消防の広域化で町民の安全は守れるのか 2021年9月議会一般質問

《2回目》

 

根拠なき広域化

答弁に「広域化のメリットが見えにくい」という言葉が何度も出てきましたように、広域化しなければならない理由はないと思います。

「初動出動台数が充実する」といっても遠方から――県の計画では府中町は「西部地域ブロック」になり、このなかには大竹市とか北広島町も入っていますけれども――そこから救急車や消防車が来ることはちょっと考えられません。そもそも、よほどのことがない限り、初動出動台数が現状で足りないこともないでしょう。

通常の場合には、消防組織法に相互応援の規定があり、府中町消防本部だけで対応できない場合には応援を受けることができる。2018年の豪雨災害や、今後想定される南海トラフ大地震など広い範囲で災害が起きた場合には、緊急車両と消防署員の絶対数が増えない限り、消防本部を広域化しても対応できません。

府中町の現場到着時間は広島県や全国の平均より短い。広島県は消防本部を広域化すると府中町民5万2千人のうち1万3311人、25%もの人に対して1.4分短くなると言っています*7)

この試算は、広域化に伴って、最寄りの消防署(所)が変化するエリアを選んでいます。当町の周辺には、広島市消防局の南消防署青崎出張所と東消防署温品出張所がある。そこに近い地域は計算上短くなるわけです。しかし、信号機もあり道路事情もあるわけですから、実際に短くなるとは限らない。わずか1分半短縮という試算にどれだけの意味があるのかと思います。

「総務部門や通信指令業務の効率化」=その部門での人減らしは出来るのかもしれません。しかし、現状でも整備指針の示す基準に対して不足があり、特定部門の人減らしが、他部門や現場の人員増につながる保証はありません。

高度な消防設備が充実するというのも、広域化の謳い文句ですが、現状で施設、車両とも整備指針の基準を満たしている。府中町民にとって必要な施設、車両は整えられており、消防救急活動に支障をきたしたこともないわけです。消防救急デジタル無線も4市1町の共同で実現しました。

消防長が、答弁の最後に「今は広域化を見据える時機でなく、単独の消防本部として町民の安全安心に寄与」すると力強く述べられたこと、大変嬉しく思います。 

*7)「広島県消防広域化推進計画」33頁。
 
常備消防の委託

さて、府中町は単独で消防本部を維持していますが、海田町、熊野町、坂町、安芸太田町、廿日市市(吉和地区)は常備消防事務を広島市に委託しています。

安芸郡内は、海田町に安芸消防署が置かれ、熊野と坂は出張所です。

広島市に委託を決めたことを伝える「かいた議会だより」2006年10月号の記事に「事務委託することによる最大のメリットは経費が大幅に削減される」とあります。2007年度から2011年度の5年間で、1市4町全体で約11億円が削減でき、海田町は約2億2千万円の削減効果があるという試算です。

実際はどうだったでしょうか。広島市に委託前の5年間(2002年~2006年)の5年間の消防費の合計は19億6300万円、委託後の5年間(2007年~2011年)の合計が18億9800万円で削減額は6500万円にすぎません。試算した削減額の29%です。

最近の数字でみますと、安芸郡4町の消防費の一般会計予算に占める割合は、2017年度から19年度の3カ年平均で、府中町が3.7%、海田町が3.5%、熊野町が4.2%、坂町が2.8%です。坂町が少ないようですけれども、ほとんど変わりません。「経費が大幅に削減」というのは誇大宣伝だったということです。

 

それでも、従前と同様の財政支出ではあるが広域化によってより充実した設備投資が可能になったという可能性はあるでしょう。

そこで伺います。

⑧先ほど、当町は施設、車両とも整備水準をクリアしていると答弁されましたが、安芸郡の3町に比べて劣っているということがあるのでしょうか。

警防課長 府中町消防本部は指揮隊1隊、消防隊2隊、救助隊1隊、救急隊1隊で消防車両は計13台、職員数59名です。

海田町は本署(安芸消防署)が管内にあり、指揮調査隊1隊、救助隊1隊、救急隊1隊で消防車両は計11台、職員数は安芸区3町の業務に従事する職員を含め64名です。

坂町は坂出張所が管内にあり、警防隊1隊、救急隊1隊で消防車両は計4台、職員数は21名です。

熊野町は熊野出張所が管内にあり、警防隊2隊、救急隊1隊で消防車両は計4台、職員数は26名です。以上のことから安芸郡三町と比べても劣っていることはありません。
 
疑わしいメリット

広域化がスタートした1994年に作られた「標準的大綱」に、「広域化により、住民サービスが均一化し、かつ高度化する」と謳われていたことは1回目の質問で紹介しました。小規模消防本部が合併すれば、人口の多い市街地と同じような水準のサービスが受けられるということだと思います。

しかし、消防庁はこの「均一化し高度化する」という方針を2007年に事実上撤回しました。総務省消防庁が作った「市町村消防の広域化――強くなる地域の消防力」というパンフレットに、次のように書かれています。

 「大規模消防本部と小規模消防本部とで広域化を行う場合、広域化によって消防力をすべて同一水準にしなければならないと考える必要はありません。例えば、市街地以外の地域では少人数の駐在所や出張所を置くなど、地域の実情に応じた消防力の整備を行うことも可能です」。

消防庁は「小さな消防本部では高度な消防サービスができない」と言って自治体に広域再編を迫ってきたわけです。しかし、高度な消防サービスを全域にわたって整備するためにはお金がかかるので、したくない。経費削減が目的だからです。広域化は進めるけれども、消防力は向上しない、人口減少地域は消防力が低下するでしょう。ペテンにかけられたようなものです。指針や計画といった公式文書ではなく、パンフレットで撤回し修正するというのもどうかと思います。

消防庁作成の「消防広域化関係資料」*8)のなかに、都道府県から聴き取りをした「広域化が進まない理由」が載っています。そのなかにも「小規模本部が、都市部本部と広域化することにより周辺地域となり 消防力が低下する」「市町村合併の印象から、広域化後、消防署が出張所になり、消防力が下がるのではないか」など、広域化によって消防力が低下することを、少なくない市町村が恐れていることが分かります。

他の資料*9)には広域化した35消防本部のアンケート結果が載っていますが、35のうち、「必要な車両、資機材の整備が進んだか」という問いに対して、「特に効果があった」が3、「効果があった」が9に対して「効果は限定的」と回答したのが14、「効果がなかった」が8です。人員確保についても「特に効果があった」はゼロ、「効果があった」が13に対して「効果は限定的」と回答したのが9、「効果がなかった」が12です。

このように、消防庁自身の資料によっても、広域化するメリットがほとんどないことが裏づけられているわけです。 

*8)消防庁 消防・救急課「消防広域化関係資料」13頁。
*9)消防庁「平成6年以降の消防広域化」。
 
単独消防本部のメリット

むしろ、単独消防にこそメリットがあります。

府中町は密集市街地であり、狭隘道路が多い。消防車はもちろんのこと、救急車も一般の自動車と比べて大きく、入ることのできない道も多いと思うんです。しかし、職員のみなさんはずっとこの町で活動するわけですから、一年一年この町の姿も道もよく知っていくようになる。

広域化されてしまうと必ず転勤があります。西部地域ブロックは、広島市,大竹市,廿日市市,安芸高田市,府中町,海田町,坂町,熊野町,北広島町,安芸太田町の4市6町からなります。

府中町に何年かいたら、次は大竹市、その次は北広島町、その次は……といった具合に勤務地を変えていくことになる。2度と府中町に戻ってこないかもしれない。府中町の姿や道が分かりかけたら転勤です。町内の事情がよく分からない職員が増え、道を間違えて往生し到着時間が延びることになるでしょう。命に直結する問題です。

そこで伺います。

⑨狭隘道路のある住宅密集市街地への緊急車両の進入について、事前に調査・検討、職員への周知はどのようにされているでしょうか。

警防課長 府中町消防本部警防規程第7条で管内の警防調査を実施する規定があります。府中町管内を36の地区に分け、1年間に12地区を対象に調査し、3年間で全ての地区を調査しています。月に8回延べ人員24人、年間にしますと、調査回数96回、延べ人員288人になります。

道路狭隘地区については警防計画を作成し、先に述べた警防調査の中で確認作業を実施しています。その他に1180あるすべての消防水利に関する状況や、警防活動が困難と予測される地区及び消防対象物の状況などについても確認します。調査終了後は調査報告書を作成し、データを更新、職員間で最新の情報を共有しあい、全職員が把握することとしています。

ふたみ議員  最後の質問です。

2018年の豪雨災害のとき、府中町消防本部の職員は、町の災害対応を優先したと思います。

しかし、広域化された場合、あの豪雨災害のように県内各地で被害が出れば、「西部地域ブロック」の本部――広島市消防だと思います――が、総合的・俯瞰的に見て配置を決めることになるでしょう。

⑦もし、「府中町の被災現場は他よりも軽微」だと判断された場合、広域化され消防本部でなくなった府中町消防署の職員はよそへ行き、府中町の被災現場が後回しになるかもしれないと思うのですが、それは杞憂でしょうか。

警防課長 単独消防であれば、町内で起きた災害に消防本部の判断指示で人的被害の大きい被災場所に適切な人員及び資機材を投入できますが、広域化された場合は、西部地域ブロックの本部の判断指示で人員及び資機材の割り振りが決まります。よって町内の被災場所が手薄になることも予想されます。

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