社会変革と図書館

私がかつて15年間、専従事務局長をしていた広島県労働者学習協議会。

諸般の事情で他団体と共同で事務所を維持することにし、書籍のかなりを処分することにした、必要なものがあれば取りに来て下さいという連絡を受けました。ありがたく、段ボール2箱分ほど持って帰りました。
 
あの事務所で仕事をしたのは8年ほどでしたが、私の外部脳=外付けハードディスクのようなものでした。なにか新しい問題にぶちあたったとき、さしあたり必要な検索がができる。もちろん、全てが間に合うわけではないので、また新刊を買い求めることになるのですが、それでもあの事務所の蔵書は大変心強いものでした。

書籍処分の事情は分かるものの、断腸の思いです。

府中町でこのような図書室=研究室=仕事場が確保できたらいいんですけどねえ。

以下は、1999年、現在の事務所に引っ越して間もなく書いたものです。

 

「労学協図書館」

〔1999年〕4月29日、県労学協は新事務所へ移転した。新事務所を訪れた人が驚くのは本の多さである。きちんと数えたわけではないので実数はわからないが、七千冊から一万冊ぐらいだろうか。二見の蔵書を基礎に、県労学協の予算で購入したものや寄贈いただいたものからなる。

大原社会問題研究所などの蔵書・資料にはほど遠いが、それでも労働運動関係では県立図書館や市立図書館より充実している。労働運動をはじめとする諸運動について調べ研究するために必要な書籍を備えたライブラリー、図書館だと自負している。

社会変革と図書館のつながりは深い。マルクスが『資本論』を書くために大英博物館の付属図書館に通い、レーニンが『帝国主義論』を書くために亡命先のスイスで図書館に通ったことなどはよく知られている。

アメリカ独立宣言の起草者の一人、ベンジャミン・フランクリンは学校教育を受けておらず、独学自習であった。印刷業を開業したのち、彼は会員出資による組合図書館をつくる計画をたて実行した。この組合立図書館はその後各地に広がることになる。

「アメリカ人全体の知識水準を高め、平凡な商人や百姓の教養を深めて諸外国のたいていの紳士に劣らぬだけのものに仕上げたのは、これら図書館である。また思うに、全植民地の住民がその権益を擁護するためにあのようにこぞって抗争に立ち上がったのも、幾分かはこれが影響によるものであろう」(『フランクリン自伝』岩波文庫)。

空想的社会主義者であり協同組合の父とも呼ばれるロバート・オーエンは、労働者階級の図書館づくりの先駆者である。オーエンはよりよい環境と教育による人格形成を重視し、労働者住宅、共同食堂、診療所などを建てた。そして、小学校退学者のために夜間教育の学舎をつくり、これに暖房と照明のよい図書館を併設したのだ。(石見尚『図書館の時代』論創社)。

変革の時代には、新たな知的前進がともなう。その前進は過去の知的遺産を消化し、発展させることによってしか、なしとげられない。

図書館は、まさにそのためにある。

階級闘争の新しい前進が始まりつつあるこの時期に、県労学協事務所を移転し、蔵書をみなさんに提供することができることはとても喜ばしい。政治的な前進にふさわしく、知的領域での前進をとげる好機が訪れている。それに間に合うことができたからだ。

県労学協の各種講座もこの図書に囲まれた教室で実施される。

一人でも多くの方が県労学協事務所を訪れ、活用していただくことを願っている。変革の時代は学習の時代である。

(広島県労働者学習協議会機関誌『一粒の麦』66号)

 

 

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