府中町における就学援助制度について

《追記》 この委員会での検討が一つのきっかけとなり、就学援助の「新入学学用品費」の入学前支給が決まりました。

小学校新1年生は2018年4月入学から、中学校新1年生は2019年4月入学から2月末に支給されます。
  →就学援助 入学準備金(中学校)の3月支給が決まりました(2017年12月)
  →小学校でも新入学学用品の入学前支給が実現(2018年12月)

 


2017年7月14日、第5回総務文教委員会があり、府中町における就学援助制度について検討しました。

「学習権」を保障するための援助制度

日本国憲法26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」としたうえで、「義務教育は、これを無償とする」と述べています。無償とは、一般に「授業料を徴収しない」(教育基本法5条4項)ことだと解されていますが、学校に通うためには、さまざまな費用が必要です。

教育基本法4条1項は「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」とし、3項で「国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない」と定めています。

学校教育法も19条で「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」と述べています。経済的理由で就学が妨げられてはならない。家が貧困で就学困難な子どもとその保護者に対して援助することが教育を受ける権利を保障するために不可欠だということです。すべての子どもたちに教育を受ける権利=学習する権利を保障するために就学援助制度はあります。

就学援助制度の対象

要保護者と準要保護者が就学援助の対象になります。要保護者とは、生活保護を受けている、あるいは保護を必要とする状態にある人です(生活保護法6条)。準要保護者とは、要保護者に準ずる程度に困窮していると市町村教育委員会が認める人です。
ですから、要保護に該当するかどうかは生活保護基準に基づき、全国でほぼ同一の条件で決まりますが、準要保護の対象は市町村によって基準が異なります。府中町の場合は以下の通りです。

注にあるとおり、生活保護基準額の1.2倍の所得額をめやすとしています。

この生活保護基準の1.2倍という「めやす」は他の市町と比べてどうでしょうか。文科省調査による全国の状況は右の表のとおりです。もっとも多いのが1.21~1.3倍で、626自治体、全体の35.5%を占めます。府中町と同じ1.11~1.2倍は225自治体で12.8%です。11ほどですが1.5倍超というところもあります。


広島県内で、府中町と同じように生活保護基準に一定の係数をかける方法で「準要保護」の基準をつくっている自治体は23市町のなかで14市町です。
1.5倍が竹原市、1.3倍が三原市、福山市、東広島市、坂町、大崎上島町の5市町、1.25倍が廿日市市、1.2倍が府中町、1.1倍が海田町、熊野町、北広島町となっています。(下の表「準保護認定基準」

どのくらいの人が就学援助を受けているか

府中町で就学援助を受けているのは、児童生徒あわせて833人で児童生徒に占める割合(援助率)は、約2割です(下の表)。援助率の高さは、貧困化が進むことによっても高くなりますが、制度の改善によって就学援助が受けられる層が広がるということによっても高くなる場合があるので単純な比較はできません。


府中町の場合、生活保護基準の1.2倍の収入で児童生徒の2割が就学援助を受けていますが、1.3倍、1.4倍となれば、それだけ援助を受ける児童生徒が増え、援助率が高くなるわけです。

子どもの貧困と就学援助

 

上のグラフは要保護および準要保護児童生徒の推移です。平成7(1995)年から平成26(2014)年までの20年間で要保護、準要保護の児童生徒数はともに2倍になっています。要保護者14万人、準要保護者135万人、援助率は15.6%です。これは「子どもの貧困」の広がりと軌を一にしています。

下のグラフは相対的貧困率と子どもの貧困の推移をあらわしたものです。世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した所得の中央値(平均ではない)の半分を貧困ラインといいます。平成24年と27年の貧困ラインは122万円で、可処分所得が122万円に届かない世帯の割合が相対的貧困率です。

 

平成6(1994)年には12.2%であった子どもの貧困率は平成24(2012)年には16.3%になり平成27(2015)年には13.9%へ2.4ポイントも下がっています。子どもの貧困が一定改善されたと評価するむきもありますが、これは低所得世帯の有業人口が増えた、すなわちワーキングプアが増えたことによるものです。

分かりやすい案内

府中町の就学援助についての案内は、所得の目安などもあり、広島市などとともに分かりやすく、申請書も付いていて、親切なものとなっています。

毎年、全児童・全生徒に学校で配布しますので、申請率の高さにつながっています。

 

就学援助制度の内容

 

就学援助の内容は上の表のとおりですが、以下はその補足です。

学用品費等…通学用品費、宿泊を伴わない校外活動費。

新入学学用品費等…ランドセル、制服など(府中町の場合、小学校は制服がない)。

学校病医療費…学校病とは児童・生徒の多くにみられる疾病または異常の俗称です。トラコーマ、結膜炎、白癬、疥癬、膿痂疹(のうかしん)、中耳炎、慢性副鼻腔炎、アデノイド、むし歯、寄生虫病です。アレルギー性は含まれません。これらは学校保健安全法施行令によって定められているものです。要保護者は医療費の全額、準要保護者は3割が支給されます。

要保護の補助対象には、クラブ活動費、生徒会費、PTA会費があります。準要保護で、これらに補助をしている市町村はクラブ活動費と生徒会費については全国で約2割、PTA会費は約25%となっています(平成27年度文科省調査)。

これら3費目への助成のあるところは「大変助かっている」という声があるそうで、府中町でも助成を検討する必要があるのではないでしょうか。と同時に府中町では、遠征費などクラブ活動そのものへの助成を各学校に対して行っていることは評価され、一般施策としての拡充も期待されます(中学校:選手派遣等補助金300万円、部活動充実費補助金60万円。H29年度予算)。

入学準備金支給の時期

小学校ではランドセル、中学校では制服など入学の際には多額の費用が必要です。

就学援助制度には、新入学学用品費購入のための「入学準備金」があります。府中町の支給時期は5月です。しかし、購入は入学前にしなければなりません。いま全国で3月支給が広がっています。

総務文教委員会で尋ねたところ、①いままで前年度所得で計算してきたが、3月に支給する場合前々年度の所得となり、変動した場合の対応、②3月に支給し転居した場合の対応などが検討課題になっている、ということでした。

その場では、「すでに実施している自治体があるのだから研究検討して3月支給できるように」と要望しました。

東京都八王子市などは、①については入学準備金についてのみ前々年度基準で支給し、それ以外の就学援助金は前年度(従前通り)で支給。②については「平成30年 2 月 1 日以降にご転出をされましても、新入学準備金の返金は求めませんが、ご転出先自治体には本市で新入学準備金の入学前支給を行った旨を通知いたします」という形で対応しています。→八王子市「新入学準備金の入学前支給のご案内」(PDF)

準要保護への国の助成はない

今回の報告で驚いたのは要保護家庭については国の助成(二分の一)があるが、準要保護者に対する就学援助については、いわゆる三位一体改革によって国庫補助は廃止され、平成17年度から「一般財源化」(使途が特定されない)されました。

平成29年度予算で要保護、準要保護をあわせて就学援助は7450万円です(小中学校)。しかし、そのうち国の負担は要保護のみ、わずか110万円なのです。これだけ子どもの貧困が広がっているなか、自治体任せではダメで準要保護家庭への支給について国は負担をすべきです。

2 件のコメントが “府中町における就学援助制度について” にあります。

  1. 松田澄子 より:

    いつも素晴らしい展開ですね。9月議会が、6日から始まります。参考になります。私も、頑張って行きます。ありがとうございました。

  2. ふたみ 伸吾 より:

    松田さま。ありがとうございます。いささかなりとも参考になれば幸いです。

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