消防の広域化で町民の安全は守れるのか 2021年9月議会一般質問
消防の広域化と府中町民の安全安心
8番 二見伸吾
●はじめに
私はこれまで、自治体の合併問題(2019年12月議会)、「自治体戦略2040構想」における「圏域マネジメント」(2020年3月議会)を取り上げ、自治体の広域化、広域行政の問題点を指摘してきました。今回は「消防の広域化」について質問します。
1.消防の広域化とは
(1)消防広域化基本計画策定指針
●消防の対応力強化方策検討委員会報告書
1994年に消防庁が設置した「消防の対応力強化方策検討委員会」の報告書が出され、「消防広域化基本計画」が策定されたことが消防の広域化の出発点です。「消防の対応力強化方策検討委員会報告書の概要等について」は「はじめに」で次のように述べています。
「今日、消防は、災害の複雑多様化、救急業務の高度化等の消防需要の変化に対応し、住民の信頼と期待に応えられる高度な消防サービスの提供を求められている。 しかし、全国の消防本部の組織体制は、規模の小さな消防本部が多数を占めているのが実態であり、一般に小規模消防本部の場合、財政基盤や人員、施設装備の面で、高度な消防サービスの提供に課題を有していることが多い」*1)。
*1)西岡雅人「消防の対応力強化方策検討委員会報告書の概要等について」『季刊消防防災の科学』1994年秋号(№38)。
高度な消防サービスが求められているけれども小さな消防本部ではそのニーズに応えられないというわけです。
報告書は、小規模消防本部の問題点を5点あげています。
①消防職員の充足率やはしご車等の特殊車両の充足率が低い、消防職員の兼務割合が高く専門的体制の整備が困難である、火災放水開始時間、救急現場到着時間がやや長い等の業務運営面の問題点。
②人事ローテーションの設定が困難、ポストの不足等の人事管理面の問題点。
③財政規模が小さく高価な資機材の導入に困難を伴う等の財政運営面の問題点。
④救急業務や予防業務の高度化等新しい消防需要への対応が、財政的、人的制約から困難である。
⑤地震等の大規模災害への対応に限界がある。
そして、これらの問題点は消防本部の広域化によって解決されるといいます。
●消防広域化基本計画策定指針
▼高度な消防サービス
この報告書を踏まえて出されたのが「消防広域化基本計画策定指針」(以下、指針)で、小規模消防本部を広域再編する計画を作るよう都道府県に求めたものです。
「高度な消防サービスの提供」がキーワードとなっていて、「一般に消防本部の規模が小さくなるほど、財政基盤や人員、施設装備の面で十分でなく、高度な消防サービスの提供に問題を有していることが多い」と指針は述べています。*2)
規模が小さいと高度な消防サービスが提供できないというのは一見もっともらしいのですが、「高度な消防サービス」とは何かについてはどこにも書いてありません。
*2)消防庁「消防広域化基本計画策定指針」(1994年)。
先ほどの5つの問題点を裏返すと、
①消防職員の充足率、はしご車等の特殊車両の充足率が高い。消防職員の兼務割合は低く専門的体制が整備できる、火災放水開始時間、救急現場到着時間が短縮される。
②人事ローテーションの設定が容易でポスト不足が解消され、人事管理が十分出来る。
③高価な資機材の導入ができ、財政運営面の問題点が解消する。
④財政的、人的制約から解放され救急業務や予防業務の高度化等、新しい消防需要への対応が十分出来る。
⑤地震等の大規模災害に対して問題なく対処できる。
ということになるのでしょうか。
広域化したからといって、こういうことが可能になるとはとても思えません。
指針に別紙として付けられている「標準的大綱」*3)には、「広域化により、住民サービスが均一化し、かつ高度化する」とありますが、この点については改めて触れたいと思います。
指針はどの程度の広域化を考えているのでしょうか。「地形、交通事情、住民の日常生活圏、医療圏との関係等からまとまり易い地域と規模であること」など4つの条件*4)を付けつつ、適正規模は「管内人口10万人以上」(全国消防長会の提言)としています。しかし、なぜ10万人以上なのか、その根拠は示されていません。
とにかく、「小規模消防の広域再編は不可避」、避けられないのだと、都道府県に対して消防広域化基本計画の策定を迫りました。
*3)同「消防広域化基本計画の標準的大綱」」(1994年)。
*4)① 住民への適切なサービスの提供を行うという観点:地形、交通事情、住民の日常生活圏、医療圏との関係等からまとまり易い地域と規模であること。
② 効率的業務運営を行うという観点:火災等の災害の頻度と消防に対する投資とが全体として均衡の取れる地域と規模であること。
③ 人事・財政面での規模のメリットを生かせるという観点:計画的な職員採用、円滑な人事ローテーション、専門家の養成ができる職員規模と、高価な資機材の購入が円滑に行われる財政規模を有する組織であること。
④ その他の観点:広域市町村圏、二次医療圏等既存の関連する行政の枠組みとの整合性を考慮したものであること、職員の通勤、転勤等に無理が生じないこと、地域の歴史・住民感情等から、まとまり易い範囲、規模であること。
▼自主的再編の推進
しかし、指針は同時に、「地域の自主的な意思に基づき」広域再編が行われるようにすべきであって国や都道府県による画一的な指導はなじみにくい。だから「市町村や住民の間のコンセンサス(合意)に基づいて」進めなさいと言っており、この点は地方自治の観点から当然のことと思います。
計画期間は、「最長10年以内」となっていますので、2004年までには全国で広域化が完了するということでしたが、市町村合併をしたところを除くとそれほど進みませんでした。1995年に消防本部は全部で931本部ありましたが、そのうち10万人未満は623本部で全体の67%。それが2006年には811本部中10万人未満は487本部で60%です。7ポイント減ったに過ぎません。
(2)消防組織法の改正と広域化基本指針の制定
広域化が進まない事態を打開するために、2006年2月、消防庁消防審議会が「市町村の消防の広域化の推進に関する答申」(以下「答申」)を出し、6月には、消防組織法を「改正」し、広域化を法律のなかに位置づけました*5)。
さらに7月、「市町村の消防の広域化に関する基本指針」を出します。答申は、「一般論としては、消防本部の規模が大きいほど火災等の災害への対応能力が強化される」「全県一区での広域化は理想的な消防本部のあり方の一つ」としたうえでこれまでの管轄人口10万人から30万人以上と目標を引き上げました。
消防組織法の改正について答申は、国、都道府県、市町村が一丸となって広域化に取り組んでいくためだとし、とりわけ都道府県の役割を強調しています。
推進期限を2012年度末に再度設定し、法律まで変えて広域化を進めようとしましたが、やはりうまくいきませんでした。
*5)消防組織法第4章「市町村の消防の広域化」。
(3)広域化基本指針の一部改正
そこで2013年に基本指針を一部「改正」します。
改正についての消防長官「通知」では改正の理由として、2006年の消防組織法改正後の広域化の進捗状況が不十分であり、管轄人口10万人未満の小規模消防本部が約6割を占めていることを挙げています。
改正のポイントの一つは、消防広域化重点地域を定め、それを梃子にして段階的に推進することです。管轄人口30万人以上という目標もこだわらない。「必要に応じて地域の実情を踏まえた組み合わせを検討」することを都道府県に要請しています。
もう一つのポイントは手厚い財政措置です。重点地域になると広域化準備の経費は特別交付税措置され、消防署の増改築、消防指令センターや消防車両の購入などに対しては「緊急防災・減災事業債」が使える。充当率100%で、交付税算入率が元利償還率70%。たとえば5000万円のはしご車ならば、すべて借金で買えて、3500万円プラス利子が交付税に算入される。大変有利な起債です。
このような措置を取ったうえ、推進期限を2018年4月1日まで延長しましたが、広域化は進みませんでした。2018年に消防本部は全部で728本部、10万人未満は433本部です。全体の59.5%で2006年から0.5ポイント減ったにすぎません。
その後も「市町村の消防の連携・協力に関する基本指針」(2017年)や「市町村の消防の広域化に関する基本指針」を一部改正(2018年)し、再度、推進期限を2024年4月1日まで6年延長して、今日に至っています。
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