消防の広域化で町民の安全は守れるのか 2021年9月議会一般質問

2.広島県の広域化計画

つぎに広島県の広域化計画についてみていきたいと思います。

広島県は2007年に広島県消防広域化検討委員会を設置し、翌2008年に「広島県消防広域化推進計画」を策定しました。昨年(2020年)に一部修正されています。

広島県は市町村合併を積極的に推進し、2002年に86あった市町村は、2006年には23市町になりました。これにともない、消防本部も、19から14へと減少しています。

2009年には竹原広域行政組合消防本部(竹原市・大崎上島町)が解散し、東広島市に委託したことにより、現在、13消防本部となっています。そのうち、大竹市、安芸高田市、江田島市、府中町、北広島町、備北地区(三次市・庄原市)の6消防本部が管轄人口10万人未満です。

13消防本部を5つに統合

広島県は県内を西部地域、中南部地域、北部地域、中東部地域、東部地域の5つのブロックに分けて広域化を進める計画です*6)

西部地域は、広島市、大竹市、廿日市市、安芸高田市、府中町、北広島町の5消防本部が合併し、構成市町は4市6町、その面積は3074 km²で、東京都(2,194 km²)の1.4倍。管内人口151万人の巨大消防本部となります。

中南部地域は呉市、東広島市、江田島市の3消防本部が合併し、構成市町は4市1町、面積は1250 km²、管内人口は48万人です。

北部地域は備北地区消防本部のまま、構成市町は2市、面積は2025 km²、管内人口は9万人です。

中東部地域は三原市、尾道市の2消防本部が合併し、構成市町は2市1町、面積は1035 km²、管内人口は25万人です。

東部地域は、福山地区消防本部のまま、構成市町は2市1町、面積は1096 km²、管内人口は51万人です。

広島県は2019年に改めて「広島県消防広域化検討委員会」を設置し、引き続き5ブロックによる広域化を進めていくと確認しています。

 

*6)構成市町は以下の通り。

西部地域…広島市,大竹市,廿日市市,安芸高田市,府中町,海田町,坂町,熊野町,北広島町,安芸太田町の4市6町

中南部地域…呉市,竹原市,東広島市,江田島市,大崎上島町の4市1町

北部地域…三次市、庄原市の2市

中東部地域…尾道市,三原市,世羅町の2市1町

東部地域…福山市,府中市,神石高原町の2市1町

3.広域化のメリット

つぎに広域化のメリットについてです。

消防庁は広域化のメリットとして①住民サービスの向上、②人員配備の効率化と充実、③消防体制の基盤の強化、という3点をあげています。

①住民サービスの向上

まず住民サービスについてですが、初動出動台数が充実し、応援体制も強化される。大規模災害、特殊災害へも対処可能になるといいます。また、広域化されることによって消防署所が適切に配置できるので現場到着時間が短縮できるといいます。
 
②人員配備の効率化と充実

人員配備については、本部機能の統合や指令の共同運用による効率化によって隊員の現場への手厚い配置が可能になり、消防力が強化される。予防業務、救急業務の高度化・専門化が図られ、災害対応力が向上し、非番の出勤も減るのだといいます。

③消防体制の基盤の強化 

消防体制については、車両や資機材の共有や共同整備ができ、効率的な運用・整備が可能になる。また、高度な車両や資機材を買うことができる。広域化によって勤務先が増え、人材も確保しやすくなる。人事のローテーションによって人事の硬直化が防げ、組織が活性化する。
 
以上のようなことが『消防白書』ほか消防庁が作った様々な資料に書かれています。このとおりならば、まことに素晴らしく、広域化もどんどん進んだのではないかと思いますが、1994年から四半世紀かけても国や県が思うように広域化は進んでいないのが実情です。

 そこで伺います。
 
①なぜ、広域化によって「初動出動台数が充実し、応援体制も強化される」と言えるのでしょうか。

消防長 「広島県消防広域化推進計画」の中で、広域化の効果として1消防本部が保有する部隊数が増えることが挙げられており、それにより初動出動台数が充実するとともに、自らの消防本部で増援体制が組めることから、統一的な指揮の下、迅速かつ効果的な部隊運用が可能となり、大規模災害への対応力の強化が見込まれるとしております。

府中町消防本部は、初動出動隊が災害対応を行う間、非番者職員の招集を行い応援体制や次の災害に備えた体制を構築しているので広域化のメリットは見えにくい状況です。
 
②大規模災害は、広域にわたって同時多発で起きます。局地的な災害ならばその地域へ集中させることができますが、広域で災害が起きたときには、本部が広域化したからといって大規模災害に有効に対処できるのでしょうか。

消防長 局所的災害であればそこに消防力を集中させることが可能ですが、同時期にすべての担当区域で多発的に災害が発生した場合は、近隣の消防署も災害対応を行っていることから増援が期待できないため、初動は消防署の車両、人員等で担当区域の災害に対応することとなります。府中町で申しますと府中町で保有する車両、人員で災害対応することになりますので広域化のメリットは見えにくい状況です。
 
③府中町消防本部だけでは対応できない事態が仮に起きた場合、広域化がなければ応援は頼めないのでしょうか。

消防長 消防組織法第39条第2項の規定に基づき広島県内においては、全市町による「広島県内広域消防相互応援協定」を平成29年に締結しています。この協定により、広島県内で災害が発生した場合に広島県内の市町及び消防組合がそれぞれの消防力を活用して、消防の相互応援が行えます。
 
④広域化すると現場到着時間が短縮できるとありますが、府中町では、現場到着所要時間はどのくらいでしょうか。全国平均と広島県平均もお示し下さい。

消防長 府中町の現場到着所要時間の平均時間は7.1分であり、全国平均の8.7分、広島県平均の8.5分よりも上回っており、広域化のメリットが見えにくい状況です。

なお、令和2年の救急活動、出動から現場到着までの平均時間は、府中町では、3.5分、近隣市町の広島市では、5.9分であり、このことからも、広域化のメリットは見えにくい状況です。
 
⑤広域化すると「本部要員を減らし、現場体制が充実する」とありますが、そういうことが実際可能なのでしょうか。また消防庁「消防力の整備指針」に照らして人員は足りているのでしょうか。

消防長 「広島県消防広域化推進計画」の中で広域化による効果の1つとして、総務部門や通信指令業務の効率化で生じた人員を他の部門に配置できることが見込まれるものです。

また、府中町の消防職員数は、消防庁の「消防力の整備指針」に照らして、若干名不足している状況です。
 
⑥広域化によって高度な消防設備、車両が整備できるといいますが、府中町は現在、ポンプ車4台、はしご車1台、救助工作車1台、高規格救急車3台、指令・指揮車1台。査察・広報車1台を保有しています。「消防力の整備指針」に照らして不足している車両はあるのでしょうか。

消防長 市町村が目標とすべき消防力の整備水準である消防力の整備指針に照らした場合、不足している車両はありません。
 
⑦消防救急デジタル無線の整備も広域化のメリットとして挙げられています。当町は、広域化せず単独消防であっても整備しました。その経緯を説明して下さい。 

消防長 消防救急無線のアナログ方式が平成28年6月1日から使用できなくなることに伴い、消防救急無線のデジタル方式へ全面的に更新を行う必要がありました。従来、消防救急無線施設は、消防本部等が単独で整備して運用することが原則とされていましたが、消防本部が単独で整備した場合は、経費が多額となること、また昨今の大規模災害時の広域応援など消防の広域的な活動が求められていること、さらに、複数の消防本部が同一の基地局を利用することで費用低減が見込まれることを踏まえて、広島市・大竹市・廿日市市・江田島市・府中町の4市1町で消防救急無線のデジタル方式の運用を共同で平成24年に整備し、運用しているところです。

最後に消防の広域化について、国は人口減少や災害の多様化等社会環境の変化に対して、必要となる消防力を維持していくための消防体制の整備等に最も有効な手段が広域化としています。その一方で、広域化すべきメリットが見えにくい等消防の広域化に時間を要する地域は、消防の連携・協力を推進しています。
このように市町の現状・地理的条件等で国が推進する広域化にフィットしない地域が存在するのも事実です。

府中町としては、今は広域化を見据える時機でなく、単独の消防本部として近隣市町と連携・協力を図りつつ、住民サービスの向上はもとより地域住民と連携をより強固なものとして町民の安全安心に寄与します。

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