幻の反対討論 所有者不明の土地利用を求める意見書について


史上最大の紛争と言われる「蜂の巣城紛争」。大分県下筌(しもうけ)ダム建設反対のため建設予定地の右岸に1959年(昭和34年)砦を建設し、住民が絶えず常駐して監視を行った。この運動のリーダーであった室原知幸氏は「公共事業は、法にかない、理にかない、そして情にかなわなければならない」と述べている。


6月議会(第2回定例会)に議員提出議案が3つ出されていて、最終日の明日26日に提案・論議されます。

そのうちの一つに「所有者不明の土地利用を求める意見書」があります。

国会で論議されている「所有者不明の土地利用を進める特別措置法」を後押しするものです。

たしかこの法案は問題があったはずと思い、調べました。

まず、赤旗の記事を検索すると、衆議院を通過、宮本たけし議員が反対討論という記事(5月29日付)が一つだけ。これを読んでだいたいのことは分かりました。

もう少し知りたいと思いググっても、法案の危険性を述べた記事はひとつもありません。

困った。記事は簡潔にまとめられているけれども、分からないことが多すぎてこれだけでは反対討論はつくれません。

ひょっとして宮本議員の討論が議事録になっているかもと思って衆議院国土交通委員会の議事録を探すと、ありました、ありました

国会議員と専門家である参考人とのやり取りを理解するのはなかなか大変でしたが、繰り返し読むとだんだん分かってくるものです。

国土交通省の資料も参考にし、次のような反対討論原稿をつくりました。

 

「所有者不明の土地利用を求める意見書」に反対の立場から討論いたします。

本意見書(案)は、「所有者不明の土地利用を進める特別措置法」(以下、特別措置法)にかかわってのものだと思います。

本意見書には5つの要望事項があります。私は、この全てに反対ではありません。1.所有者不明土地の発生を予防する仕組みの整備、2.土地所有のあり方の見直し、3.所有者探索の合理化、5.所有者不明土地の公共的事業――特別措置法のいう「地域福祉増進事業」のことだと思われます――の利用の推進、この4点については基本的に反対ではありません。賛成いたします。

問題は、「4.所有者不明土地の収用手続の合理化や円滑化」です。

結論から申しますと、この「収用手続の合理化や円滑化」が財産権、それに基づく土地所有者の手続保障の権利を不当に奪うことになるからです。

丁寧な手続を求めている土地収用法

土地収用法は、公共事業の用地取得にあたって、地権者の同意が得られない場合に、その土地を取得するための法的手続を定めた法律です。収用手続は、憲法29条が保障する土地所有権そのものを公共のためとはいえ権利者の意に反してでも奪うことができる最も財産権の侵害度が高い手続だといえます。それゆえ、土地収用にあたって丁寧な手続を土地収用法は定めているわけです。

権利者保護の観点から、権利者の意見を聞く機会を設けた上で、専門性を有する収用委員会が補償額等を慎重に判断するという建前になっています。けっして十分ではありませんがそれでも、①過失なく所有者を調査、②収用委員会に裁決を申請、③審理手続き。公開の場で、裁決申請や損失補償について意見がある者等が意見を述べる、④収用委員会による権利取得裁決、明渡裁決、⑤補償金を供託し利用開始、といった手続を踏みます。

このような手続保障があるので公共目的で権利を奪うことが正当化されてきたわけです。

制度濫用のおそれがある

この手続を簡素化し、公共事業を進めるコストと時間を省くというのが、この特別措置法の最大の目的です。住民合意のない公共事業で、安易に所有者不明土地とされる危険性があります。十分な調査をせず「所有者不明」ということになったり、意図的に「不明」ということにしてしまう。そして公共事業を進めていく。このような濫用を防ぐ手だてが特別措置法にはありません。

そのことは、5月22日の衆議院国土交通委員会の参考人質疑での参考人、国交大臣の諮問機関・国土審議会土地政策分科会の分科会長――要するにこの法案の作成側の人です――山野目章夫氏が「今後仮にこれが法律になります際には、その運用について、間違っても議員御指摘のような不適正な運営がないように政府としてしっかり運用していかなければなりません」と述べていることから分かります。法律として防ぐ手だてがない。

公共事業を進める事業者が都道府県知事で、その裁定者も都道府県であれば、果たして客観性・公平性が保てるでしょうか。もう一人の参考人の橋本良仁氏が、事業者と裁定者が知事である場合について「左手で答案用紙をつくって右手で解答を出してパスさせる、これでは何でもありとなる。極論だがそういう危険性がある」と述べています。自分で申請して自分で認可を下ろすということです。

現行法でも十分対応できる

「平成28年度の地籍調査において不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合は、約20%に上る」とありますが、国交省自身のデータでも、事業認定までの所有者探索の結果、0.41%に減っています。

所有者不明の土地を収用することは特別措置法がなくてもできます。土地収用法48条4項ただし書きの制度があり、収用委員会の手続を残したままで所有者不明土地を収用することができるのです。

また、この法律によって所有者不明土地の収用手続きは約31か月から21か月へと10カ月短くなるにすぎません。この10か月を短くすることにどれだけの意味があるか。むしろ、先ほども申しましたように公開審理を省略することによって濫用のおそれがある。

所有者不明の土地は20%とあっても探索の結果、0.41%にまで減らすことができる。土地の収用も現行制度で可能です。そういうなかで「収用手続の合理化や円滑化」は不要であり、むしろ国民の財産権を侵害するおそれがある。

以上の理由で、本意見書の採択に反対いたします。

 

さらに調べていくと驚愕の事実が分かりました。

なんと「所有者不明の土地利用を進める特別措置法」は6月6日に参議院を可決成立していたのです。

意見書提出の意味はなく、当然取り下げということに。

私の反対討論も当然ありません。しかし、せっかく調べたのでここに掲載することにしました。

なによりこの法律、これから悪用されていく危険性大。

いまでさえ政府や都道府県などが反対を押し切って公共事業を進めています。この特別措置法は反対者が立ち上がる前に所有者不明ということにして工事を進めることを可能にします。

ひっそり可決してしまいましたが、この法律は大きな問題を孕んでいます。


(国土交通省資料)

 

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