2021年度予算 困難ななか全体としてよく頑張っていると評価し賛成
第5号議案「令和3(2021)年度府中町一般会計予算」に賛成の立場から討論をおこないます。
■町債増加の責任は国にある
まず歳入ですが、町税は、新型コロナの影響による減収を見込み、3.0%減の71億7,200万円を計上しています。
財源不足額は本来、地方交付税によって補填されるものですが、国は臨時財政対策債を自治体に発行させて対応しています。したがって、今回の予算において交付税は増えるどころかほぼ半分(12億3,425万円から6億3,328万へ)に減りました。町債は22億円から45億円へとほぼ倍増しましたが、その4割が臨時財政対策債であり、町債が増えた責任は町ではなく国にあるわけです。
臨時財政対策債以外にも減収補填債や財政調整基金からの繰り入れをし、前年度比9%増の予算が確保できたことはよかったですし、大変なご苦労があったことと思います。
■子育てに対する支援がより手厚く
つぎに歳出ですが、6点ほど指摘したいと思います。
まず第1に、ネウボラセンター事業、子ども家庭総合支援拠点事業、子どもの予防的支援構築事業の3事業です。
妊娠期から子育て期にわたる子育て家庭への切れ目ない支援を目的としたネウボラセンター事業は、2020年度予算より1,167万円減の1,538万円となっています。その理由は、母子保健カルテのデジタル化に伴うシステム改修にかかわる費用が新年度はないこと、新型コロナによって対面での事業ができず、それにかかわる人件費が減ったことによるものだと伺っております。
新たに子ども家庭総合支援拠点事業(307万円)が始まります。
「子どもとその家庭及び妊産婦等を対象に、実情の把握、子ども等に関する相談全般から通所・在宅支援を中心としたより専門的な相談対応や必要な調査、訪問等による継続的なソーシャルワーク業務までを行う機能を担う拠点」であり、①すべての子どもと家庭の支援全般にかかる業務と、②虐待を受けているなど、要支援児童・要保護児童や、経済的な問題を抱えていたり望まない妊娠をしている「特定妊婦」への支援業務、③関係機関との連絡調整、などを業務内容としています*1。
この拠点事業と密接に関わるのが、すでに始まっております子どもの予防的支援構築事業です。子どもの育ちに関係するさまざまな情報をもとにAIを活用してリスクを予測しようとする県のモデル事業です。
2019年度から2021年度までの3年間で約9200万円が投入され、2024年度までシステム構築が続き、2025年度から運用予定だそうです。AIによる診断を鵜呑みにするのではなく、訪問や支援から得られる情報を突き合わせて検証し、予防的支援に役立てていくとのことです。
この3つの事業の連携によって、子育てに対する支援がより手厚くなるに違いありません。
2020年度予算についての討論で私は「AIより人。職員の増員を」と主張しましたが、今回、拠点事業や母子保健一般事務事業において保健師の増員が図られています(乳幼児支援・保健師5人、子育て支援・保健師2人、生活支援ケースワーカー6人、障害者支援・保健師2人)。
予防的支援にかかわる15人のチームの訪問・支援の成果とAIによる分析を結び合わせて、困難を抱えながら生きている子どもと家庭を見守り、支援して、一人でも多くの子どもがそこから抜け出せるようになることを期待します。
*1)厚労省「『市区町村子ども家庭総合支援拠点』設置運営要綱」2017年3月31日
(厚労省子ども家庭局資料)
■「生命は予算に優先する」――生活保護
第2に、生活保護給付についてです。
生活保護給付費は、2020度とほぼ同額の8億4047万円です。新型コロナの影響で失業や収入減となり、申請者が増えることが予想されますが、「前年度と同額の予算で対応できるのか」と伺いましたところ、「不足となれば補正を組んででも対応する。生命は予算に優先する」という心強い返事を福祉課長からいただきました。
近年、全国では保護申請に対する冷たい対応が問題になっています。そういうなかで、つい先日40代男性が当町で「行き倒れ」になりましたが、たまたま残業していた職員が駆け付け「急迫保護」*2し、入院手続きをとったといいいます。この話を聞いて大変嬉しく、誇らしい気持ちになりました。
*2)申請によることなく職権によって保護すること。
■正規職への就労を援助する給付金
第3に、母子家庭等自立支援給付金です。
「母子家庭等自立支援給付金」は、「等」の字が示すように母子家庭とともに父子家庭の親の就業を支援する事業です。児童扶養手当の支給を受けている、または同様の所得水準の人が対象です。
医療事務やパソコン資格などの受講費用の一部を負担する自立支援教育訓練給付金、専門的な資格(看護師、介護福祉士、保育士、理学療法士、作業療法士など)取得のため養成機関に通う場合、給付金を支給する高等職業訓練促進給付金の2つがあります。特に後者は希望が多く、町内で現在5人の方がこの給付金制度を利用しています(もっとも多かったときは10人)。
ひとり親世帯の9割が母子家庭で、ひとり親世帯の相対的貧困(世帯年収約127万円未満)率は48%です*3。。2世帯に1世帯以上が、貧困に苦しんでおり、その多くが非正規で働いています。問題の根本的な解決のためには非正規雇用を制限し正社員化・正職員化をすすめることが必要ですが、現時点では、自立支援給付金を活用して正規職での就労をめざすことも有効な手立ての一つだと考えます。
*3)厚労省「2019 年 国民生活基礎調査」
「広報ふちゅう」2017年8月号で「ひとり親家庭等のための制度」をまとめて紹介したことがありましたが、府中町子育て応援サイト「イクフレ」などでも「ひとり親家庭等のための制度」をまとめて掲載し、制度を必要とする人に届くようにしていただきたいと思います。
(「広報ふちゅう」2017年8月)
■災害に強く豊かな森へ
第4に、府中の森づくり事業ですが、2020度の705万円から1453万円へと倍増、2019年度(280万円)の5倍となりました。
これまでも「治水は治山にあり」「森林整備にもっと力を入れるべき」と申してきましたので大変嬉しく思います。予算の半分が森づくり基金からのものであり、基金が枯渇して予算が削減されることはないのかと環境課長に伺いましたところ「その心配はない」と明言されました。
2024年度から、個人住民税均等割に上乗せされるかたちで森林環境税が一人年額1,000円課税され、令和元年から先行的に始まった分を含め森林環境譲与税の財源となります。林野庁の計画では、市町村への配分は2022年に現在の1.5倍、2025年に2.1倍、2029年には2.8倍になる予定です。予算を有効に使って森林整備を進めていただきたいと思います。
(林野庁「森林経営管理制度と森林環境税・森林環境贈与税について」令和元年10月)
森林整備にあたって、府中町は「針広混交林」――針葉樹と広葉樹が混生する森林――をめざすという答弁もありました。これも大賛成です。混交林は次のようなメリットがあると言われています*4。
①昆虫や鳥、動物も増え豊かな森になる。
②土砂流出防止機能が人工林よりも高く災害に強くなる
③同じ樹種が近接していないため病虫害も拡散しにくい。
④四季を通じて変化のある広葉樹と、あまり変化のない針葉樹の組 み合わせによって落ち着いた、美しい景観になる。
当町における森林はすでにコナラなど広葉樹も多く、混交林化が進んでいます(人工林の66%が広葉樹、20%がマツ、15%がヒノキ)。 森林整備が進むことによって、町民にとって、今まで以上に安らぎの場となり、環境教育にも適した森林へと変わってゆくことでしょう。
今回、森林調査委託料(294万円)が計上されています。森林整備を進めていくにあたって、所有者不明や境界未確定の森林の存在が障害になっています。数代にわたり相続登記がされず、相続人が多数となり、その所在の探索が困難となっている土地が増え、全国では、林地の3割が所有者不明になっています。
町内の私有林は約200ヘクタールで森林面積の46%を占めます。狭い町域とはいえ所有者の特定には困難が予想されますが、私有林を整備する前提のなるものですので、しっかり進めていただきたいと思います。
*4)秋田県「スギと広葉樹が共存する豊かな森林をめざして」
■放課後児童クラブ指導員の処遇改善
第5に、放課後児童クラブ(留守家庭児童会)事業ですが、会計年度任用職員である指導員の処遇を改善するものであり、もちろん賛成です。週の勤務時間を2時間30分減らし、休日も4週4休から4週8休に、報酬はわずかではありますが、月額2,312円引き上げ、年収で37,808円の増です。この労働条件を確保し、児童クラブの開設時間延長に対応するために指導員を中央小学校は2人、その他の小学校は1人増員し、全体で26人から32人へと体制を強化しました。このことも大いに評価したいと思います。
しかし、残念ながら放課後児童クラブ指導員以外の会計年度任用職員の処遇改善は見送られました。「地方公務員法及び地方自治法の一部改正法」は、非常勤職員を法的に位置づけるとともに、職務給の原則に基づき、常勤職員との均等待遇を求めています。ボーナス支給に当たって引き下げた月給を元へ戻すことを改めて求めたいと思います。
■「神話」という前提を崩さないように
第6に、神武東遷の日本遺産への登録申請についてです。
神武天皇が宮崎市から奈良県橿原市へと東遷したとされる「神武東遷」に関連する物語を府中町を含む24市町村が文化庁の日本遺産に2度目の申請したとのことですが、町長は「神話であることを前提として」ということを当初から仰っていました。これはとても大切なことです。
『日本書紀』によりますと神武天皇は紀元前660年に即位したことになります。紀元前660年といえば縄文時代、あるいは弥生時代です。歴史上に天皇が現れるのは7世紀で、諸説あるようですが実在がほぼ確実とみられるのは「10代目」崇神天皇以降というのが歴史学の常識であります。「神武東征」もまた歴史学や考古学による長年の検証により史実ではないとされています。
ところが、関係自治体の動きをみますと、神武東遷が史実、実際にあったことだという見解になっている。
奈良県宇陀市は、日本遺産認定に向けた記念講演会で皇學館大学の岡田登名誉教授を講師に招いています(2019年2月21日)。この日の講演の内容は分かりませんが、2017年に橿原神宮で講演し、「神武天皇は2000年前に実在した」と論じたと産経新聞が伝えています(2017年10月2日付)。
奈良県橿原市は2019年2月16日に東京で「飛鳥橿原シンポジウム」を開き、作家の百田尚樹氏が講演しました。百田氏もまた、神武天皇が実在し神武東征は真実であったと著書『日本国紀』(幻冬舎)で述べています。
戸敷正(とじきただし)宮崎市長は2019年の年頭のあいさつで「本年は初代神武天皇が即位された年を紀元とする、皇紀2679年」と断定し、神武天皇は「成長した後に故郷を出立し、数々の困難を乗り越え、現在の奈良県橿原市にたどり着いて天皇に即位するのです」と、神武東征が事実であるかのような記述をしています。
こういうことをみますと、神話を史実に置き換えようとしているのではないか、歴史の偽造が進められていると疑わざるをえません*5。「神武東遷」が日本遺産として登録されるかどうか分かりませんが、いずれにしても「神話である」という前提を崩さないようにしていただきたい。
(橿原市、橿原市観光協会主催・飛鳥橿原シンポジウム「神武~はるかなる旅路~」チラシ
*5)日向から奈良に至る「神武東征」は、歴史学や考古学による長年の検証により、現在は史実ではないとみられています。また、昨年、世界文化遺産となった百舌鳥・古市古墳群は、学術的には被葬者が特定されていないのに「仁徳天皇陵古墳」という名前で文化庁による「日本遺産」に登録されました。国や自治体による「文化財活用」の声のもと、神話や伝承で地域の文化や経済を盛り上げようとする動きに、行き過ぎを心配する声が研究者らからあがっています。(「日経新聞」2020年10月4日)
最後になりますが、子どもの医療費助成の拡充や町営住宅の新規建設など、これまで何度も町に対して実現を求めてきました。2021年度予算に対してもその思いは変わりません。しかし、限られた財政であり、コロナ禍による税収不足があるなかで、全体としてよく頑張っているというのが私の評価です。
また、一般会計ではありませんが、国保税ならびに介護保険料の引き上げをしなかったことも2021年度予算で特筆すべきことだと思います。
以上をもって賛成討論といたします。
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