町村議のなり手不足を考える

1.町村議で深刻な「なり手不足」
●増える無投票当選
いま、町村議会で議員の「なり手不足」が深刻になっています。
まず、グラフ1で無投票当選者の割合を見てみましょう。

(グラフ1:総務省「地方選挙結果調」をもとに二見作成)
このグラフは、統一地方選挙における、政令指定都市を除く市議と町村議の無投票当選者の割合の推移です。
町村議の無投票当選者は1975年には3.4%でした。
それが2023年には30.3%にまで増えています。実に町村議の3割が、選挙を行わずに当選していることになります。
これに対して、市議の無投票当選者は1975年には0.3%で、2023年は3.6%です。増えてはいますが、町村議の30.3%とは格段に違います。
統一地方選挙以外も含めても、町村議会選挙の状況は深刻です。
グラフ2を見てください。無投票となった町村の割合は、2011年5月から2015年4月までの20.4%から、次の4年間には21.9%、2019年5月から2023年4月には27.4%へと増えています*1)。

定数割れも、同じ3期間で10町村、15町村、31町村と増加しました。
*1)グラフ1は2023年の統一地方選挙で無投票当選となった町村議の割合(30.3%)、グラフ2は4年間に行われた町村議選で無投票となった町村の割合(27.4%)を示している。集計期間と対象は異なるが、いずれも約3割に達している。
●定数に対してどうか
議員定数との関係も見てみましょう。
2015年から2023年までの統一地方選挙を比較すると、市議選では定数が6,865人から6,636人へ3.3%減り、候補者数は8,383人から8,262人へ1.4%減少しました。
これに対して町村議選では、定数が4,269人から4,126人へ3.3%減ったのに対し、候補者数は4,832人から4,563人へ5.6%減少しています。
市議選では、定数が減っても候補者はそれほど減っていない。
町村議選では、定数が削減された上、それ以上に候補者が減っている。
ここでも、市議選と町村議選は結果は対照的です。
ですから、「なり手不足」は、町村議会に特有の問題だといえるでしょう。
町村は、農業の衰退や人口減少、高齢化によって、農協や自治会などを通じて住民どうしがつながり、地方政治に参加する人を生み出してきた地域社会の力が弱まっています。
また、平成の大合併によって、それまでの町村が議会を失ったことも影響しています。
しかし、だからこそ、住民の要求や地域の課題を解決するために、議会の果たすべき役割は重要になっています。
いま、議会に新たな人たちが議員として加わり、多様な住民の声を届けることが求められている。
そういう時なのだと思います。
2.生計を維持できない――町村議の報酬
町村議会のなり手不足の要因の一つとして、議員報酬の低さが指摘されています。
全国町村議会議長会は、2024年5月22日の決議で、町村議員の報酬が市議会議員などに比べて著しく低く、「それだけでは生計を維持できないほど低水準」であると指摘しています。
また、総務省に設置された第33次地方制度調査会も、2022年12月の答申で「特に小規模団体においては議員報酬が低水準であることが議員のなり手不足の要因となっているとの指摘がある」と述べています。
では、町村議の報酬は、実際にどの程度なのでしょうか。
全国町村議会議長会の2025年7月1日現在の調査では、全国926町村の一般議員の平均報酬月額は22万2740円です。
グラフ3は、町村議会議員の報酬月額の分布を示したものです。

これを見ると、町村議会の議員報酬は月額20万~25万円が最も多く、926町村のうち440町村、全体の47.5%を占めています。
次いで多いのが15万~20万円の255町村で、この二つの区分だけで全体の約75%になります。
一方、30万円以上の町村は43町村、全体の4.6%にすぎません。
先ほど紹介した町村議会議長会の決議にあるように、月額20万~25万円という報酬では、議員報酬を家計の主な収入として、自分や家族の生活の見通しを立てることは難しいでしょう。
とりわけ、子どもを育てている世代にとっては、議員報酬だけで暮らしていくことは容易ではありません。
3.市議の報酬水準と生計費
第1章で述べたように、市議選では町村議選に比べて無投票当選者が、はるかに少なく、なり手不足はそれほど深刻ではありません。
そこで、市議の議員報酬がどの程度なのかについて調べました。
対象は、政令指定都市20市と東京23特別区を除く一般市772市です*2)。
政令指定都市と東京23特別区は、一般市とは行政制度や議員報酬の水準が大きく異なるため、町村議との比較から除きました。
報酬月額30万円未満は39市、5.1%にすぎません。30万円以上35万円未満が150市、19.4%、35万円以上40万円未満が208市、26.9%、40万円以上45万円未満が152市、19.7%となっています。
35万円以上の市は583市、全体の75.5%です。40万円以上でも375市、48.6%あります。
市議の報酬水準をさらに確かめるため、最頻値と中央値を調べました。
最頻値、つまり最も多くの市が採用している報酬月額は35万円で、29市あります。
中央値、つまり772市を報酬の低い順に並べたとき、ちょうど真ん中にくる金額は約39万5千円でした。
この二つをみると、市議として現実に広く成立している報酬水準は、月額35万円から40万円程度にあるとみてよいでしょう。
*2)全国市議会議長会「市議会議員報酬に関する調査結果(令和7年12月31日現在)」の市議会議員報酬等一覧から、議長・副議長を除く一般議員の報酬月額を集計。
●暮らしの「ものさし」でみる
では、この水準は、実際の暮らしという「ものさし」でみると、どの程度なのでしょうか。市議の報酬が生活を維持できる水準にあるのか、実際の生活費と比較してみましょう。
ここでは総務省の「家計調査」を使います。この調査は、全国の世帯の収入や支出などを調べたもので、暮らしの実態を知るうえでの手がかりになります。
この「家計調査」の2025年平均結果によると、3人世帯の消費支出は月額約32万円、4人世帯では約36万円です。
これに対して、市議の議員報酬は月額35万~40万円が中心で、家計調査の数字にほぼ見合う水準にあります*3)。
*3)家計調査の「消費支出」には税金や社会保険料が含まれておらず、実際の支出はさらに多くなる。一方、市議の報酬月額には期末手当(一時金)が含まれておらず、その分、実際の収入より低い数字になっている。税金や社会保険料の負担は世帯によって異なり、期末手当の支給額も自治体によって違うため、ここでは月額の数字でおおよその水準を比較した。
●民間労働者・公務員の賃金と比べると
では、今度は民間労働者や公務員の賃金と比較して、市議の報酬がどの程度の水準にあるのかを見てみましょう。
まず、民間労働者の賃金です。

厚生労働省の2025年「賃金構造基本統計調査」では、年齢別の賃金について、平均値や中央値などが公表されています。
ここでは、そのうち中央値を使って比較します。
中央値とは、賃金の低い人から高い人まで順に並べたとき、ちょうど真ん中にくる金額です。
この調査によると、30~34歳では月額29万1千円、35~39歳では31万円、40~44歳では32万6千円、45~49歳では33万5千円、50~54歳では34万6千円、55~59歳では34万7千円となっています。
いずれの年齢層でも、市議報酬の中心である35万~40万円は、民間労働者の賃金の中央値を上回っています。
次に、公務員の賃金です。

総務省の2025年「地方公務員給与実態調査」によると、一般行政職の平均給与月額は、32~35歳で36万3千円、36~39歳で39万8千円です。40~43歳では43万9千円、44~47歳では47万円、48~51歳では48万5千円、52~55歳では50万円となっています。
30代では市議報酬の35万~40万円とほぼ同じ水準ですが、40代、50代になると公務員の賃金の方が高くなっています。
人事院が公表している国家公務員のモデル給与例でも、地方機関に勤務する30歳の係員が月額25万5千円、40歳の係長が31万円、50歳の課長が41万9千円となっています。
このように、賃金は年齢とともに上がっていきます。
日本では、子どもの成長に伴う教育費の増加など、年齢とともに生活費が増える時期があります。
民間企業や公務員には、こうした生活費の増加に対応するように、勤続年数や昇進に伴う昇給の仕組みがあります。
一方、地方議員の報酬には、年齢や勤続年数に応じた昇給はありません。
なお、民間労働者と公務員の賃金、市議報酬の比較にあたっては、集計方法などに違いがあることに留意する必要があります*4)。
以上のように、家計調査による生活費や、民間労働者・公務員の賃金と比較しても、月額35万~40万円程度は、議員報酬を家計の主な収入として、自分や家族の生活の見通しを立てるための最低限の目安になると考えられます。
*4)民間労働者の賃金は、残業代や賞与を含まない「所定内給与額」である。一方、地方公務員の「平均給与月額」には諸手当が含まれていない。また、市議の報酬月額には期末手当(一時金)が含まれていない。地方公務員については年齢別の中央値を確認できなかったため、平均値を使った。
4.町村議の報酬を見直すとき
●議員報酬の適正額をどう考えるか
では、議員報酬の適正水準を考える基準は、どこに求めればよいのでしょうか。
これまでみてきたように、その基準は、得たお金で生活を維持できるかどうかです。
報酬は役務の対価だといっても、それを受け取る人が、その報酬で生活していくという事実は変わりません。
第2章でみたように、全国の町村の約75%は、議員報酬が月額15万~25万円です。この水準では、議員報酬を家計の主な収入として、自分や家族の生活を支えることは難しいでしょう。
これに対して、第3章では、市議報酬の最頻値は35万円、中央値は約39万5千円であり、家計調査や民間労働者、公務員の賃金との比較からも、月額35万~40万円程度が、生活の見通しを立てるための最低限の目安となることを確認しました。
そして、町村議会では無投票や定数割れが深刻であるのに対し、市議会では格段に少ないという違いがあります。
議員報酬だけでは生活できないとなれば、別の収入源が必要になります。その見通しが立たなければ、立候補をあきらめる人もいるでしょう。そもそも、立候補を考えることすらない人もいるはずです。
とりわけ、子育て中の人や現役世代にとって、低すぎる議員報酬は大きな障害になります。
町村議のなり手不足を改善するには、議員報酬を家計の主な収入として生活できる水準まで引き上げる必要があります。これまでの検討から分かるように、月額35万円程度を一つの目安とすべきではないでしょうか。
いま取り組むべきは、年齢や性別、職業にかかわらず、多様な人が議員に挑戦できる条件をつくることです。
人口減少や少子高齢化、地域産業、公共交通、福祉、子育てなど、町村が直面する課題は数多くあります。
これらの課題に取り組む議会には、さまざまな世代や立場の住民の声を受け止め、問題を分析し、解決すべき課題を明らかにして、町村に具体的な解決策を提案する議員が必要です。
そのような議員を選び出すためにも、多くの人が議員に挑戦することが大切です。立候補者が増えれば、有権者が代表を選ぶ選択肢も広がります。
現職議員にとっては落選する可能性が高くなりますが、それは同時に、新しい挑戦者に負けない議員活動が求められるということでもあります。
多様な人が議員に挑戦し、住民の声がより幅広く議会に反映され、一人ひとりの議員が地域の課題の解決に力を尽くす。
その条件整備として、町村議の報酬を見直す必要があると考えます。
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※本稿は、タイトルにもあるとおり、町村議の「なり手不足」に焦点をあて、それとの関連で「議員報酬のあり方」について論じたものです。事柄の性質上、以前に書いた「議員報酬のあり方を考えるために」と、一部内容が重複していることをお断りしておきます。







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