
Illustration: Chappy
目に見えない「搾取」
資本主義以前の社会では搾取のしくみが見えました(前回)。
ところが、資本主義社会になると状況がガラリと変わります。石川啄木の歌集『一握の砂』にある有名な歌を思い出してください。
「はたらけど はたらけど猶(なお) わが生活(くらし) 楽にならざり ぢつと手を見る」
なぜ暮らしが楽にならないのか。その原因が分からないから、「じっと手を見る」しかない。奴隷制社会や封建制社会では、見えていた「搾取」の姿は、資本主義社会では見えなくなっているのです。
その秘密を解く手がかりが「賃金」です。
労働基準法第11条は、賃金は「労働の対償」と定義しています。
労働者は企業に雇われて働き、資本家はその見返りとして賃金を支払うという形をとっています。だから労働者が働いた分は、すべて賃金として支払われているように見えます。
「抽象力」を使う
では、賃金という見かけの奥に隠れているものを、どうすれば明らかにできるでしょうか。そこで必要になるのは「抽象力」です。
私は、これまで数多くの学習会で講義してきました。
情勢についての話ですと、だんだん目が輝いて、「よく分かった、元気が出た」と言ってもらえるのですが、搾取の話をすると、みなさんの目が虚(うつ)ろになるんですね。
江戸時代の年貢などと違って、「見て分かる」「触って感じる」ということがない。
だから、日常の実感や見聞きしている常識をいったん脇に置いて、抽象的に順を追って考えることが必要なんです。
マルクスは『資本論』の初版への序言で、次のような言葉を残しています。
「経済的諸形態の分析には、顕微鏡も化学的試薬も役には立たない。抽象力が両者の代わりをしなければならない」
自然科学であれば、顕微鏡で細胞を見たり、薬品を使って実験したりできますが、経済のしくみを暴くためには役に立ちません。
人間の頭の働きである「抽象力」こそが、顕微鏡や試薬の代わりを果たすのだとマルクスは言うのです。
ということで、ここから先は皆さんの「抽象力」が試されます。それでは、「搾取」の説明に進みましょう。
「労働力」という商品の価値=労働者の生活費
商品がすべて価値どおりに売買されるとすれば、資本家の利益はどこから生まれるのでしょうか。
安く買って高く売れば、個々の売り手は利益を得られます。
しかし、それは一方の得が他方の損になっただけで、社会全体の価値が増えたわけではありません。
では、商品が価値どおりに交換されると考えた場合、それでも利益が生まれるのはなぜでしょうか。
その謎を解く鍵が、「労働力」という商品です。
労働力を使うこと、すなわち「労働」は、新しい価値を生み出します。
そして、労働者は、自分の労働力の価値を生み出すのに必要な時間を超えて、働き続けます。
多くの人は、賃金を「労働の価格」だと思っています。しかし、賃金は、「労働力」の価格なのです。
労働者が持っていて、資本家に売り渡しているのは、働く能力、すなわち「労働力」という商品なのです。
そして、この「労働力」を使うことが、働くこと、すなわち「労働」なのです。「労働」と「労働力」は、あまり違わないように思われますが、「力」のあるなしで、意味が全然違うのです。
あらゆる商品の価値が「その生産に必要な労働時間」で決まるのと同様に、「労働力」という商品の価値も、それを生産・維持するための費用=「労働者の生活費」によって決まります。
具体的には以下の3つが含まれます。
本人の生活費 :労働者が明日も元気に働くための食費や住居費、衣料費など
家族の養育費 :次世代の労働者(子ども)を育て、
労働者階級を維持するための費用
教育・訓練費 :業務に必要な技術や知識を身につけるための費用
ここでは、労働力もその価値どおりに売買されるものとします。「1日分の労働力を維持する生活費」を仮に3万円としましょう。
資本家は3万円を賃金として払い、「1日分の労働力」を買います。
「そんなにもらってないよ」と言われそうですが、ここではしくみを説明するための数字ですのでご勘弁を。
資本家の計算――「原料」と「機械」と「賃金」
資本家は労働者を1日8時間働かせ、機械部品を1個つくらせます。そのために、次の費用を支払いました。
原材料費 20万円
設備や機械の摩耗分 1万円
労働者の賃金 3万円
資本家から見れば、支払った費用は合計24万円です。完成した商品が、その価値どおり25万円で売れれば、1万円の利益が残ります。
では、この1万円はどこから生まれたのでしょうか。
商品の価値が、どのようにつくられたのかを見てみましょう。
原料の価値20万円は、そのまま製品へ移ります。設備や機械も、新しい価値を生み出すわけではありません。
使われて摩耗した分の1万円が、製品へ移るだけです。したがって、原料と機械から製品へ移った価値は、合わせて21万円になります。
完成した商品の価値は25万円です。そのうち21万円が原料と機械から移った価値なら、残りの4万円は、この日の労働によって新しく生み出された価値です。
賃金の3万円は、製品へそのまま移った価値ではありません。
資本家が、労働力を1日使うために支払った金額です。その労働力を使うことによって、労働者は4万円の新しい価値を生み出しました。
生産力が発展すると、労働者の生活に必要なものを、より短い時間で生産できるようになります。そのため、労働力の価値に当たる分を生み出す時間は、実際に働く時間よりも短いのです。
この例では、労働者は8時間で4万円の新しい価値を生み出しています。すると、労働力の価値に当たる3万円を生み出すのに必要な時間は6時間です。
しかし、労働者は6時間で仕事を終えるわけではありません。その後も2時間働き、さらに1万円の価値を生み出します。この1万円は労働者には支払われず、資本家のものになります。
これが「剰余価値」です。そして、労働者が生み出した価値の一部を資本家が取得することを、マルクスは「搾取」と呼んだのです。
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資本論与太話 4. 資本主義的な「搾取」とは (ここです)
資本論与太話 5.新たな価値はどこから
資本論与太話 6.剰余価値の増やし方
資本論与太話 7. 機械制大工業
資本論与太話 8.搾取の問題とともに社会保障が大切
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