セックスワークをどう考えるか

Illustration: Chappy
1.セックスワークの規制をめぐる国際的な議論
セックスワークに対する法律上の規制は、国によって異なっています。
どのような規制が望ましいかについても、国際的に意見が分かれています。
こうした制度と、その背景にある考え方を整理すると、大きく次の四つに分けられます。
① 売る側も買う側も処罰する方式
性の売買そのものを禁止し、売る側も買う側も処罰する方式です。売買春をなくすことをめざします。
韓国では2004年に売買春を取り締まる法律が制定され、売る側も買う側も処罰の対象となりました。ただし、強制された人や人身売買の被害者などは処罰されず、保護の対象とされています。
② 買う側だけを処罰する方式(北欧モデル)
性を売る側は処罰せず、買う側を処罰する方式です。
1999年にスウェーデンが導入し、ノルウェーやフランスなどにも広がりました。
売春を女性に対する暴力や性搾取の問題として捉え、買う側を処罰して需要を減らすことで、性産業の縮小をめざす考え方です。
一方、買い手が摘発を恐れるため、取引が人目につかない場所に移り、セックスワーカーがかえって危険にさらされるという批判もあります。
③ 合法化・許可管理方式
一定の条件のもとで性産業の営業を認め、国や自治体が許可や登録などによって管理する方式です。
オランダなどが代表例です。性産業を法律の枠内に置き、営業条件や安全、衛生などを管理します。
ただし、許可を受けられない人たちが制度の外に置かれるなどの問題も指摘されています。
④ 非犯罪化
成人どうしの合意に基づくセックスワークについて、売る側も買う側も処罰せず、関連する活動への刑事罰も原則としてなくす方式です。
ニュージーランドでは2003年に「売春改革法」が制定されました。
その目的は、売春を道徳的に肯定することではなく、セックスワーカーの人権を守り、性搾取から保護し、安全と健康を確保することです。
非犯罪化した場合も、労働環境や安全、衛生に関する規制は必要です。
暴力や強制、人身売買、子どもの性的搾取などは、引き続き犯罪として取り締まります。
つまり、非犯罪化とは、セックスワークに関するすべての規制をなくすことではありません。
以上が、国際的に見られる四つの代表的な方式です。
それぞれの方式は、性産業の縮小や性搾取の防止、働く人びとの安全や人権の保護など、何を重視するかという点に違いがあります。
この違いをめぐって、どのような規制が現実にセックスワーカーのいのちと人権を守ることにつながるのか、議論が続いています。
このうち、④の非犯罪化を支持しているのが、アムネスティ・インターナショナル(以下、アムネスティと略記)です。
2.アムネスティの見解
アムネスティは、1961年に発足した国際人権団体です。
世界各地の人権侵害を調査し、その改善を求める活動を続けています。1977年にはノーベル平和賞を受賞しました。
2016年には、セックスワーカーの人権を擁護するための方針を公表しました。
●人権侵害の現実から出発する
この方針の出発点は、世界各地でセックスワーカーが深刻な人権侵害に直面しているという事実です。
暴力やレイプ、人身売買、嫌がらせや差別。警察に不当に逮捕されたり、医療サービスを受けられなかったりすることもあります。
被害に遭っても、警察に訴えることができず、加害者が処罰されない場合もあります。
アムネスティは、こうした人権侵害からセックスワーカーを守るために、非犯罪化を求めています。
アムネスティが非犯罪化を求めているのは、性を売る側も買う側も成人で、双方の自由な意思による合意に基づくセックスワークです。
一方、未成年者を性的に搾取する行為や、本人の意思に反して性行為を強いることは、引き続き犯罪として取り締まります。
性的搾取を受けた未成年者は、処罰するのではなく、保護することが重要です。
●買う側の処罰がもたらす危険
では、なぜ買う側の処罰にも反対するのでしょうか。
アムネスティは、買う側だけを処罰する「北欧モデル」についても調査しています。
買う側を処罰すると、買い手は摘発を避けるため、人目につかない場所での取引を求めることがあります。
そのため、セックスワーカーは客の自宅など、安全を確かめにくい場所へ行くよう圧力を受け、危険にさらされる場合があるとアムネスティは指摘しています。
また、安全のために複数人で働くことや、仕事をする場所を借りることが、法律によって妨げられる場合もあります。
つまり、買う側だけを処罰する方式にも、セックスワーカーの安全を脅かす問題があるのです。
アムネスティが買う側の処罰にも反対するのは、買い手の利益を守るためではなく、セックスワーカーの安全と人権を守るためです。
●当事者の参加と選択肢の保障
さらにアムネスティは、法律や政策を決める際には、セックスワーカー自身が参加できるようにすべきだとしています。
具体的な参加方法までは示していませんが、当事者から意見を聞くのはもちろん、審議会の委員や政策検討チームのメンバーとして、議論に加わってもらうことなどが考えられるでしょう。
貧困やジェンダーの不平等への対策も必要です。教育や職業選択の機会を保障し、本人が望むなら、セックスワーク以外の仕事に就けるようにすることも求めています。
●守るべきは働く人びとの人権
アムネスティが擁護しているのは、性産業そのものではなく、そこで働く人びとの人権です。
性産業についてどのような考えを持っていても、そこで働いている人びとの人権は守られなければならない。これが基本的な立場です。
この方針は、2年以上をかけて、国際機関の資料や各国の調査、セックスワーカー当事者をはじめとする多様な団体との協議をもとにまとめられました。アルゼンチン、香港、ノルウェー、パプアニューギニアでは、200人以上のセックスワーカーから聞き取りをしています。
アムネスティは、非犯罪化に反対する人たちの考えも尊重し、互いを尊重しながら開かれた議論を進めたいと述べています。
3.何を出発点に考えるべきか
セックスワークの問題を考えるとき、次の二つの問いが大切です。
●政策がもたらす結果を問う
一つは、性産業をなくすことを政策の出発点にしてよいのかということです。
性産業には、暴力や性搾取など、さまざまな問題が存在します。
しかし、性産業をなくすための政策が、現にそこで働いている人びとをかえって危険にさらすとしたら、新たな問題を引き起こします。
政策が何をめざすかだけでなく、その政策が現実にどのような結果をもたらすのかを考えなければなりません。
●現に働く人びとの生活と権利
もう一つは、現にそこで働いている人びとの生活と権利を、どう守るのかということです。
セックスワークをめぐる議論では、ともすると、性産業が存在してよいのか悪いのかという議論になりがちです。
しかし、その議論をしている間にも、そこで働いている人たちは生活しています。
セックスワークが「あるべき」かどうかをめぐる議論は、現にセックスワークをしている人びとが「いる」という事実と、その人たちがどういう状況に「ある」のかという現実から出発すべきです。
現実から出発することは、現実を容認することではありません。
「現実にある」ことと、「あってよい」「あるべきだ」ということは違います。
現実を理解し、そこにある問題を解決するために、現実から出発するのです。
- セックスワーカーが暴力を受けずに生活できること。
- 犯罪の被害に遭ったとき、安心して警察に相談できること。
- 医療や福祉を利用できること。
- 働く条件について、自分たちで声を上げ、団結できること。
- そして、望まない仕事を強いられず、別の仕事を選べること。
こうした権利を保障することが大切なのです。
セックスワークをめぐる問題は複雑です。貧困や男女間の不平等も深く関わっています。本人が同意したというだけで、そこに性搾取が存在しないと判断することもできません。
だからこそ、当事者の声に耳を傾け、現実に何が起きているのかを丁寧に調べ、どのような政策が人びとの安全と権利を守るのかを考えなければなりません。
《主な参考資料》
アムネスティ・インターナショナル日本「【Q&A】セックスワーカーの人権を擁護する方針に関して」(2016年5月26日)












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