「選挙に行こう!」 第3章 社会保障改悪 3つのデマを斬る

もくじ
1.選挙とは何か 
2. 社会保障改悪の40年
3.社会保障改悪 3つのデマを斬る
4.政治を変えれば社会保障はよくなる

 

第3章.社会保障改悪 3つのデマを斬る

40年以上にもわたって社会保障は改悪され続けてきたのですが、多くの国民は、困るけれども「やむを得ない」と思っています。

それは3つのデマに騙されているからです。

3-1.高齢化社会危機論

一つ目は「高齢化社会危機論」です。

この「みこし図」を見たことがあると思います。

上は「高齢者人口」で65歳以上。下は「生産年齢人口」といって15~64歳までの人口を表しています。「生産活動を中心となって支える」年齢層という意味で「生産年齢」というようです。

そして次のような脅し文句がたいてい添えられている。

「1965年は高齢者1人を、生産年齢人口9.1人で支えていました。それが、超高齢化社会の2025年には高齢者1人に対して生産年齢人口2.0人、2050年には高齢者1人を生産年齢人口たった1人で支えなくてはなりません」。

加藤竜太明治大学教授は、

少子高齢化ではない、少子超高齢に突入した日本社会の危機」というネット記事に、2人に1人が65歳以上という社会になったら「年金の受給額を下げるしかありません。現役世代の負担を現実的なところにしようとすれば、厚生労働省などは所得代替率50%以下にはしないと言っていますが、それは難しい話で、40%くらいにしなくてはならないでしょう。なおかつ、消費税率を40%近くまで上げないとまかないきれません。

と書いています(明治大学「Meiji.net」5月26日)。

高齢者1人を9人で支えていたのが、今や2人で支えている。2050年には1人が1人を支えるようになる。これでは社会保障の削減も増税もやむを得ない、ということになるわけです。

「支える」「支えられる」とは?

「支える」とか「支えられる」とはどういう意味でしょう? 

支える人とは「生産」年齢とあるように、働いている人のことですよね。しかし、15歳から64歳の人は全て働いているのでしょうか? 高校生や大学生など学校に行っている人は勤労学生を除いて支えられる側、「みこし」の上に乗っています。専業主婦もそうです。「引きこもり」の人もですね。働いていない人はみんな「みこし」の上。

一方、65歳以上の人はどうか? 

この高齢化社会危機論が広がっていった1980年代、国会でも問題になりました。 「いったいこの議場に65歳以上の方が何人いるでしょう」。議場は爆笑。そのときのデータは分かりませんが、前回の衆議院選挙(2017年)で当選した議員の当選当時65歳以上の人は96人。全議員(465人)の2割です。

国会議員だけではありません。全就業者数(6,465万人、2016年)のうち、60~64歳の者は8.1%、65~69歳の者は6.8%、70歳以上は5.1%です。就業者に占める高齢者の割合は年々増えていて、「みこし」の上から下りてきています(2017年版『高齢社会白書』)。

女性(15歳~64歳)はどうでしょう。

1986年の就業率は57.1%でしたが2016年には72.7%と増えている。15.6%も「みこし」の上から下りて、支える側に変わっているわけです。

また、「みこし」の上か下かその判断が難しい人たちがいます。

それは年収200万円以下の非正規労働者です。年収200万円以下では、納める税金や社会保険料が正規労働者よりも相当少ない。その非正規労働者が年々増えているわけです。

1984年は就業人口の15.3%、1990年には20%、2019年には37.8%と実に4割近くになっている。

このように、65歳以上を「支えられる人」とし20歳~64歳を「支える人」とするのは、事実と異なるのです。

ではどのように考えたらいいのでしょう。

それは、「働いている人」と「働いていない人」の比率で「支える」「支えられる」関係を捉えること。就業人口1人当たりの扶養人数、非就業者1人に対する就業者の割合をみるのです。

働く人と働いていない人の比率はずっと1対1で推移しています。高齢者が増えるのは事実ですが、誇大宣伝なのです。

私たちは、「高齢化社会危機論」が登場した30年前から批判してきました。しかしマスコミも使った、政府の宣伝の影響力の方が大きく、今日なお多くの人が騙されています。

誤りをこっそり認める

総務省「自治体戦略2040構想研究会」*1)の第1次報告(2018年)を読んでいましたら、次のような記述があって驚いたんです・

「非就業者1人に対する就業者の人数(子どもを含む非就業者と就業者の比率)は0.9~1程度で推移しており、大きな変化はない」(28ページ)。

生産年齢人口と高齢者人口の比率を取り下げた訳ではないのですが、私たちの批判をこっそり受け入れたのです。

図表を見て下さい。

これは『厚生労働白書』(2017年)に載っていたグラフです。

青い線が「みこし図」と同じ、「高齢者1人を支える現役世代の人数」(生産年齢人口と高齢者人口の比率)ですが、オレンジ色の線は「非就業者1人に対する就業者の人数」です。1980年から2015年までだいたい1:1になっています。総務省の推計で2030年になってもやはり1:1なんです。

このことを認めざるをえなかった。しかし、「高齢者1人を支える現役世代の人数」を取り下げることはしない。両論併記です。しかも、「非就業者1人に対する就業者の人数」の意味については一切解説しないわけです。「高齢化社会危機」の誇大宣伝が続いています。


*1)「自治体戦略2040構想」の課題は、「人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える2040年頃から逆算し顕在化する諸課題」は何かを提起し、対応策を打ちだすことにある。

 

「所得の再分配」を無視

「みこし図」が見落としているのは、「社会保障」の観点です。社会保障については「3-3.自己責任論(「自助・共助・公助」論)」のところでお話しますが、高齢者を支えるのは個人個人ではなく、政府が実施する社会保障によってです。

社会保障は、「所得の再分配」であり、所得の多い大企業や高額所得者には、より多く税負担させ、それを社会保障給付などの形で渡すことで、所得の低い人も生活できるようにすることです。

そうすれば、社会保障は十分に支えられるのです。

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