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2026-06-09

府中町の単独市制について

広島自治体問題研究所「ひろしまの地域とくらし」2026年6月号(№504)掲載

二見伸吾(府中町議)

はじめに

府中町は2028年に市制へ移行しようとしている。

全国1,741自治体中、792(45%)が市であり、中長期的に見た場合、市になること自体に問題があるわけではない。

同時に743(43%)が町であり、町であることに問題があるわけではない。

逆もまた真なり、である。

府中町は市になる選択をすべきなのか、町のままでいるという選択をすべきなのか。

市制移行をめぐる論点を整理し、検討を加えることが本稿の課題である。

1.「行政サービスの充実」はあるのか

福祉事務所は設置済み

第1に、町から市になることで行政サービスは充実するのかという問題である。

町作成の資料には「人口が5万人を超えると、行政サービスの充実や都市的イメージの獲得のため、市になる(市制を施行する)のが自然な流れ(地域の発展に向けた姿勢)となっています」と述べられている。

市になることと「行政サービスの充実」はどのような関係があるのだろうか。

4月10日に開かれた自治制度調査研究特別委員会(以下、特別委員会)で行政サービスの充実として「目に見えるものはない」という答弁で、いささか驚いた。

寺尾光司町長も「住民の方からいえば大きく変わることがない」とテレビのインタビューに答えた。「行政サービスの充実」とは看板だけなのである。

町が視察に行った4市(愛知県みよし市、岩手県滝沢市、宮城県、富谷市、福岡県那珂川市)は、いずれも市制移行と同時に福祉事務所を設置している。

市には設置義務があるからだ。福祉事務所は生活保護、児童福祉、母子福祉など、第一線の社会福祉行政機関だ。

4市とも市制移行の理由やメリットとして福祉事務所の設置をあげている。

都道府県および市(特別区を含む)は福祉事務所の設置が義務づけられており、町村も任意で設置できる。

府中町を含め、広島県内の全ての町が設置済みである。

だから、「目に見えるものはない」と言わざるをえないわけだ。

他自治体の市制移行による「行政サービスの充実」の目玉はすでに手中にあり、市になる理由にならない。

国からのお金(交付税・補助金)は変わらない

多くの方から「市になると国からもらえるお金が増えるのではないか」という質問を受ける。

交付税は、市町村いずれも同じ基準で算定される。

市に特有の加算があるわけではない。補助金についても同様に基準は同じで市町村による差はない。

2.「市」になるとイメージアップするのか?

市は都市的なイメージ?

第2に、市になるとイメージアップしたり、ブランド力がつくのかという問題である。

いま述べたように「行政サービスの充実」がないことは町も認めている。では、なぜ市制なのか。町が打ち出すのは、イメージやブランド力といった形のないものだ。
 
市制施行については、当町の都市的な実態に合ったイメージやブランド力を構築・発信でき、対外的なアピールにつながるなどの効果が期待できます(町作成資料)。

都市的な実態に合ったイメージやブランド力とはいったいどのようなものなのかと特別委員会で尋ねると、「町は田舎で市は都市、都会」だという答弁だった。「**市」となれば町外の人が都会だと思ってくれるというのだ。

事実の問題から確認しておこう。都市か田舎かを分ける明確な基準はないが、田舎のイメージの一つとして田畑があり、農業が営まれているということが挙げられる。

広島県内市町の農家戸数を見てみよう。

ベスト10のなかで、町は北広島町(8位)と世羅町(10位)だけであとは全て市であることが分かるだろう。

反対に、安芸郡の府中町、海田町、坂町には農家はほとんど存在しない。

「市は都会で町は田舎」というのが事実に基づかない「イメージ」だということがお分かりいただけると思う。

何をもって「都会」というかも人それぞれである。広島市内中心部を都会だと考える人にとって、それ以外のところは全て田舎である。

府中町が「市」になれば多くの人が都市的イメージを抱くかどうか。甚だ心許ないのである。

市はブランド?

このイメージ論の上に、「市はブランド力」というさらに根拠のない理由が付け加わる。

町長は「『市』になれば、イメージアップしブランド力がつく。人・もの・情報をしっかり呼び寄せられる」「市になれば企業誘致、少子高齢化対策、人口減少対策になる」と言う。

しかし、本当にそうだろうか。

 

当町が市になった場合、現在792ある市に1つ加わって793になるに過ぎない。

わがふるさと神奈川県伊勢原は、1971年に町から市になった。現在人口10万人である。

市になって「ブランド力」が付いたのなら、広島でも多くの人が知っているだろう。

しかし、まわりの人に尋ねてみたが、ほとんどの人が伊勢原市を「知らない」「聞いたことがない」と答えた。

800近くもある市の一つひとつを知らないのは当たり前だ。

府中町は「全国で一番人口の多い町」という「ブランド」を持っているが、市になれば512位までランクダウンする(2020年国勢調査)。

 

一方、町であっても知名度、「ブランド力」のある自治体もある。

神奈川県を例にすれば、箱根町、大磯町、葉山町などは広島の人にもよく知られている。

知名度、「ブランド力」に市か町かは関係ない。

広島県に府中市がある(東京にもある)。町長の言うことが正しいのならば、府中市は府中町より「ブランド力」があって、「人・もの・情報」を呼び寄せているはずである。

一番分かりやすいのが人口だ。

2000年に府中町と府中市(広島県)は、人口約5万人だった。

いま、府中町は5万1千人、府中市は3万3千人である。人口の増減も市か町かは関係がないのである。

 

このように、町から市になれば「ブランド力」がつくというのは根拠のない主張にすぎない。

3.市になるのに2~3億円かかる

市制移行はタダではない

第3に、市制移行にかかる町・町民・町内業者の負担の問題である。

町から市になるにあたっては、コンピュータのシステム改修や看板の交換などに2~3億円かかる。

2012年に市制移行した愛知県長久手市の場合、「臨時的経費」が、コンピューターシステム関係7,600万円、表示物3,400万円、印刷物1,200万円、消耗品・備品200万円、その他800万円で、合計13,200万円の費用がかかる見込みであることを2010年の広報に載せている。

2018年に移行した福岡県那珂川市は1億9千万円かかったという。

それから10年近くが経ち、諸物価が高騰している今では2億数千万から3億円近くになるに違いない。

 

米イラン戦争の影響で物価はさらに高騰し、品不足になることが予想される。

特別委員会で、当町の場合どのくらいの経費がかかると試算しているかと問うと、「試算はまだしていない」との回答だった(追記 6月5日の特別委員会でも確認したがまだ試算はできていない)。

また、移行経費は国からの特別交付税の対象となると町はいう。

しかし、「かかった経費のどのくらいを国は特別交付税で面倒見てくれるのか。

全額なのか半分なのか、3分の1か、4分の1か」と問うと、「分からない」という答弁だった。

補助率によって町、町民の負担は異なる。市制移行にともなう町の財政支出がいったいくらなのか。

試算もできておらず、国からの補助もあるいのかさえ明確ではない。

(追記 5月27日、総務省に行って確認したところ、福祉事務所設置に関しては特別交付税が措置されるがシステム改修や看板の修正などの経費は特別交付税の対象にならないとの回答を得た)。

町は、住民説明会や住民アンケートを実施すると言っているが、その前に広報や住民説明会などで、経費や補助について明確な説明をすべきである。

町民の暮らしのために

移行経費2~3億円は町のままなら不要な支出だ。

府中町は、今年度、国保税、下水道料金を引き上げ、物価高騰対策としての保育園、小中学校の給食費の補助、老人施設・障害者施設への補助を打ち切った。

そういうなかで不要不急の市制移行をする必要があるのだろうか。

放課後児童クラブは6月から有料化となるが、2億円あれば7年間、3億円なら10年間、無料を続けることができる。

町のお金は、ふわふわとした「イメージ」「ブランド力」などというものではなく、町民の暮らしのために使うべきだ。

町民、町内業者の負担

町民や町内業者の負担もある。個人は住所印、業者は住所入りの封筒や伝票を作り直さなければならない。

顧客リストなどコンピューターシステムを使っているところは改修費用もかかる。

「看板や印刷物の住所表記の手直しも住民にお願いすることになる」と町長も中国新聞のインタビューに答えている。

特別委員会で確認したところ、これらの費用に対して町の補助はないという答弁だった。

景気がいいときならいざ知らず、物価高騰と生活苦が続くいま、町のままでいれば、しなくてよい負担を町民・町内業者に強いるべきではないだろう。

住所変更の手続き

手続きの問題もある。那珂川市は、「市制施行後の住所表示と変更手続きのお知らせ」を配布した。

これを見ると、手続きが不要なものも多い。そのなかで、手続きが必要とされているのが携帯電話だ。

また、変更手続きが必要かどうかを確認しなければならないものとして、勤務先、健康保険(国保を除く)の住所変更、生命保険・損害保険・自動車損害賠償責任保険、有価証券、クレジットカード、町外の小中高校、町外の保育所が挙げられている。

手続きが必要かどうか確認する作業はなかなか大変である。

気づかず放置していたために、何らかの損害を被ることがあるかもしれないのだ。

4.市の名称をめぐる問題

第4に、市になるにあたって、市の名称をどうするのかという、他の自治体にはない問題がある。

府中市はすでに2つあるので府中市にはなれない。府中が含まれない名前にするのか、含んだ名前にするのか。

マツダ市、向洋(むかいなだ)市、ソレイユ市などマスコミは面白おかしく、市の名前だけが問題であるかのように報じている。

もし市になるとすれば一番無難だと思われるのが、安芸府中市だ。

しかし、安芸のつく自治体は、安芸高田市、安芸太田町、広島市安芸区、高知県安芸市と4つもあり、混乱は避けられないだろう。

「郡」が取れることもメリットだと言われる。

確かに他の自治体の場合は、岩手郡滝沢村が滝沢市に、黒川郡富谷町が富谷市に、筑紫郡那珂川町が那珂川市に、「郡」が取れて短くすっきりするわけだが、もし安芸府中市なら安芸郡府中町から1文字減って1文字変わるだけである。

おわりに

以上、4点にわたって、市制移行の問題点について検討してきた。

市にならなければ解決しない問題があるとか、市になると行政サービスが向上し、町民の暮らしや町内業者の経営に資するのならば市制移行もありうるだろう。

しかし、行政サービスの充実はなく、「イメージ」「ブランド力」といった実態のない空疎なもののために数億円をかけてまで市になる必要はない。

町民からは、「市になるのか?」という疑問と「府中町のままがいい」という声を多く聞く。市になってほしいという声は聞くことがないというのが実態である。

広島市が政令市になるときも「平成の大合併」のときも、府中町は合併を退け、自治を守ってきた。この伝統を生かす道が、市への移行にあるのか、町であり続けることにあるのか。

私は、後者にあると考えるものだが、町民一人ひとりがどのような選択をするのかにかかっている(今のところ住民投票は考えられておらず、町は、アンケートがそれを代替するものとして位置づけられている)。そのためにも町民が判断するための十分な情報を町は提供すべきである。
 

(以上)

ふたみ伸吾 ほっとらいん

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    コメント2件

  • 下宮 博樹 より:

     市への移行でブランド力。?、、、 
    私見ですが、「町長」より「市長」、「町役場」より「市役所」の方が何やら立派に聞こえますが、この「肩書き」が欲しいのでしょうか。
     内実の無い「市政移行」。前向きに検討すべき材料もなく、町民にとってはデメリットしかない市政移行に[大反対]です。
     近隣では、話題にもならないこの無関心な雰囲気を内心、怖く感じています。
     二見さんの活動に期待しています。

    • ふたみ 伸吾 より:

      下宮 博樹さま

      コメントありがとうございます。

      すでに2回、町内会向けの説明会がありましたが、市制移行を積極的に支持する意見はありませんでした。

      府中町の人口が5万人を超えてから35年、何の問題もないどころか、大きく発展してきたわけです。

      このサイトでそのつど批判していますが、町の説明はテキトーなものばかりです。

      市制移行を断念するまで頑張ります。

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