なぜ4万4500人全員に聞くのか ――市制移行アンケートをめぐって

府中町は、市制移行について住民アンケートを11月に実施する予定です。
当初の計画は、町内の全世帯、約2万4千世帯を対象に、一世帯につき一つの回答を求めるというものでした。
しかし、家族の中で意見が分かれたらどうするのか、単身世帯も5人、6人の世帯も同じ一回答では不公平ではないか、といった批判が続出。
そこで町は方針を変更し、15歳以上の住民約4万4500人全員を対象にすることにしたのです。
アンケートの質問は一つです。
「府中町が、町から市になることについて、どのように思いますか」
答えは「市になるのが良いと思う」「町のままが良いと思う」の二者択一です。
世帯ごとではなく、住民一人ひとりに聞く。それは世帯ごとの回答に伴う問題を解決するかのように見えます。
しかし、問題はそれだけではありません。
私は8月28日開催の特別委員会で、そもそもなぜ全住民を対象にする必要があるのかを尋ねました。
住民の意向を把握することが目的なら、無作為抽出によるアンケートで十分だからです。
府中町も無作為抽出によるアンケートを何度もやってきました。
2001年、府中町は「単独市制」と「広島市への編入合併」について住民アンケートを実施しています。
このときは20歳以上の住民から4,000人を無作為抽出し、配布した3,731人のうち2,636人から回答を得ました。回答率は70.7%。町自身が、この調査結果の許容誤差は±1.9%と説明しています。
最近でも、地域公共交通網形成計画、4次総合計画、5次総合計画などのアンケートは無作為抽出で行われました。町の最上位計画である第5次総合計画でも、15歳以上の住民2,000人を無作為抽出して住民の意向を調べています。
一般的な統計の考え方では、無作為抽出で1,000人程度から回答が得られれば、全体の傾向をおおむね±3ポイント程度の誤差で把握できます。
それなのに、なぜ今回は4万4500人全員に聞くのでしょうか。
今回の質疑で、そのいきさつが見えてきました。
市制を施行した他の自治体で全世帯を対象としたアンケートが行われていたため、府中町も当初は全世帯を対象にしようとした。
しかし、世帯単位では家族一人ひとりの意見が反映されないという強い批判が出た。そこで、15歳以上の全住民を対象に変更した、というのです。
つまり、最初から「住民の意向を把握するには、どのような調査方法が最も適切か」と考えて全数調査を選んだわけではありませんでした。
出発点となった世帯別アンケートを見直した結果、個人を対象とする全数調査へ進んだのです。
しかし、無作為抽出という方法もあります。
町の将来のあり方を決める総合計画では無作為抽出によって住民意向を把握している。一方、町長は市制移行について「町を二分するような問題ではない」「住民投票にはなじまない」と説明しています。
それならば、なぜ市制移行についてだけ、総合計画をはるかに上回る4万4,500人規模の調査が必要なのでしょうか。
今回の全数調査に必要な予算は885万3千円。そのうち通信運搬費だけで715万2千円です。
無作為抽出によるアンケートならば、これほどの経費もかからないわけです。
無作為抽出でも住民全体の傾向を十分な精度で把握できるのであれば、これほど大規模な調査をする必要があるのか。この疑問は残ります。
そして、もう一つ大きな問題があります。
全員にアンケートを送ることと、全住民の意思を正確に把握することは同じではありません。
全員に送っても、全員が回答するわけではありません。回答しなかった人がどう考えているのかは分かりません。したがって、アンケートで「市になるのが良い70%」という結果が出たとしても、それは全住民の70%ではなく、回答した人の70%です。
町が今回示した資料には、過去に市制を施行した自治体のアンケート結果も載っています。
那珂川市では、市制賛成が90.6%でした。しかし回収率は9.3%です。全世帯のうち、市制に賛成したことが確認できるのは約8.4%です。
富谷市では、市制賛成86.7%、回収率35.0%。全世帯のうち、賛成したことが確認できるのは約30.3%です。
では、府中町では何%の回答があれば「住民全体の意向を把握できた」と判断するのでしょうか。
さらに、そのうち何%が「市になるのが良い」と答えれば、「市制移行への住民の支持が得られた」と判断するのでしょうか。
今回の質疑では、その基準は示されませんでした。
町は、アンケート結果について「あくまで判断材料の一つ」という立場です。
だからこそ気になります。
判断材料の一つとして、どのように評価するのか。その物差しが結果の出る前に示されていなければ、結果が出てから都合のよい評価をする余地が残るからです。
また、住民投票であれば、一人一票や投票の秘密、投開票の管理など、住民の意思を正確、公正に確認するための手続きが設けられます。
しかし、今回のアンケートには住民投票のような手続きはありません
。
町は住民投票ではなく、アンケートを選びました。
そうであるのならば、次の点についてきちんと見極めなければなりません。
どれだけの人が回答したのか。
そのうち何%が市制移行を支持したのか。
そして町は、その結果をどのように評価し、どのように使うのか。
本当の問題は、アンケートが終わった後にやってくるのです。














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