「国土強靱化」路線で府中町は「強靱」な町となるのか? 2021年3月議会一般質問
もくじ
「国土強靱化」と府中町の公共施設の維持保全について
※本稿は、正式な議事録に基づくものではありません。
●はじめに
東日本大震災(2011年)から10年が経ちました。その後も、熊本地震(2016年)、大阪北部地震(2018年)、北海道胆振(いぶり)東部地震(同)が起きています。風水害は毎年で、2018年に当町も西日本豪雨災害に見舞われました。大雪による災害も毎年起きており、昨年12月に関越自動車道で大規模な立ち往生が発生したことは記憶に新しいところです。まさに「大災害の時代」です。
こういった自然災害に対して、強くしなやかに対応できるようにすること、国土強靱化を図ることは当然です。2013年、政府が「国土強靱化基本法」を制定して10年近く経ちましたが、強靱化はあまり進展しているようにはみえません。府中町は老朽化している公共施設をたくさん抱えているわけですが、その更新についても少しずつしか進まない。いったい、なぜなのでしょうか。
1.公共事業予算の変化
●減少から増加へ
まず、日本全体の公共事業関係予算がどうなってきたのかを見ておきたいとおもいます。
1980年代は当初予算で6兆円台、補正を含めても7兆円というのが普通でした。
1990年に日米構造協議が開かれ、海部内閣がアメリカから430兆円(91年から10年間)の公共投資を迫られ、1994年の村山内閣時に630兆円に目標が引き上げられました。公共事業予算は、1991年、8.6兆円、92年には10兆円、98年、小渕内閣のときがピークで14.9兆円(当初予算は9兆円台)にまで膨れ上がり、全国で無駄なハコ物がたくさん造られました。
いわゆる小泉「構造改革」によって削減の方向に転じ、2001年度11.4兆円だった公共事業費を02年には10兆円へと1割削減し、06年には補正含め7.8兆円になったのです。第1次安倍政権、福田政権、麻生政権をへて、2011年、民主党政権(菅直人内閣)となり、補正含めて5.3兆円にまで公共事業費は減りました。
そして、東日本大震災を経た、第2次安倍政権下では当初予算6兆円、補正含め7兆円台を推移し、1980年代の水準に戻ったわけです。
●大都市圏中心、ビッグプロジェクトへの偏重
国の予算規模は1980年代の水準に戻りましたが、中小自治体の公共事業予算は元には戻りませんでした。大都市圏中心、ビッグプロジェクトに公共事業予算が偏っているからです。
東京外郭環状道路(外環道)は、トンネル工事によって住宅地が陥没したことがニュースになりましたが、これ以外にも中央環状線、圏央道という環状道路を首都圏で建設中で、3つあわせて8兆円を超します。羽田、成田、関空、中部、4つの国際空港整備、北海道、九州、北陸、3つの新幹線にリニア新幹線。こういうビッグプロジェクトに多くの予算が振り向けられています。
県内でいえば広島市への一極集中で、サッカースタジアム、高速5号線、広島駅南口再整備、アストラムライン延伸など目白押しです。 このように公共事業の構造に問題がある。そのうえ、「国土強靱化」のあり方も手放しで評価することはできません。
2.国土強靱化とは何か
●国土強靱化基本法と基本計画
2011年の東日本大震災から2年後の13年、国土強靱化基本法(「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」)が制定されました。
国土強靱化とは「強靱な国土、経済社会システムとは、私たちの国土や経済、暮らしが、災害や事故などにより致命的な被害を負わない強さと、速やかに回復するしなやかさをもつこと」*1だとされています。
この国土強靱化基本法に基づき、2014年に「国土強靱化基本計画」が策定されました(2018年改訂)。内容を検討しますと、国土強靱化に本当につながるのか疑わしい点があります。
前提になっているのは、人口減少と財政難です。この2つを口実に、様々なハードルが設けられ、強靱化を阻んでいるのです*2。計画は多岐にわたっていますので、ここでは公共施設に関わるものについてのみ指摘します。
基本法および基本計画の公共施設に対する基本的な考え方は「効率的な施策の推進」です。
第1に、人口が減り、「国民の需要が変化」する。これまでと同じ規模、数の施設はいらなくなるということです。第2に「気候変動等による気象の変化」によって災害はますます増える。第3に公共施設の老朽化が進む。第4に強靱化するには時間がかかるので、どういう順序で進めたら被害が少なくなるのかを考える。第5に、以上のような点を勘案して、財政資金を重点的に使う。
この「基本的な考えかた」の上に、①「既存の社会資本」の有効活用、「施設等の効率的かつ効果的な維持管理」という長寿命化計画、②「PPP/PFI による民間資金の積極的な活用」、③「土地の合理的利用を促進」という立地適正化計画、という3つのハードルのいずれかを越えて国土強靱化を図れと言っているわけです。
*1)パンフレット「国土強靱化とは?」3頁、内閣官房国土強靱化推進室
*2)この2つの前提は、政府のあらゆる計画・方針に共通し、すべてはそこから導き出されます。
3.立ちはだかるハードル
国土強靱化、災害に強い町づくりをしていくうえで公共施設を適切に維持・保全することが欠かせません。しかし、それには3つのハードルのいずれかを越えないといけません。
(1)長寿命化計画
まず、長寿命化計画からみていきたいと思います。「インフラ長寿命化基本計画」は2013(平成25)年に策定されました。「インフラの戦略的な維持・管理等を推進」することが目的です*1。
「Ⅲ 基本的な考え方」(2)③に「社会構造の変化や新たなニーズへの対応」という項目があり、そこには、その施設が本当に必要かどうかを再検討し、必要性が認められない場合は、廃止・撤去すると書かれています。まず、施設の削減ありきなのです。必要だと判断した場合には、機能転換や用途変更、複合化・集約化をしなさいという。基本計画においても「真に必要な各インフラにおける点検・診断・修繕・更新、情報の整備に係るメンテナンスサイクルを構築」(38頁)とあり、既存の施設を全てそのまま更新できると思うな、篩にかけるぞ、ということです。計画の名称が示すとおり、インフラの老朽化対策の柱は「長寿命化」であり、施設の延命です*2。
しかし、全ての施設がリフォームやリノベーションといった修繕=長寿命化で対応できるわけではありません。鉄筋コンクリート造であれば、基礎、コンクリート・鉄筋部分という躯体に問題があれば建替が必要です。
地球温暖化への対応として年間のエネルギー消費を実質上ゼロとする、ゼロエネルギー化も求められています*3。「熱性の向上や窓のやひさし等の工夫による自然光・通風の利用など建物の構造による省エネ化、空調・照明等の設備機器の高効率化、太陽光発電等の創エネ技術の適用」*4といったことをしなければなりません。
ICT化への対応も当然必要です。GIGAスクール構想によって全児童生徒がタブレット端末を使用することになりました。教室に「タブレット・PC充電保管庫」を置き、電子黒板を設置する。その分、教室は狭くなります。
このような点をよく検討し、施設の「長寿命化」が本当にトータルコストの縮減になるのか慎重に見極めたいところです。
*1「はじめに」で、「戦後、短期間で集中的にインフラ整備を進める必要があった」が「経年劣化や疲労等に伴う損傷はその進行速度が遅く、問題が顕在化するまでに長期間を要する」ので、必要な措置を講じてこなかったと言い訳し、「一刻も早く取組を開始する必要がある」と述べている。施設は毎年着実に老朽化し、修繕や建替について検討し、財政的な見通しをもつのは当然のことだが、国はこの問題を放置し続け、ここへきて「早くやれ」と言い出したわけである。
*2、「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」(平成 25 年 6月 14 日閣議決定)においては「インフラの老朽化が急速に進展する中、『新しく造ること』から『賢く使うこと』への重点化が課題である」としている。
*3 2016年5月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、業務部門において、CO2排出量を2030年度に2013年度比40%削減する目標が設定されており、その具体的な方策の1つとして「建築物については、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することを目指す」ことが掲げられた。その後、2018年7月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、「2020年までに国を含めた新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することを目指す」と修正されている。環境省HP「ZEB PORTAL」。
*4文部科学省「学校ゼロエネルギー化推進方策検討委員会の設置について」
(2)PPP/PFIによる民間資金の積極的な活用
つぎに民間資金の積極的な活用です。1999(平成11)年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(略称「PFI法」が制定されました。PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行い、国や地方公共団体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供をめざす、とされています*1。
2019(令和1)年度に実施方針を公表したPFI事業数は 77 件で、PFI法の制定された1999年から右肩上がりで増え、累計は818件になりました*2。社会教育施設、文化施設、道路、公園、下水道施設、港湾施設、医療施設、廃棄物処理施設、斎場、役場など事務庁舎、公務員宿舎 、警察施設、消防施設など、ほとんどの公的施設が対象となっています*3。PPP/PFI方式は、①初期投資が少なくてすみ、②財政支出が平準化され、③事業コストが削減されるということが自治体にとってもメリットだとされています。その結果、安くて良い公共サービスが提供につながるのだといいます。
PFI事業にとってVFM(Value for Money)=財政負担軽減効果は最も重要な概念の一つだとされています。VFMとは、従来の方式と比べてPFIの方が総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合です。しかし、PPP/PFI方式を採用すると、なぜ事業費コストが削減できるのか、その理由は定かではありません。PPP/PFI導入による事業手続きにあたって、VFMの検証をすることになっていますが、実際にはどうなっているのか。2019年に内閣府民間資金等活用事業推進室が「PPP/PFI導入に関する簡易検討マニュアル(案)」を作成しました。
2019年には、内閣府民間資金等活用事業推進室が「PPP/PFI導入に関する簡易検討マニュアル(案)」を作成しました。財政負担軽減効果について効果のあるなしをどのように判定するのか、その方法を2つあげています。一つは民間事業者への意向調査であり、もう一つは類似事例を参照することです。事業者に意向を聞くわけですから「PFIの方が安くなります」という答えが当然返ってきますし、もう一つの「類似事例の参照は、過去の事例の予測数値であって、実際にそうであったという検証数値ではない。いずれも財政負担軽減の検証の名に値しないものです*4。
PFI法から20年が経ちましたが、さまざまな問題が起きています。
福岡市の「タラソ福岡」は、2002年にPFI方式でできた健康増進施設*5で、開業から2年後の2004年11月に営業停止。施設収入も開業前の見込みを大幅に下回り、債務超過に陥りました。その後、。運営会社が変わりましたが、会員数が伸びず、維持修繕費もかさみ、2017年3月をもって撤退しました*6。
2005年、宮城沖地震の際、PFI方式で造られた仙台市「スポパーク松森」の屋内プールの天井が剥がれ落ち、重傷者が出ました。公務員が仕様まで管理した施設では、こういった被害はありませんでした*7。
ほかにも、名古屋港イタリア村、破産。高知病院、赤字・汚職のうえ契約解除。滋賀県近江八幡市立総合医療センター、PFI解除し直営に戻す。こういった事例があとをたたないわけです。
滋賀県野洲(やす)市では、PFI方式で増改築をした野洲小学校・野洲幼稚園の維持管理を契約解除。年間の維持管理費が野洲小だけで3650万円かかり、他の小学校の平均325万円の10倍でした。市長は「PFI方式そのものは国が推進した施策で、否定するものではない。ただ、抱き合わせで巨額の維持管理契約が結ばれたのは問題だった。この方式は営利目的でない学校には不向きだ」と話した、と新聞は伝えています*8。
まさに死屍累々です。民間資金は金利収入をあげるために融資されるのであり、経営上のノウハウや技術能力は企業の利潤のために活用されるのです。金融機関・企業にとってよりよい契約は金利が高く利潤がより多く得られる契約であり、企業努力は自治体にとっての「事業コストの削減」に結びつかないと考える方が自然だと思います。
*1 このPFIを含め、公共機関と民間企業が連携して公共サービスの提供を行う枠組みをPPP(Public Private Partnership:公民連携)と呼び、民間資本や民間のノウハウを活用し、効率化や公共サービスの向上をめざす、とされている。
*2政府は、2013年から2022年の10年間で21兆円の事業規模目標を掲げている(「PPP/PFI推進アクションプラン」)
*3施設以外でも「空調整備・更新」といったサービス購入もPFIの対象とされている。
*4このマニュアルは親切にも「検討結果とりまとめ様式記入例」まで付いている。「記入例」冒頭の「背景・目的」には「本資料は、○○学校における空調設備の整備・更新及び維持管理にあたり、財政負担の縮減や早期の整備を図るため、民間事業者の創意やノウハウ、資金を活用する PPP/PFI方式等の民間活力の活用手法について、導入可能性を検討したものです」と書かれており、PPP/PFI方式が、「財政負担の縮減や早期の整備を図」り、「民間事業者の創意やノウハウ、資金」が活用できるという「結論ありき」なのが分かる。
*5ごみ焼却施設の余熱の利用して、プールやスポーツジムなどを運営。
*6 2018年4月から「株式会社ダンロップスポーツウェルネス」が新たな運営会社になった。
*7尾林芳匡・入谷貴夫編著『PFI神話の崩壊』自治体研究社、2009年、183頁
*8 2011年1月21日付「朝日」
(3)立地適正化計画
第三に立地適正化計画です。2014年に「都市再生特別措置法」が改正され、第81条で「住宅及び都市機能増進施設*1。の立地の適正化を図るための計画を作成することができる」としました。立地適正化計画とは、居住誘導区域と都市機能誘導区域を設定することによって都市機能、行政サービスを集約し、コンパクトな街づくり、コンパクトシティをつくろうというものです。
この特別措置法は昨年(2020年)にも改正されました。
都市計画区域全域で、災害レッドゾーン内には住宅等(自己居住用を除く)に加え、自己の業務用施設(店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場等)の開発も原則禁止となりました。災害レッドゾーンとは、崖崩れ、出水など災害危険区域、土砂災害特別警戒区域、地滑り防止区域、急傾斜値崩壊危険区域です。浸水ハザードエリアも住宅等の開発許可が厳格化されました。
立地適正化計画によって災害ハザードエリアからの移転が促進されることになります。土砂災害警戒区域、浸水想定区域といった災害イエローゾーンについても、「総合的に判断し、適切でないと判断される場合は、原則として居住誘導区域に含まないこととすべき」*2だと国土交通省は言っています。要するに、災害が起きそうな地域は強靱化するのではなく、捨てろということです。
居住誘導区域や都市機能誘導区域にある老朽化した都市インフラについて、「計画的な改修、更新を進め、生活の安全性や利便性の維持・向上を図ることが必要」としていますが、これらの区域外の公共施設については、補助・交付金事業が適用されませんので、施設を廃止するか、誘導区域内へ移転するか、補助・交付金なしで施設を維持するか、3つのうちいずれかを選択ことが迫られます。
そこで質問です。
①国土強靱化計画と密接にかかわる「長寿命化計画」、「民間資金の積極的な活用」、「立地適正化計画」は、以上申しましたようにさまざまな問題があります。町として、どのようにお考えでしょうか。
■総務企画部長
「長寿命化計画」と「立地適正化計画」は、国が地方へ計画策定を働きかけているもので、計画策定の有無が、国庫補助配分に影響を与える状況となっています。
そのような背景から、当町では「長寿命化計画」について、道路や橋りょう、町営住宅、都市公園等といった、各インフラ・施設分野別で、既に策定を行っているか、また、今後の策定を予定しているところです。
また、「立地適正化計画」については、令和4年度から令和5年度にかけて策定するよう、「後期実施計画」に計上しています。
「民間資金の積極的な活用」については、いわゆるPPPやPFIといった公費投入の縮減効果が期待できる、施設整備・運営手法の活用のことを指すものであると理解しています。
当町での導入実績はありませんが、府中公民館等複合施設の計画段階、また、揚倉山健康運動公園上段多目的広場の人工芝整備計画段階において、それぞれ民間活力の導入について検討を行った経緯はございます。
民間事業者から広く意見・提案を求める、いわゆる「サウンディング型市場調査」などを実施し、民間活力の可能性を探りましたが、いずれも導入の実現には至りませんでした。
これら、「長寿命化計画」、「立地適正化計画」に基づく取り組みや、「民間資金の積極的な活用」は、老朽化した施設の再整備に密接に関わるものであることから、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」で定める基本方針の一つ、「公共施設の老朽化への対応」に結び付くものと考えており、当町の個別の状況を踏まえる必要はあるものの、進めるべきところは進めていくよう考えています。
*1)医療施設、福祉施設、商業施設その他の都市の居住者の共同の福祉又は利便のため必要な施設であって、都市機能の増進に著しく寄与するものをいう
*2)国土交通省都市局都市計画課「『安全なまちづくり』・『魅力的なまちづくり』の推進のための都市再生特別措置法等の改正について」
4.国土強靱化地域計画と府中町
(1)国土強靱化地域計画
国土強靱化基本法は、都道府県や市町村が「国土強靱化地域計画」をつくることを求めています*1。
『国土強靱化地域計画策定ガイドライン(第7版)基本編』(以下、「ガイドライン基本編」)は、地域計画の位置づけについて次のように述べています。
地域計画は、国土強靱化の観点から、地方公共団体における様々な分野の計画等の指針となるものであり、国における基本計画と同様に、地域における国土強靱化に係る計画等の指針(いわゆる「アンブレラ計画」(21 頁図))としての性格を有するもの(以下「国土強靱化に係る指針性」という)です*1。
「アンブレラ計画」とは、他の計画を傘下に収め、指針となる計画を意味しているようです。「ガイドライン基本編」の図によると、地域計画は、各々の自治体の計画の中で最も上位に位置しています(各自治体の総合計画より上位か総合計画と並列)。それゆえ他の計画は地域計画に基づいて見直すことが求められます。
「ガイドライン基本編」は、「地域計画の策定、進捗を管理することによって、庁内の意識の共有や推進力の出現、関係府省庁の交付金・補助金の活用などにより、各種の施策(事業)のスムーズな進捗が期待できます」*2と述べ、国土強靱化に関わる交付金・補助金を受ける要件としています。「スムーズな進捗が期待できます」という思わせぶりな書き方をしているのは、地域計画がなければ交付金・補助金を出さないが、あったとしても必ず出すわけではないという意味でしょう。
この交付金・補助金の交付は、「重点化」「要件化」すると言います*3。
昨年度(2020年度)は、地域計画に基づき実施される取り組み、明記された事業に対し、計画の有無を「一定程度配慮する」という段階から、「予算を重点的に配分し優先的に採択する」というように位置づけを引き上げました。
今年度(2021年度)は、 地域計画に基づき実施される取り組み、明記された事業であることを交付要件とする「要件化」を検討しています。地域計画に基づき、事業が明記されていなければ交付金・補助金が得られないということです。
「見える化」も強調され、「重点化」の状況について実績をとりまとめて公表することになってり、「重点化」の支援メニューも提示されています。社会資本整備総合交付金(国土交通省)、学校施設環境改善交付金(文部科学省)、保育所等整備交付金(厚生労働省)などのメニューが、国土強靱化と結びつけられたかたちで提示され、それを上手に取り込んで地域計画に盛り込むことが求められています。
取り組み事例として、治山設備の整備、岸壁の耐震などとともに、鳥獣被害防止・捕獲、「道の駅」の整備、光ケーブル化の推進、農道、林道整備、バイパス道路整備なども紹介されていますが、国土強靱化とどういう関係があるのか分からないものもあります。
老朽化施設を更新し、安全・安心な町づくりをしていくためには、この地域計画を策定し、一つひとつの事業が採択されることが必要です。このたび、当町の地域計画案がまとまり、パブリックコメント(意見公募)も始まりました。
そこで質問です。
②府中町における「国土強靱化地域計画」のあらましについてご紹介ください。
*1)「地域計画の策定は法律上、義務規定とはなっていませんが、地域の強靱化を総合的・計画的に実施することは、地方公共団体の責務として定められています」、『国土強靱化地域計画策定ガイドライン(第7版)基本編』22頁。
(2)公共施設等総合管理計画
総務省は、2014(平成26)年、各自治体に対し、公共施設等総合管理計画を策定し、公共施設等の総合的かつ計画的な管理を推進するよう要請しました。 この要請を受け、当町は2017(平成29)年に「府中町公共施設等総合管理計画」を策定しています。
府中町は公共施設が県内で最も少なく、大規模改修が必要と言われる築 30年以上の施設が6割で、建替えが必要といわれる築 60 年以上の施設も3%ほどあるというのが現状です。
今後の見通しとしては、計画的な維持管理、長寿命化によって、建替えの実施時期を80 年に延ばすことができたと仮定した場合、今後40 年間の更新費用総額は300.5 億円から208.5 億円となり、92 億円の削減、また、年平均では7.5 億円から5.2 億円となり、2.3 億円の削減ができると試算しています。それに伴い、町債の償還額や一般財源額も削減することができる見込みです。
(3)維持保全計画(建築物)
この府中町公共施設等総合管理計画のもとに、昨年(2020年)、「維持保全計画(建築物)」が改訂されました。
町内の82施設・建物について、統一的な考え方に基づく現地踏査、各種評価値の更新、概算事業費の算定等を行なって全体の中での優先順位等も考慮した計画です。現地踏査が可能な79棟全てを調べ、現状を目視確認したうえで、劣化度評価・危険度評価を更新したそうです。200頁を超す「維持保全計画」を見ますと、大変な苦労されたことが分かります。
この調査に基づいて、改修優先順位も決められました。劣化度係数はa,b,c,d,d+,d++の6段階で、aは良好、bはおおむね良好、cは耐用年数に近づいている、dは耐用年数に達している、d+は他部位への影響が予想される、d++が他部位への影響または損傷個所が確認できる、となっています。
ランクd++から改修することになっており、該当するのは19棟、次のランクd+に16棟が該当しています。耐用年数に達しているdランク17棟です。82棟のうち5棟は解体ないし解体予定ですので、そのを除きますと公共施設の7割近くが何らかの改修をしなければならない状況にあります。
小中学校の校舎、屋内運動場、給食棟などが軒並み老朽化しています。緑ケ丘中学校の外壁の汚れについて、議会でも度々指摘されてきました。私もときどき緑ケ丘中学校を訪れますが、見るたびに「なんとかならないのか」「なんとかしてあげたい」と思うのです。外側ばかりか内側も大変です。廊下や階段は張ってあった樹脂が剥がれ、代わりに緑のペンキが塗ってありました。ドアが開かない教室もあり、来年度一部直すそうですが、老朽化すると次々、あちこちが壊れていくわけです。
府中南小学校、府中東小学校、府中北小学校の老朽化も著しい。
本年2月に策定された当町の「第4次総合計画 後期実施計画」に、府中小学校、府中南小学校、府中東小学校、府中北小学校、府中緑ケ丘中学校の長寿命化を図るという計画が盛り込まれました。
そこで質問です。
③府中町「維持保全計画(建築物)」をどう具体化していくのでしょうか。学校内には複数の要改修建築物があり、学校単位で一括すると「維持保全計画」にはあります。この点を含め、現時点で決まっていることがあればお答えください。
(町立緑ヶ丘中、教室のドア)
(緑ヶ丘中、廊下に貼ってあった樹脂は剥がれ、コンクリートがむき出しに)
(緑ヶ丘中、外階段)
■総務企画部長
令和3年度から令和7年度を計画期間とした「維持保全計画」は、公共施設の適切な維持保全を目的として、技術職員による現地踏査を踏まえた劣化度の評価、また、その改修費、更には改修の計画などを定めています。
「後期実施計画」では、財政推計から、「維持保全計画」どおりの改修を実施する財源は確保できないため、放置することにより躯体に悪影響を及ぼす、屋根・外壁の劣化度が高い施設、具体的には、屋根・外壁の状態がd++とd+のほとんどの施設に係る改修費を計上しているところです。
「維持保全計画」で取り入れている、学校単位での複数建築物の一括改修は、「後期実施計画」でも採用しており、令和3年度の府中小学校は校舎と体育館、令和4年度の府中南小学校は校舎と留守家庭児童会と府中南体育場、令和5年度の府中東小学校は校舎と体育館、令和7年度の府中北小学校は校舎と体育館について、それぞれ計上しています。
「国土強靭化地域計画」の策定よりも前に、「後期実施計画」の策定を終えた形とはなりましたが、「後期実施計画」に計上した事業の中で、「国土強靭化地域計画」に資する事業も多くございます。
「後期実施計画」を着実に推進していくことが、国土強靭化への取り組みにつながるものと考えています。
《2回目》
一般市町村向けの公共事業予算は削られたうえ、国土強靱化を図るうえで、「長寿命化計画」、「民間資金の積極的な活用」、「立地適正化計画」といったハードルを越えないと国の予算がなかなかつかないわけです。実は、国土強靱化を阻むハードルは他にもあります。
●建設業者と建設労働者の減少
「国土強靱化のための3カ年緊急対策」(2018~20年度)の執行状況ですが、2019年度当初予算に計上した費用の支出率は、年度末時点で53.6%にとどまり、公共事業関係費の繰越額は2019年度において 3.9 兆円と2014 年度の 1.8 兆円に比べて2倍以上となっています*1。
財務省は、繰越額の「増加傾向が続くことは望ましくない」と言っていますが、なぜ多くの繰越額が生じるのか、それが問題です。
一つは、建設業における人手不足、技術者不足です。当町でも、公共工事が不調に終わることがあります。近年、技術者不足を理由に入札に参加しない事業者も増えています。
建設業就業者数のピークは1997年(平成9年)の約685万人でしたが2016年(平成27年)には492万人となり3割近くも減っています。建設業者数は1999年(平成11年)の約60万事業者がピークでしたが、2015年(平成27年)には約46万8000事業者となり2割減っています*2。1997年と2016年の比較で、技術者は41万人から31万人へ。技能労働者は455万人から326万人になっています*1。
国土強靱化予算がついても、その事業を実施する事業者、労働者がいない。小泉「構造改革」以後の急激な公共事業予算の減少により、建設業界全体が縮小した結果です*2。大型開発は続いていて、減った人手は、そこへ吸い寄せられ、普通の市町村の身近な公共事業をやってくれる業者と労働者が足りない事態になっているわけです。
●維持管理体制と技術系職員
もう一つの障害は市町村における維持管理体制の弱まり、具体的には土木部門の職員、技術系職員の減少です。
市町村全体の職員数は、1996(平成8)年度から2015(平成27)年度の間で2割減少しており、そのこと自体が問題ですが、土木部門の職員数は124,685人から90,967人へ3割も減っています。
その結果、技術系職員が一人もいない市町村が3割にのぼっています。技術系職員がいない市町村は、さまざまな工事を管理することができず、全て丸投げの外注となります。技術系職員の不在が災害復旧の遅れをつくり出しているのです。
総務省も「被災自治体からは、専門知識と経験の観点から、復旧・復興事業に従事する技術職員の派遣ニーズが高いが、充足していない状況」「土木職など技術職員の確保が課題」*3であることを認めています。
府中町は、十分とは言えないまでも、必要な技術系職員を確保しています。今後、施設の維持保全、防災、災害復旧など国土強靱化、安全で安心な町づくりを進めていくうえで技術職員をきちんと確保することが必要です。
そこで質問です。
①国土強靱化を進めていくためには、事業量が激変することなく建設業に安定的な仕事を確保すること、そこで働く労働者の労働条件を引き上げることが必要です。府中町単独では難しいと思いますが、広島県を要にして県内自治体が協力し合って安定的に公共事業が継続するような手立てを考える必要があるのではないでしょうか。
■財務部長
ご指摘のとおり、昨今、国全体で労働者人口の減少が問題となり、特に土木・建設業界において、人手不足が課題となっています。
業者側も現場監督や作業員が不足する中、多くの現場を抱えることができず、技術者不足を理由として、入札を辞退される事業者もございます。
国は土木・建設業界への発注時期が集中しないよう、発注時期の平準化を推進しており、当町においても、国の補正予算に対応した繰越予算や債務負担行為の活用をもって公共工事の平準化を図っています。
また、建設技能者等の処遇改善として、施工期間の設定に週休2日を前提とすることなど処遇改善に取り組んでいます。
県内自治体等との連携としては、国土交通省中国整備局、広島県土木建設局及び県内市町で構成する広島地域発注者協議会において、各市町等で取り組む項目として、①施工時期の平準化、②週休2日が取れるような適正な工期の設定、③ダンピング対策としての適正な最低制限価格の設定などを掲げ、広島地域(県域)として統一した取り組みを行っています。(事務局:国土交通省中国地方整備局及び広島県土木建築局)。
当町における業者選定は、建設工事指名業者等選定規定において、基本的な事項が定められており、その範囲内ではありますが、土木一式工事(6千万円未満)においては、町内の地域振興、また、事業者の育成という観点からも、今後も町内業者を優先的に指名していくことで、安定的な公共事業の継続を図ります。
②また、町の技術職員の確保も国土強靱化に欠くことができないと思います。技術職員の確保についての町としての見解を伺います。
■総務企画部長
町の技術職員は現在、管理職を除き、土木職23名、建築職7名です。
更に来月4月1日には、土木職1名の採用を予定しています。
議員ご指摘のとおり、国土強靭化に関して、技術職員は重要な存在であると考えています。
そのため、技術職員の退職に応じ、昨年度は2回、今年度も2回採用試験を実施したところです。
国土強靭化に資する「後期実施計画」の着実な実施に向け、引き続き適正な技術職員数の確保、またその配置に務めてまいりたいと思います。
《3回目》
町としても安定的な公共事業のため、発注する時期の平準化や建設技能者等の処遇改善を進めていることや、県内自治体などと「広島地域発注者協議会」の場でも取り組みをしていることが分かりました。さらに前へ進めていただきたいと思います。
当町の技術職員についても「重要な存在」であり、引き続き適正な技術職員の確保、配置に努めていただけるそうなので、よろしくお願いします。
以上で私の質問を終わります。
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