事業コストの削減、質の高い公共サービスにも繋がらない「民間資金の活用」
2021年3月議会で「《国土強靱化》と府中町の公共施設の維持保全について」質問しました。
公共施設の維持保全、国土強靱化には、①「既存の社会資本」の有効活用、「施設等の効率的かつ効果的な維持管理」という長寿命化計画、②「PPP/PFI による民間資金の積極的な活用」、③「土地の合理的利用を促進」という立地適正化計画、という3つのハードルのいずれかを越えることが必要で、それぞれの問題点を指摘しました。
5月14日、会計検査院が、「国が実施するPFI事業について」国会と内閣に報告しましたが、その内容は私の指摘が正しかったことを裏付けるものとなっています。
PFI方式26事業、民間が不適切業務 検査院指摘
民間資金で公共設備を整備するPFI方式を採用した11府省の76事業について会計検査院が調べたところ、民間事業者側による不適切な業務が26事業で計2367件に上ったことがわかった。検査院は各府省に対し、再発防止に向けて改善を求めた。
検査の対象は国が2002~18年度に行った76事業で、事業費の総額は1兆3504億円。不適切な業務の9割以上が7事業に集中していたという。
このうち、法務省のPFI事業である官民共同運営の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」(島根県浜田市)では、食事への異物混入や遅配などが年間平均65・6件発生。12年度は144件に上った。同刑務所の整備・運営を担うのは、大手ゼネコンの大林組を代表とする企業グループ「島根あさひソーシャルサポート」で、契約額は約922億円という。
一方、26事業とは別に、国側の管理が不適当な事業もあった。東京都八王子市の「八日町地下駐車場」では、設備の不具合で202ある車室の約4割が使用不能となっていた。管理者の関東地方整備局の予算不足などで、修繕が不十分だった。民間事業者側の報告によると、18年度の駐車場収入は計画の半分の約1600万円にとどまった。
また、検査院が18年度末までに終了した29事業を調べたところ、PFIの導入効果について事後検証をした事業はなかった。うち27事業について、検査院がPFIと従来方式での維持管理費を比べたところ、全事業でPFIが従来方式よりも1・06~2・85倍高額となったという。(後藤遼太)
朝日新聞デジタル2021年5月15日
一般質問のなかから「民間資金の活用」について述べた部分を掲載します。 質問の全文は近日中にアップする予定です。
つぎに民間資金の積極的な活用です。
1999(平成11)年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(略称「PFI法」)が制定されました。PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行い、国や地方公共団体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供をめざす、とされています*1。
2019(令和1)年度に実施方針を公表したPFI事業数は 77 件で、PFI法の制定された1999年から右肩上がりで増え、累計は818件になりました*2。
社会教育施設、文化施設、道路、公園、下水道施設、港湾施設、医療施設、廃棄物処理施設、斎場、役場など事務庁舎、公務員宿舎 、警察施設、消防施設など、ほとんどの公的施設が対象となっています*3。
PPP/PFI方式は、①初期投資が少なくてすみ、②財政支出が平準化され、③事業コストが削減されるということが自治体にとってもメリットだとされています。その結果、安くて良い公共サービスが提供につながるのだといいます。
PFI事業にとってVFM(Value for Money)=財政負担軽減効果は最も重要な概念の一つだとされています。VFMとは、従来の方式と比べてPFIの方が総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合です。しかし、PPP/PFI方式を採用すると、なぜ事業費コストが削減できるのか、その理由は定かではありません。
PPP/PFI導入による事業手続きにあたって、VFMの検証をすることになっていますが、実際にはどうなっているのか。2019年に内閣府民間資金等活用事業推進室が「PPP/PFI導入に関する簡易検討マニュアル(案)」を作成しました。
財政負担軽減効果について効果のあるなしをどのように判定するのか、その方法を2つあげています。
一つは民間事業者への意向調査であり、もう一つは類似事例を参照することです。事業者に意向を聞くわけですから「PFIの方が安くなります」という答えが当然返ってきますし、もう一つの「類似事例の参照は、過去の事例の予測数値であって、実際にそうであったという検証数値ではない。いずれも財政負担軽減の検証の名に値しないものです*4。
PFI法から20年が経ちましたが、さまざまな問題が起きています。
福岡市の「タラソ福岡」は、2002年にPFI方式でできた健康増進施設*5で、開業から2年後の2004年11月に営業停止。施設収入も開業前の見込みを大幅に下回り、債務超過に陥りました。その後、運営会社が変わりましたが、会員数が伸びず、維持修繕費もかさみ、2017年3月をもって撤退しました*6。
2005年、宮城沖地震の際、PFI方式で造られた仙台市「スポパーク松森」の屋内プールの天井が剥がれ落ち、重傷者が出ました。公務員が仕様まで管理した施設では、こういった被害はありませんでした*7。
(天井が剥がれ落ちたスポパーク松森の屋内プール)
ほかにも、名古屋港イタリア村、破産。高知病院、赤字・汚職のうえ契約解除。滋賀県近江八幡市立総合医療センター、PFI解除し直営に戻す。こういった事例があとをたたないわけです。
滋賀県野洲(やす)市では、PFI方式で増改築をした野洲小学校・野洲幼稚園の維持管理を契約解除。年間の維持管理費が野洲小だけで3650万円かかり、他の小学校の平均325万円の10倍でした。
市長は「PFI方式そのものは国が推進した施策で、否定するものではない。ただ、抱き合わせで巨額の維持管理契約が結ばれたのは問題だった。この方式は営利目的でない学校には不向きだ」と話した、と新聞は伝えています*8。
まさに死屍累々です。民間資金は金利収入をあげるために融資されるのであり、経営上のノウハウや技術能力は企業の利潤のために活用されるのです。
金融機関・企業にとってよりよい契約は金利が高く利潤がより多く得られる契約であり、企業努力は自治体にとっての「事業コストの削減」に結びつかないと考える方が自然だと思います。
*1 このPFIを含め、公共機関と民間企業が連携して公共サービスの提供を行う枠組みをPPP(Public Private Partnership:公民連携)と呼び、民間資本や民間のノウハウを活用し、効率化や公共サービスの向上をめざす、とされている。
*2 政府は、2013年から2022年の10年間で21兆円の事業規模目標を掲げている(「PPP/PFI推進アクションプラン」)
*3 施設以外でも「空調整備・更新」といったサービス購入もPFIの対象とされている。
*4 このマニュアルは親切にも「検討結果とりまとめ様式記入例」まで付いている。「記入例」冒頭の「背景・目的」には「本資料は、○○学校における空調設備の整備・更新及び維持管理にあたり、財政負担の縮減や早期の整備を図るため、民間事業者の創意やノウハウ、資金を活用する PPP/PFI方式等の民間活力の活用手法について、導入可能性を検討したものです」と書かれており、PPP/PFI方式が、「財政負担の縮減や早期の整備を図」り、「民間事業者の創意やノウハウ、資金」が活用できるという「結論ありき」なのが分かる。
*5 ごみ焼却施設の余熱の利用して、プールやスポーツジムなどを運営。
*6 2018年4月から「株式会社ダンロップスポーツウェルネス」が新たな運営会社になった。
*7 尾林芳匡・入谷貴夫編著『PFI神話の崩壊』自治体研究社、2009年、183頁
*8 2011年1月21日付「朝日」
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