林直道さんのこと

 

(兵庫県保険医協会の写真をお借りしました)

もう20年以上前になるだろうか。関西勤労協の講演会で一度だけお目にかかったことがある。

「心を込めてお話いたしますと何時間もかかりますので、今日はさらりと…」と言って講義を始められた。著作とは違った、ほのぼのとした話しぶりだったことが印象に残っている。
林直道氏の名を知ったのは、レーニンの『帝国主義論』を解説した『経済学(下)』(新日本新書)だったと思う。

衝撃的だったのは大学生の時(40年以上前)に読んだ『現代の日本経済』(青木書店)である。

そこには日本の高度経済成長がなぜ成し遂げられたのか。その秘密が明らかにされていた。
日本は終戦直後の1950年には発展途上国型の人口年齢構造(ピラミッド型)をしていた。老人層の比重が少なく(4.9%)、逆に年少者の比率が大きい(35.4%)。

先進国になると医療をはじめとする社会保障によって、生命はより持続するようになる(=簡単には死ななくなる)。すると人口年齢構造は釣り鐘のような形になるのだ。
日本の高度経済成長は、ピラミッド型から釣り鐘型になる過渡期で、1970年(第3図B)のように「きのこ型」になる。

「年少人口が極めて少なくなり、老齢人口はまだ少ない、したがって、その中間にあたる壮年層の人口の割合が異常に大きいという世界無比の人口年齢構造」となった。扶養される人口が絶対的に減少したのである。

今日流に言えば、「高齢化」も「少子化」も「労働力不足」も問題とならず、「自助」で事足りる社会が形成されたということである。
こういう条件をフルに活用し、政府は社会保障に予算を使わず、経済成長促進策に注ぎ込むことができた。
なるほど、そういうことだったのかと合点がいった。
こういう人口年齢構造が、いつまでも続かないことは為政者にも分かっていた。高齢化社会の到来は1970年代には予測されている。
しかし、有効な手立てを打たないまま、今日に至っていて、さまざまな問題を引き起こしているのだ。
 
『史的唯物論と経済学』(大月書店)も学び直してみたい。
 
《追記》
この記事をFacebookに投稿したところ次のような質問がありました。

高度成長以後の人口推移について林氏の予測は実にシンプルな話で、しかも実際そのようになって行ったのに、なぜ政治家は手を打たなかったのか、改めて不思議です。他の学者さんたちも、予測していなかったのでしょうか?
 それに対する私の返答は
 
なぜ、手を打たなかったのか。シンプルに答えると打つ気がなかったからです。
 
自民党はアメリカと大企業の利益を追求する政党で、国民の命と暮らしは二の次。それでは支持率が下がるのだけれども、小選挙区制のおかげで議席は減らない。
 
国民に対しては、高齢化社会危機論、財政危機論、自己責任論(「自助」論)でイデオロギー的に抑え込む。
 
こういう仕掛けです。
発展途上国がピラミッド型でいわゆる先進国になると釣り鐘型になることは一般的に知られていることであり、林さんの独自の見解ではありません。

過渡期における人口年齢構造が高度経済成長の土台になっていることを指摘した点が林さんの卓見だったのです。

 
 

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