書評 原爆ドーム 再生の奇跡

原爆ドームはヒロシマの象徴である。しかし、終戦直後には壊した方がよいという意見が根強くあった。存廃の結論が出ず、なんの補修もされないまま被爆から15年のときが経った。

転機をつくったのはドーム保存の署名と募金に取り組んだ「広島折鶴の会」の小中高生である。子どもたちの粘り強い運動は大人たちを動かした。当初、保存に否定的だった広島市長も「私の心を大きく動かしたのは、あの子たちの真剣な動きだった」と後日語ったという。

市議会も1966年、全会一致で原爆ドームの保存を決議。ようやく事態は動き出した(第三章)。

原爆ドームを保存して欲しいという願いは、保存する技術が伴わなければ実現しない。それがどのようにして達成されたのか。本書の真骨頂はここにあり、保存工事の責任者であった建築家の佐藤重夫氏(広島大学教授)を主人公とし、多くの技術者と施工にあたった技能者たちの試行錯誤を跡づけている(第四章~第六章)。

ドームの設計図がなく、「安易に触れば崩れる瀕死の物体」を実測して図面を起こすことから始めなければならなかった。

崩壊を食い止め、どのようにして固着、保存するのか。

佐藤氏は合成樹脂接着剤を使うことを思いつくが、当時、前例はそれほど多くなかった。屋外にあるドームを保存するにふさわしい接着剤をつくりだすこと、効果的な工法を見つけ出すこと、など課題は目白押しである。その一つひとつをクリアし、67年にドームは再生した。プロジェクトXさながらの知られざる人間ドラマである。

原爆ドームが私たちの前に立っているのは「奇跡」なのだ。

しんぶん赤旗日曜版 2022年8月28日号掲載 

 

 

 

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