憲法のこころを聴く(1) 日本国憲法の〝こころ〟とは
(1)「再び戦争を起こさせない」ことと「国民が主人公」の関係
【正文】
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、
われらとわれらの子孫のために、
諸国民との協和による成果と、
わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、
政府の行為によつて再び戦争の惨禍(さんか)が起こることのないやうにすることを決意し、
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
【池田訳】
日本のわたしたちは、
正しい方法でえらばれた国会議員をつうじ、
わたしたちと子孫のために、
かたく心に決めました。
すべての国ぐにと平和に力をあわせ、
その成果を手に入れよう、
自由の恵みを、この国にくまなくいきわたらせよう、
政府がひきおこす恐ろしい戦争に
二度とさらされないようにしよう、と。
わたしたちは、
主権は人びとのものだと高らかに宣言し、
この憲法をさだめます。
主語は「日本のわたしたち」
うーん、いきなり長いセンテンス(文)ですね。たくさんの内容がてんこ盛りです。少しずつ区切りながら解読していきましょう。
まず、冒頭です。正文は「日本国民は」で始まっていますが、池田訳は「日本のわたしたちは」となっています。英文をみると、We, the Japanese people で、池田訳が「正しい」のです。
日本国民の要件を定めた第10条だけが日本国民(国籍を持つ人、japanese national)で、あとはすべて「人びと」(the people)であることにちょっと注意してください。日本語では、「国民」と書かれていても、国籍は関係ありません。人権の主体は「人びと」「人間たち」だということが、英文からは分かります。
戦争を起こさせないため
この冒頭の一文の結論は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、主権が国民に存することを宣言」というところですね。
池田訳では「政府がひきおこす恐ろしい戦争に二度とさらされないようにしよう、と。わたしたちは、主権は人びとのものだと高らかに宣言」となっています。
なぜ、この新しい憲法をつくったのか。それは「再び戦争の惨禍」が起こらないようにすることだ。このことが日本国憲法の原点であり、もっとも重要な点なのです。
では、この、再び戦争をしないという初心を貫くために何が必要か。その答は、じつはすぐあとに書かれています。
「主権が国民に存する」、池田訳では「主権は人びとのものだ」ということ。戦争を起こさせない最大の保証は、ふつうの人びとが主権者、すなわち、国を動かす主人公になることだ、というのです。
戦前はどうだったでしょうか。国民は臣民(しんみん)と呼ばれ、その意味するところは天皇の家来です。戦前は、天皇が主権者で、戦争を始めること、終わることの決定者であり、軍隊の最高責任者でもありました。
「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」ということも述べられています。国を動かす主人公である人びとが、自分たちの正当な代表を国会に送り込むことができなければならない。
戦前は、議会はあったものの、その権限は弱く、しかも、国民の半分を占める女性、そして25歳以下の青年は選挙権がありませんでした。
平和な社会をつくるためには、国民は主人公とならねばならない。これは戦前の日本社会からの教訓だといえるでしょう。だから、民主主義の原則を述べた次のパラグラフが大きな意味をもつのです。
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