析に関する調査研究報告書」(2024年3月公表)は、「不登校児童生徒に対する教師回答や本人回答と、不登校でない児童生徒に対する教師回答や本人回答を比較し、その違いを把握する」ことを目的の一つに掲げています。
本調査では不登校になった「きっかけ要因」について、共通した25の選択肢のなかから、教師、児童生徒、保護者が選んで回答しています。
教師の回答の上位5つは、①学業不振(41.2%)、②宿題ができていない(40.5%)、③不安・抑うつ(19.0%)、④体調不良(18.5%)、⑤いじめ以外の友人とのトラブル(16.6%)です。
児童生徒の回答は、①不安・抑うつ(76.5%)、②体調不良(68.9%)、③居眠り、朝起きられない、夜眠れない(70.3%)、④宿題ができていない(50.0%)、⑤学業の不振(47.0%)です。
保護者の回答は、①不安・抑うつ(78.4%)、②体調不良(76.5%)、③居眠り、朝起きられない、夜眠れない(74.7%)、④教職員への反抗・反発、⑤感覚の過敏さ(38.9%)です。
児童生徒と保護者の回答の上位3つは同じですが、教師の回答は学業不振と宿題が上位で、受け止めにだいぶ差があります。
この調査の第2の目的は、2022年度の「問題行動等調査」において、不登校の主たる要因が「無気力・不安」であると報告された児童生徒の詳細を把握し実態をつかむことにありますが、残念ながら児童生徒の「無気力・不安」がどこから来ているのかについて明らかになっていません。
「本調査によって不登校について十分に解明できた訳ではない。例えば、児童生徒がどのようなプロセスを経て不登校に至ったのか、もしくは、不登校の児童生徒がどのようなきっかけと指導支援により、再登校となったり、別の形態での教育を受けたりするのか、私たちは十分なデータを持っていない」と報告書の最後に正直に書かれています。
文科省としても、不登校の要因、解決の道筋を見いだしていないといえるでしょう。
子どもたちは傷つき、親も先生方も心を痛めている。不登校の児童生徒が減るように私たちは、原因を探求し解決の糸口をみつけなければならないと思います。
2.国の不登校対策
■教育機会確保法
政府・文科省は、今から10年前、2016年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」、通称「教育機会確保法」を制定しました。
教育機会確保法」は第3条で次の5つを基本理念として掲げています。
一 全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保が図られるようにすること。
二 不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること。
三 不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図られるようにすること。
四 義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。
五 国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること。
文科省は2023年に「不登校児童生徒等への支援についての法律『教育機会確保法』って何?」というパンフレットを作成しました。
教育機会確保法やこの法律の基本指針などを8つのポイントに整理し、まとめたものです。
不登校は誰にでも起こりうることであり、問題行動ではないことを明確にし、学校に登校するという結果のみを目標とせず、子どもたちが主体的に考えることを後押しすること、学校内外に学びの場を整備すること、一人ひとりにあった支援をすること、などをあげており、このポイントどおりにことが進めば、不登校の状況を改善できるのではないかと思われます。
しかし、「教育機会確保法」ができて10年経つわけですが、不登校の児童生徒は減るどころか増えているわけです。
実際には基本理念やポイントと異なる要素が「教育機会確保法」にあり、その方向での取り組みが学校でなされているのではないか。
「基本理念やポイントと異なる要素」の主なものとして3点指摘したい。
■不登校児童生徒の捉え方
第1の問題は、不登校の児童生徒の捉え方です。
教育機会確保法」第2条第3項は不登校児童生徒について次のように定義しています。
不登校児童生徒…相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活に関する心理的な負担その他の事由のために就学が困難である状況として文部科学大臣が定める状況にあると認められるものをいう。
「文部科学大臣が定める就学が困難である状況」については、省令*1)で次のように定義しています。
病気または経済的な理由を除く「何らかの①心理的、②情緒的、③身体的若しくは④社会的要因又は背景によって、児童生徒が出席しない又はすることができない状況」(丸数字は二見)
4つが並列のようにも見えますが、心理的、情緒的、身体的な問題、要するに心のありかた、心のもちよう、身体の不調という児童生徒の側の問題が主たる要因だと捉えているわけです。
*1)文部科学省令第2号(2017年2月14日)
■不登校への対応
第2の問題は、不登校への対応です。
「教育機会確保法」は、不登校児童生徒の状況を継続的に把握することを求めています。
第12条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う①学習活動の状況、②不登校児童生徒の心身の状況その他の不登校児童生徒の状況を継続的に把握するために必要な措置を講ずるものとする。(丸数字は二見)
不登校の子どもたちのなかには、心身が疲弊して勉強どころではない状況の子もいます。そういう子どもたちに対して、まず「学習活動の状況を継続的に把握せよという。
先生方は、不登校の子どものお宅を訪ねたり電話して「勉強していますか。どんな勉強を何時間やっていますか」と尋ねなければならない。そういう連絡は子どもたちにとってプレッシャーになる。第12条はそういう意味をもつわけです。
第12条に忠実にやろうとすれば、「学習活動の状況」をつかむことが優先され「心身の状況」については後回しになる、これは逆にしないといけません。
■休養について
第3の問題は、休養についての考え方です。
第13条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ、当該不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう、当該不登校児童生徒及びその保護者(学校教育法第16条に規定する保護者をいう。)に対する必要な情報の提供、助言その他の支援を行うために必要な措置を講ずるものとする。
「個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ」という文言が挿入されていて、これが大変重要なのですが、付け足しのようになっていて文の骨格は「学習活動の重要性に鑑み」「当該不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう」であり、やはり学習活動がメインなわけです。
また、2019年10月25日に出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」においては、
不登校児童生徒への支援は,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること。また,児童生徒によっては,不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で,学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。
と述べています。学業が遅れる、進路選択で不利益になる、社会的自立のリスクとなる。これでは「『学校に登校する』という結果のみを目標」にしないという文言は帳消しです。
さらに2023年11月17日に出された「不登校の児童生徒等への支援の充実について(通知)」の別紙「不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方」では、「学業の遅れや進路選択上の不利益等が存在することに留意する」という見地をさらに補強し、「その前提となる学校教育の意義・役割として、 学校教育の役割は極めて大きく、学校教育の一層の充実を図るための取組が重要であり、既存の学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検討し、なじめない要因の解消に努める必要があると述べました。
「不登校児童生徒への支援は,『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではな」い、「不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある」という大変重要な見地が後景に追いやられてしまったわけです。
■COCOLOプラン
2023年に出された「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策 COCOLOプラン」は、この見地で作られています。
不登校対策が「学びの保障」に集約されています。
文科省の資料には「不登校により学びにアクセスできない子供たちをゼロにすることを目指し、
1.不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える
2.心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する
3.学校の風土の「見える化」を通じて、学校を「みんなが安心して学べる」場所にすることにより、誰一人取り残されない学びの保障を社会全体で実現するためのプラン
だと説明されています。心の傷への理解、休息・回復の保障ではなく、「学習活動の継続」「学びの場」の確保が重点となっています。
そこで伺います。
①「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではな」く、「不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある」という見解は依然として重要だと思うのですが、町教育委員会としてはどのように考えますか。
②不登校の子どもたちが安心して学校で学べるようになるためには、それぞれにとって必要な時間があると思います。性急に「学びの場」に引き込もうとすることは、かえって逆効果になるのではないでしょうか。町教育委員会としてはどのように考えますか。
■教育部長
不登校の児童生徒への支援には、まずは不登校となった児童生徒一人ひとりについて、不登校となった背景にある要因を多面的かつ的確に把握することが重要であり、そのうえで早期に適切な支援につなげることが必要であると認識しています。
議員ご紹介の「不登校の要因分析に関する調査研究報告書」で示されたとおり、教職員が考える不登校のきっかけと、児童生徒自身による回答には、ずれが生じることもあります。また、きっかけそのものが「わからない」と回答する児童生徒もいます。
教育委員会としましても、「なぜ行けなくなったのか」と原因のみを追究したり、「どうしたら行けるか」という方法のみにこだわったりするのではなく、不登校となった個々の児童生徒の休養の必要性を踏まえつつ、児童生徒の希望や願い、興味関心を含め、気持ちを理解し、思いに寄り添いつつ、把握した実態に基づいて、個に応じた具体的な支援につなげること、また、学校に登校するという結果のみを目標とするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指せるよう、個々の状況に応じて、多様な学びの選択肢を提供することが重要であると考えています。
3.不登校はなぜ増えた 子どもたちを取り巻く4つの変化
二見議員 先ほども述べたように、不登校はとりわけこの10年間で大きく増えました。子どもたちを取り巻く状況はこの10年で何がどう変わったでしょうか。
(1)忙しすぎる学校
まず第1に、学校が忙しくなったことです。多くの小学校で4年生以上の時間割が毎日6時間になりました。
文科省が学習指導要領で定める標準時数は小学校4年生の場合、1977年改訂時――このときは週6日制でしたが、1コマ45分で年間1015コマでした。「ゆとり教育」が最も進んだ1998年改訂では945コマに減ったのですが、学力低下批判が起きると増加し、2008年改訂では980コマに。2017年改訂では、週5日制であるにもかかわらず週6日制の時ときと同じ1015コマまで膨らみました。
(Teach For Japan「5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!」より引用)
授業と授業のあいだの休憩時間も以前は10分だったと思います。
教育委員会に提供していただいた資料によると2019年には、すでに5分になっていました。コマ数が増えた2017年に短縮したのではないかと推察しています。
授業時数が増え、休憩時間も短くなってどうなったか。朝日新聞に出ていた先生方の声を紹介します*2)。
「現在はまるでてんこ盛りです。毎日が食べ過ぎです。食欲がなくなったり、病気になったりしてしまう危険性があります」
「6時間目になると子どもたちは集中力が無く、イライラしてよくトラブルもおこります。このストレスは、急激に増え続けている不登校の子どもの数とも関係があるのではないか」
「多忙化も加わり『子どもたちの実情に合わせて学校ごとに考える』ことがなくなり、『赤信号みんなで渡れば怖くない』かのようになってしまっている」。
小学校2年さえ6時間授業の日があります。多すぎる学習内容をこなすため宿題も増えました。授業間の休み時間が削られ、給食の時間も短く、「ゆっくり食べられない」「トイレの時間も足りない」という問題も起きています。
*2)「小学生で毎日6時間は「負担」 研究者らが授業時数を分析 本を出版」『朝日新聞』2024年10月1日。
(2)全国学力テストによる競争の激化
第2に、全国学力テスト――全国学力・学習状況調査です。
「全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」ことなどを目的に実施されてきました。
2014年度から小6・中3の全員が対象となり、2025年度は国語、算数・数学、理科と質問調査を実施しています。
この全員を対象とする「悉皆(しっかい)調査」となって、今までなかった県どうしの平均点競争を引き起こし、市町村と学校を点数競争に巻き込みました。
学校での教育がテストの平均点に一喜一憂するようになり、地方独自の学力テストも広がり、多くの先生方が「全国学力テストで学校の雰囲気が変わった」と訴えています。
2024年度の全国学力テストですが、広島県教育委員会は「小学校は、国語及び算数において、平均正答率が全国を上回っている」「中学校は、国語において、平均正答率が全国と同程度である。数学において、全国を下回っている」という評価をし、全国と広島県の平均正答率を公表し、ホームページに掲載しています。
当町はどうか。先日、「令和6年度教育委員会事務点検・評価報告書」をいただきましたが、第1番目の「志を持ち未来へ挑戦する児童生徒の育成」に「全国学力・学習状況調査の教科に関する調査の結果(広島県平均との比較)」が出てきます。
小学校は、広島県の平均が国語が69点、算数64点だったからそれより各々5点多くする。中学校は、広島県の平均が国語が58点、算数52点だったからそれより各々3点多くする。
こういうふうに目標設定するわけです。県は全国平均より上をめざし、府中町はさらにその上をめざせと目標を立てる。
それは当然、町内の学校に対してもプレッシャーとなる。競争が過熱するのは当然でしょう。
■公教育のあるべき姿が見失われている
福井県議会は県下の中学生の自死(「指導死」)について、「『学力日本一』を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因となっていると考える」という意見書を2017年12月、全会一致で採択しました。
意見書は次のように述べています(意見書には中学校名と自治体名が書かれていましたが、ここでは伏せています)。
A中学校の事件について、学校の対応が問題とされた背景には、学力を求めるあまりの業務多忙もしくは教育目的を取り違えることにより、教員が子どもたちに適切に対応する精神的なゆとりを失っている状況があったのではないかと懸念するものである。
このような状況はB町だけにとどまらず、「学力日本一」を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因となっていると考える。
これでは、多様化する子どもたちの特性に合わせた教育は困難と言わざるを得ない。日本一であり続けることが目的化し、本来の公教育のあるべき姿が見失われてきたのではないか検証する必要がある。
学力テストの順位にこだわることが、子どもたちを追い詰めているわけです。
国連子どもの権利委員会の日本政府に対する勧告書は、わが国の過度に競争的な教育環境を検討するよう度々求めています。「極端に競争的な環境によって引き起こされる悪影響を回避する目的で、締約国が学校制度および大学教育制度を再検討する」*3)こと、「ストレスの多い学校環境(過度に競争的なシステムを含む)から子どもを解放するための措置を強化すること」*4)を勧告しています。
この勧告を真摯に受け止めるべきだと思います。
*3)第3回勧告書(2010年)71パラグラフ。
*4)第4・5回勧告書(2019年)39パラグラフ
(3)教員の多忙化
子どもだけでなく先生方も追いつめられています。
長時間労働が止まらず、うつ病など精神性疾患で病休となる人が急増しています。
福井県議会の意見書にも「教員が子どもたちに適切に対応する精神的なゆとりを失っている」とありましたが、学校現場は大変忙しくなっています。
国の調査によれば、公立の小中学校では平日に平均約11時間半働き(持ち帰り残業含む)、休憩はわずか数分で、土日の出勤もあります。先生たちは「授業準備や子どもと向き合う時間がない」と訴え、子どもや親たちは「先生は忙しすぎて、声をかけにくい」と困っています。子どもと教員の温かい触れ合いが減れば、学校は楽しくありません。
(4)「規律」で押さえつける
教育基本法が2016年に「改正」され、第6条に「教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずる」という文言が入りました。「教育を受ける者」とは児童生徒のことです。規律を重んじることを子どもたちの責務、義務として明記した。
そのもとで、「学校スタンダード」*5)「ゼロトレランス」*6)などにより、子どもの手の挙げ方まで規則で細かくしばることが広がり、子どもに威圧的に接する雰囲気が強まりました。
日本共産党の校則アンケート(2022年)では、子どもの半分近くが「監視されているようで窮屈」、4人に1人が校則のために「学校に行きたくなくなる」と答えています。
教育の場は、個人の尊厳を大切にし、子どもが自由に意見を言える場であるべきです。子どもの権利条約に基づき、「学校の規律が児童(こども)の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用される」(28条2項)よう、見直す必要があります。
*5)「スタンダード」は、学校において「きまり」を指す言葉として使われている。「スタンダード」が定められているのは圧倒的に小学校が多い。
東京都西東京市向台小学校のHPには、登下校のしかた、げた箱、廊下の使い方、あいさつのしかた、廊下の歩き方、休み時間の過ごし方が「生活スタンダード」として記されている。
あいさつの仕方は「相手の目を見て自分から気持ちのよいあいさつをする」と指示している。
また、「学習スタンダード」としては授業の準備、姿勢、授業の始めと終わり、発言するとき、上手な話し方、上手な聞き方が指定される。発言するときは「黙って手を上げる。ひじと指をのばして手をあげる。名前を呼ばれるまで待つ。名前を呼ばれたら「はい」と返事をする」というように細く決められている。
*6)国立教育政策研究所生徒指導研究センターが文科省初等中等教育局児童生徒課とともにまとめた報告書「生徒指導体制の在り方についての調査研究」では、ゼロトレランス(直訳すれば「寛容ゼロ」)について次のように説明している。
各学校現場において「安全で規律ある学習環境」を構築するという明確な目的のもと、小さな問題行動に対して学校が指導基準にしたがって毅然とした態度で対応するという理念をさす。(『報告書』14頁。)
また、教育学者である世取山洋介氏は「学校における安全の維持を目的として、非違行為と罰の事前のルール化、罰の適用されるべき非違行為の軽微なものへの拡大、軽微な非違行為への停・退学のほか学校内隔離 (in-school suspension)などの重い罰の適用、および、ルールの例外なき適用を求める思想または政策」と定義している。(横湯園子ほか『「ゼロトレランス」で学校はどうなる』花伝社、2017年、16頁。)
4.府中町の取り組み
ここで府中町の取り組みについて伺いたいと思います。子どもの居場所や学びの場の整備ですが、文科省は教育支援センターの機能強化と校内教育支援センターの設置促進を掲げています。
校内教育支援センター――スペシャルサポートルーム、略してSSRというそうですが、登校はできるけれども教室に入ることができない児童生徒が利用できる部屋のことです。SSRでは学校の教員や専門の支援員が、児童生徒に対して教育相談や学習支援などを行います。「COCOLOプラン」では、「落ち着いた空間の中で自分に合ったペースで学習・生活できる環境」と紹介されています。
また、町の教育支援センターは「たんぽぽの部屋」と呼ばれていますが、「学校に行きたくても行けない子どもたちの教室」としてくすのきプラザ1階に設置されています。1994年から運営されているということですので30年の歴史があります。
教育支援センターが「学習」に限定されず、子どもに必要なことが保障され、どの子どもも安心して過ごせる居場所であることが大切だと思います。
そこで伺います。
③町の教育支援センター(たんぽぽの部屋)および各学校の教育支援センターの活動内容を教えて下さい。
■教育部長
くすのきプラザ内に町の教育支援センター「たんぽぽの部屋」を設置するとともに、学校に校内教育支援センターを設けるなど、学校内外に不登校の児童生徒が安心して過ごせる居場所を確保するなどの取り組みを行っています。
具体的には、「たんぽぽの部屋」は、学校に行きたくても行けない子どもたちのための教室として、土日や祝日等を除く9時30分から16時30分の間で開設しています。「たんぽぽの部屋」では、青少年教育相談員が、児童生徒の実態に合わせて、教育相談の他、自分の決めた時間で自分の決めた学習や読書など、活動の支援を行っています。
2024年度は、27名の児童生徒が登録しました。
また、校内教育支援センターは、自分のクラスに入りづらい児童生徒が落ち着いた環境の中で、自分に合ったペースで学習・生活できるように、校内体制の中で運営しています。学校の状況に応じて教員等を配置し、児童生徒の思いに寄り添って、登校時間や学習活動を工夫したり、友達との交流の場を設定したりしています。
さらに、どちらの教育支援センターにおいても、不登校児童生徒の希望に応じて、一人一台端末を活用して教室での授業にオンラインで参加したり、AIドリルアプリ等で個別の教育的ニーズに対応した学習支援ができる体制も整えています。
二見議員 不登校のことだけを扱っているわけではありませんが、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)、青少年教育相談員も重要な役割を果たしていると思います。
スクールカウンセラーは、臨床心理について高度に専門的な知識・経験を有し、教員と異なる立場から、児童生徒へのカウンセリングや教職員・保護者に助言・援助するという専門職です*7)。
スクールソーシャルワーカーは、社会福祉の専門家として、不登校、いじめ、児童虐待など、児童生徒が抱える複雑な問題に対し、環境への働きかけ、関係機関との連携、学校内でのチーム支援などを通して問題解決を支援する専門職です*8)。
当町には「青少年教育相談員」も配置されています。2022年の益田議員の一般質問に対する答弁で、本町の教育相談体制としては、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとともに青少年教育相談員が紹介されています*9)。
文科省のホームページには「子どもと親の相談員」というのはありましたが「青少年教育相談員」はありませんでした。
*7)文科省HP「教育相談体制の充実について」
*8)文科省HP「スクールソーシャルワーカー活用事業」
*9)「本町の教育相談体制としては、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを各中学校区に配置するほか、青少年教育相談員が巡回訪問を行っております。特に、スクールカウンセラーや青少年教育相談員による教室巡回を行うことにより、人の気持ちを理解するのが苦手であるとか、予定の変更に弱い、あるいはじっとしていられない、読み書きなど特定の分野の学習だけが極端に困難など、特性を抱えた児童生徒の困り感の早期発見・対応、予防的な指導に取り組むことができ、不登校、問題行動などの未然防止につながっていると考えております。」府中町議会第5回定例会。益田芳子議員の一般質問「町議不登校児童生徒の学びの場を拡充へ」に対する答弁。2022年12月9日。
そこで伺います。
④不登校対策にも大きな役割を果たしている、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、青少年教育相談員の現状を教えて下さい。
■教育部長
スクールカウンセラーは、各中学校区に2人ずつ配置しています。中学校には週4回程度、小学校には月3回程度巡回しています。
心理の専門家として、児童生徒へのカウンセリングやアセスメントをはじめ、保護者への相談対応や支援、教職員への研修等を行っています。
スクールソーシャルワーカーは、各中学校区に1人ずつ配置し、各学校週1回程度巡回しています。
福祉の専門家として、児童生徒や保護者の抱える問題に応じて家庭訪問をはじめ、関係機関との連携・調整等を行っています。
青少年教育相談員は、3人を配置しています。「たんぽぽの部屋」の運営及び学校との連携をはじめ、児童生徒、保護者、教職員に対する教育相談や各学校に週1回程度巡回しています。
いずれも、不登校の児童生徒の実態をもとに、学校全体で支援方法について共通認識をもち、教職員、専門家等がそれぞれの専門性を生かして保護者とも連携しながら実態に応じた支援を行っています。
今後も、各学校が進める「誰もが安心して学べる魅力ある学校づくり」を支援するとともに、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーや青少年教育相談員といった専門家の配置、教職員の教育相談や生徒指導にかかる資質向上のための研修会の開催などを通じて、さらなる教育相談体制の充実に努めてまいります。
《2回目》
「なぜ行けなくなったのか」という原因のみの追究や「どうしたら行けるか」という方法のみにこだわることはせず、一人ひとりに応じた具体的な支援が大切で学校に登校するという結果のみを目標にしないという答弁だったと思います。私の思いと一緒で安心しました。
ぜひ、それぞれの学校や先生方が、この方向で不登校の児童生徒に接することができるように教育委員会がさらに頑張っていただきたいと思います。
5.不登校と「心の傷」
■不登校は、心が傷つき休息が必要な状態
1回目の質問で、文科省の不登校対策は「学び」への復帰支援に偏っているのではないかと指摘しました。
学校以外の場なら「学べる」し「学びたい」と思う不登校の子どもたちもいます。しかし、頑張っても家から外に出られないし、勉強どころではない子どもたちもいます。子どもたちは苦しんでいる。
私たち大人は、このことを一番に考えなくてはならないと思います。
不登校について、神戸大学名誉教授の広木克也氏が次のように述べています。
不登校とは、学校や家庭あるいは社会の有害要因(ストレッサー)に晒されてできる「心の傷」*10)による苦痛の表れであり、その苦痛に耐えかねて「心の傷」を癒すために、今日の社会においては最後の拠り所である家庭に助けを求めている状態だということです*11)。
広木氏がいうように、不登校の子どもの多くは、さまざまな理由で心が折れ、傷ついた状態にあります。子どもは学校や社会のなかで違和感を抱え、傷つき、がまんにがまんを重ねたすえに、登校できなくなるのです。登校を試みると腹痛や頭痛、顔から表情がなくなるなどの症状が出ることもあり、それは心の傷の深さを表しています。
不登校を怠けや弱さと捉えたり、親の甘やかしのせいだと言うのは誤りです。学校に行けなくなった子どもたちは、登下校の子どもの声を聞くと隠れたり、家族から隠れるために自室にこもったり、心身ともに休まることがありません。
「学校に行けない自分は生きる価値がない」と自分を責め、深刻な場合には医療支援を必要とすることもあります。最悪の場合には自殺・自死につながる。不登校は子どもの「いのち」の問題です。
*10)「心の傷」について精神科医の案克昌(あんかつまさ)氏は次のように述べている。
「〈心の傷)とはなんだろうか。外からの力で身体が傷つくのと同じように、心もまた傷つくのである。身体の傷は物理的な力によって生じるが、心の傷は心理社会的な力によって生じる。この心を傷つけるものを「心理社会的ストレッサー」という。……私たちの住む世界は、心を傷つけるものに満ち満ちているのである」『心の傷を癒やすということ』角川ソフィア文庫、193頁。
*11)広木克行『不登校の「心の傷」が癒えるとは』清風堂書店、2025年、18頁。
■不登校と自殺
今回の質問を準備するにあたって精神科医の松本俊彦氏の講演録*12)を読んだのですが、大変ショックでした。
10代や20代で亡くなられた方の多くが不登校を経験し、しかもそのうちの75%が学校復帰をしているというのです。一時的に不登校になったものの、わりと速やかに学校復帰していた。心の傷が癒えないまま復帰するとその後に影響を与えるということだと思います。
松本氏は、「不登校の子どもたちを無理に学校へ行かせよう・戻そうとすると、薬物依存症になる、自殺するということを言いたいわけではありません」と断ったうえ、「私がお伝えしたいことは……『不登校はときに必要である』ということです。不登校の子どもたちへの支援というと、大人はつい「学校へ戻ることがゴールである」と考えてしまいがちですが、それはあやまりです。子どもの立場に立って考えるならば、不登校は子どもたちが生き延びるための戦略である。そのように捉えることが重要だ」と指摘しています。
不登校とともに小中高生の自殺も増えています。昨年(2024年)、全国の児童生徒の自殺者の数は529人と、過去最多となりました。大人を含む全国の自殺者は2003年がピークで3万4千人。昨年は2万人でピーク時の6割にまで減っています。しかし、児童生徒は2003年の300人から76%も増えている。異常事態です。
自殺にもさまざまな原因があると思いますが、やはり学校に行きたくないということが関係していると思います。
今では広く知られるようになり、今年もさまざまなニュースで取り上げられましたが、18歳以下の児童生徒がどの日に自殺するのか。内閣府の調査ではもっとも多いのが9月1日です*13)。
9月1日は多くの学校で夏休み明けの登校日です。厚労省の2024年版『自殺対策白書』では、登校日との関連性を次のように指摘しています。
地域別にみると、「北海道・東北」の自殺者数が特に増加する時期は、「その他地域」よりも2週間ほど早い。北海道・東北地方については、夏休み明けが1~2週間早い傾向にあることと関連があると考えられる。
死を択ぶほど学校に行きたくない。また、死を考えながらも思いとどまった児童生徒も多いのではないでしょうか。
*12)「不登校は、ときに必要です。精神科医が語る子どもの今」『不登校新聞』572号(2022年2月15日)。
*13)内閣府『2015年版自殺対策白書』
■子どもが安心できる居場所を
心が折れた状態の子どもが、家など安心できる環境でゆっくり過ごすことは大切です。子どもには休息の権利があります*14)。その中で子どもは「ありのままの自分で大丈夫」と自己肯定感をはぐくみ、やがて自発的に動きだします。具体的にどうするかを子ども自身が決めることも、子どもの権利です。
「9月1日に自殺する児童生徒が多い」ことが報じられた2015年の8月26日、鎌倉市図書館がツイッターで次の投稿をし、大きな反響がありました。
もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。
この投稿に対して、図書館に次のようなメールが来たそうです*15)。
図書館という静かな空間は、ただぼんやり静かに座っているだけでも傷ついている人にはこれほど癒される場所はない。具体的に子どもたちを助けたりすることができなくても、風雨や暑さ、寒さから守られて、一日中そこにいても誰からも責められずに、ここにいてもいいんだよと、見守ってもらえる場所だったとしたら、大人にとっても、子供にとっても大きな救いです。
図書館は子どもの心の傷を癒やすのに最適な場所なのだと思います。
当町には図書館以外にも2つの公民館、2つの児童センターがあり、「一日中そこにいても誰からも責められずに、ここにいてもいいんだよと、見守ってもらえる場所」になりうると思うのです。
「学校に行かれない」児童生徒を温かく迎え入れ、包み込む教育行政、福祉行政が進むことを期待して私の質問を終わります。
*14)子どもの権利条約 第31条 締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。
*15)「『自殺を考えるほど悩んだら、学校休んでいらっしゃい』ツイートした鎌倉市図書館が、今伝えたいこと」『HUFFPOST』2017年06月01日。
《参考文献》
日本共産党「不登校についての提言」2025年5月23日
藤森毅「『不登校についての提言』――日本共産党の探究」『前衛』2025年9月号
福嶋尚子「不登校を生み、不登校の子どもと親を追い詰める〈貧困〉な教育政策」『臨床教育学研究』第7巻(2019年3月)
同「不登校・登校拒否とともに生きる」『議会と自治体』2025年4月号
広木克行「不登校の解決は子どもの『心の傷』を直視してこそ」『議会と自治体』2025年5月号
同『不登校の「心の傷」が癒えるとは」清風堂書店、2025年
竹内常一『いまなぜ教育基本法か』桜井書店、2006年
横湯園子ほか『「ゼロトレランス」で学校はどうなる』花伝社、2017年
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