●「充実」の実態は

消費増税5兆円のうち、「社会保障の充実」とされているものに使われるのは1割(約5000億円)にすぎない、と前回書きました。

5000億円で政府がどのようなことをしているのか、その「充実」ぶりを検討してみたいと思います。第1弾は「子育て支援・待機児解消編」です。

●保育園の「待機児解消」策

5000億円の6割(3000億円)が「待機児解消」に使われます。

待機児をなくすためには保育園をたくさんつくればいいのですが、政府はそうしません。

ではどうするのか。

「多様な保育の提供」の名のもとに、一つは営利企業の参入を大いにすすめること、もう一つは小規模保育、家庭的保育、認可外の保育所などを保育制度に取り込んで20万人分の「保育の受け皿」にしようというのです。

プロによって担われるべきものを素人で済まそうとしています。

●横浜型「待機児ゼロ」を全国へ

営利企業が経営する民間保育所の参入を促進した横浜市。

2013年4月、「待機児童がゼロになった」とマスコミは大々的に報道。

安倍首相は「横浜方式を全国に展開してきたい」と褒めちぎりました。しかし、この「待機児ゼロ」にはカラクリがあります。

4月1日の横浜市の待機児童は、1746人いました。

そこから、保育所に入れず育休を延長した人、横浜市から直接補助の出ていない認可外保育施設に入所している児童数、自宅で求職中の人、特定の保育所のみ希望している人を除いて「待機児ゼロ」ということにしたのです。

●子どもが収容できればいい

営利企業が参入している「横浜保育室」は国より低い基準になっています。

保育士の有資格者は3分の2いればよく、面積基準も引き下げられています。

社会福祉法人の人件費比率は7~8割が一般的ですが、営利企業の保育所は5割だといわれています。

横浜 高架下保育所

写真は横浜にできた高速道路高架下の保育所です。

子どもが育つ環境についてまったく考えていない。

「待機児の収容先があればいい」という発想の現れでしょう。

●子どもの命があぶない

小規模保育、家庭的保育、認可外の保育所の全てが悪いとはいいません。

しかし、劣悪な保育環境、無資格者による保育は子どもの命そのものを危うくさせます。

昨年、保育施設での死亡事故は19件ありました。認可保育所は4件、無認可は15件です。

認可保育所に通う子どもは222万人、無認可は18万人ですから、無認可での死亡事故は認可に比べて45倍も多い計算になります。
全国で悲しい事件があとをたちません。大阪府八尾市で起きた事件を紹介します。

小さな仏壇の前の白い木箱。納められているのは、3歳4カ月で亡くなった藤井さつきちゃんの遺骨だ。母親の真希さん(34)は時折そっと抱きしめる。

「こうすると落ち着くんです。私の心臓の音がさつきに届いている気がして」

当時、大阪府八尾市に住んでいた真希さんは、自分が病院に行く間の1時間、八尾市のファミリー・サポート・センター事業(ファミサポ)で紹介された女性宅に、生後5カ月のさつきちゃんを預けた。だが、診察を終えて迎えに行くと、女性が「救急車!」と叫んでいた。

何が起こったのかわからないまま救急車へ。さつきちゃんは心肺停止状態だった。病院に着いて15分後に心臓は動いたが、低酸素性脳症で脳死状態に陥った。(デジタル朝日2014年5月14日)

ファミリーサポート事業…厚生労働省が事業費の3分の1を補助。預ける会員は12年度で44万人。10年度比で25%も増えた。預かる会員は資格が不要で、子育てを終えた主婦がボランティア的に預かるのが一般的。

株式会社参入や基準引き下げによる「待機児解消」ではとても「子育て支援」とは言えません。

保育教育支出OECD

上のグラフは保育園や幼稚園に通う子ども一人あたりにどれだけ税金が使われているかの比較です。

日本はOECD諸国のなかで下から2番目。かけがえのない命を守るためには、公的責任で認可保育園を量も質も充実させることが必要です。