反対討論 「府中町下水道事業の設置等に関する条例の制定について」

2018年12月14日、府中町議会2018年度 第5回定例会に出された下水道条例に対する反対討論です。

保守の長老議員に「よく分かった。きっとあんたの言うとおりになる」と褒めていただきました。

私が演台に立って討論をしている最中、ガザガサごそごそ、町長の席から紙の音がします。

討論のあとの休憩中に町長が「討論でなく質疑でやって下さい」と声をかけてきました。負けず嫌いの町長は反論がしたかったようです。

「討論」とは、「議案に対する賛成、反対の旨とその理由を述べて、他の議員を自己の意見に賛成させることを目的とする発言」だと『議員必携』に書かれています。

「討論」に対して町長ほか執行部は発言することはできません。

一方、「質疑」は「(議案)提出者に対して行われるもの」(同)ですので、町からの議案であれば町長が質問に対して答弁し、反論することもできるわけです。

別に反論を封じたかったわけではありません。

今回の私の反対討論は、町の方針、姿勢に対するものではなく、政府が地方に何を押しつけようとしているのか、その本質を明らかにすることがねらいだったからです。

町長が何をどう反論したかったのかは分かりませんが、本条例が議会のチェック機能を低下させず、下水道の民営化と無縁であるならば、それに越したことはありません。

賛成多数(反対は共産2)で本条例は成立しました。

(府中町のマンホールの蓋です)


 

第66号議案「府中町下水道事業の設置等に関する条例の制定について」に反対し、討論いたします。

議会の議決がいらなくなる

本条例の柱は企業会計の導入と地方自治法の適用除外です。問題は後者、地方自治法第96条に定められた議決事件が適用除外されることにあります。議会議決が不要になるのは契約の締結、財産の交換、不動産の信託、財産の取得及び処分などです。議会の議決が不要ということは、住民の代表である議会がチェックできないということです。これらの項目について住民にとって利益になるのか、そうでないのかを議会は論議し、判断することができない。これは大きな問題です。

今回、提案の「下水道事業設置条例」は町独自のものではなく、全国で大同小異の条例が作られています。おそらく総務省が条例モデルをつくり、それを各自治体がアレンジしているのでしょう。このように、本条例案は町の下水道事業の必要性から提案されているのではなく、いわば国から押しつけられたものです。

各地自治体の条例で共通しているのは、議会の承認が必要な事項を、①重要な資産の取得及び処分②賠償責任の免除、③負担付きの寄附の受領等、の3つに限定していることです。逆から言えば、それ以外は議会の承認がいらない。先ほど述べたように地方自治法96条の縛りから自由になるわけです。

不動産の譲渡については「予算で定めなければならない」とありますので、議会のチェックは一定働きます。

しかし、コンセッション方式は、資産の売却でなはなく、運営権の売却・委託ですので、本条例制定後は議会の同意は不要です。

政府は下水道も民営化ねらう

下水道法第3条、公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理は、市町村が行うものとする。同20条、公共下水道管理者は、条例で定めるところにより、公共下水道を使用する者から使用料を徴収することができる。以上の条文があるので、現行の下水道法の下ではコンセッション方式すなわち運営権の売却はできないと建設部から伺いました。

しかし、水道法が変えられたように、下水道法もまた変えることができます。

政府が閣議決定した 「日本再興戦略2016」において、公的サービス・資産の民間開放が「新たなビジネスチャンスの創出、民間の知恵を活用した住民サービスの向上、効率化の促進による公的負担の軽減という、まさに《一石三鳥》の取組」だと述べ、空港や文教施設や、有料道路、水道、下水道、公営住宅などをその対象としてあげています(「日本再興戦略2016」21-22ページ)。
今年(2018年)6月、自治体に公営事業売却を促すPFI法改正案が成立しましたが、この法律改定は自治体がコンセッション方式の導入をしやすくするためのものです。

このように政府が民営化、コンセッション方式の導入を進めてきたこととリンクし、連動しているのが、今回、町が提案している「下水道事業設置条例」なのです。

総務省の作成した「下水道事業についての現状と課題」という資料があります。

下水道事業を含む公営企業の経営について、この文書は、

収入は減るが支出は増える、「特に中小の公営企業では現在の経営形態を前提とした経営改革の取組だけでは、将来にわたる住民サービスを確保することが困難」となる。

だから①事業そのものの必要性・公営で行う必要性、②事業としての持続可能性、③経営形態(事業規模・範囲・担い手)という3つの観点を踏まえて、(a)事業廃止、(b)民営化・民間譲渡、(c)広域化、(d)民間活用という四つの方向性を基本としながら抜本的な改革を検討せよ、

と言っています。

府中町には、コンセッション方式を含む民営化を進める意志はないと思いますが、今示した文書にあるとおり、政府は明確に民営化を志向しています。

今回の条例制定がそうであるように、国の方針によって条例もまた作られる。今回の条例ですぐさま民営化になるとは思いません。しかし、議会のチェック機能は著しく低下することは明らかです。

水道法改定で加速される民営化

宮城県は上下水道、工業用水の水道三事業を、浜松市は、一部下水道施設はすでにコンセッション方式が採用され、今後さらに上下水道をコンセッション方式に変えようとしています。水道法改定案が成立した今、上水・下水セットでコンセッション方式の導入が加速されることになるでしょう。

私は、先ほども述べましたように府中町が下水道を単独で民営化するなどということを想定しているわけではありません。心配なのは広域化によって上水道と同じように広島市下水道と一体化し、広島市が上下水道のコンセッション化、民営化をするということです。

事業統合はじめ施設の共同化・管理の共同化などの広域的な連携は総務省が推進していることですので広島市との共同・合併はさほど難しくはない。というよりも今後、共同化への圧力は必至です。

府中町が下水道事業を広島市と合併し、広島市がコンセッション方式を導入しようとしたときに、府中町は独自の立場を貫くことができるか、ここを心配しているわけです。

下水道事業が合併されてしまえば、少なくとも議会は、この問題に対して議決をする権限がない。

今回の条例案はこういう流れ、民営化、コンセッション化へ向けての1丁目1番地なのです。

広島市は民営化検討し一部実施

広島市はどうか。

広島市は2014年、「公営企業のあり方検討会」と「下水道局《包括的民間委託》検討チーム」を設置。「あり方検討会」は2016年4月から「広島市西部浄化センター」に包括的民間委託を導入するという方針を決めました。

フランス系外資のヴェオリア・ウォーター・ジャパンと昭和エンジニアリングのジョイントベンチャー「ヴェオリア昭和広島市西部浄化センター維持管理包括委託業務共同企業体」が3年間29億3千万円で包括委託業務を広島市と契約しました。(「広島市の下水道事業(自治体からみた包括委託事業)」環境ビジネスオンライン)

フランスの「水メジャー」ヴェオリアは、広島市以外にも「埼玉県で下水道の維持管理に関する包括的権利、千葉県で下水道施設、福岡県と熊本県で上水道施設の維持管理を請け負っており、同様の影響力が、ほかの自治体へも拡大中である」と言われています。(「『水道民営化』法で、日本の水が危ない」『ニューズウィーク・ネット版』2017年7月6日)

ヴェオリアは世界の約7500カ所で浄水場や下水処理場を管理し、廃棄物処理や再生可能エネルギー事業も手がける。2015年の売上高は250億ユーロ(約3兆円)。
ヴェオリア(フランス)、スエズ(フランス)、テムズウォーター(イギリス)が、世界の「3大メジャー」であり、これらは「ウォーターバロン(水男爵)」と呼ばれているそうです。

広島市は「下水道局《包括的民間委託》検討チーム」をすでに設置し、「広島市西部浄化センター」だけとはいえ、ヴェオリアへの包括委託業務を始めています。

また、このヴェオリアが「放射線量が低いごみの処理事業を日本で始める計画を明らかにした。多くの原子力発電所が廃炉になるため需要は旺盛だと判断した。フレロ氏(最高経営責任者、CEO)は『日本の水道料金を安くできる』とも語り、自治体との契約獲得に意欲を示した」と、2016年4月16日付「日経新聞」は伝えていることも紹介しておきたいと思います。

民営化の問題点

民営化によって料金が上がるほか、さまざまな弊害が起こります。

「米ジョージア州アトランタ市では、スエズ社の子会社によって水道事業が運営されていた。しかし、配水管が損傷したり、泥水が地上に噴出したりして、上水道の配水が阻害されてしまい、しかも復旧対応が大幅に遅れたことがある。その水道会社は、事業引き継ぎの際に自治体からの情報提供が十分でなかったと弁明したが、民営化によるコストカットが行きすぎて、水道管を復旧できる技術者が不足していたおそれもあった。その反省から、2003年以降、アトランタ市では水道事業が『再公営化』されている」(週刊エコノミスト2015年3月3日号)

『下水道情報』という業界専門誌に「世界の民営化水道235事業が再公営化に」という記事が出ており、そこには次のように書かれています〈2018年3月27日)

世界の民営化水道の実態を調査しているPSIRU(公共サービスリサーチ連合)によると、2000年から2015年3月末までの15年間に「世界37ヵ国で民営化された235水道事業が再公営化された」と公表している。再公営化の流れは資金不足の途上国だけではなく、先進国でも確認されている。先進国で水道事業を再公営化した大都市は、パリ(フランス)、ベルリン(ドイツ)、アトランタ、インディアナポリス(アメリカ)などで、途上国ではブエノスアイレス(アルゼンチン)、ラパス(ボリビア)、ヨハネスブルグ(南アフリカ)、クアラルンプール(マレーシア)などがある。

共通する再公営化の理由

この記事は再公営化の理由を次のようにあげています。

◦事業コストと料金値上げを巡る対立(インディアナポリス、マプート他)
◦投資の不足(ベルリン、ブエノスアイレス)
◦水道料金の高騰(ベルリン、クアラルンプール)
◦人員削減と劣悪なサービス体制(アトランタ、インディアナポリス)
◦財務の透明性の欠如(グルノーブル、ベルリン、パリ)
◦民間事業者への監督の困難さ(アランタ)

これは決して上水道に限った話ではありません。だからこそ『下水道情報』という業界誌にこの記事が載ったのです。

以上、本条例案が、議会の権限を奪い、その先にコンセッション方式という民営化があるという点から反対であることを再度表明し、討論を終わります。

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