自治体戦略2040構想と府中町

3.行政のデジタル化――スマート自治体

(1)半分の職員数でも担うべき機能が発揮される?

人口減少はデジタル化の口実

圏域のもとでの行政サービスのもう一つのあり方が「行政のデジタル化」です。

若者が減って、「自治体職員のなり手もいなくなる」という想定をして「半分の職員数でも担うべき機能が発揮される」ようにしなければならないという結論を引き出します。しかし、一方では、10~20年後には労働人口の約半数がしている仕事がAIやロボットに代替可能だという調査結果も出ています*9。

人工知能やロボットに取って代えられる可能性が高い職業100種類のリストを見ますと「本当かな」と思われるものもあり、「約半数」というのは少し大げさだと思いますけれども、駅の改札が、切符の販売が人間から機械に代わったようにこれまでの歴史の中でも技術革新によってさまざまな職種がなくなっていきました。

20年後に人口が減るのもほぼ間違いのない事実ですし、AIやロボットにとって代わられる仕事が出てくることもおそらくあるでしょう。ですから、どちらか片方だけを過大に見てはなりません。

第2次報告や「スマート自治体研究会報告書」*10は、人口が減るから自治体職員のなり手もいないという都合のいい側面だけを取り出して、地方自治体が「住民生活に不可欠な行政サービスを提供し続けるためには、職員が、企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など職員でなければできない業務に注力できるような環境を作る必要がある」と言います。

そして、「地方自治体の情報システムは、これまで各自治体が独自に発展させてきた結果、システムの発注・維持管理や制度改正による改修対応など各自治体が個別に対応せざるを得なかったが、クラウド導入等を通じたシステム標準化や業務プロセス見直しにより、職員負担が軽減され、住民・企業等の利便性向上にも繋がることが考えられる」*11

と自治体の業務を人工知能とロボットに代替させようとする。これが行政のデジタル化であり、スマート自治体への転換です。スマートはスマートフォンのスマートと同じで、「賢い」「ハイテクノロジーである」という意味です。いったいどうなったら「スマート自治体」になるのか。府中町職員のみなさんの仕事がAIやロボット化によって半分の職員でできるようになるのでしょうか。第2次報告より詳しい「スマート自治体研究会報告書」には3つの原則が書かれています。


*9)野村総合研究所「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」(2015年)
*10)、11)総務省「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会 報告書」(2019年5月)

 

 

データのないものには答えられない

原則①は「行政手続きを紙から電子へ」です。

「住民にとって、窓口に来ることは負担」「窓口に来なくても初期の目的を実現できないか」と書かれています。

たしかに窓口に申請に来られる町民の方もいる。しかし、申請することだけが役場に来る理由ではありません。役場の大切な役割は町民のみなさんの相談に乗るということではないでしょうか。

「一般的な行政の窓口業務はAIに任せて、本当に行政相談が必要な人だけを対象に相談窓口を設け、対応すればよい」という意見があるそうですが、「本当に行政相談が必要な人ほど自分からは相談には来ない」と言われています。生活に困っている人ほど「自分の責任だ」と思い込まされているからです。役場に行けば解決の糸口が見つかるとも考えない。ですから行政の側から、町の方から手を差し伸べなければなりません。

当町の税務課、債権管理課は、滞納があった場合に、家庭の状況をよく把握し、関係部署との連携しながら、生活保護や法テラスに繋いでいます。

妊娠から出産、子育て期にわたり、安心して子育てができるように設置された「ネウボラふちゅう」の大切な役割のなかに「相談」があります。福祉保健部が担う保育、年金、介護など、町民のみなさんから「相談」が寄せられる部署です。

町民生活部もまた、さまざまな要望や苦情、相談が日常的に寄せらています。建設部の申請関係は、申請にあたって担当者と何度も打ち合わせをした上で、「この内容なら大丈夫」という段階に至って申請してもらうということが多いのではないでしょうか。

コンピューターは繰り返される事案に対して用意された問題に対応する答えを見つけるのは得意です。しかし、過去のデータのないものは回答例がない。自然災害や、いま大問題の新型コロナウイルスに対しても無力です。だから、生きた人間がみんなで知恵をしぼるのです。

(2)自治体行政の標準化・共通化
 
 原則②は、「行政アプリケーションを自前調達方式からサービス利用方式へ」です。

「自治体行政の標準化・共通化」ですが、部分的には共通のフォーマットが使えるものもあると思います。しかし、面積の広い自治体、府中町のように狭い自治体。人口の多い・少ない、中山間地・都市部・島など自治体の置かれている条件はさまざまです。だからこそ自治体があり、その地域の特性にあわせた自治体運営が求められているわけです。それを統一した規格でやれということになれば、「帯に短したすきに長し」ということになる。

それぞれの自治体がこれまで創意工夫し積み重ねてきたものがフォーマットに表れています。

母子健康手帳の交付のさいに提出する「妊娠届出書」ですが、ある学習会で大阪市と大阪府堺市のものが紹介されました。大阪市のものは住所・氏名・妊娠週数など決まり切ったことしか記入欄にありません。堺市のものは、1,妊娠して今の気持ちはいかがですか、2,出産する医療機関は決まっていますか、3,現在妊娠は順調ですか、4,妊娠以外で継続的に医療機関に通院していますかなど、14項目のアンケートがついています。

企画が統一されれば、こういう創意工夫はみな排除されることになるでしょう。

「スマート自治体研究会報告書」は、今のシステムや業務プロセスを前提にした『改築』方式ではなく、今の仕事の仕方を抜本的に見直す『引っ越し方式』が必要」だと言います。要するに今までのシステムはご破算にして「総取り替え」しろということです。

クラウドにして全国で同じシステムを利用すれば「割り勘効果」で安上がりになるといいますがどうでしょうか。、多数の自治体が共同して開発・利用するということになれば、業者は今以上に限られます。システムが動き出せば変更することも難しい。競争原理も働きませんので、更新のための費用など向こうの言い値で払わされる。

議会のICT化の研修に行った議員から聞きましたところ、議員数18人の府中町議会で導入したあとのランニングコストは1000万円以上だそうです。議会だけでもそれだけかかる。役場全体のスマート自治体化のためにかかる費用は導入も維持も莫大なものになるでしょう。

原則③は「自治体もベンダも、守りの分野から攻めの分野へ」です。ベンダとは何かと思いましたら、売り手のことです。自治体は買い手です。IT関連企業は自治体にもっと売り込め、自治体は積極的にICT活用にカネを使え、というわけです。ここに本音がある。

シェアリングエコノミーも、「スマート自治体」も、政府の成長戦略政策の一つとして位置づけられており、新しい産業の育成が主で、自治体はその「儲け先」として期待されているということです。人口が減るから、職員を事務作業から解放するというのは後付けに過ぎません。

さて、そこで質問です。

③報告は「行政のデジタル化」を進めることによって、現在の半分の職員で従前通りの仕事ができ、職員の負担も軽減されるかのように述べています。とてもそのようなことは不可能と私には思われますが、町の見解を伺います。

総務企画部長

 今後日本の労働力人口の減少が予測されている中、行政サービスの付加価値向上、行政の透明性の確保、地域や住民のニーズに照らした最適な政策立案が可能、自治体間の情報連携深化による機動的な広域連携の実現、といった効果があるとされているため、「行政のデジタル化」が求められております。
 これらは、なにより町民サービスの向上に寄与するものとして、AIやRPAの導入等、ソサエティ5.0の推進は本町においても研究を進めているところでございます。
 デジタル化の進展に伴い、人間が実施すること・AIやロボが実施することに切り分けた上で、真の行政サービスの最適化が進められていますが、これらに伴う「職員数の適正化」は、まだまだ研究が必要であるものだと考えます。
 「住民の福祉と増進を図る」という地方自治の原点を念頭に、デジタル化を進め、住民一人ひとりと向き合い、寄り添っていく行政を継続することは困難が予想されますが、費用対効果を踏まえたサービスの最適化について、これからも最善の方策を求めて取り組んでいきます。

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