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2021-10-02

消防の広域化で町民の安全は守れるのか 2021年9月議会一般質問

 

《3回目》

今の答弁を聞きまして、やはり府中町は単独消防を守るべきだという思いを強くしました。「消防の広域化」は、消防の現実、実情のなかから出てきたものではない。本当にメリットがあるのならば、全国で広域化=消防本部の統合が進められたでしょう。しかしそうではなかった。当町も含め、多くの自治体が広域化せず単独消防を守っているわけです。

ではなぜ広域化が進められようとしているのか。

第一に、自治体リストラの推進です。

1991年にバブル経済が崩壊し、地方財政危機が起こりました。93年12月、自治省は93年度の地方税収が地方財政計画の額より1兆6000億円程度不足するという見通しを発表。その翌年、「地方公共団体における行政改革の推進のための指針」を出し、消防庁が消防広域化基本計画を策定しました。

消防の広域化計画はいわゆる行政改革=自治体リストラの一環だったのです。地方財政危機を口実に、全国で退職者の不補充、採用抑制による人員削減、民間委託や第3セクター化、保育所のまるごと委託や住民負担の強化を進めました*10)。「行政の効率化」の名による行政機構の再編・統廃合、職員配置基準の「見直し」も同時に進められました。

第二に、広域行政、市町村合併や道州制の地ならしです。

1995年に合併特例法が「改正」され、普通交付税の合併算定替の期間延長、議員の定数・在任特例の拡充、国と都道府県の役割の明示などが盛り込まれ、有効期限が10年延長。1999年に地方分権一括法が成立し、2000年代に入り、市町村合併が一気に進みました。

2006年「道州制のあり方に関する答申」が出され、自民党や経団連は、人口30万人の基礎自治体を全国で約300つくるのだと言っていました。同じ年に出された消防庁「広域化の推進に関する答申」は、これにあわせて管轄人口を30万人に引き上げたのだと思います。

第三に、戦争のできる国づくりへの対応です。2003年に事態対処法*11)を含む有事関連三法*12)が成立し、2004年に国民保護法*13)を含む有事関連七法*14)が成立。国民保護法97条7項に「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を武力攻撃による火災から保護するとともに、武力攻撃災害を防除し、及び軽減しなければならない」と規定されました。

「武力攻撃災害」という名の戦争が起きたときに、現状の市町村消防の規模では不安があり、広域再編によって対応能力を向上させようというものです*15)。なぜ広域化すると戦争に対処できるのか、私にはよく理解できません。

1945年、日本中の街に焼夷弾が落とされましたが、「民間人による初期消火を妨害し、消防車が出動しても消し止められないほどの大火災を発生させるために」*16)開発された兵器でした。このときに比べて日本の消防力は格段に向上したと思いますが、それでも火災に弱い場所に集中的に焼夷弾を落とされたらとても太刀打ちできないでしょう。ましてや、核兵器、生物兵器、化学兵器などを使いかねない現代の戦争において消防力で「武力攻撃災害を防除し、及び軽減」するなどということは全く不可能です。

以上、3点をあげましたが、このように、消防の広域化は消防力の向上、住民の安全とは別のところから発せられたものです。だからこそ思惑通りには進みませんでした。しかし、国も県も広域化の方針を下ろしたわけでないので、油断はできないと思います。

*10)自治労連「第2次地方行革・自治体リストラ攻撃を阻止し、憲法と住民生活を擁護し、地方自治の発展をめざす闘争方針」1995年、第12回臨時大会。
*11)「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」。
*12)「自衛隊法等一部改正法」、「安全保障会議設置法一部改正法」。
*13)「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」。
*14)「米軍行動関連措置法」、「捕虜取扱い法」、「自衛隊法等一部改正法」、「国際人道法違反処罰法」、「海上輸送規制法」、「特定公共施設利用法」。
*15)『消防の広域再編の研究』57頁
*16)「『消せない火災』狙った兵器 米軍が使った焼夷弾の実態」朝日新聞、2019年8月15日。
 
なぜ市町村消防なのか

戦前の消防は独立した機関ではなく、警察の一部でしたが、第二次世界大戦直後の日本の民主化で独立した組織になりました。

1947年5月3日、日本国憲法と地方自治法が同時に施行(しこう)され、警察法、消防組織法もその年の12月に制定されました。

消防組織法は、「市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果すべき責任を有する」(第6条)と述べ、都道府県ではなく市町村に消防という重要な仕事を与えました。その後、消防の仕事は、70年以上にわたって市町村によって立派に担われてきたという歴史の重みを忘れてはいけないと思います。

 

ぜひこのまま単独消防を守っていただくことを重ねて要望し、質問を終わります。

 

 

 

《参考文献》
 
永田尚三『消防の広域再編の研究』武蔵野大学出版会、2009年
自治体問題研究所編『資料と解説 自治体リストラ』自治体研究社、1994年
加茂利男編著『「構造改革」と自治体再編』2003年、自治体研究社
池上洋通『市町村合併 これだけの疑問』2001年、自治体研究社
岡田知弘『道州制で日本の未来はひらけるのか』自治体研究社、2008年    
杉原泰雄『地方自治の憲法論[補訂版]』、勁草書房、2008年
塩野宏『行政法Ⅲ 行政組織法[第四版]』有斐閣、2012年
小林武・渡名喜庸安『憲法と地方自治』法律文化社、2007年 
村上順・白藤博行・人見剛編『新基本法コンメンタール 地方自治法』日本評論社、2011年
宇賀克也『地方自治法概説[第8版]』有斐閣、2019年
  

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ふたみ伸吾 ほっとらいん

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