府中町の待機児童の解消に向けて(3) 12月議会 一般質問
3.南保育所廃止の経緯について
●南保育所廃止の経緯について
つぎに南保育所の廃止の経緯について伺います。
府中町は、2016年4月に町で唯一の町立保育園である南保育所を閉所いたしました。南保育所の定員は120人です。現在の待機児は128人ですので、南保育所を閉所せず、存続させていたならば、今の時点での待機児童はずっと少なかったはずです。
なぜ南保育所を閉所したのか。2010(平成22)年の府中町議会第1回全員協議会の議事録を読んでみました。
そこに述べられているのは、カネ、カネ、カネの話ばかりです。
「公立として運営した場合と、私立保育所として運営をゆだねた場合に町が負担することとなる運営費を比較した場合には、公営、直営のほうがはるかに多額の経費が必要である」(「議事録」9ページ)
「新設公営の場合には、……200坪で1億9000万円必要となり…全額町負担ということになる」(同10ページ)
「公立の場合は3,651万5,000円、私立に委託した場合には、7,937万1,000円」が国や県から運営費として町に入ってくる(同11ページ)
「町が一般財源で賄う額、これが公立の場合は1億2,946万4,000円、私立に委託した場合には3,399万5,000円というふうになります。この公・私の町負担の差が9,546万9,000円となる」(同)
議事録を読んでいて情けなく、悲しくなりました。子どもたちのためにという発想は全くない。カネがかからないからという理由で公立園を廃止して、民間に委ねてしまう。とても安易な発想です。保育園は全国で民営化の嵐が吹きました。今もその流れは止まっていません。府中町はその流れにのって、カネを浮かすためにたった一つしかない町立保育園をなくしてしまい、たくさんの待機児童をつくりだしてしまった。しかし、他の市町はどうか。
県内23市町のうち、公立園がゼロなのは府中町と坂町と大崎上島町の3つだけです。坂町と大崎上島町には待機児童はいません。20市町は公立園を運営しています。
府中町より人口も財政規模も小さな町で、複数の公立保育園を直営で運営している。神石高原町は人口約9,000人で一般会計予算は約92億円です。5つの町立保育園(定員270人)を運営しています。北広島町は人口約1万9,000人、一般会計予算は約144億円。やはり5つの町立保育園(定員180人)を運営している。人口5万2,000人、一般会計予算182億円(平成28年度は214億円)の府中町が1町立園(定員120人)をなぜ維持できなかったのか。維持しようとしなかったのか。私にはまったく理解できません。
●なぜ私立保育園は「安上がり」なのか
みなさん、公立保育園より私立保育園の方が経費が安いのはなぜでしょうか。私立保育園の方が効率的な運営をしているからか。そうではありません。私立の方が人件費が安いからです。
勤続10年程度で月額3万円、主任保育士になると、勤続年数による違いもありますが10万円ぐらいの開きがあります。
私は、私立保育園3園を運営する社会福祉法人の理事をしていたことがあり、職員全員の賃金を知っていましたが、園長をはじめとても安い。常務理事以外の理事は無報酬で、常務理事の賃金もたいしたことがありません。法人として利益を上げているわけでもない。しかし賃上げをはじめとする待遇改善はなかなか難しい。組合からの賃上げ要求になんとかして応えようと検討するのですが、なかなか希望に沿えない。それは十分な賃金が払えるほどの運営費収入がないからです。
賃金を含めた待遇の悪さは、保育士不足という別の問題を引きおこしています。
まず保育士の資格をとった人の半分しか保育園に就職しません。そして保育園に就職した人の半数が5年未満で辞めてしまう。職安に求職する保育士資格者の半分は保育士を望まない。資格を持っていても働いていない「潜在保育士」は約80万人いると厚労省は推計しています。
賃金が安いこともさることながら、休暇が少ない、取りにくいといった労働条件の悪さが、保育士が働き続けることを阻んでいるのです。
公立の保育士も他の仕事と比べればそれほど賃金が高いわけではありませんが私立よりは高い。公立保育園を廃止して民営化することは、より劣悪な労働条件へ保育士を追いやり、辞めていく保育士を増やすことになります。もちろん、公立であっても非正規の保育士ではやはり劣悪な労働条件になる。公立園は待機児童解消のためにも、非正規雇用をなくさなければなりません。
●公立保育園の役割
公立保育園は、保育・幼児教育を提供する自治体の直営施設として、地域の標準的な保育水準を維持し、底上げてしていく役割を果たしてきました。地域の保育・子育て支援の中核施設として、さらには市町が地域のすべての乳幼児の状況を把握し、子どもの福祉の向上のために必要な施策を打ち出すための、行政機関の「最前線」としての役割を果たしていくことが求められています。
府中町は、このように重要な役割を果たす町立保育園を廃止してしまいました。冒頭にも述べましたように待機児童問題はすでに1990年代半ばから始まっています。南保育所の廃止について説明のあった全員協議会は2010年ですが、その場でも全国で待機児童が2万4,000人いるということが議員からの質問のなかで紹介されています。しかし、この時点では待機児童問題は府中町にとって「対岸の火事」であったようです。
そして待機児童問題が噴出し、「保育園落ちた日本死ね」というブログが大きな話題となったのは2016年2月でしたが、その翌月に南保育所は廃止されました。そして今、128人もの事実上の待機児がいます。
そこで、伺います。
③南保育所を存続させていれば128人もの待機児童を出さなくてよかったのではないですか。町の見通しは間違っていたのではないでしょうか。町の考えをお聞かせ下さい。
◆福祉保健部長
子どもたちにより良い環境で保育を受けてもらうためには、老朽化した保育所の建て替等を行い、更なる保育の質の向上を目指す必要がありました。しかし、現状では三位一体改革による公立保育所運営や整備費の大幅な財政負担の増加など、現行制度では公立保育所でこれを実現していくことは困難であり、現行制度でこれらを実現していくためには民営化は有効な手段であり、今後の保育需要や社会情勢等から、子どもたちの保育環境の面や本町の財政状況を考えた上で廃止の方針が決定されたものでございました。廃止に至っては、南保育所は、120名定員で保育しておりましたが、保育の混乱を避けるため、ゆるやかな閉園計画を立て、計画に沿って毎年受け入れ児童数を減らし、平成27年度末をもって閉園いたしました。
南保育所の定員をカバーする形で、平成24年度に認定こども園の定員をを80名で開園した後、毎年増員し、平成26年度には南保育所の定員を上回る130名の定員とし、平成29年度には160名と着実に増員しております。認定こども園は、南保育所の代替え施設として開園しておりますので、南保育所が存続していたとしても、今と同じように潜在的な待機児童数は発生し入所できないことには変わりありません。潜在的な待機児童と南保育所の閉園は、直接的な関係は無く、今後の保育需要の増大を見越し、新しく認定ことも園を開設することで、南保育所以上の定員を確保した当時の町の見通しについては間違いではなかったと考えております。
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