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2023-06-28

マイナンバーと医療DXについて  2023年6月 府中町議会 一般質問

以下の原稿は、府中町議会の公式記録ではありません。また、年号については西暦に統一しています。

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はじめに

今月(6月)2日、 2024年秋に保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化する関連法が成立しました。
マイナンバーをめぐって様々な問題が発生しています。

慎重に進めれば避けられたであろう失敗の数々ですが、政府はトラブル山積であるにもかかわらず、保険証の廃止に邁進しています。

(6月)12日、岸田総理は参議院の決算委員会で、「なぜ保険証を廃止する必要があるのかという質問に対して、いくつか理由を述べましたがその一つとして「様々なデータの活用の幅がより広がっていく」ことを理由にあげました。個人の幅広い情報を集積、提供、共有することをプロファイリングと言うそうですが、このプロファイリングこそマイナンバー制度導入の最大の狙いです。

1.マイナンバーカードと健康保険証

マイナンバーとは

マイナンバーは、住民票を持つ日本国内の全住民に付番される12桁の個人番号で、「マイナンバー制度は行政の効率化、国民の利便性の向上、公平・公正な社会の実現のための社会基盤」だとされています。ここでいう「公平・公正な社会」とは、「公平公正な負担と給付」がなされる社会という意味のようです。

マイナンバー制度は「社会保障・税番号制度」とも呼ばれています。この名の示すとおり、「税務当局が取得する所得や納税の情報をマイナンバーで名寄せし、所得把握の精度を向上」させるための「納税者番号」であり、「真に支援を必要としている者に対し迅速かつ適切」に社会保障給付するための「社会保障番号」という位置づけです。

マイナンバー制度は、多様な形で利活用されていくことが予定されていますが、「社会保障・税番号制度」という名が示すとおり、核をなすのは社会保障と税です。社会保障については、「医療デジタルトランスフォーメーション」(以下、「医療DX」)推進の要として社会保障支出を削減し、マイナンバーによって集められた様々な情報を民間企業に利活用させる。税金については、インボイス制度とあいまって課税ベースを広げ、事実上の増税をする。

さまざまな個人情報を紐付けるカギ

マイナンバーカードには、券面とICチップにマイナンバーと4つの基本情報(氏名、住所、性別、生年月日)と顔写真が表示されています。これだけでも大切な個人情報であり、紛失、盗難などによる情報の流出が心配されます。さらに問題なのは、このマイナンバーにさまざまな個人情報が紐付けられていくことです。


現時点では、マイナンバーは、健康保険、特定健診、ワクチン医療接種記録にかかわる情報のほか、年金、住民税、雇用保険などの情報と紐付けされています。13万件の誤った登録があった預貯金口座も今のところ任意で紐付けが始まっています。

政府は(6月)9日、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(以下、「重点計画」)の改定を閣議決定しました。

この「重点計画」のなかに「マイナンバーカードの普及及び利用の推進」という項目があり、健康保険証との一体化に加え、運転免許証、日本で暮らす外国人の在留カード、自治体による子どもの医療費助成制度や診察券、母子保健の健診受診、母子健康手帳、介護保険証、障害者手帳、雇用保険受給資格者証、などをマイナンバーカードに一体化するとあります。国家資格、技能士資格、技能講習修了証明書、建設キャリアアップカードの情報も紐付ける計画です。

すでに2021年の「デジタル改革関連法」成立によって、医師、歯科医師、看護師など32の社会保障・税関連の国家資格をマイナンバーカードにひも付けることになっています。

今回の「マイナンバー法等の一部改正法」成立によって社会保障・税関連以外にも、理容師・美容師、小型船舶操縦士及び建築士など、50以上の国家資格や認定について新たに紐付けることにしました。将来的には約300の資格をマイナンバーに紐付けるといいます。 

また、マイナンバーカードを「市民カード化」を推進するとして、①キャッシュカードや交通系カードとの一体化、②図書館カード、③印鑑登録証、④大学での出席、入退館記録や各種証明書(在学証明書、成績証明書、卒業証明書など)発行に使用することなど、「日常生活の様々なシーンに持ち歩」くカードにするのだと言います。 
さらに、マイナンバーカードの電子証明書をスマートフォン(Android端末)に搭載することも今年(2023年)5月から始まっています。

送られてこない資格確認書

政府は来年(2024年)秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化する方針です。カードをなくした人や取得していない人が保険証の廃止後も必要な保険診療を受けられるように「資格確認書」を発行するといいます。この「資格確認書」はこれまで国民健康保険証が町から郵送されてきたのと違い、本人からの申請が必要です。申請が困難な人もいます。また、申請が必要なことが分からないまま、有効期限の切れた保険証を持ち続ける人も出るのではないかと思います。

厚労省の資料には「保険者が必要と認めるときは、本人からの申請によらず資格確認証を交付できることとする」とにありますが、保険者である府中町は、何をもって必要かそうでないかを判断するのでしょうか。

また、この間のトラブルで、マイナンバーカードで本人確認ができず、10割を支払ったケースがありましたが、「資格確認書」が入手できず、医療機関で10割を払わなければならない事態も想定されます。こういうことも決して起こしてはなりません。

そこで伺います。

マイナンバーカードのあるなしに関わらず、被保険者であれば医療にアクセスできるのが当然です。広島県とともに国保の保険者である府中町は、どのような対策を検討されているでしょうか。

福祉保健部長

「資格確認書」の交付について、まだ、国から政令等により、詳しい内容、取り扱いは示されていないため、詳細はまだわかりませんが、今年度から、国の動向を踏まえつつ、広島県全体で、検討課題を出して取り組む対応案を検討することとなりました。

国民健康保険等の被保険者が切れ目なく保険医療を受診できるよう、制度については、広報及び町ホームページ等で周知を図るとともに、申請を促す仕組み等の構築も含め、課題解決に取り組んでいきたいと考えています。

2.医療DXとは

つぎに医療DXについて質問します。

健康保険証廃止は医療DXの一環 

マイナンバーによって紐付けられる個人情報は実に多様で、さまざまな利活用が予定されています。とりわけ重要なのは医療関係で、「医療DX」を進める要となるのがマイナンバーです。

厚労省による医療DXの定義は次の通りです。

「医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」である。

医療だけでなく保健や介護も含めた、さまざまな個人情報をオンラインで利活用する。

データの外部化、共通化・標準化するための「全体最適された基盤」とは、現在の「オンライン資格確認等システム」であり、それを拡充して構築する「全国医療情報プラットフォーム」を意味します。

マイナンバーと被保険者番号の履歴を紐付けて、個人情報である保健・医療情報を流通させ、活用する。これが医療DXです。

医療DXの3本柱

 昨年(2022年)6月に閣議決定された「骨太方針2022」は、「持続可能な社会保障制度の構築」として、①「全国医療情報プラットフォームの創設」、②「電子カルテ情報の標準化等」、③「診療報酬改定DX」の3つの課題を掲げ、「行政と関係業界が一丸となって進める」としています。さらに4つめの課題として「医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる」と述べています。

(1)全国医療情報プラットフォーム

まず、「全国医療情報プラットフォーム」です。

この4月からオンライン資格確認が原則義務化され、 町内の医療機関にも「顔認証付きカードリーダー」が置かれています。これを使ってマイナンバーカードから情報を読み取り、本人確認するのが「オンライン資格確認」です。

被保険者番号、電子証明書のシリアルナンバー、資格情報を自動的に取り込むことができ、国保中央会・支払基金が保有する情報を医療機関・薬局に提供することができるようになる。現在は、本人の同意のもとにレセプトから抽出された診療・薬剤情報、特定健診・後期高齢者検診の情報を医療機関・薬局が閲覧することができます。

この「オンライン資格確認等システム」を拡充するのが「全国医療情報プラットフォーム」です。

「レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームを創設」する、と「骨太方針2022」に書かれています。プラットフォームとは、システムやサービスの提供に必要な「土台となる環境」のことを言いますが、この「全国医療情報プラットフォーム」に、介護を含む医療全般にわたる個人情報を集め、自治体や介護事業者等間を含め「共有・交換」、すなわち利活用できるようにするということです。

(2)電子カルテ情報の標準化

次に、電子カルテ情報の標準化ですが、全国医療情報プラットフォームを通じて共有、交換する情報を規格化し揃えることです。

診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書の3文書と、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急時に有用な検査、生活習慣病関連の検査)、処方情報の6情報を厚労省標準規格とすると言っています。

また、「今後、医療現場での有用性を考慮しつつ、標準規格化の範囲の拡張を推進」すると言ってますので、3文書6情報に留まらず、流通させる情報が増えていくことになるでしょう。

(3)診療報酬DX

第3に診療報酬DXです。

「デジタル技術を利活用して、診療報酬やその改定に関する作業を大幅に効率化」し、「医療保険制度全体の運営コスト削減につなげることを目指す」とあります。

「骨太方針2022」では、診療報酬DXの目的について「作業の効率化」についてしか述べていません、実際には隠された2つの目的があります。一つは、「医療費の適正化」のために使うこと。もう一つは、収集したデータを民間企業に提供し、ビジネスチャンスの拡大に結びつけようとすることです*1。

全国保険医団体連合会はすでに2007年の段階で警告を発しています。

本来レセプトは「療養の給付に関する費用」の請求明細に過ぎず、このデータを集積して、保険請求業務以外に利用することは、レセプトデータの目的外使用に該当する。

レセプトには最もデリケートな健康に関わる個人情報が含まれており、患者の同意なく、これを審査、支払以外の目的に使用することは個人情報保護法の趣旨にも反する……特にレセプトデータの民間への解放は国民の健康・医療に係わる情報が企業の“儲け”の対象にされるおそれがあるため禁止するべきである。

 
政府は、このような声に耳を傾けることなく、レセプトデータを集積し、保険請求業務以外に利活用できるように準備を進めてきたのです。   

社会保障個人会計システム

2001年に出された最初の「骨太方針2001」に「社会保障制度の運営コストの削減」という文言が登場し、そのために社会保障番号制――今日のマイナンバーです――と「社会保障個人会計システム」が必要だと述べています。「社会保障個人会計システム」とは、個人レベルで社会保障給付と税金、保険料、窓口負担、利用料などの負担を情報提供するシステムのことです。

経団連は2004年に「財産相続時における、社会保障受給額(特に年金給付)のうち本人以外が負担した社会保険料相当分と相続財産との間で調整を行う仕組みも検討すべきである」と提言しています。国保・国民年金、社保・厚生年金などの支払総額が黒字か赤字かを、国民一人ひとりについて判定する。

支払総額が赤字の場合は、その分を死後、遺産から取り立てるということです。そのために必要なのが総合的な社会保障・福祉オンラインシステムの整備、社会保障個人別カード(電子式)、社会保障・福祉制度に共通する個人番号だと経団連はいう。

「骨太方針2001」はまた、「『真』に支援が必要な人に対して公平な支援を行うことのできる制度を実現する」と述べています。国民を「真に支援が必要な人」とそうでない人に区分し、「必要でない」と判定した人の給付を減らしたり、負担を増やす。そういうことを2001年の段階で考えていたわけです。

今進められている医療DX――全国医療情報プラットフォーム、マイナンバー制度・マイナンバーカードの原点は小泉構造改革にあります。

医療費の「適正化」

2005年6月、同じく小泉政権のもとで閣議決定された「骨太方針2005」は、超高齢化社会において持続可能性を確保するためには社会保障給付の過大・不必要な伸びを厳しく抑制しなければならないとし、「医療費適正化の実質的な成果を目指す政策目標を設定し、達成のための必要な措置を講ずる」と述べました。

この「骨太方針2005」を受け、同年12月1日に政府・与党医療改革協議会の「医療制度改革大綱」、12月21日に「規制改革・民間開放の推進会議に関する第2次答申」、2006年1月に「IT新改革戦略」が出され、「医療費適正化」が具体化されてゆきます。同年6月、「高齢者医療確保法」を制定。「後期高齢者医療制度」によって75歳以上の高齢者を国保・健保から切り離し、「医療費適正化計画」「特定健康診査・特定保健指導」「医療保険等関連情報の調査及び分析」を一体的に進めることを法制化しました。 

(4)医療ビッグデータ分析

次世代医療基盤法

第4に医療ビッグデータ分析です。

「医療ビッグデータは宝の山」「21世紀の石油」などと言われています。健康診断やレセプト情報が富を生み出す。それを後押しするのが医療DXの大きな目的の一つです。

「次世代医療基盤法」(医療ビッグデータ法」)が2017年に公布されました。「健診結果やカルテ等の個々人の医療情報を匿名加工し、医療分野の研究開発での活用を促進する法律」だと内閣府は説明しています。

2017年5月30日から全面実施された「改正個人情報保護法」は、医療情報の多くを「要配慮個人情報」とし、第三者に提供するにあたっては本人の同意(オプトイン)が必要です。それに対して「次世代医療基盤法」は、本人あるいはその遺族が拒否しない限り、医療機関等は認定事業者に医療情報(要配慮個人情報)を提供することができ、認定事業者は、利活用者(製薬会社や研究機関)に匿名加工医療情報を提供できるようにしました。

このように個人情報保護法の「抜け穴」として「次世代医療基盤法」は作られたのですが、経団連は「まだ足りない」と見直しを求めました。2022年6月、内閣府は「次世代医療基盤法検討WG 中間とりまとめ」を発表します。

「匿名加工医療情報は、氏名等と仮IDの対応表を破棄する必要があること等により、特定の個人を再識別したデータ追加による継続的・発展的な研究が困難であり、研究や薬事目的で活用しにくい」とし、「再識別による継続的・追加的なデータ提供を可能とする匿名化の在り方」について検討すると述べています。再識別による継続的・追加的なデータ提供は、個人が特定できなければ不可能です。

これ以外にも、「薬事承認のため審査当局に提出された匿名加工医療情報の元データの提供の可能化」、「利活用者が情報を探索・活用しやくするような取組」が検討課題とされており、いずれも「匿名化」された情報を再び個人が特定できるものに戻すものです。

この「中間とりまとめ」に対して経団連は意見書をまとめていますが、次世代医療基盤法を個人情報保護法が禁じているゲノム情報や個人の特定が容易な、少ない症例・特異値の活用を推進する仕組みとせよ、データサイエンティストが元データにアクセスできるようにせよ、医薬品の承認申請においては申請者(製薬企業等)が元データへのアクセスできるようにせよ、と言いたい放題。

挙げ句は、「必要以上の規制強化は利活用者の負担となり、利活用の障害となることから避けるべきである」と、個人情報保護法の「抜け穴」として作られた「次世代医療基盤法」の完全な「骨抜き」を求めています。

この意見書を受けて、内閣府は次世代医療基盤法を見直し、「①希少な症例についてのデータ提供、②同一対象群に関する継続的・発展的なデータ提供、③薬事目的利用の前提であるデータの真正性を確保するための元データに立ち返った検証」ができるように検討するとしました。

また、新たに「仮名加工医療情報」を創設。「仮名加工医療情報」とは他の情報と照合しない限り、個人を特定できないよう加工した情報をそう呼ぶのだそうです。個人情報から氏名やID等を削除するのですが、他の情報と照合すれば個人の特定が可能だということです。

情報銀行の活用

今月(2023年6月)16日、「骨太方針2023」(「経済財政運営と改革の基本方針2023」)とともに閣議決定された「成長戦略等のフォローアップ」に「2022年度に行った健康・医療分野における情報銀行の活用等の検討結果を踏まえ、2023年度末までに情報銀行の認定指針を改定する」と書かれています。

情報銀行は、行動履歴や購買履歴、ヘルスケアデータなど個人情報を含むデータ(パーソナルデータ)を個人から預かり、パーソナルデータを利用したい事業者に提供します。個人情報を集めて、それを必要とする企業に販売する「銀行」で、2019年から認定が始まりました。

現在、三井住友信託銀行株式会社、中部電力株式会社、みずほ銀行とソフトバンクが設立したJ.Scoreなど7社が「情報銀行」として認定されています。

出典:総務省地域通信振興課デジタル企業行動室「情報銀行の取組」

要配慮個人情報

現在は個人情報保護法によって、個人データの提供は規制されており、病歴(診療・調剤情報)、健診結果、保健指導、障害(身体・知的・精神障害(発達障害を含む)、遺伝子検査結果(ゲノム情報)、を含む「要配慮個人情報」を扱う事業は情報銀行に許可されていません。

しかし、これに対して経団連などから、「要配慮個人情報」が取り扱えないため不都合が生じていると規制緩和を求めています。これを受けて、総務省は2022年11月に「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会 要配慮個人情報ワーキンググループ」を立ち上げ、今年3月に「とりまとめ(案)」を示し、情報銀行が「要配慮個人情報」も取り扱えるように変えてゆく方針です。

厚労省の資料に示された、預託、収集された情報の使い道は、「利用者個人のために(直接的便益)」とされているものでは、自治体関係として「住民個別の健診の受診勧奨、要支援者、子育て世帯への生活支援」があげられていますが、「要配慮個人情報」を取得しなければできないことではありません。

企業の活用例としては、①フィットネスジム、レシピ提案などのヘルスケアサービス、②家事代行サービス、高齢者見守りなど介護保険外サービス、③保育園での預かり、シッター派遣などの子育て支援サービス、④保険の提案・見直し、⑤ヘルスケアに係る商品・サービスの広告などをあげています。これらは有料のサービスと商品購入を促す広告というビジネスです。ねらいが企業への情報提供だということは明らかではないでしょうか。

「利用者個人以外のため(間接的便益)」とされるものとしては、自治体関係としては、地域の健康増進に係る政策の企画、地域全体の高齢者サポート体制づくりがあげられていますが、これもまた「要配慮個人情報」を取得しなければできないものではありません。

企業の活用例としては、新薬開発・医療機器開発を筆頭に、生活習慣病改善に向けた運動プログラム開発、特定の疾病の方に向けた健康食品の開発、健康チェックソフト・アプリ開発があげられています。

ここにこそ「要配慮個人情報」を収集する目的があります。

ビッグデータ分析

政府は「匿名加工医療情報」とか「仮名加工医療情報」という言葉を作って、個人情報が守られるかのように説明しています。しかし、収集した情報は分析され、政府や企業が一人ひとりに何らかの働きかけをするために用いられます。

 ビッグデータ分析は、次のようなプロセスを経ます。

①大量のデータが収集され、プールされる(=「ビッグデータの収集・集積」段階)。

②それがAIによって解析され、我々人間が気づかなかったような事物の相関関係や行動パターンが抽出・発見される(=「解析」段階)。

③こうした相関関係やパターンが特定のデータペースに適用(apply)され、当該データベースに登録された特定個人の趣味嗜好、健康状態、能力、信用力などが自動的に予測される(=「プロファイリング」段階)。

④この予測結果が特定の目的(企業の採用活動、与信、テロリズム対策、裁判所の量刑判断など)のために利用される(=「利用」段階)。

⑤予測結果の妥当性を検証するためにでデータベース登録者の行動が事後的に追跡される(=「追跡」段階)。

(山本龍彦編著『AIと憲法』20-21頁)

インターネットで何かを検索・閲覧したり、購入したりすると「お勧めの商品」が提案されたり、広告が表示されています。

注意して画面を見ていると「広告用ID等とお客様の興味関心(推定)を用いて当社所定の広告配信事業者によるターゲティング広告がなされます。興味関心の推定は、当社・広告配信事業者それぞれが行う場合があります」と表示されていることに気づきます。

これと同じことを医療DXでやろうとしているわけです。私たちの情報を知らないうちに収集・分析し、活用する。

特定健診・データヘルス計画

町の実施している特定健診・後期高齢者検診の情報は、「オンライン資格確認等システム」によって、現在は医療機関と薬局が閲覧できます。今後は製薬会社をはじめとする民間企業が利活用できるようにする。

特定健診・後期高齢者健診(府中町は「長寿健康診査」と呼んでいる)はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診で、2006年の高齢者医療確保法に基づき2008年度から始まりました。血液検査や尿検査などによって「糖尿病、高血圧症をはじめとする生活習慣病の兆候やリスクをいち早く発見する」ためのものです。医療保険者(健康保険組合や全国健康保険協会などの各被用者および国民健康保険)が実施主体となっています。特定健診は40~74歳の加入者(被保険者・被扶養者)を対象として行われ、75歳以上は後期高齢者医療制度の加入者が対象です。

町内に住む国保加入者と後期高齢者制度加入者に対して当町が特定健診・後期高齢者健診を実施しています。これらの健診データとレセプト(診療報酬明細書)データを分析し、「被保険者の健康づくりや疾病予防・重症化予防を行う」ために医療保険者は「データヘルス計画」を作ることになっています。

当町も2017年に「府中町国民健康保険データヘルス計画」を策定しました。冊子の冒頭に、計画の趣旨として「被保険者の自主的な健康増進及び疾病の予防の取組を支援」することとあり、これが大変重要だと思います。

特定健診は特定保健指導とセットであり、厚労省の資料には「(自分)自身で、『行動目標』に沿って、生活習慣改善」するようアドバイスするとありましたが、同様の立場だと思います。この資料にはQ&Aがあって「プライバシーが守られるのか心配だけど大丈夫」という問いに対して、次のように回答しています。

医療保険者は個人情報保護法に従い健診・保健指導の結果データを厳重に管理することが義務付けられており、漏洩被害があった場合等は、法律で罰則が定められています。

また、実施機関は、委託元である医療保険者の個人情報保護規定を遵守し、受診者のプライバシー情報を守ることが求められており、同様に法律で罰則が定められています。

しかし、今回の医療DXのキーワードの一つは先ほどから述べているように「個人情報の利活用」です。厚労省が昨年作った資料「医療DXについて」には「保健・医療情報(介護含む)の利活用を積極的に推進していくことは非常に重要」「医療情報の適切な利活用による創薬や治療法の開発の加速化により、関係する分野の産業振興につながること…が期待される」と書かれています。

先ほどのQ&Aの答えにあった「健診・保健指導の結果データの厳重な管理」「受診者のプライバシー情報を守る」は空文句となるでしょう。
町民の皆さんの「自主的な健康増進及び疾病の予防の取組」を支援する「データヘルス計画」が、医療DXによって、企業に利活用され、儲けの手段になることにシフトするのではないかと危惧しています。

そこで伺います。

②当町でのデータヘルス計画と保健指導はどのような内容になっているでしょうか。

福祉保健部長

国民健康保険及び後期高齢者医療保険の対象者の健診結果は、健診後、国保連合会に集約されます。国民健康保険の対象者については、健診結果やレセプト情報を基に、町で保健指導対象候補を抽出し、候補者のうち参加希望者に保健指導を行っております。
事業としては、特定保健指導、糖尿病性腎症重症化予防プログラム、頻回重複受診指導、未受診者(異常値放置)勧奨を実施しています。 後期高齢者医療保険の対象者については、健診結果やレセプト情報を基に、町の課題を分析し、課題解決に向けて保健指導や介護予防事業を一体的に実施しています。

事業としては、糖尿病性腎症重症化予防プログラム、通いの場での周知・啓発活動を実施しています。「データヘルス計画」は、2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」を受け、すべての健保組合は、健康一医療情報を健診データやレセプトデータを活用してデータ分析し、PDCAサイクルに沿って効果的かつ効率的に健康課題の把握や保健事業を実施し、被保険者の健康づくりや疾病予防一重症化予防を行うための計画です。計画期間は2017年度から2023年度となっており、2021年度に中間評価と見直しを行いました。

分析結果としましては、本町の2020年度の一人あたりの医療費 (調剤を除く)は、県内14位で、平均より低い値となっていました。また、2017年度から2019年度にかけては、被保険者一人あたりの医療費はわずかながら減少しており、「生活習慣病にかかる医療費が高い」結果を受け、町が取り組んできた効果がみられていると考えられます。 今後も、健診データを活用し、運動や健康的な食生活の推進、特定健康診査の受診、特定保健指導の利用勧奨など、生活習慣病の早期発見、重症化予防の取り組みを継続してまいります。

《2回目》

「日刊ゲンダイ」(6月17日付)に「『健康保険証』廃止で自治体から悲鳴…事務作業激増で職員に『死人が出るレベル』深刻懸念」という記事が出ていました。

記事は次のように書いています。

ただでさえ、窓口業務の負担増がミスにつながっているのに、これから先、さらに業務が逼迫する恐れがある。最大2万ポイントがもらえる「マイナポイント第2弾」が9月末に期限を迎えるうえ、来年秋の保険証廃止に伴う新たな事務作業がのしかかるからだ。

日本全体ですと、6月11日現在で、マイナンバーカードを申請した人は約9,720万人(人口の77.2%)で、健康保険証として利用登録した人が6,376万人(交付枚数の69.3%)です。77.2%のうちの69.3%ですから、いわゆる「マイナ保険証」を持つ人は人口の53%です。さまざまなトラブルが発覚して、少なくない国民がマイナンバー制度やカードに不信感を抱いています。保険証を紐付けする人は今後あまり伸びないのではないかと思われます。このままで推移すれば3,000万人前後の人に「資格確認証」を発行する事態になる。

当町の場合は今年4月の数字ですが、国保加入者は8,193人で、マイナンバーカードを国保証として利用登録した人が4,341人、53%です。3,000人以上の人に「資格確認証」を届けないといけなくなる。

これまでは国保加入者全員に郵送し、問題はなかったと思います。

近々届く新しい保険証は来年(2024年)7月31日が有効期限です。これまで通りの保険証はこれが最後で、「健康保険証」廃止後は1年間有効とみなすとされています。当町の場合は2025年の7月末までです。この前後に問合せ、健康保険証として利用登録する人、「資格確認書」を申請する人が殺到する可能性がある。放っておく人もでるでしょう。それぞれに別々の対応が求められます。

京都市ではマイナンバーカードを申請した人で4万人が受け取りにきていないという問題が発生しています。混乱は必至です。

問合せやクレーム対応を含め、職員の事務量は相当増えることになるでしょう。役場はすでにオーバーワークが原因で病気になったり退職する人が出ています。

そこで伺います。

③国保証廃止による過重負担によって職員の健康が損なわれないように職員配置をすべきだと考えますが、町の見解をお聞かせください。

保険年金課長 今後、国から詳しい内容や取り組みが示されていく中で、事務を進めていくことになりますが、事務量に見合った適正な人員配置を心がけていきたいと考えています。

《3回目》

3月議会で「自治体DX」について取り上げました。「出来の悪いSF小説のようだ」という感想がありましたが、医療DXは、より一層出来が悪くなっています。

健康ゴールド免許  

「骨太方針2001」で「社会保障個人会計」が提起されました。総理大臣は、小泉純一郎氏です。それから15年後の2016年、息子である小泉進次郎氏が自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会」の委員長代行として「健康ゴールド免許」構想を発表しました。

その要旨は次の通りです。

①生活習慣病、がん、認知症は普段から健康管理を徹底すれば、予防や進行を抑制できる。

②「病気にならないようにする」自助努力を支援していく。

③現行制度では、健康管理をしっかりやってきた人も、そうではなく生活習慣病になってしまった人も、同じ自己負担で治療が受けられる。これでは、自助を促すインセンティブが十分とは言えない。

④今後は、健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けていただく。そして、健康維持に取り組んできた方が病気になった場合は、自己負担を低くすることで、自助を促すインセンティブを強化すべきだ。

⑤医療介護でも、IT技術を活用すれば、個人ごとに検診履歴等を把握し、健康管理にしっかり取り組んできた人を「ゴールド区分」に出来る。いわば医療介護版の「ゴールド免許」を作り、自己負担を低く設定することで、自助を支援すべき。

 

医療DXの最も重要なねらいが明け透けに語られています。個人ごとに検診履歴などを把握し、「真に支援が必要な人」とそうでない人を区分する。健康管理をしっかりした人が「真に支援が必要な人」であり、それを怠った人は支援に値しない。これが2001年に提案された社会保障個人会計の行き着く先です。

自助・自己責任は資本主義の基本原理ですが、それだけでは貧困、格差が広がり、犯罪も増えた。それで20世紀に入って、国家が主体となって「健康で文化的な暮らし」を支える社会保障が登場しました。しかし、20世紀末から、日本では小泉構造改革以後、自助・自己責任が強調され、社会保障は後退し、19世紀に後戻りしたかのようです。医療DX、社会保障個人会計、「健康ゴールド免許」は、公的保険、社会保障の名に値しないものです。

地方自治体の任務は「住民の福祉の増進を図ること」(地方自治法第1条2)にあります。医療情報がきちんと保護され、データヘルス計画が、企業の儲けの対象にならないよう、また国保加入者の医療を受ける権利が阻まれないように頑張っていただきたいと思います。


《参考文献》

黒田充(2016)『マイナンバーはこんなに恐ろしい』日本機関出版センター。
黒田充(2020)『あれからどうなった? マイナンバーとマイナンバーカード』日本機関出版センター。
黒田充(2023)『何が問題か マイナンバーカードで健康保険証廃止』日本機関紙出版センター。
山本龍彦(2017)『おそろしいビッグデータ 超類型化AI社会のリスク』朝日新聞出版。
山本龍彦(2018)『AIと憲法』日本経済新聞出版社。

ふたみ伸吾 ほっとらいん

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