「国土強靱化」路線で府中町は「強靱」な町となるのか? 2021年3月議会一般質問
3.立ちはだかるハードル
国土強靱化、災害に強い町づくりをしていくうえで公共施設を適切に維持・保全することが欠かせません。しかし、それには3つのハードルのいずれかを越えないといけません。
(1)長寿命化計画
まず、長寿命化計画からみていきたいと思います。「インフラ長寿命化基本計画」は2013(平成25)年に策定されました。「インフラの戦略的な維持・管理等を推進」することが目的です*1。
「Ⅲ 基本的な考え方」(2)③に「社会構造の変化や新たなニーズへの対応」という項目があり、そこには、その施設が本当に必要かどうかを再検討し、必要性が認められない場合は、廃止・撤去すると書かれています。まず、施設の削減ありきなのです。必要だと判断した場合には、機能転換や用途変更、複合化・集約化をしなさいという。基本計画においても「真に必要な各インフラにおける点検・診断・修繕・更新、情報の整備に係るメンテナンスサイクルを構築」(38頁)とあり、既存の施設を全てそのまま更新できると思うな、篩にかけるぞ、ということです。計画の名称が示すとおり、インフラの老朽化対策の柱は「長寿命化」であり、施設の延命です*2。
しかし、全ての施設がリフォームやリノベーションといった修繕=長寿命化で対応できるわけではありません。鉄筋コンクリート造であれば、基礎、コンクリート・鉄筋部分という躯体に問題があれば建替が必要です。
地球温暖化への対応として年間のエネルギー消費を実質上ゼロとする、ゼロエネルギー化も求められています*3。「熱性の向上や窓のやひさし等の工夫による自然光・通風の利用など建物の構造による省エネ化、空調・照明等の設備機器の高効率化、太陽光発電等の創エネ技術の適用」*4といったことをしなければなりません。
ICT化への対応も当然必要です。GIGAスクール構想によって全児童生徒がタブレット端末を使用することになりました。教室に「タブレット・PC充電保管庫」を置き、電子黒板を設置する。その分、教室は狭くなります。
このような点をよく検討し、施設の「長寿命化」が本当にトータルコストの縮減になるのか慎重に見極めたいところです。
*1「はじめに」で、「戦後、短期間で集中的にインフラ整備を進める必要があった」が「経年劣化や疲労等に伴う損傷はその進行速度が遅く、問題が顕在化するまでに長期間を要する」ので、必要な措置を講じてこなかったと言い訳し、「一刻も早く取組を開始する必要がある」と述べている。施設は毎年着実に老朽化し、修繕や建替について検討し、財政的な見通しをもつのは当然のことだが、国はこの問題を放置し続け、ここへきて「早くやれ」と言い出したわけである。
*2、「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」(平成 25 年 6月 14 日閣議決定)においては「インフラの老朽化が急速に進展する中、『新しく造ること』から『賢く使うこと』への重点化が課題である」としている。
*3 2016年5月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、業務部門において、CO2排出量を2030年度に2013年度比40%削減する目標が設定されており、その具体的な方策の1つとして「建築物については、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することを目指す」ことが掲げられた。その後、2018年7月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、「2020年までに国を含めた新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することを目指す」と修正されている。環境省HP「ZEB PORTAL」。
*4文部科学省「学校ゼロエネルギー化推進方策検討委員会の設置について」
(2)PPP/PFIによる民間資金の積極的な活用
つぎに民間資金の積極的な活用です。1999(平成11)年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(略称「PFI法」が制定されました。PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行い、国や地方公共団体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供をめざす、とされています*1。
2019(令和1)年度に実施方針を公表したPFI事業数は 77 件で、PFI法の制定された1999年から右肩上がりで増え、累計は818件になりました*2。社会教育施設、文化施設、道路、公園、下水道施設、港湾施設、医療施設、廃棄物処理施設、斎場、役場など事務庁舎、公務員宿舎 、警察施設、消防施設など、ほとんどの公的施設が対象となっています*3。PPP/PFI方式は、①初期投資が少なくてすみ、②財政支出が平準化され、③事業コストが削減されるということが自治体にとってもメリットだとされています。その結果、安くて良い公共サービスが提供につながるのだといいます。
PFI事業にとってVFM(Value for Money)=財政負担軽減効果は最も重要な概念の一つだとされています。VFMとは、従来の方式と比べてPFIの方が総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合です。しかし、PPP/PFI方式を採用すると、なぜ事業費コストが削減できるのか、その理由は定かではありません。PPP/PFI導入による事業手続きにあたって、VFMの検証をすることになっていますが、実際にはどうなっているのか。2019年に内閣府民間資金等活用事業推進室が「PPP/PFI導入に関する簡易検討マニュアル(案)」を作成しました。
2019年には、内閣府民間資金等活用事業推進室が「PPP/PFI導入に関する簡易検討マニュアル(案)」を作成しました。財政負担軽減効果について効果のあるなしをどのように判定するのか、その方法を2つあげています。一つは民間事業者への意向調査であり、もう一つは類似事例を参照することです。事業者に意向を聞くわけですから「PFIの方が安くなります」という答えが当然返ってきますし、もう一つの「類似事例の参照は、過去の事例の予測数値であって、実際にそうであったという検証数値ではない。いずれも財政負担軽減の検証の名に値しないものです*4。
PFI法から20年が経ちましたが、さまざまな問題が起きています。
福岡市の「タラソ福岡」は、2002年にPFI方式でできた健康増進施設*5で、開業から2年後の2004年11月に営業停止。施設収入も開業前の見込みを大幅に下回り、債務超過に陥りました。その後、。運営会社が変わりましたが、会員数が伸びず、維持修繕費もかさみ、2017年3月をもって撤退しました*6。
2005年、宮城沖地震の際、PFI方式で造られた仙台市「スポパーク松森」の屋内プールの天井が剥がれ落ち、重傷者が出ました。公務員が仕様まで管理した施設では、こういった被害はありませんでした*7。
ほかにも、名古屋港イタリア村、破産。高知病院、赤字・汚職のうえ契約解除。滋賀県近江八幡市立総合医療センター、PFI解除し直営に戻す。こういった事例があとをたたないわけです。
滋賀県野洲(やす)市では、PFI方式で増改築をした野洲小学校・野洲幼稚園の維持管理を契約解除。年間の維持管理費が野洲小だけで3650万円かかり、他の小学校の平均325万円の10倍でした。市長は「PFI方式そのものは国が推進した施策で、否定するものではない。ただ、抱き合わせで巨額の維持管理契約が結ばれたのは問題だった。この方式は営利目的でない学校には不向きだ」と話した、と新聞は伝えています*8。
まさに死屍累々です。民間資金は金利収入をあげるために融資されるのであり、経営上のノウハウや技術能力は企業の利潤のために活用されるのです。金融機関・企業にとってよりよい契約は金利が高く利潤がより多く得られる契約であり、企業努力は自治体にとっての「事業コストの削減」に結びつかないと考える方が自然だと思います。
*1 このPFIを含め、公共機関と民間企業が連携して公共サービスの提供を行う枠組みをPPP(Public Private Partnership:公民連携)と呼び、民間資本や民間のノウハウを活用し、効率化や公共サービスの向上をめざす、とされている。
*2政府は、2013年から2022年の10年間で21兆円の事業規模目標を掲げている(「PPP/PFI推進アクションプラン」)
*3施設以外でも「空調整備・更新」といったサービス購入もPFIの対象とされている。
*4このマニュアルは親切にも「検討結果とりまとめ様式記入例」まで付いている。「記入例」冒頭の「背景・目的」には「本資料は、○○学校における空調設備の整備・更新及び維持管理にあたり、財政負担の縮減や早期の整備を図るため、民間事業者の創意やノウハウ、資金を活用する PPP/PFI方式等の民間活力の活用手法について、導入可能性を検討したものです」と書かれており、PPP/PFI方式が、「財政負担の縮減や早期の整備を図」り、「民間事業者の創意やノウハウ、資金」が活用できるという「結論ありき」なのが分かる。
*5ごみ焼却施設の余熱の利用して、プールやスポーツジムなどを運営。
*6 2018年4月から「株式会社ダンロップスポーツウェルネス」が新たな運営会社になった。
*7尾林芳匡・入谷貴夫編著『PFI神話の崩壊』自治体研究社、2009年、183頁
*8 2011年1月21日付「朝日」
(3)立地適正化計画
第三に立地適正化計画です。2014年に「都市再生特別措置法」が改正され、第81条で「住宅及び都市機能増進施設*1。の立地の適正化を図るための計画を作成することができる」としました。立地適正化計画とは、居住誘導区域と都市機能誘導区域を設定することによって都市機能、行政サービスを集約し、コンパクトな街づくり、コンパクトシティをつくろうというものです。
この特別措置法は昨年(2020年)にも改正されました。
都市計画区域全域で、災害レッドゾーン内には住宅等(自己居住用を除く)に加え、自己の業務用施設(店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場等)の開発も原則禁止となりました。災害レッドゾーンとは、崖崩れ、出水など災害危険区域、土砂災害特別警戒区域、地滑り防止区域、急傾斜値崩壊危険区域です。浸水ハザードエリアも住宅等の開発許可が厳格化されました。
立地適正化計画によって災害ハザードエリアからの移転が促進されることになります。土砂災害警戒区域、浸水想定区域といった災害イエローゾーンについても、「総合的に判断し、適切でないと判断される場合は、原則として居住誘導区域に含まないこととすべき」*2だと国土交通省は言っています。要するに、災害が起きそうな地域は強靱化するのではなく、捨てろということです。
居住誘導区域や都市機能誘導区域にある老朽化した都市インフラについて、「計画的な改修、更新を進め、生活の安全性や利便性の維持・向上を図ることが必要」としていますが、これらの区域外の公共施設については、補助・交付金事業が適用されませんので、施設を廃止するか、誘導区域内へ移転するか、補助・交付金なしで施設を維持するか、3つのうちいずれかを選択ことが迫られます。
そこで質問です。
①国土強靱化計画と密接にかかわる「長寿命化計画」、「民間資金の積極的な活用」、「立地適正化計画」は、以上申しましたようにさまざまな問題があります。町として、どのようにお考えでしょうか。
■総務企画部長
「長寿命化計画」と「立地適正化計画」は、国が地方へ計画策定を働きかけているもので、計画策定の有無が、国庫補助配分に影響を与える状況となっています。
そのような背景から、当町では「長寿命化計画」について、道路や橋りょう、町営住宅、都市公園等といった、各インフラ・施設分野別で、既に策定を行っているか、また、今後の策定を予定しているところです。
また、「立地適正化計画」については、令和4年度から令和5年度にかけて策定するよう、「後期実施計画」に計上しています。
「民間資金の積極的な活用」については、いわゆるPPPやPFIといった公費投入の縮減効果が期待できる、施設整備・運営手法の活用のことを指すものであると理解しています。
当町での導入実績はありませんが、府中公民館等複合施設の計画段階、また、揚倉山健康運動公園上段多目的広場の人工芝整備計画段階において、それぞれ民間活力の導入について検討を行った経緯はございます。
民間事業者から広く意見・提案を求める、いわゆる「サウンディング型市場調査」などを実施し、民間活力の可能性を探りましたが、いずれも導入の実現には至りませんでした。
これら、「長寿命化計画」、「立地適正化計画」に基づく取り組みや、「民間資金の積極的な活用」は、老朽化した施設の再整備に密接に関わるものであることから、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」で定める基本方針の一つ、「公共施設の老朽化への対応」に結び付くものと考えており、当町の個別の状況を踏まえる必要はあるものの、進めるべきところは進めていくよう考えています。
*1)医療施設、福祉施設、商業施設その他の都市の居住者の共同の福祉又は利便のため必要な施設であって、都市機能の増進に著しく寄与するものをいう
*2)国土交通省都市局都市計画課「『安全なまちづくり』・『魅力的なまちづくり』の推進のための都市再生特別措置法等の改正について」
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