2024年度決算についての意見表明
以下の原稿は、府中町議会の公式記録ではありません。また、年号については、一部元号を併用しています。
2025/09/17
二見 伸吾
第48号議案「令和6(2024)年度府中町歳入歳出決算の認定について」に賛成の立場から討論いたします。
1.歳入
●住民に寄り添った徴税
まず、歳入の収納状況ですが、一般会計の町税収納率(現年課税分)は99.6%で、引き続き高い水準です。
全国的には不親切で乱暴な徴税をする自治体があるなか、当町は親切で住民の立場にたった徴税をしてきました。
私は、平成28(2016)年度の決算審査特別委員会で次のように述べました。
収納率を上げようとするばかりに行き過ぎた滞納処分、過酷な取り立てをしている自治体もあり、一家心中する悲劇も起きています。
そういうなかで、当町の徴税業務について税務課長から「当町は、家庭の状況をよく把握し、ていねいに対応している」と説明がありました。
生活保護などの相談を福祉課にしたり、多重ローンの方には法テラスに行くように助言。
生活に応じた対応を心がけ、疾病や離職等により、納付困難な方に対して経済基盤を確立できるよう、関係部署との連携を図っている。
差し押さえは明らかに所得や預貯金があり、納付可能にもかかわらず納付がない場合に限っている。
町民の暮らしを優先した対応をしていただいていることに敬意を表したいと思います。
2018年(第5回定例会)に債権管理課をつくることが提案されたときには、住民に寄り添った徴税が崩れるのではないかという危惧の念を表明しました。
その後、私の危惧は杞憂であるかのように思われ、税務課・債権管理課の住民の立場に立った徴税業務に対して、この「決算についての討論」で毎年度、高く評価してきました。
しかし、残念ながら債権管理課がつくられてから、先ほど紹介した関係部署や法テラスとの連携といった住民の立場に立った徴税活動が弱まっていった。
そして、今年4月に債権管理課は廃止され、もとに戻ったわけです。
正直、裏切られた思いです。しかし、「過ちを改めざる。これを過ちという」「過ちては改むるに憚ること勿れ」と言います。
軌道修正を図ったことは評価したい。今後、住民の立場に立った徴税に戻るものと信じています。
また、それを貫くためには税務と福祉制度の両方に精通した職員が必要であり、人員増が必要と思われます。
●法人税収増の後に来るもの
町税収入は約15億円増え、約92億円となりました。法人町民税が約3億円から約19億円に増えたことによるものです。
2016年度にも法人税収が18億6千万円でした。その間の法人町民税収入は6億円から3億円です。
税収が大幅に増えることは一般的には、いいことなのでしょうが、当町のように時々増えることは難しい問題をはらんでいます。
前回、大幅に増えた2016年度の翌年、2017年度はどうなったでしょうか。まず、地方交付税が約7億5千万円減りました。
その手当のために財政調整基金を約5億円取り崩したうえ、減収補填債約4億円を発行し、手当をしました。
また、取り崩す一方、今後のために2億6千万円積み、基金残高は15億円になったのです。
今年度(2025年度)も減収補填債約10億円を予算計上しています。また財政調整基金とは別に減債基金約8千6百万円も新たに積むことになりました。
このように、大幅な税収増のあった翌年は借金をして穴埋めしないといけない。
せっかくの税収増を町民のみなさんのために使うのが難しいという、他の自治体にはあまりない問題があります。
2.歳出の評価と要望
歳出ですが、令和6年度予算は全体として適正に執行され、大きな瑕疵(かし)はなかったと考えます。
その上で具体的な個々の事業について5点ほど指摘します。
▼教育委員会
①教育支援員をさらに増やして
第1に「学校運営改善推進事業」ならびに「教育支援員事業」についてです。
学校における諸問題の解決にとって一番よいのは、教員を抜本的に増やして、学校にゆとりを取り戻し、一人ひとりの児童生徒に目と手が届くようにすることです。
しかしながら、政令市をのぞく市町は教員を採用する権限がありません。
そういうなかで県費のみならず町独自でもスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを採用して不登校などの問題に対処してきました。
また、配慮を必要とする児童生徒の生活支援、学習支援をする教育支援員も町費で加配しており、この点も評価できます。
しかしながら配慮を必要とする児童生徒は年々増加しており、学校からの希望になかなか応えられない状況があると伺いました。
2024年度では学校からの希望は小学校37人、中学校14人に対して、実際に配置できたのは小学校28人、中学校9人でした。
財政的な問題だけでなく、募集をしてもなかなか集まらないということもあるようです。
国の地方財政措置も年々増やしていますが、それでも足りません*1)。そういうなかでも学校からの要望に応えられるよう引き続き頑張って欲しいと思います。
*1)地方財政措置人数。2022年度(小)45,700人(中)12,400人、23年度(小)47,600人(中)12,900人、24年度(小)49,900人(中)13,800人。
②最小限の整備下岡田官衙遺跡
第2に「下岡田官衙遺跡保存・整備事業」についてです。
『下岡田遺跡発掘調査報告書Ⅰ』が2020年にまとめられ、翌年下岡田官衙遺跡が、古代山陽道沿線における官衙の展開を知る上で重要な遺跡として国史跡に指定されました。
昨年(2024年)、『史跡下岡田官衙遺跡保存活用計画』も策定され、本格的な整備がこれから始まるところだと思います。
現在、遺跡の三分の一から半分近くは集合住宅の建設が進み、残りは草ぼうぼうで、遺跡の前を通るたびに大変残念で悲しい気持ちになります。
町が取得した土地は草刈りをし、「国史跡」として恥ずかしくない状況にしていただきたい。
小中学生を対象に「歴史」をテーマに講座を実施したことはよかったと思います。
しかしまだ、下岡田官衙遺跡の「本質的価値」について、あまりよく知られていないのではないかと思います。
「本質的価値」とは、安芸の駅家の可能性が高いこと、山陽道の交通史、山陽道沿線における官衙の役割を明らかにするうえで重要な意味をもつ、ということです。
この「本質的価値」についての理解を広げるために、小学校高学年向け、中学生向け、一般向けの小冊子やデジタル教材を作成することを検討していただきたいと思います。
雑草が生い茂る下岡田官衙遺跡
▼福祉保健部
③保護者の悩みに寄り添った支援を
第3に、「子どもの予防的支援構築事業」についてです。
今年度(2025年度)予算についての討論で、予防的支援構築事業からの早期の撤退を主張し、そのときに読売新聞の「10億円かけた虐待判定AI、こども家庭庁が導入見送り…ミス6割で『実用化困難』」という記事を紹介して「子どもの予防的支援構築事業」を批判しました。
子育て支援課長の答弁にもありましたが、国が見送ったのは、虐待が疑われる子どもを児童相談所が一時保護するかどうかの判断に役立てることが目的の「一時保護の判断に資するAIツール」(「AI児童虐待リスク判定システム」)による実証事業で、当町が進めてきたのは、「育ちに関係する様々なリスクを、表面化する前に把握して、予防的な支援を届けることにより、様々なリスクから子どもたちを守り、子どもたちが心身ともに健やかに育つことを目的」とするものであり、実施主体と目的が異なる2つを混同して批判したことは私の誤りでした。
お詫びして訂正します。
広島県は今年3月、予防的支援構築事業の成果をまとめました*2)。
それを読んで大切だと思ったのは次の3点です。
①「市町個別のAI モデルを活用することで予防的に支援が必要な児童を新たに発見できた一方、既にリスクが顕在化し、市町において何らかの支援やフォローがなされているにもかかわらず、AI モデルに基づくリスク値が低い児童も一定数確認された」
②「活用にあたっては、リスク予測値はあくまでも傾向値として示されるものと理解し、結果をうのみにせず、必ず人の目で最終的な判断をすることが必要となる」
③「市町によっては、システム上発見された児童の大多数が、ネウボラ等の市町独自の取組により既に発見、フォローされている場合もあり、潜在的なリスク家庭を発見する効果が市町ごとに異なることも示唆された」。
これは府中市、三次市、府中町、海田町の4市町全体のまとめであり、すべて府中町に当てはまるわけではないのかもしれません。
2024年3月のこども家庭庁の成果報告会*3)に、広島県と府中町が提出した資料「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」には、支援につないだ具体的事例が紹介されています。
・必要に応じて、保育園との連携ができるようにした。
・児童扶養手当の現況届出時、子ども家庭総合支援拠点職員が同席し、療育センターや医療機関への定期受診があることや、就学に向け、特別支援は必要か母が悩んでいることを確認した。
・10月実施の就学前教育相談を案内し、1月に拠点から母に電話をしたところ、母は体調崩し入院などあり、教育相談を受けておらず、手帳所持も進学先に伝えていない状況であった。
・母の了承を得て、教育相談の日程調整を行い、拠点職員も同席し、児童とも対面した。また児童の集団生活の様子を保育園に状況確認した。
・普通学級で健全な育成は図れることが確認でき、教育相談員と入学前の繋がりができた。また、同席した祖母からは「学校と福祉がつながっているんですね(安心感)」との話があった。
「このシステムで当町は、支援が必要と思われる 65 人を見つけ 32 人に個別アプローチを行っており、保護者の悩みに寄り添い福祉サービスの利用や教育相談につなげたりするなど支援を行い、少しずつですが成果をあげています」と課長は答弁されました。
このような丁寧な対応、「予防的支援」が当町でなされていることを高く評価したいと思います。
「府中町の 0~15 歳までのこども約 6,000 人の変化を定期的に見守り続けることは、データ連携があるからこそであり、人では網羅できない」とも発言されました。確かに約 6,000 人の子どものなかから潜在的に支援が必要な子どもや家庭を1人でも多く見つけることは大変です。
AIの力も借りて予防的支援を実施することは、困っている子どもたちを減らすことに繋がり、成果を上げつつあるということは評価したい。
このように、個人情報収集に基づくAIによる分析は高い利便性がある反面、リスクもあります。
支援が必要とされる家庭のデータ項目としてあげられているのは、①生活保護あり、②障害者手帳(精神)あり、③直近30日で10日以上遅刻、④乳幼児健診時に母親が体調不調」と回答、⑤ひとり親医療費助成あり、⑥(妊娠中)母親の飲酒あり、で、いずれもデリケートな情報です。
県のまとめには「個人情報保護・プライバシー保護のリスクを減らせるように継続的に取り組む」とあり、システムのセキュリティ、そして実際の運用においてもプライバシー保護に努力をされていると思いますが、万全ということはありません。
一カ所に多くの情報が集められることは常に危険が伴います。
AI判断に対する過信もあります。
AI、ビッグデータ問題に詳しい、山本龍彦慶應義塾大学教授は、次のように述べています。
AI自体が悪いのではなく、AIの確率的判断を鵜呑みにしてしまう人間の弱さに問題の根源があると思っています。易きに流れてしまう、効率に流れてしまう人間の弱さ。そういったものを振り払い、AIの評価の妥当性を粘り強く思考する人間の力が試されていると感じています*4)。
県のまとめでも「AI 分析結果に基づく偏見…分析結果の1次評価としての活用と、人による最終的な判断の実施」とあり、当町でもそのように実施されてきたと思います。
判定の確度が上がると過信しがちになる。ぜひ「人による最終的な判断」が弱まらないようにしていただきたい。
「人員体制の強化」が必要という見地は変わりませんが、本事業からの「早期の撤退」という本年度予算に対する討論における主張は撤回したいと思います。
*2)「子供の予防的支援構築事業における実証期間の成果と課題について」
*3)こども家庭庁「こどもデータ連携実証事業の検証に係る調査研究」
*4)山本龍彦「個人の尊厳を脅かすリスクのあるAIが社会実装されるとき、何が犠牲になり得るか」Innovative City Forumサイト
▼建設部
④開通に備えて安全の確保を
第4に、「県施行街路事業負担金事業」です。
青崎池尻線全事業延長440mが完了しました。
東部連立事業(JRの高架化)が済み、線路を挟んだ両側の工事が完了すれば、浜田仁保線――永田交差点から国道2号線と交わる仁保交差点まで1.6Kmが開通します。
高架と交差する道路で「最も重要」だと言われており、仁保交差点橋から向洋駅を通過し南公民館のところで左折すれば、文化橋を通って(広島市)矢賀や温品、広島高速1号線間所出入口に通じている。大変便利な道路で交通量が飛躍的に増大する可能性があります。
南公民館付近への信号機設置は、町長自身が重視されており、ぜひ開通前に実現してほしいと思います。
公民館付近を見ますと考えられる限りの注意喚起の表示があり、その努力も評価したい。また、開通して交通量が増えますと、公民館付近以外の場所も危険地帯になる可能性があります。
自動車や人の動きがどうなるのか、まだ分からない部分もあるとは思いますが、事故が起きる前にさまざまな手立てを考えておいて欲しいと思います。
広島県公式ホームページより
⑤インクルーシブ遊具をさらに
第5に「チェリーゴード空城パーク再整備事業」についてです。
老朽化した遊具を撤去し新たに大型遊具とインクルーシブ遊具を整備しました。
インクルーシブとは包摂=「すべてを包み込む」という意味で、障害のある、なしに関わらず、すべての子どもが一緒に楽しめる遊具のことを言います。
2023年に建設委員会の行政視察でインクルーシブ遊具を手がけている企業に行って説明を受けました。
・支援を必要とする子どもは全体の1割以上いて肢体不自由は全体の2割。「車椅子で遊べる遊具があればいい」というような考え方ではだめ。
・遊具以外に暑さ対策、トイレ、安全配慮といった周辺環境に目を向ける必要がある。必ずしも大型の複合遊具が望まれるわけではない。
いずれも重要な観点だと思いました。
インクルーシブ遊具を設置したことは大変よかったと思います。
町内には公園や児童遊園が50ほどあります。小さなインクルーシブ遊具もありますので、町内すべての公園とは言いませんが、町内のあちこちの公園に設置されていくことを希望します。
「チェリーゴード空城パーク」に設置されたインクルーシブ遊具
▼以上の点に留意し、今後の予算編成や行財政執行に生かしていただくことを要望し、賛成討論といたします。
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