
ジョン・ケネス・ガルブレイス
ガルブレイスの『ゆたかな社会』(岩波書店)は、そのタイトルゆえに、資本主義を美化した本だと誤解している人が少なくない。
しかし、この本が問うているのは、一見ゆたかに見える社会に潜む、さまざまな問題である。意外に思われるかもしれないが、本書の主題の一つが、貧困と格差なのである。
ガルブレイスは、のちに「近代のゆたかさの中で貧困の病弊がなお残っていること――そもそも私がゆたかな社会の探究に入ったのはこの貧困の問題からであった」と回顧している。
そして、本書の「あとがき」では、つぎのように述べている。
「ゆたかな社会における貧困の除去を社会的・政治的な日程に強力に載せようではないか。さらに進んで、その中心に据えようではないか。
そしてまた、地球を守るという名目で地球に灰しか残さないようにする懼れのある人たちから、われわれのゆたかさを守ろうではないか。ゆたかな社会に欠陥がないわけではない。
しかし、ゆたかな社会は、それ自身の持つ有害な傾向ないしは破壊的な傾向から救うだけの価値は十分にあるのだ」(岩波同時代ライブラリー版、422ページ)
さらにガルブレイスは、「ゆたかな社会」の経済が軍事化することにも警鐘を鳴らしている。
「われわれの裕福さが大きいことのために、ますます危険度の高まる兵器生産の原資、すなわちいっそう増大する大量破壊能力のための原資が生まれる」
「われわれは軍備競争を押しとどめなくてはならない」(同書、421ページ)
しかし、アメリカ政府はガルブレイスの忠告を聞かなかった。
2002年、アメリカの軍事費は、世界全体の43%を占めていた。さらに、ロッキード・マーティンやボーイングなどの巨大軍需企業に軍需発注が集中し、その背後には金融機関がある。軍需産業は、政府に軍事予算の拡大を働きかけてきた(ATTACフランス編著『アメリカ帝国主義の基礎知識』作品社)。
ガルブレイスは、『現代経済入門』(TBSブリタニカ)でベトナム反戦運動を取り上げ、つぎのように述べている。
「軍の力と法人企業とが共生したように結びついて動いてはいますが、彼らは全能ではありません。……大衆的な力は、ひとたびそれが動員されると、非常に大きなものとなることができます」
平和を求める力は、軍産複合体を乗り越えることができる。ガルブレイスは、そう言って私たちを励ましてくれているのだ。
*ジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith、1908年10月15日―2006年4月29日)。
カナダ出身の制度派経済学者。ハーバード大学名誉教授。
著書:『ゆたかな社会』(岩波現代文庫)、『新しい産業国家』(講談社文庫)、『不確実性の時代』(講談社学術文庫)など多数。
(2006年)






