国民健康保険制度の現状と今後について質問いたします。
「国民健康保険税が高すぎる。なんとかならないのか」という声をあちこちから聞きます。平成27年度決算特別委員会で「国民健康保険税の滞納状況と対応(ワースト10)」という資料が配付をされました。
ワースト1の方は飲食店を廃業し、滞納分は7万円ずつ分割で納付中。以下、入院中の高齢夫婦、個人で建設業を営んでいる人、派遣社員、運送アルバイトなど、生活が困難になるなかで滞納者となっています。ここに、国保加入者の厳しい状況が象徴的に現れているのではないでしょうか。
府中町では平成26年度末のデータですが、人口約5万2000人のうち、1万1400人、率にして22%が国保に加入しています。
国保は、第一に、年齢構成が高く、医療費水準が高いという特徴があります。広島県の被保険者で65歳から74歳までの被保険者の割合は実に43.2%で、その比率は年々高まっています。
一人当たり医療費は、国保全体で約32万5000円、広島県は約39万円、府中町は約38万2000円です。現役世代の多くは健康保険・共済組合に入っていますが、協会けんぽが16万2000円、けんぽれん(健保組合連合会)が13万円で、一人あたり医療費は半分以下となっています。
第二に、所得水準が低い。加入者一人当たりの平均所得は健保組合が約200万円なのに対して国保は83万円にすぎません。所得なしの世帯が約四分の一を占めています。
これは広島県のデータですが国保加入者は、年金暮らしの高齢者、無職の方が46%、ついで被用者、雇用されている方が25%、自営業が11%で農林水産業で働く人が3%です。
第三に、保険料負担が重い。平均で、健保組合が所得の5%ほどなのに対して、市町村国保は10%で、ほぼ2倍です。
国保税(料)は、今から33年前の1984年には全国平均で4万円ほどでしたが、2014(平成26年)年には9万3000円に跳ね上がっています。 所得はというと1984年当時、国保加入世帯の平均所得は179万円でしたが、2014年は116万円に減少。これでは払いたくても払えない。全国では国保加入者の1割にあたる約330万世帯、府中町では8%弱、約900世帯が滞納しているわけです。
悪質な滞納者がいないとはいいませんが、町の滞納ワースト10が示しているとおり、多くの方が収入が減ったり途絶えたりするなかで滞納者となっているのだと思います。貧困の広がりと保険料の負担が所得に見合っていないことが滞納の大きな要因になっているのです。
町民が払うのは国保だけではなく、税金と年金もあります。先ほども申しましたが国保税はだいたい収入の1割で税金と年金を合わせると約3割になると言われています。
そこで1番目の質問です。
いま私は国保の抱える問題点について申し述べましたが、町として加入者の実態についてどのようにお考えでしょうか。
第2に、国保会計への繰り入れについて質問いたします。
町は、ほぼ毎年法定外繰入をし、保険料を抑えるための努力をしてきたと思います。しかし、いま紹介したとおり、それでもなお、町民にとって保険料の負担は耐え難いものになっています。府中町は約7000世帯。7000万円あれば1世帯当たり年間1万円の引き下げができます。年間1万円では「焼け石に水」かもしれませんが、たとえ1万円であっても引き下げれば、何もかも値上げされているなか、町民にとって希望の光になるでしょう。
私たち日本共産党が昨年5月に実施した町民アンケートでも、町制に望むことの1番目が老後の住まい、2番目が国保税の負担軽減です。
27年度決算特別委員会のとりまとめにおいて私は次のように発言いたしました。
財政調整基金は、平成26年度に10億4894万円だったものを27年度は4億6586万円も積立て、15億1515万円にしました。企画財政部長は、「これだけあればよいという絶対額はない」としながらも、これまでの行政経験上、積立金は最低ラインとして15億円程度必要だと述べられました。他の自治体と比べて基金の額が多いというわけではありませんし、さまざまな不安材料があるなか、行政としては「いざというときのため」、税収のあるときに積み立てておきたいという気持ちもよく分かります。
しかし、町民の暮らしは年々苦しくなり、今まさに「いざ」という状態にあります。15億円の積立金が仮に必要だとしても単年度で積まず、2、3年かけて積んでもよかったのではないか。積み立てた4億6586万円の1割でも福祉と暮らしを支えるために使うべきだったと考えます。ぜひ、今後の予算編成や行政執行において、この点を留意していただきたい。
そこで質問いたします。
29年度も財政調整基金を積み増しする予定だと伺いました。その一部を取りやめて国保会計に繰り入れ、国保税を引き下げるお考えはありませんか。
第3に、健康診断ならびにがん検診について質問します。
昨年8月、私は大阪府で一番検診が充実している箕面市に行って、国民健康保険室長にお話を伺ってきました。
箕面市は健康診断とがん検診をすべて無料にすることによって医療費を低く抑えています。平成26年の大阪府内順位は5番目で一人当たり年間医療費は32万4699円です。府中町は38万1626円ですから5万7000円も低い。広島県内で一番低いのは世羅町ですが、世羅町は33万4323円で、箕面市はそれより1万円も低い。
「けんしんガイドブック」をつくり、年代ごとにどの健診・検診をうけたらいいのかも分かりやすく説明し、「箕面市民がん検診はすべて無料!」であることを周知して受診率を高める努力をしています。
広島県は「がん対策日本一」を掲げ、平成27年に広島県がん対策推進条例を制定しました。県内の胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの検診受診率はそれぞれ4割前後です。「ひろしま県民だより」(平成28年秋号)でも「早期発見すれば、9割以上が完治するがんもおおくあります」「定期的に検診を受けることが必要です」と、早期発見早期治療のためにがん検診をすること、その受診率を高めることが必要だと強調しています。
箕面市の国民健康保険室長は「特定健診受診率は36.4%で、大阪府の中で群を抜いて高いわけではありません(大阪府平均は29.1%)。病院などで検査されている方もいます。さまざまな保健事業、住民の健康意識の高さとともに健診・検診が無料であることが医療費を抑えることに役立っているのではないかと考えます」とおっしゃっていました。
府中町でも健康診断やがん検診に対する助成はされていますが、一部負担金があり、忙しいとか検診が嫌いとかいうこととあいまって、受診を踏みとどまらせる要因の一つになっています。胃がんはバリウム検査で2000円、内視鏡ですと5500円。ちょっとためらってしまう金額です。
「すべての検診が無料」というのは、「検診を受けて欲しい」という町からの熱いメッセージとなり、箕面市がそうであるように検診の受診率アップにつながります。
無料化すれば町の負担は増えますが、町民の命と健康を守ることにつながり、ゆくゆくは医療費を抑えることにつながります。
そこで質問いたします。
箕面市のように、健康診断とがん検診を無料にし、町民の受診率を高め、医療費を下げるお考えはありませんか。
先ほど述べました広島県がん対策推進条例の第5条には「県は、市町ががんの予防及び早期発見その他のがん対策に関する施策を実施するときは、必要と認める協力を行うものとする」とあります。研究、検討の上、県とも協議する必要があるのではないでしょうか。
健康診断やがん検診の無料化の実情やその効果を把握するために、町職員を箕面市へ研修にだすことを検討していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
第4に国保の都道府県単位化について質問します。
平成27年5月に「持続可能な医療保険制度改革を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法」が成立し、平成30年4月から国保は都道府県単位化され、管理運営の主体が国から県へ移ります。これまでは市町が保険者で、国は管理運営の主体であり国庫補助金として一定の財政投入をしてきましたが、このしくみが大きく変わろうとしています。
国保の都道府県単位化は、「地域医療構想」や「地域包括ケア」と一体のものです。
地域医療構想は、病床を高度急性期、急性期、回復期、慢性期と区分したうえで、その連携によって病床を削減しようとするものです。
広島県全体で平成25年の病床数は3万5248床ですが、平成37(2025)年、県が必要と認める病床数は2万8614床で、最大で6634床(18.8%)を削減可能としています。マツダ病院が270床ですので、マツダ病院を24ないし25なくすのと同じです。それを8年後までにやっていくという。ベッド数を減らすことによって入院患者を減らし、医療費を削減することが「地域医療構想」の核心です。
医療を必要とする人は減るのかといえば、そうではありません。県も「平成37年には団塊の世代の方々が75歳以上に、そして人口の3割以上が65歳以上の高齢者となり、医療や介護を必要とする方々がますます増加する」と述べています(「広島県地域医療構想 概要版」2016年)。
では、ベッドの空きがなく、入院できない人はどうするのか。そのために始められているのが「地域包括ケア」であり、県の推計では1万200人程度が病院ではなく在宅医療・在宅看護となるという見込みです。
以上のような医療の供給体制の変更とセットなのが国保の都道府県単位化です。県を市町とともに保険者にして保険財政の責任をもたせるのことにねらいがあります。
元厚労省保険課長の島崎賢治氏(政策研究大学教授)は、「国保中央会主催全国市町村国保主管課長研究協議会」で全国の市町村担当課長を前に次のように講演しました。
「医療提供体制改革の一環として地域の医療需要の将来予測などをもとに、二次医療圏ごとの各医療機関の将来の必要量などを盛り込んだ地域医療構想(医療ビジョン)の策定が都道府県に求められることになっているが、こうした医療供給体制改革を都道府県に本気で担ってもらうために、財政にも一定の責任を持ってもらわなければならない。そのための方策として、現在は市町村単位で行われている国保の財政責任を都道府県に移してはどうかと言うのが国保の都道府県単位化の背景の一つ」
「医療供給体制と国保改革の話はまったく別だと思っている人がいるが、そうではない。そうした観点から報道をみていただきたい」(『国保実務』2014年9月8日)
供給体制と国保財政の両面からセットで「医療費の適正化」「安定的な財政運営」という名の社会保障削減を進めていくわけです。
スタートまであと1年ほどしかありませんが、広島県ではまだ「市町村保険料率」の仮試算もでていない状況で、これで本当にスタートできるのかと思いますが、現時点で予想される問題点を4点ほど指摘します。
①都道府県単位化で国保料は安くならない
第一に、国保の最大の問題は、厚労省も認め、冒頭で述べたように、所得水準が低いのに保険料負担が重いことにあります。だから「払いたくても払えない」人、なんとか払っているけれども悲鳴を上げている人たちが多い。しかし、県単位化でこの問題はまったく解決しないどころか、保険料がさらにあがる可能性があります。
厚労省は3400億円を投入して、一人1万円の財政改善効果があるとしています。しかし、3400億円は現在の全国の市町村による一般会計法定外繰入の総額3900億円より少ない。市町村による従来通りの法定外繰入がなければ財政改善効果はありません。厚労省は、市町村による一般会計法定外繰入はこれまで通り市町村の裁量でできるとしていますが、「都道府県国民健康保険運営方針策定要領(案)」(平成28年1月18日)では、決算補填等を目的とした一般会計法定外繰入は解消または削減すべきだと述べていますいずれ、なくしていく方向にあるということでしょう。
平成26年に、 全国知事会の福田富一社会保障常任委員会委員長(栃木県知事)が、「協会けんぽ並みの保険料負担率まで引き下げるには約1兆円が必要」と述べ財政基盤の必要性を訴えたように、1兆円程度を国費を投入しないと協会けんぽ並みの保険料になりません。国の財政支援が3400億円で、法定外繰入の削減が進めば、国保料を引き上げざるをえなくなります。
②納付金100%上納が義務づけられる
第2に、市町から県への保険料上納は100%納付が義務づけられ、保険料がさらに上がる可能性があります。府中町の保険料収納率は94%(平成27年)で、不能欠損も当然生じます。取りはぐれがあるのに上納は100%を求められる。法定外繰入を増やさなければ収納額と上納額の差を埋めるために保険料を上げざるをえなくなります。
③市町の保険料算定方式が変わる
第3に保険料の算定方式が変わります。現在は市町が予定収納率も勘案したうえで賦課総額を決めますが、今後は、都道府県が保険料給付費の推計から公費等の収入をあらかじめ差引き、保険料収納必要総額を算出し、医療費水準および所得水準に応じて市町に納付金として割り振ります。多くの都道府県においては、割り振られた納付金に基づいて市町村が保険料を算定するのですが、広島、大阪、奈良、滋賀の4府県は、それぞれの府県で統一した保険料率となります。
広島県は一人当たり医療費は最も高い市町と低い市町では1.5倍の差があります。一人当たり保険料は最高が10万1621円で最低が6万6468円でその差は約3万5000円です(平成26年度)。所得割、資産割、均等割、平等割の構成も市町でバラバラです。
このように非常にばらつきのある現状で、国費が大量に投入されないまま保険料が統一化されればどうなるのか。広島県ではまだ試算がでていないようですが、北海道では昨年11月1日に道議会保健福祉委員会で公表され、国保料が最大2倍を超えると北海道新聞が報じました。幌加内町は平成28年度の保険料が16万5600円だったのですが、試算額は37万4300円です。93市町村が保険料が上昇し、82市町村が減少する結果でした。試算通りになるかどうかはまだ分かりませんが、大きな変動が予測されます。安くなる分にはいいですが、高くなる市町が当然でてきます。
ですから、厚労省も激変緩和ということを言っているわけですけれども、激変緩和とは一気に上げずに緩やかに上げていくということですから、結局は値上げするということです。
④国保都道府県単位化は憲法25条と地方自治の否定
最後、第4点目として、この都道府県単位化は、憲法25条と地方自治の否定だということを申し述べたい。
日本国憲法第25条は、すべての人に健康で文化的な暮らしを保障しており、国民健康保険制度もまさにこの権利を実現するためのものです。しかし、冒頭で述べたように現状においても国保料や窓口負担は耐え難いものとなっています。そして都道府県単位化はこの苦しみを軽減するどころからさらに負担を増やす。地域医療構想による医療供給の絞り込みとあいまって、医療費を削減し、命を削ろうとするものです。
このままいけば、市町は県に従って国保料を集め、上納する下請けと化します。これまでのようにそれぞれの市町が自主性と自立性をもって町民の実情にあわせた施策をすることが難しくなると思われます。これは地方自治の否定です。
そこで質問いたします。
2018(平成30)年度からスタートする国保の都道府県単位化によって町民の負担はどうなるのか。保険料が上がった場合どのような手だてを考えているのでしょうか。
以上、4点お尋ねいたします。
◆答弁のポイント(二見メモによる)◆
(1)(2)高い国保料に悩まされている町民の暮らしについての「どのように考えるのか」と質問しましたが、残念ながら数字が示されるだけでした。
国保会計へのさらなる繰入を認めない土台に、暮らしの困難を直視せず、財政的観点からのみ考えることがあるように思われます。
(3)健診ならびに検診の無料化について、現状を超える施策はできないということでしたが、箕面市への職員研修について前向きに検討するという答弁がなされました。ぜひ実現して欲しいと思います。
(4)国保の都道府県単位化の影響についてはまだ県から具体的なものが提示されていないので何とも言えない。町民の負担がかなり多くなるようであれば激変緩和の措置をとる。
国保への国の財政措置が現状の3400億円程度で、市町村による法定外繰入をなくせば保険料の引き上げにつながるということを指摘しましたが、町は国の方針通り、繰入を減らしていくということでした。
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質問作成にあたり、さまざまな文献や資料を参照しましたが、とりわけ寺内順子著『基礎から学ぶ国保』『検証!国保都道府県単位化』(ともに日本機関紙出版センター)によるところが大きいです。記して感謝いたします。