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2021-10-24

「選挙に行こう!」 第2章 社会保障改悪の40年

もくじ
1.選挙とは何か 
2. 社会保障改悪の40年 PDFはこちら
3.社会保障改悪 3つのデマを斬る
4.政治を変えれば社会保障はよくなる

第2章. 社会保障改悪の40年

1980年代から改悪につぐ改悪

まず、この40年間、医療と社会保障がどれほど切り縮められてきたのか、確認したいと思います。一覧にしてみました。

 健康保険 本人の自己負担
  1983年まで初診料のみ  1984年1割→1997年2割 →2003年3割
 老人医療自己負担
  無料→1983年 外来400円/日:入院300円/日 →1987年外来500円/日
  :入院1,000円/日 →2001年1割(2002年現役並み所得者2割→2006年現役並み所得者3割) 
  後期高齢者医療制度(2008年~) 
   75歳以上1割/70~74歳2割/70歳未満 3割
 国民年金保険料(税)
  (月額) 1990年8,400円…2000年13,300円…2010年15,100円
      …2018年16,340円…2021年16,610円
 厚生年金の支給開始年齢 60歳→65歳
 介護保険(2000年~)で保険料徴収 
   無料→2000年2900円(全国平均) 今年度から6000円超
 障害者福祉の自己負担
    9割の人が無料→障害者自立支援法(2006年施行)で1割応益負担

よくなったものなど一つもありません。すべて負担増です。

健康保険の本人負担は現在の3割になってから20年近くになりますので、若い方はずっと3割だったと思っていることでしょう。

私は現在58歳ですが、「初診料のみ」の経験はありません。大学を卒業して就職したときは1割負担でした。歯医者に行っても、何十円とか何百円。最後に詰めたり被せたりするときだけ数千円で、1万円以上払った記憶がありません。「健康保険の本人」っていいなあと思いましたね。それが2割になり、3割になった。

こんな体型ですから、高血圧に糖尿病。無呼吸症候群もある。診察代と薬代あわせて毎月1万5000円ぐらいの負担になります。1割負担なら5000円で済むんですけどね。

私は国保に国民年金なのですが、国保税(料)が年間約41万円で年金保険料が約20万円。あわせて60万円を超します。年収は約500万円です。年収の12%。それだけ払っているのに病院に行けば3割負担です。

年金もまじめに払ってきましたし、厚生年金のときもあったのですが賃金が安かった。免除期間もある。「ねんきん定期便」をみますと月額7万円ぐらい。妻の年金とあわせても老後の生活は真っ暗です。

暮らしに困る人を救えない

生活保護制度もひどい。所得が少なく生活保護の受給資格がある世帯で制度を利用している人は2割に満たないと推計されています*1。今年7月時点での生活保護受給者は約204万人(厚労省発表)。

全人口に占める割合は1.63%にすぎません。全体の45.5%は65歳以上です。世帯の割合でみますと,高齢者世帯が53%、母子世帯が6%、傷病・障害者世帯が26%、その他が16%です。

なぜ高齢者が生活保護を受けるのか。私の話もしましたが、低年金だからです。年金制度がしっかりしていれば、保護を受ける人は減ります。

母子世帯は、ワーキング・プア。非正規雇用が広がって賃金の少ない人が増えているからです。図表2-1にあるように正規労働者は全労働者の4割近くでその多くは女性です。

 

図表2-1

 

傷病・障害者世帯は、障害者年金が少ないうえに「自立支援法」で負担が増え、自立できなくなっているからです。

いずれも本人の努力の問題ではなく、社会保障制度と労働法制が問題なんです。

政府は生活保護を減らすために、社会保障制度をよくするのではなく、水際作戦といって窓口で申請を受けつけないことを福祉事務所にさせたり、生活保護を受けるのは悪いことなのだという宣伝をしました。お笑い芸人の母親が生活保護を受けていたことをきっかけに「生活保護バッシング」が激化しました。

「働けるのに働いていない」「生活保護を受けてベンツに乗っている」「裕福な実家で生活保護を受給しているシングルマザーがいる」といったデマが流され、人間らしく生きるための権利が脅かされています。

高齢者から「生活が苦しい」という相談を受けますが、たいてい「生活保護以外でなにかありませんか」と言う。「権利だから遠慮せず申請しましょう」と答えますが、保護を申請するハードルは高いようです。

負担は重く、給付はお粗末。制度は使いにくい。これがいまの社会保障の特徴です。

コロナによる医療崩壊・保健所の機能マヒはなぜ起きたのか
 
新型コロナウィルスの感染拡大によって私たちは大変な目にあっています。

安倍政権は対応を間違えた。全く効果のないアベノマスクに507億円も使いました。これは感染症に関する研究を行っている国立感染症研究所(感染研)の基盤的経費(2020年度21.6億円)の23年分にあたります。マスクなど配らず、感染研の予算を増やせばよかったのです。

Go To キャンペーンも大失敗。感染の第5波を招きました。新型コロナの怖いところは症状が出ない人がいることです。症状の出ていない元気な感染者が移動すれば、ウイルスが全国に広がります。政府は「GoToトラベルが感染拡大の主要な要因であるとのエビデンス(証拠)は、現在のところない」と言い張りましたが、感染が爆発的に拡大したので中止せざるをえませんでした。

このような安倍・菅政権の対応のまずさも問題なのですが、医療と社会保障を削り続けてきたことが「検査ができない」、「入院ができない」という事態を生み出したのです。

具体的には3つの問題があります。

 医師が少ない

ひとつは医師不足です。人口1000人あたりでも病床100床あたりでも医師の数が少ない(図表2-2)。

人口当たり医師数はOECD加盟国中下から4番目で、病床当たり医師数も最下位です。経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、日本の医師数はデータのある30カ国中26位と最低に近い。医師総数で日本は32万人ですが、OECD30カ国の平均水準から見て11~12万人も少ないのです。

また、欧米には病院とほぼ同じ機能をもつナーシングホーム*1)がありますが、日本にはありません。OECDの統計にはナーシングホーム精神科病院で働く医師数は含まれていません。その数を加えれば欧米の医師数はもっと多いわけです。

感染症の専門医はさらに深刻です。現在、専門医は1500人いることになっていますが実際に診療・治療ができる感染症科医は500人ほど(図表2-3*2)

日本感染症学会は2010年に「感染症専門医の医師像・適正数」を発表しましたが、そこには「病院に勤務する感染症専門医の人数は3,000~4,000人程度が適正と考えられる」と書かれています。

図表2-3

医師が足りず、感染症専門医は絶対的に不足している。これが新型コロナ感染症に対応できなかった根本要因の一つです。


*1)アメリカのナーシングホーム(nursing home)は、日常的な介護、医療サービスを必要とする重度の要介護者を対象とした施設。入居者は老人だけでなく若年であるが高度の障害をもつ者もいる。病院ではないものの、病院にほぼ近い設備と体制を有しており、看護・介護職員を配置し、24時間介護にも対応している。また、原則として、施設職員によるケア、必要に応じ外部スタッフを利用して施設内での看取りも行う(医療経済研究機構「諸外国における介護施設の機能分化等に関する調査報告書」47頁、2007年)。
*2)池田光史「【最前線】コロナの医療現場で、専門医たちが見ていること」Newspicks 2020年3月3日。

 

 ▼1980年代「臨調行革」が出発点

なぜ医師を増やさなかったのか。

それは「医師が増えると医療費が増える」という間違った考えに固執しているからです。1981年、鈴木善幸内閣が、第二次臨時行政調査会(臨調)を設置。「増税なき財政再建」「小さな政府をめざす」「政治の無駄をなくす」といった耳障りのいいスローガンを使い、少なくない国民が期待を寄せました。

しかし、臨調にもとづく「行政改革」が進められると、その実態は、社会保障費や教育費など国民生活の土台となる予算を削ることだったのです。

医師数抑制政策もこの臨調行革の一環でした。

1982年7月、「行政改革に関する第3次答申―基本答申」が出されます。「医療従事者について,将来の需給バランスを見直しつつ,適切な養成に努める。特に,医師の過剰を招かないよう合理的な医師養成計画を樹立する」。

答申を受けて、政府は1982年9月の閣議で「医師・歯科医師の養成計画について検討する」と決定し、1984年以降、医学部の定員を減らしていったのです。
 
 ▼さらなる削減が求められている病院・病床

病院も減らしました。20年で約1割減っています。広島県は1990年には38病院ありましたが、2017年には31病院になっています(図表2-4)。

 

図表2-4

病床数も1990年153万床から2015年133万床へと20万床も減っています(図表2-5)。

 

図表2-5

2014年、医療・介護総合確保推進法がつくられました。「効率的な医療提供体制」の実現をめざし、2025年を目標に病床削減を都道府県に計画させ、医療費を抑制しようというものです。

 

しかし、厚労省の思惑通りには進まなかった。それぞれの地域の実情を考えれば、簡単に減らせるはずなどないからです。

そこに財界から圧力がかかりました。経済財政諮問会議で中西宏明・経団連会長ほか4人の「民間議員」が意見書を出して、地域医療構想の遅れを問題にしました。

厚労省はこれを受けて2019年9月、424病院を名指しし、「削減が必要」としたのです*3)

厚労省が特に減らしたいのは、「高度急性期」および「急性期」の病床だということが上の図表から分かると思います。カネとヒトのかからない「回復期」「慢性期」へシフトする。医療費の削減が目的だからです。

感染症病床は1998年には9210ありましたが、2018年には1882まで減少。8割もカットしたのです。


*3)広島県内の「再編・統合の議論の必要がある」とされた病院
 北広島町豊平診療所(北広島町)2019年に44床を全てなくし、外来のみの無床診療所となった。/吉島病院(中区)/安芸市民病院(安芸区)/広島西医療センター(大竹市)/済生会呉病院(呉市)/呉市医師会病院(呉市)/呉共済病院忠海分院(竹原市)/因島総合病院(尾道市)/三原赤十字病院(三原市)/三原市医師会病院(三原市)/府中市民病院(府中市)/府中北市民病院(府中市)/庄原赤十字病院(庄原市)

 

ICU(集中治療室)の病床数は、どうでしょう、

「日本集中治療医学会」は昨年4月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する理事長声明」を出しました。

「新型コロナウイルス感染症がオーバーシュート(爆発的患者急増 引用者)した場合の医療体制で最も重要なことは、如何に死者を少なくするかということであり、集中治療体制の崩壊を阻止することが重要ですが、本邦の集中治療の体制は、パンデミックには大変脆弱と言わざるを得ません」と述べ、日本の集中治療室が少ない(人口10万人あたりのICUのベッド数は5床程度)ことに対して警鐘を鳴らしました。

これに対して厚労省は、ICUを増やす手立てを取るのではなく、「ICUに準じた機能を持つ病床」を加えるべきだと反論し、「人口10万人当たりICU等病床数」と「等」の字を加えて13.5と水増ししたのです。定義を広げることで感染者の急増に対応できるわけもなく、多くの自宅療養者、死者を出すことになりました。

 

保健所は半減

保健所はこの30年で半減しました。1996年には全国で845カ所ありましたが2021年度は470カ所です。 1994年に保健所法を地域保健法に「改正」。10万人に1カ所とされていた保健所所管区域の見直しが行われ、「二次医療圏」*4)(全国335、2020年)に対応すればよいことになりました。保健所の広域化です。広島県は1969年には保健所が25ありましたが、現在は二次医療圏に対応して7にまで減らされています。


*4)地域医療計画の基本単位。一体の区域として病院等における入院に係る医療を提供することが相当である単位。

憲法25条第2項は「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と述べています。

保健所はこの憲法が定めた「公衆衛生」を担う公的機関です。しかし、社会保障費削減の一環として保健所もリストラ(=統廃合)が進められてきました。公的責任による感染症対策は軽視され、保健所の機能が大きく低下したところに、新型コロナの感染拡大が起きたのです。

読売新聞は、第3波のとき、「感染爆発、保健所業務『もう限界』…人手不足で経路調査追いつかず」という記事を掲載しました(2021/1/14)。

検査数も感染者数も爆発的に増えているのに、もう限界」。県草加保健所の長棟美幸所長は、職場の危機的な状況をそう訴える。……濃厚接触者の特定などの業務に加え、入院先が見つからずに、自宅療養や待機をしている感染者も増えているため、健康観察の業務も急増した。同保健所の職員は約40人。県を通じて看護師などを数人派遣してもらっているが、当日中に業務が終わらず、翌朝の始発で帰宅する職員も出始めた。住民からの相談電話も相次ぎ、すぐに応対しないと「対応が遅い」などと苦情を受けることも少なくない。目に涙を浮かべ、「過労死でもしないと、現場の苦労は分かってもらえない」と話すなど、職員は精神的にも限界を迎えている。 長棟所長は「このままでは、救える命も救えなくなる」と懸念している。

 40年にわたる社会保障改悪の積み重ねが、新型コロナという新しい感染症に対応できなかった最大の要因であり、日本の社会保障・医療政策の矛盾と破綻が誰の目にも明らかになったのです。

 

ふたみ伸吾 ほっとらいん

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