生き生きと働くことのできる府中町役場のために 2022年9月議会 一般質問

今回、児玉利典議員の一般質問「会計年度職員の再任用上限回数撤廃について」と私の第4問が重複したため、一括答弁になりました。

以下の記録は、私の質問と理事者の答弁を整理し、まとめたもので、議事録に基づくものではありません。年号は西暦に統一してあります。

PDF(質問本文)

 PDF(図表)


 

はじめに

黒澤明監督が今から70年前に撮った「生きる」(1952年)という映画があります。


生きることを働くこととの関わりで問うた不朽の名作であり、「いのち短し恋せよ乙女」とゴンドラの歌をうたうシーンが有名です。

ガンで余命幾ばくもないことを悟った主人公、志村喬演ずる渡辺勘治は市役所で働き、市民課長を務めています。冒頭のシーンで市民課が映し出され、主人公は「死骸も同然」「以前には少しは、仕事をしようとしたこともある」が「今やそういう意慾や情熱は少しもない。そんなものは、役所の煩雑極まる機構と、それが生み出す無意味な忙しさの中で全くすりへらしてしまったのである」と、こき下ろされる。やる気のない職員、たらい回しにされる市民の要望、よどんだ空間として市役所が描かれています*1)

当時はそれなりにリアルだったのかもしれませんが、70年が経ち、映画と現実は著しくかけ離れています。

しかし、役場に対するイメージはあまり変わっていないのではないでしょうか。「公務員は働かない」「仕事は楽なのに、安定した給料をもらっている」「ぬくぬく暮らす既得権勢力」といった公務員たたきがあとを断ちません。

現在、公務職場において――民間においてもそうですが――正規職員の働き過ぎ、非正規職員の劣悪な処遇、という問題があります。

厚労省の掲げる「働き方改革」の柱は2つです。一つは、労働時間法制を見直し、働き過ぎを防ぐこと。もう一つは、均等待遇の実現で、正規雇用と非正規雇用の間にある不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても「納得」できるようにするというものです。
 
*1)『全集 黒澤明』第三巻、岩波書店。

1.正規職員の働き過ぎ 

1-1 働き過ぎで健康を害す

まず、正規職員についてみてみましょう。

正規職員・非正規職員と常勤職員・非常勤職員という呼び方があり、公務員は常勤・非常勤を使うようですが、ここではより一般的な正規職員・非正規職員という用語を使うことにします*2)

*2)正確には、「正規・非正規」、「常勤・非常勤」には次のような意味の違いがある。雇用形態(どのように雇用されているのか)に着目すると、使用者との間で期間の定めのない労働契約を締結しているものを「正規」労働者と呼び、定めのある有期雇用で働くものを「非正規」労働者という。就業形態(どのように働いているのか)に着目すると、所定労働時間を通じて勤務するものを「常勤」(フルタイム)労働者と呼び、一部を勤務する形態を「非常勤」(短時間労働者、パートタイム)労働者という。

さて、全国的な状況としては、地方公務員10万人当たりの長期病休者数*3)は、2010年度は2,405人 で、10年後の2020年度は2,795人となり、約400人(16%)増えています(図1)。

*3)一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会「【令和3年】地方公務員健康状況等の現況の概要」

そのうち、うつ病や適応障害など「精神および行動の障害」(Mental and behavioural disorders )で休んでいる人は、2010年度には798人だったのが2020年度1,713人と約1.5倍になり、15年前との比較では約2.1倍です(図2)。


人としての限界を超えて働くことが健康障害を引き起こす。長時間労働とストレスがその要因です。

府中町役場はどうでしょうか。

総務課にお願いして、職員の働き方に関する過去10年のデータをまとめていただきました。

通算1週間以上の病休・休職者は、2012年度から2018年度まではだいたい10人台の前半でしたが、2019年度から17人(2020年)、20人、22人(2021年)と増加。今年度は4月から8月までの5か月で、すでに19人となっています。メンタル不調で休職している人も2019年度から9人、12人(2020年)、14人(2021年)と年々増え、今年度は8月までで12人です(図3)。

定年前に退職した職員数は、この10年間、3人~5人でしたが、2021年度は9人です(図4)。この増加が1年限りなのか今後も続いていくのかは分かりません。

 

退職の理由は様々で、働き過ぎだけを原因とすることはできませんが、メンタル不調で休職した社員の退職率は高いといわれています。10年間を通じて30代の退職が多いのが気になります。

1-2 時間外労働が増え、有給取得もままならない

時間外労働の全国的な状況ですが、総務省「地方公務員給与実態調査」に、平均給料月額に対する時間外勤務手当の割合が出ています。いわゆる「サービス残業」=「残業代の不払い」がないとすれば、時間外勤務手当によって残業や休日労働のおよその実態を把握することができます。

町村の推移をみますと、時間外勤務手当の割合は、1993年6.1%、1998年5.4%、1998年7.5%、2008年4.0%、2013年5.2%、平成2018年6.1%、2021年7.1%となっています(図5)。

1998年に増えているのは全国を席巻した「平成の大合併」の影響と思われます。5年後の2008年にはいったん減りましたが、その後は増え続ける傾向にあります。

府中町役場はどうでしょうか。

選挙と災害対応を除く、正規一般職の時間外労働時間の総計は、2012年度3万2千時間で、その後緩やかに増えてゆき、2019年度4万2千時間、2020年度5万2千時間、2021年度5万8千時間となっています。職員1人当たりにしますと、2012年度は月8.3時間でしたが、2021年度には17.3時間で、残業時間は倍以上になりました(図6 赤い折線)。ここ数年増加している主な要因は新型コロナ感染症への対応によるものでしょう。

臨時的な要因ということでデータからは除かれていますが、平成2018年の榎川越水、豪雨災害の時も職員のみなさんは多くの超過勤務をしながら対応されました。

 

有給休暇はとれているでしょうか。

平均取得日数は2012年度には年間13.7日でしたが、2021年度に年間12.3日と1.4日減り、休みが取れなくなっています(図6 青い棒)。

 

府中町が2010年度に作成した『「仕事と子育てを両立できる職場づくり」 ~府中町職員全員参加のプログラム~』では、2009年度の時間外労働の総時間数35,720時間を2014年度までに20%削減し、有給休暇取得率を80%、16日以上にするという目標を掲げました。

しかし残念ながらいずれの目標も達成せず、令和3年度の時間外労働の総時間数は2009年度の6割増。有給休暇の取得率は61.5%で、依然として60%台にとどまっています。

1-3 業務による心理的負荷

ストレス要因は長時間労働だけではありません。業務による心理的負荷*4)もあります。厚労省の「精神障害の労災認定」というパンフレットには負荷要因として次のようなものが挙げられています。

 ・達成困難なノルマが課された
 ・ノルマが達成できなかった
 ・新規事業の担当になった
 ・顧客や取引先からクレームを受けた
 ・仕事内容・仕事量の大きな変化
 ・配置転換があった
 ・複数名で担当していた業務を一人で担当するようになった
 ・部下が減った
 ・理解してくれていた人の異動があった
 ・上司が替わった
 ・セクシャルハラスメントを受けた

これらの事例は公務でも当然あり得ることです。公務員もまた、厳しいストレスを感じながら日々働いている。そうであるからこそ、さまざまな健康障害を引き起こしているわけです。

*4)厚労省「精神障害の労災認定」2012年3月。

1-4 地方公務員数 全国的には減少

過労を引き起こす原因として、まず考えられるのは人員削減です。

全国の地方公務員数は、1994年がピークで328万人でしたが、翌年から2005年度にかけて約50万人減少しました。町村合併の影響も大きかったと思います。

2005年度から「集中改革プラン」として「定員管理の適正化」という名の人員削減が進められました。その結果、 2005年度304万人だった地方公務員は、2010年度には281万人となり、目標(6.4%)を上回って7.5%の純減を達成。その後も「自主的・主体的な行革の推進」が自治体に求められました。

1-5 広島県内は3割減 府中町は横ばい

広島県内の自治体はどうでしょう。

21世紀に入ってからの約20年間で職員数は大きく減りました。広島市を除く県内市町の職員数は、1999年度には22,437人でしたが、2021年度には16,438人となり27%減っています。県内9町は、1999年に2,534人でしたが2021年には1,790人と30%減っています*5)。町村合併の影響が大きかったと思います。

府中町はどうでしょうか。

「決算カード」と「地方公共団体定数管理調査」の各年度版を使って技能労務員・消防職員を除いた一般職員数を調べてみました。2005年度250人、2019年度264人で、この15年間250人から275人のあいだを推移しています*6)。職員数は減っていませんので、府中町の場合は多忙化の要因にあげることはできません。

 

*5)広島市を除く県内13市は、1999年19,903人→2021年14,678人で26%減。広島市は1999年11,775人→2021年14,261人だが、2017年に県費負担教職員約5,000人が移管している。その分を引くと2,021年度の職員数は9,200~9,300人となり、2割程度減少したことになる。
*6)「決算カード」の職員数には、公企業会計(下水道など)と特別会計(介護保険、国保、後期高齢者など)の職員は除外されている。その分を「地方公共団体定数管理調査」によって補った。

1-6 役割と仕事量の増大

では何が問題なのでしょう。

それは役割と仕事量の増大です。人は減らなかったけれども、仕事が増えました。

総務省自治行政局が2012年にまとめた「地方行革の現状と課題」*7)では、1997年から2011年まで、介護保険、国民保護法、児童虐待防止法など11の法律が成立したことを挙げています。

また、生活保護を例として挙げ、保護世帯が10年で2倍に増え、福祉事務所の仕事が多様化・複雑化したと述べています。扱う業務数が増え、一つひとつの業務の質も複雑化しました。

*7)総務省自治行政局「地方行革の現状と課題」2012年7月12日

1-7 地方分権改革と権限移譲

市町村の業務をさらに増やしたのが市町村への権限移譲です。

1999年、地方分権一括法が成立し、機関委任事務制度の廃止などとともに国から都道府県、都道府県から市町村への権限移譲が始まりました*8)。

広島県は、2004年度に「分権改革推進計画」を策定し、県内市町への事務・権限の移譲を推進し、移譲対象とした事務の約8割が移譲され、「全国でもトップクラスの実績」と県は誇っています。

総務省の資料によりますと、2007年段階で、移譲の対象にしている法律数が多い都道府県の第2位(104法律)が広島県です。「合併が進んでいる都道府県ほど市町村への権限移譲が進んでいる」と資料にありますが、地方分権とは裏腹に国への忠誠度が表れているのかもしれません。

広島県は、2010年4月現在で、移譲対象事務2,446のうち73.9%が移譲され、23市町の半数が進捗率70%を超えました*9)

*8)2006年12月、地方分権改革推進法が成立し、2007年4月、地方分権改革推進会議が発足。2020年5月、「市町村の自治権の拡充をはかる諸方策」を勧告し、「都道府県から市町村への権限移譲」はその柱の一つとなっている。2011年8月には第2次分権一括法が成立し、基礎自治体への権限移譲がさらに進められた(47法律)。
*9)広島県市町行財政課「権限移譲の検証について」2011年2月21日

1-8 府中町における権限移譲

府中町はどうだったでしょうか。

当町において権限移譲は、2007年度から2009年度の3カ年で集中的に進みました。この3年間で福祉保健部19事務、町民生活部11事務、建設部5事務、教育委員会1事務、消防本部2事務の計38事務が移譲されました。福祉保健部はその後9事務、その他の部局も併せますと全部で50事務が今日まで県から移譲されました(表1)*10)

*10)広島県ホームページ「県から市町への事務・権限移譲の取組について」。部局名は移譲当時と違うものもあるが現在の部署を示している。

移譲が一番多かった福祉保健部の場合、2007年度が、身体障害者相談員及び知的障害者相談員による相談の実施、心身障害者扶養共済制度の届出受付等に関する事務など11事業、2009年度が、指定障害福祉サービス事業者・指定一般相談支援事業者の指定・指導監督等に関する事務など8事業です。

指定障害福祉サービス事業者・指定一般相談支援事業者には、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、短期入所、重度障害者等包括支援、共同生活援助を実施する事業者となっています。この多岐にわたる事業者の指定、指導監督をしなければなりません。

「第二種社会福祉事業の届出受付等に関する事務」には、「生計困難者に対して,その住居で衣食その他日常の生活必需品等を与え,又は相談に応ずる事業<1号事業>」、「放課後児童健全育成事業及び児童の福祉の増進について相談に応ずる事業<2号事業>」、「母子福祉施設を経営する事業<3号事業>」、「老人福祉センターを経営する事業<4号事業>」、「手話通訳事業,身体障害者福祉センター等を経営する事業,身体障害者の更生相談に応ずる事業<5号事業>」、「知的障害者の更生相談に応ずる事業<6号事業>」、「生計困難者のために無料又は低額な料金で簡易住宅の貸付等を行う事業<8号事業>」、「生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業<9号事業>」、「隣保事業<11号事業>」、「福祉サービス利用援助事業<12号事業>」という10の事業が一つの移譲項目として数えられています。

2014年には福祉事務所が設置され、生活保護に関する事務、児童福祉に関する事務、障害者福祉に関する事務、母子家庭及び父子家庭並びに寡婦の福祉に関する相談等の実施、家庭内暴力の防止に関する事務などが移譲されました。

児童福祉に関する事務には、児童扶養手当の認定・支給、助産施設における妊産婦の助産の実施、母子生活支援施設における保護、家庭児童相談室の相談指導が、障害者福祉に関する事務には、障害児福祉手当、特別障害者手当、経過的福祉手当の認定・支給が挙げられています。

項目としてはトータル50事業ですが、このように1事業と数えられているなかに多様な仕事が含まれているのです。

これほど仕事が増やされたのに、町の正規職員数はほとんど変わりません。これでは過重負担になるのは当然ではないでしょうか。

さきほど紹介しました、地方分権改革推進委員会「第1次勧告」は「移譲に伴う必要な財源措置を地方税、地方交付税等を通じて確実に講ずるとともに、移譲される権限にあわせた人的支援についても適切に対応することが不可欠である」と述べています*11)

しかし、全国的には職員数は減少、府中町でも横ばい。増える仕事に対応できるだけの人員採用はなかったといえます。県の資料によると人的支援とは「県職員の派遣や市町職員の研修受入を実施し、専門的人材の育成等の支援」のことのようですから、人員増という考えはそもそもなかったのでしょう。

*11)地方分権改革推進委員会「第1次勧告~生活者の視点に立つ地方政府の確立~」2008年5月28日
 

1-9 さらに増える町の業務

2010年以降に、法律や通知などを根拠に町が作った主な計画を挙げてみますと、総務企画部・財務部が、「人口ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2015年)、「公共施設等総合管理計画」(2017年)・「維持保存計画(建築物)」(2020年)、「国土強靱化地域計画」(2021年)、福祉保健部が、「地域福祉計画」(2013年)、「府中町子ども・子育て支援事業計画」(2015年)、「国民健康保険データヘルス計画」(2017年)、「いのち支える府中町自殺対策行動計画」(2019年)、建設部が、「地域公共交通網形成計画」(2019年)で、「立地適正化計画」は今年度より策定に入ると伺っています*12)

次から次へと計画を作ることが国から求められ、その対応に追われているのではないでしょうか。計画は作って終わりではありません。実行し、評価と改善を加えて、新たな計画を立てることが待ち構えています。「判で押したような仕事の繰り返し」というイメージが役場にはありますが、実態は大違いです。常に新しい事業がやってきてその対応に追われている。

私は、計画をつくることや権限移譲そのものが悪いとは思いません。増えた業務を実施するに相応しい人員が確保されないことが問題だと考えます。

*12)これらの計画の根拠法・通知は以下の通り。「人口ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」=まち・ひと・しごと創生法、「公共施設等総合管理計画」「維持保存計画(建築物)」=「公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進について」通知、「地域福祉計画」=社会福祉法、「府中町子ども・子育て支援事業計画」=子ども・子育て関連3法、「国民健康保険データヘルス計画」=「国民健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針の一部改正について」通知、「いのち支える府中町自殺対策行動計画」=自殺対策基本法、「地域公共交通網形成計画」=地域公共交通の活性化及び再生に関する法律、「国土強靱化地域計画」=国土強靱化法、「立地適正化計画」=都市再生特別措置法。
 

1-10 安全配慮義務

労働契約法・労働安全衛生法という法律があり、「安全配慮義務」がうたわれています。安全配慮義務とは、労働者の心と身体の健康を守る義務のことです。使用者は、健康診断や労働時間管理をきちんと行い、心と身体の健康に配慮し、さらにハラスメント対策として職場環境をきちんと整える義務があります*13)

労働契約法・労働安全衛生法は現業でない公務員には適用されていませんが、安全配慮義務は、公務にも当てはまります*14)。町には職員の命と健康を守る義務があるのです。

*13)【労働契約法第5条】(労働者の安全への配慮)使用者は、労働契約に伴い労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
【労働者安全衛生法第3条第1項】(事業者等の責務)事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。(略)
*14)国や地方自治体は、自らが雇用する公務員に対して、民法にある「信義誠実の原則」――「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」(第1条2項)――に基づき「安全配慮義務」を負っている。

これまでも町として、時間外勤務の縮減や有給休暇取得率の向上のために努力されてきたと思います。

先ほど紹介した「府中町職員全員参加のプログラム」においても「時間外勤務の縮減と休暇取得促進は、子育て支援のためだけではなく、すべての職員にとって個人の生活を充実させるために大切なことです。十分な休養をとり豊かな家庭生活や趣味の時間を過ごすことで、仕事の集中力や質は高まるのではないでしょうか」と述べ、意識啓発や事務の簡素合理化などを提言しています。

しかし、いくら呼びかけても仕事量が減らなければ、時間外勤務をせざるをえず、有給休暇も取ることができません。

そこで伺います。

①正規職員のおかれている状況はたいへん厳しいものがあると思いますが、町としてはどのように受け止めていますか。

総務企画部長 最近の地方公務員の業務が厳しいものである、というご指摘ですが、そのとおりであろうと感じています。その要因が「役割と仕事量の増大」にある、というご指摘も、またそのとおりであろう、と感じています。

しかし、実際に役割や仕事量がどれぐらい増加したか、客観的な数値等で表すとなると、なかなか難しいところです。

町でも、業務量や業務実態把握の調査を行ったりもしましたが、こうすれば現状を改善できる、という分析までは至っていません。

ただし、早期退職者や病休者について、個別にその聴き取りを行う中では、様々な個人的理由があり、一概に業務の忙しさがその要因とは結び付いていないところです。

②多忙化の原因は仕事量の増大にあり、解決のためには、仕事量の増大にみあった人員増、正規職員を大幅に増やすことが不可欠と考えます。町として正規職員を増やす考えはありますか。

総務企画部長 町では毎年度、人事部局が各部署から、翌年度の新規事業や業務の多寡、現職員の勤務状況などのヒアリングを行い、その内容をもとに、新規採用者数や人員配置を決定しているところです。

今年度4月の人事異動も、向洋駅周辺土地区画整理事業の駅南側物件移転補償事務の本格化に伴う加配や、学校給食公会計化に伴う制度改変対応業務に係る加配を行っていますが、この人事異動もその取り組みの一環となります。

また、2021年度に早期退職者が多発したイレギュラーな事案を受け、今年度中途採用を行うなど、臨機応変な対応も行っています。

加えて、新たな働き方として、在宅型テレワークを今年度から制度化していますし、RPAやAI-OCRの導入へ向けた事業費を、今年度予算化しているところです。

理由や積算根拠なく大幅に職員を増加させる予定はありませんが、現時点においては、地道でもできる範囲のことを、丁寧に対処していくことが重要であると考えています。

2.会計年度任用職員

2-1 増え続ける非正規職員

二見議員 つぎに、非正規職員、会計年度任用職員について伺います。

自治体で働く非正規職員の調査を総務省が始めたのは2005年度からで、その年は46万人、職員全体の13%でしたが、調査のたびに増え続け、2020年度には69万人(20%)、2005年度の1.5倍となっています(図8*15)

*15)総務省「地方公務員の臨時・非常勤 職員に関する調査結果」

府中町の非正規職員数はどうでしょうか。

2005年度は88人でしたが年々増え続け、2011年度には148人になりました。翌年から数年減りましたが、町立保育所(南保育所)を閉鎖し、学校給食を委託化したことによるものです*16)

*16)①公立保育所(南保育所)の閉鎖に伴い、2011年度以降、2016年度まで、嘱託保育士、嘱託調理師が徐々に減少(2012年18人→2017年度0人)。
②学校給食の委託化に伴い、2010年度以降、2014年度まで、嘱託学校調理員が徐々に減少(2009年度25人 →2015年度0人)

2016年度から再び増え始め、今年度(2022年度)は過去最高の164人で、平成17年度の倍近くになっています(図9)。正規職員数と非正規職員数の比率はほぼ6対4です。

正規職員が増えないなか、膨大に増えた業務がなんとか回っているのは、非正規の人たちが本来正規職員がすべき仕事を肩代わりしているからではないでしょうか。

2-2 劣悪な労働条件

2017年、地方公務員法が改正され、会計年度任用職員制度がつくられました。適正な任用を確保することと、期末手当の支給など処遇の改善が目的です。

非正規職員は会計年度任用職員となりましたが、その労働実態はどうでしょうか。

公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)」が2021年に実施したアンケート*17)を紹介したいと思います。

*17)有効回答数1,252件。回答者は女性が93%、自治体勤務が82%、会計年度任用職員が76%。

回答を寄せた1,252人のうち、女性で主たる生計維持者が33%、年収250万円未満が71%、年収200万円未満が43%でした。主たる生計維持者でない人でも「自分の収入なしには家計が厳しい」と回答した人が53%と半数以上です。

「はむねっと」は、「非正規公務員が、恒常的に必要な公務を、1年ごとの不安定な立場で、低い賃金・待遇で担っており、心身の疲弊が広がっている」と調査結果をまとめています。
 自由記述欄の内容を整理すると、①賃金が安い42.4%(531人)、②将来が不安34.6%(433人)、③やりがい搾取22.7%(284人)の3つが上位を占めました。

代表的な声を紹介します。

2-2-1 賃金が安い

賃金については…

・女性たちの善意や気持ちに頼りすぎ。私たちはボランティア精神で仕事をしている訳ではない。自分たちにも生活がある。経済的不安定さが、精神的不安定につながるため、毎日どこかに不調を抱えている。低賃金で重労働の仕事を平気でさせている自治体行政に怒りがわく。女性たちを使い捨ての「労働の駒」として率先して使っている。女性蔑視、人権侵害以外の何者でもない(関東・甲信、30代、女性)。

2-2-2 将来が不安

将来については…

・更新への不安で春は抑うつ感が強い(近畿、40代、女性)。
・無気力 将来はアキラメタ(北陸、40代、男性)。
・圧倒的な将来不安を感じる。手取りが生活保護と変わらない。明るい未来はどこにも見えない(東海、30代、女性)。
・来年度の雇用があるか、大病をしたらどうなるかなど、いつも心配。年度末ギリギリまで、次年度の雇用について詳細を聞かされない(関東・甲信、40代、女性)。

2-2-3 やりがい搾取

「やりがい搾取」ですが、仕事の充実感、達成感を利用し、企業が労働者を不当な労働条件で働かせて利益を得ることをいいます*18)

*18)「やりがい搾取」という言葉を作った本田由紀は、仕事における裁量性、自立性、奉仕性の高さなどによって「一見、自己実現的な《働き過ぎ》をつくり出」し、企業が「安定雇用の保障や高賃金という代価なしに、労働者から高水準のエネルギー・能力・時間を動員」していると述べている(本田由紀「〈やりがい〉の搾取――拡大する新たな『働きすぎ』」『軋む社会』河出文庫、2011年)。

会計年度任用職員の方たちは、自分たちも「やりがい搾取」されていると考えています。

・職場で唯一の専門職で、判断を求められる立場にあり、経験も20年近くあるが、待遇は改善されないままで給与は手取り10万円と少し。仕事内容に比して報酬の少なさにやりがい搾取を感じる。身を粉にして働いており評価も得ているが、使い捨てられる不安がある(東海、40代、女性)。
・市民サービスの向上や自治体としてのミッションを達成するため、知識や経験を生かせる場面もあり、やりがいを感じることもあるが、自分のポジションがいつ無くなるか、ほかの人に取って代わられるか、常に不安と向き合いながら日々の業務をこなしている(関東・甲信、50代、女性)。
・仕事にやりがいを感じるほどに、評価されないこと、いいように使われるやり切れなさで悲しくなります。面接で給与を提示され昇給はないがそれでもいいかと訊かれたが、他に仕事があるわけでもなく、分かっていますというほかありませんでした(北陸、40代、女性)。

仕事にやりがいを感じつつも、将来への不安を抱えて働く会計年度任用職員の姿がここにあります。もう一つ紹介したい。

・行政サービスの質を支える専門的知識・技術を軽視しすぎ。常勤が管理業務に特化され、今では現場で必要な専門性は長期に勤務する非常勤(職員)によって蓄積・継承されている。にもかかわらず「非常勤(職員)がやる仕事は補助的で簡単な業務」という建前はそのまま(関東・甲信、50代、女性)。

 府中町の場合は、常勤(正規)職員の仕事が管理業務に特化されているということはないと思います。しかし、正規職員はだいたい3年で職場をローテーションしていくわけですから、「現場で必要な専門性」が「長期に勤務する非常勤によって蓄積・継承」される傾向にあることは否定できません。

2-3 県内の会計年度任用職員

つぎに広島自治労連(広島県自治体労働組合総連合)が会計年度任用職員を対象にしたアンケート――広島市、呉市、府中町の職員が回答――の一部を紹介します。

・正規職員の補助としてではなく、会計年度任用職員の方がメインで業務をしている状況を改善してほしい。正規職員と同じ業務をしているのに、給料に格差があり、交通費の支給も違うので改善してほしいです。
・仕事にやりがいを持ち、働いているが給料が安く、物価や税金の上昇で生活は楽ではない。年2回の一時金が支給されるようになったとはいえ、余裕が持てる金額ではなく、常勤職員との格差を改善してほしい。
・同じ職場に7年以上もいると自分が一番ベテランになり、1年のルーティンも分かり、予定表も私が立てて、それでグループ員が動く形です。新卒の方もいて、一般常識・ビジネスマナーも含め教えています。長くなればなるほど自分のキャリアに対する賃金の低さにモヤモヤします。
・正規職員より時間が短いのに年々業務量が増えており、時間に余裕がありそうな正規職員を見ると、不満が募る。労働時間に見合った業務量と、助け合って仕事をすることに気をつけてほしい。
・正規職員がしていた仕事を研修もなく、引き継ぎもなく当たり前のように割り振られる。
・年々仕事量が増えるが、昇給がないのでモチベーションがあがらない。
・非正規雇用というと、責任が重くない、正規職員と違い就労時間が短い、休みが気軽に取りやすい、といった印象があるが、正規職員と同じような仕事内容やレベルを求められ、不服な時がある。

会計年度任用職員の声を紹介してきました。

正規と変わらない仕事をしているのもかかわらず、年収200万円以下が大半*19)。昇給もない。業務量は年々増えていく。

*19)はむねっとのアンケートでは年収250万円未満が71%、年収200万円未満が43%。広島自治労連が実施したアンケート(広島市、呉市、府中町)では年収250万円未満が84%、年収200万円未満が45%という結果になっている。

そもそも会計年度任用職員制度は、任用の適正化、処遇の改善を目的として設立されました。しかし、全くといっていいほど処遇は改善されていません。
そこで伺います。

③正規職員と会計年度任用職員の待遇には大きな格差がありますが、それを正当化する理由はあるのでしょうか。

総務企画部長 前提として、正規職員と会計年度任用職員は、地方公務員法上、常勤職と非常勤職との違いがあり、業務内容や勤務時間についても異なっていますので、待遇における差は生じています。

給与、また、それ以外の休暇制度等の勤務条件については、国や民間、周辺自治体などとの権衡(けんこう)を図ることが、地方公務員法で規定されていますので、当該規定に基づいて定めることとしています。

昨今国では、非常勤職員に係る休暇制度等の新設や拡充を、頻繁に行っていますが、それは、常勤職員との差を改善していくものと受け止めていますので、当町においても、同等の改正を行うことで、会計年度任用職員の待遇の向上に努めたいと考えています。

なお、給与や勤務条件に係る制度の改正については、当然非常勤職の職員団体と協議、交渉を行い、合意を基本としているところです。

3.解雇される不安

3-1 偽りの「会計年度」

二見議員 会計年度任用職員の皆さんにとって、大きな不安は雇用が切れることです。収入の道が断たれるのですから当然でしょう。

そもそも「会計年度」とは4月から翌年3月までの単年度を意味しています。総務省は、「『会計年度任用の職』は、1会計年度ごとにその職の必要性が吟味される『新たに設置された職』と位置づけられるもの」だと言います*20)

*20)総務省自治行政部公務員部「会計年度任用職員制度について」

このように単年度雇用を強調するのですが、実際には長期にわたって働いています。

広島自治労連のアンケートでは、1年未満の人が10.2%、2年~4年が31.4%、5年から9年が28.7%、10年から14年が13.3%、15年以上の人が15.2%もいます。

総務省は「再度の任用がなされた場合でも、『同じ職の任期が延長された』、『同一の職に再度任用された』という意味ではなく、あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理されるべきもの」であり、「成績主義や平等取扱いの原則を踏まえれば、繰り返し任用されても、再度任用の保障のような既得権が発生するものではない」*21)とまでいう。

*21)同上

実際には1年限りではなく、長期にわたって働いてもらわないと業務は回らない。正規職なみの仕事をしている人もたくさんいる。さきほど紹介したアンケートへの回答にあったとおりです。

にもかかわらず、複数年にわたって働くことを「再度任用の保障のような既得権」と言ってのける。

解雇されるかもしれないという不安をかかえながら年収200万円程度で働くことのどこが「既得権」なのでしょうか。正規職員は一旦採用されたら、昇進のための試験はあるかもしれないけれども、クビになるかどうかの試験はありません。会計年度任用職員に対してだけ「客観的な能力実証」に基づいて任用せよ、などとどうして言えるのか、私には理解できません。

3-2 試験は必要なのか

さて、府中町の問題に入ります。

当町では、総合評価がA又はBの者については4回を限度として採用試験が省略されていますが、6年目を迎えるためには作文と面接による採用試験を受けなければなりません。

5年間も町の職員として働いてきたのに、なぜ試験をする必要があるのでしょうか。

公募をし、「客観的な能力実証」によって選考するというのですから、今まで働いてきた実績よりも作文の上手い下手が選考基準となる。今まで働いてきた人より作文が優秀な人が受験すれば、これまで仕事で頑張っていても不合格となり、辞めなければならない。「更新への不安で春は抑うつ感が強い」「契約の更新時が来ると、仕事がつながるかどうかの不安でメンタル不調が激しくなる」。当然こういう声があるわけです。

低賃金で都合よく働かせておいて、期限がきたら、他に優秀な人がいたからと使い捨てる。こういうことでいいのでしょうか。

3-3 勤務実績で選考してもよい

今年(2022年)4月25日、参議院行政監視委員会「国と地方の行政の役割分担に関する小委員会」において、伊波洋一議員が、採用のあり方について、公募によらない採用も認めるべきではないかと質問しました。

田畑裕明総務副大臣は、「会計年度任用職員の採用に当たっては、地方公務員法に定める平等取扱いの原則や成績主義の原則を踏まえ、できる限り広く募集を行うことが望ましい旨助言をしているところでございますが、具体的な任用方法につきまして、各自治体におきまして、地域の実情等に応じつつ適切に対応していただくべきものというふうに考えているものでございます」と答弁しました。

伊波議員は、公募するとしても「その職員の前の任期における勤務実績を評価して再度の任用に努めるべき」ではないかと再度質問すると、副大臣は「客観的な能力の実証の一要素として前の任期における勤務実績を考慮して選考を行い、その結果、再度の任用をすることは可能」というものでした。

特別な試験をしなくても、「前の任期における勤務実績を考慮して選考」してもよい、それは各自治体の判断だと副大臣は答弁しているわけです。

そこで伺います。

④会計年度任用職員は試験によって雇用が切れることに不安を抱いています。試験ではなく勤務実績によって選考してもよいという国会答弁がありますが、これまで5年目に実施してきた採用試験を省略し、勤務実績に基づく選考にする考えはありませんか。

総務企画部長 2020年度から導入された「会計年度任用職員制度」において、当町では現在、事務補助を行う一般事務職のほか、介護支援専門員や手話通訳など、約20種類に及ぶ会計年度任用職員を任用しているところです。

現在の当町の公務の執行において、会計年度任用職員の役割は大きく、常勤職員の定期的な異動があるなかで、経験値を積まれた会計年度任用職員の存在は、行政サービスを提供するうえで、なくてはならない存在となっています。

会計年度任用職員の採用にあたっては、一般公募を行ったうえで、作文や面接による試験を課し、通常1年を任期として、任用しているところです。

ただし、本人が希望した場合で、人事評価による勤務成績がおおむね良好な会計年度任用職員については、最大4回まで試験を課さず、当該人事評価をもとに、選考により任用を行う運用としています。

4回の更新後、更に本人が希望される場合は、一般公募に再度ご応募いただき、試験を受験いただくこととなり、改めて採用された場合は、人事評価をもとにした採用を、再び4回まで行うことができることとなります。

この運用については、去る平成12年3月定例会の一般質問、「嘱託職員の雇用のあり方」において、住民のなかに嘱託職員としての採用を希望する方が、たくさんおられるにも関わらず、同じ職員を長期にわたり雇用している実態に対してご指摘を受けたことが、その背景となっています。

町では、登録名簿から選考により採用を行っていた、それまでの任用の方法を改める旨答弁し、「任用の機会均等」「任用の公平性」といった観点から、採用や再度の任用の方法について、見直しを行った結果、現在の運用としました。

会計年度任用職員制度が始まった後も、当該制度を踏襲しているところです。

ご質問の、再度の任用に係る回数の上限の撤廃や、5年目での勤務実績に基づく選考についてですが、「会計年度任用職員制度」が始まる際の国の資料によりますと、再度の任用においては、できる限り広く募集を行うことが望ましく、平等取り扱いの原則及び成績主義を踏まえ、公募によらず従前の勤務成績に基づく能力の実証により、再度の任用を行うことができるのは原則2回まで、とされています。

また、都道府県や市町村などを対象に、令和3年度に国が行った調査によりますと、毎回公募を行い再度任用する団体は、全体の39%、当町と同じく、公募を行わない回数等の基準を設けている団体は、全体の44%、毎回公募を行わず再度任用する団体は、全体の17%となっています。

なお、回数等の基準を設けている団体における、上限回数については、2回としているところが7割弱、当町と同じ4回としているところが3割弱となっています。

再度の任用に係り、法的な制限はありませんが、約8割もの自治体は、一定のルールは設けているものの、公募による任用を行っています。

やはりそれは、多くの自治体が、会計年度任用職員を、その名が示すとおり、一会計年度を超えない範囲内の職であることを重視していること、また、国の考え方を取り入れていること、にほかならないものと考えます。

当町としましても、現時点において、再度の任用に係る回数の上限を撤廃したり、5年目での勤務実績に基づく選考を行う予定はありません。

しかし、5年目を迎えた会計年度任用職員が、不安に思われている声が上がっていることを重く受け止めるとともに、現運用を開始して約20年経過していることを考慮しますと、どのような採用方法がより適切か、考えてみる時期に至っているとも言えます。

「任用の機会均等」「任用の公平性」を保持しつつ、行政サービスの低下も招かず、かつ、会計年度任用職員が不安なく働くことができる採用制度、それがどのようなものか、周辺自治体の状況も参考にしながら、研究・検討してまいりたいと思います。

《2回目》

4.会計年度任用職員の処遇をめぐって

4-1 雇用継続の不安を取り除くべき

二見議員 まず、5年ごとの再試験(質問④)についてですが、

会計年度任用職員の果たす「役割は大きく、常勤職員の定期的な異動があるなかで、経験値を積まれた会計年度任用職員の存在は、行政サービスを提供するうえで、なくてはならない存在」だという認識を示され、「5年目を迎えた会計年度任用職員が、不安に思われている声が上がっていることを重く受け止め」、どのような採用方法がより適切か、考えてみる時期が来ているというものでした。

しかし、残念ながら「現時点では、再度の任用に係る回数の上限を撤廃したり、5年目での勤務実績に基づく選考を行う予定はない」という結論です。

答弁にありました2000年3月定例会での大谷智也子・元議員の一般質問を私も読んでみました。

大谷議員の質問は、確かに嘱託職員の連続した雇用は避けるべきだというものですが、そのこととあわせて、長期に働くほど「必要で、大事なところをお任せしているんでしたら、正職をきちっと配置されるべきである」「必要なら正職にもってきていただきたい」「なぜ正職にされないのか」ということも質されています。

大谷質問の前提は、「経験値を積」むことが必要な仕事は正規で処遇し、熟練のいらない単純な作業、短期間しか必要でない仕事は嘱託職員で、というものです。しかし、実態は答弁にもありましたように「経験値を積んだ、なくてはならない存在」なわけです。本来であれば正規職として処遇しなければならない。それをしていないなかで、せめて雇用継続の不安を取り除くことをすべきではないか。総務省も「各自治体の判断でできる」と国会答弁しているわけですから、一刻も早く検討し、改めていただきたい。

4-2 均等待遇が主流に

つぎに、正規職員と会計年度任用職員の待遇には大きな格差を正当化する理由はあるのか(質問③)に対する答弁ですが、正当化する理由についてのお答えはありませんでした。ないわけです。仕事については、ほとんど同じか場合によっては正規より経験の蓄積がある。労働時間が少し短いだけ。それなのに年収は正規の4分の1から3分の1というのはどう考えても権衡、つりあいを欠いています。

府中町に限らず、日本において公務職場も民間職場も、①有期雇用、②パートタイム労働、③派遣に対して、差別的な取扱いをすることが事実上容認されています。
しかし、これは日本の常識であって世界の常識ではありません。

スイスで暮らしていたAyaka Löschke(アヤカ・レシュケ)さんという研究者が、2013年、大手ディスカウントスーパー、リーデルがスイスで出した大幅賃上げの広告について、フェイスブックに投稿していました。その要旨を紹介します。

広告には「リーデルの新しい最低賃金はスイス全土で2013年12月1日から、4000スイスフラン(当時のレートで約43万円)となります!」とある。この「4000スイスフランの最低賃金」というのは、昇給をまだ一度も経験したことのない新人が、フルタイム(平日5日間:法定労働時間41時間)で働く場合に支払われる金額です。では、パートタイムはどうか?週2日、働く従業員には、フルタイム=4000 Fr.の5分の2(40%)が支払われ、週3日働く労働者には5分の3(60%)という具合です。フルタイム(常勤)であってもパートタイム(非常勤)であっても時間当たりの賃金は同じ。日本のように正規と非正規が別立ての賃金体系になっているということはないのです。

4-3 ILOパート労働条約

ILO175号パート労働条約第7条は次のように定めています(日本未批准)。

「次の分野において、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者と同等の条件を享受することを確保するための措置をとる。ただし、金銭上の権利は、労働時間又は勤労所得に比例して決定することができる。(a)母性保護、(b)雇用の終了、(c)年次有給休暇及び有給の公の休日、(d)病気休暇」。 

「雇用の終了」について、フルタイム労働者と同等の条件を享受するとは、「正規は終身雇用で、非正規は有期雇用」というような差別をしてはならないということです。

「金銭上の権利」の主要なものは賃金ですが、賃金は労働時間に比例して決定するというのが国際標準であり、いまスイスの例を紹介したとおりです。日本のように、同じ仕事をしても正規の4分の1から3分の1ということは許されないのです。

また、そうであるからこそ日本政府はこの条約を批准しない。正規雇用と非正規雇用の差別的取扱を容認しているわけです。

従って、府中町だけの努力で現状を大きく変えることは難しいのですが、この差別的取扱いはけっして当たり前ではないのだということを強調しておきたいと思います。

4-4 職員増の理由も根拠もある

つぎに正規職員についてです。

「適切な増員を図っている」という答弁でしたが、お認めになったように基礎自治体の役割と仕事量が増大し、「最近の地方公務員の業務が厳し」くなっているわけです。

人間の代わりに仕事をしてくれるというRPA(robotic process automation)も進めたらよいと思いますが、基本的には設定されたプロセスを、設定された通りの順番で設定された通りに実行することしかできません。なんらかの判断を伴ったり、手順が毎回変わったりするような業務には適していない。ですから、導入可能な職場と業務は限られてるでしょう。

紙の文書や帳票をスキャン・撮影された画像データからテキストデータを抽出するAI-OCRは、これまで蓄積されてきた紙媒体からのデータ化、手による入力作業を減らすことはできますが、

これも町の仕事のごく一部を代替するにすぎません。労働軽減効果は限定的です。

「理由や積算根拠なく」増員できないということですが、理由ははっきりしていると思うんです。職場のあちこちから悲鳴が聞こえる。そしてある者は心を病み、ある者は辞めていく。

各部署に「あと何人いりますか。ご希望の人数だけ増やします」と聞けば積算の根拠も出てきます。管理職のみなさんは、どうせ増えないと諦めて、控えめな、飲んでもらえそうな数字を出しているのではないでしょうか。

もっとも、大幅な人員増のためには、それに伴う予算が必要です。

全国町村会は、「地方の自主財源を拡充し、町村の財政基盤を強化すること」*22)を、全国町村議会議長会は「地方交付税総額と合わせ、一般財源総額の確保・充実」*23)を国に対して求めています。人員増を図るためにも、自治体財政の充実が欠かせません。

人件費についてはずっと悪者扱いで、減らせば減らすほどいいというような風潮がはびこっていますが、災害や新型コロナ感染症の拡大など、これまで考えられなかった事態が次々起き、職員はその対応に追われながら通常の業務も行っているわけです。

*22)全国町村会「令和5年度政府予算編成及び施策に関する要望」
*23)全国町村議会議長会「令和5年度国の予算編成及び施策に関する要望」

「人は石垣、人は城」という武田信玄の名言があります。信頼できる人の集まりは 強固な城に匹敵するという意味だそうです。
 府中町役場という城が、疲れ切った正規職員と希望を失った非正規職員の集まりではなく、正規も非正規も生き生きと働く人々の集まりであってほしいと切に願います。

4-5 会計年度任用職員の一時金支給について

最後に会計年度任用職員の一時金支給についてお伺いします。

2017年、地方自治法が改正され、会計年度任用職員について、期末手当が支給されることになりました。

2019年9月議会で「府中町会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例」が制定され、12月議会では、その一部改正がされました。

いずれの提案も、月給を削り、それを原資として期末手当にするものであり、①処遇改善とならず、かえって職員の生活を苦しくさせること、②適正な勤務条件と常勤職員との均衡を目的とする「地方公務員法及び地方自治法の一部改正法」の趣旨に反していること、③職員の労働意欲が下がること、など問題点を指摘し反対いたしました。

府中町のようなケースは他自治体でもあったようで、2022年1月20日、総務省自治行政局公務員部長「会計年度任用職員制度の適正な運用等について(通知)」において、「単に財政上の制約のみを理由として、期末手当の支給について抑制を図ることや、新たに期末手当を支給する一方で給料や報酬について抑制を図ることは、改正法の趣旨に沿わないものであるため、こうした取扱いを行っている団体は、適切な措置を講ずること」と明確に述べています。

実は同じ内容の通知が、2019年12月20日に出されています*24)。同日、総務省自治財政局が「2020年度地方財政対策」を公表し、「期末手当の支給等に係る経費について」約1,700億円を地方交付税として措置しました。給与を減額して期末手当を出すようなことは法改正の趣旨に沿わず、それを是正するために財政的な措置をとったわけです。

しかし、当町は「適切な措置を講ずる」ことなく、今日に至っています。

最後にお伺いします。

⑤改正法の趣旨に沿わない、期末手当支給に伴う月額給料削減を是正し、削減前の月給に戻したうえ、しかるべき期末手当を支給すべきです。 改めるつもりはありませんか。

総務課長 会計年度任用職員の給与については、常勤職員と同様、地方公務員法により、その職務と責任に応ずるものとされ、また、国や他の自治体職員、民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされているところです。

会計年度任用職員制度が開始される際、会計年度任用職員の報酬額、一時金については、従前と比較し、年収の3%アップという制度設計により、職員団体と合意のうえ、導入したところです。

しかし、導入時は、周辺自治体の詳細が明らかでなかった部分が大きかったことから、導入後の2020年度において、調査を実施しています。その結果、年収において、権衡(けんこう)を失している状況ではなかったことから、現時点では、見直しの予定はございません。

先ほどの答弁の繰り返しとなりますが、昨今、国では、非常勤職員に係る休暇制度等の新設や拡充を行っていますので、当町においても、同等の改正を行うことで、会計年度任用職員の待遇の向上に努めたいと考えています。

《3回目》

5.平等な雇用機会の確保

5-1 比較すべきは正職員

令和2年度に周辺市町を調査したら、よそよりそれほど悪くなかったので見直す予定はない、という大変残念な答弁でした。。

周辺市町の会計年度任用職員(非正規職員)と比べて何の意味があるんですか。

比べなければならないのは、当町の正規職員です。正規職員の期末手当は2020年度実績で4.3か月。当町の大学新卒者の正規職員の初任給は月給188,700円で、期末手当は年額80万円ほどです。会計年度任用職員は、形の上では期末手当があるようになったけれども、年収は3%しか上がらない。年収200万円なら年間6万円にすぎません。著しく権衡、バランスを欠いています。

「休暇制度等の新設や拡充」をするのは当然で、それをもってよし、とすることはできません。

5-2 男女共同参画社会のためにも

会計年度任用職員問題は、男女平等、男女共同参画という点でも問題があります。当町の会計年度任用職員の9割以上が女性です*25)。外見や意図は男女を差別していないが、結果として性別によって異なった処遇を生み出すことを間接差別といいます。

当町の正規職員採用時における女性の割合は37.5%(2020年)で、4割近い。賃金など労働条件もほぼ同じです。正規職員だけみれば民間企業より男女差別は少ないといえるでしょう。しかし、会計年度任用職員はどうか。ほとんど女性で男性はごくわずかしかいません。こういうのを間接差別というのです。

当町は、「男女共同参画社会基本法」の規定に基づく市町村男女共同参画計画として、1996年に「府中町女性行動プラン」を策定し、2007年に「府中町男女共同参画プラン」を、そして今年度、「第4次」プランを策定しました。

「はじめに」で佐藤(信治)町長は「男女に限らず多様性を尊重し、共に責任も分かち合い、性別に関わりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会を形成することが、これまで以上に重要である」と述べています。

基本目標の一つに「仕事と暮らしの充実」があり、「男女の平等な雇用機会の確保」が具体的施策に挙げられています。

そのなかには、正規雇用と非正規職員の格差の縮小・是正が含まれると私は考えます。

ワーキングプア、働く貧困層が広がっており、均等待遇と同一労働同一賃金の実現は、喫緊の課題となっています。しかし、その実現のためには、法改正や予算措置が必要です。

しかしそれを待たずとも、5年目に実施してきた採用試験を省略すること、正規と同じ率で期末手当を支給すること、この二つのことは町の判断でできる。そのことを再度強調して私の質問を終わります。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください