悪役がいいとドラマは面白い ――映画『ファーストボイス』の男たち

左から、水川かたまり、工藤阿須加、筒井道隆、迫田孝也
映画『ファーストボイス』は、女性陣ばかりではなく、男たち、とりわけ三人の「悪役」が光っています。
三人は主人公たちの敵であると同時に、主人公たちが変えようとしている社会の「常識」を体現する人物でもあるわけです。
●水川かたまりの憎たらしい上司
上原恵の勤めていた出版社の雑誌編集長、澤口裕人を演じたのは、お笑いコンビ「空気階段」の水川かたまりです。
自分より仕事のできる年下の女性部下に嫉妬し、嫌がらせを繰り返す。仕事が終わったところにカセットテープを置き、「明日の朝までに文字起こしをしておいてくれ」と命じて、自分はさっさと帰ってしまう。実に憎たらしい上司です。
水川は、嫌な男を演じるためにカメラが回る直前まで顔をゆがめ、表情をつくっていたと武田砂鉄のラジオ番組で語っています。
法廷でもその表情を崩さず、カットがかかるたびに共演者から「顔がムカつく!」と言われたそうです。
●工藤阿須加の意外な悪役
小松貴教を演じた工藤阿須加も、見事なクズっぷりを見せてくれました。
小松は、恵が勤めていた出版社の広告クライアントで、被告側の証人として法廷に立ち、デタラメな証言をします。
工藤には、さわやかな好青年というイメージがあります。しかし、映画では、それとは正反対です。
工藤は、台本を読んだときの感想を次のように語っています(松竹の公式サイト)。
「台本を読んだ時は、当時の常識の理不尽さに憤りを感じるとともに、声を上げ裁判を起こした方達への尊敬の念でいっぱいになりました」
憤りや尊敬の念が強くあったからこそ、その思いをクズぶりに込めたのではないでしょうか
工藤は現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブラッサム』にも出演しています。
すがすがしい青年教師だと思って見ていたのですが、『ファーストボイス』を観た直後、実はクズ男だったという展開になり、驚きました。
●筒井道隆の「憎らしい壁」
被告側の弁護士、高梨啓示を演じたのは筒井道隆です。
高梨は、この裁判には絶対に負けないと確信しています。
その自信たっぷりの態度が憎たらしい。
筒井は、映画の公式サイトで次のように語っています。
「僕自身は、観客に“憎らしい”と思わせるくらい強い壁でありたいと思って演じました」
筒井演じる高梨の態度には、何の疑いもなく「自分たちが正しい」と信じている人間の、強さと傲慢さが表れています。
若いころの筒井には、テレビドラマ『あすなろ白書』(1993年)などで見せた、どこか頼りなげな青年というイメージがありました。
しかし、NHK連続テレビ小説『風、薫る』(2026年)や今回の映画を観ると、渋い、いい役者になったなあと思います。
●迫田孝也のダメ夫ぶり
最後に、悪役というわけではありませんが、朝日道子の夫、朝日秀一郎を演じた迫田孝也にも注目です。
秀一郎も弁護士ですが、妻も忙しく働いているのに、家庭のことは妻がやって当たり前。困った夫です。
道子もなんでこんな人を選んだのか…。
妻が、ハラスメント裁判に地道に取り組み、懸命にたたかう姿を見て、秀一郎は変わるのか、変わらないのか。
迫田は公式サイトで、昭和の時代に生きた人びとを意識しながら、秀一郎の「人として、親としての変化や成長」を演技に込めたと語っています。
●悪役が支える映画の面白さ
『ファーストボイス』は、理不尽な社会の「常識」に立ち向かった女性たちを描いた映画です。
しかし、彼女たちの前に立ちはだかる男たちが、それぞれの立場で「常識」を体現しているからこそ、主人公たちのたたかいが際立つ。
悪役がいいと、ドラマは面白いのです。












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