「平成の合併」、地方消滅論・地方創生と府中町

4.「府中町まち・ひと・しごと創生総合戦略」

目的と手段の転倒 人口維持のための「子育てしやすい町」

二見議員

「府中町まち・ひと・しごと創生総合戦略」はどうでしょうか。まず第一に目標の設定に問題があります。

「総合戦略」は「基本的な考え方」について次のように述べています。

このまま何の対策も講じなければ府中町の人口は中長期的に減少し、2060 年(平成 72 年)には 38,143 人に減少するものと予想されます。しかし、国の長期ビジョンより 10 年早いペースでの出生率回復を実現し、さらに子育て世代の転入出差 を年間+30 世帯とすることで、2060 年(平成 72 年)も 50,478 人と現状の約5 万人の人口を維持できることになります。

この出生率回復と子育て世代の転入出差プラスを実現するため、府中町では「子育て世代が居住を選択するまち」を目指すこととします。

まず、「広島都市圏で一番の子育て支援」の実現を目指すことで、主に出生率のアップと、子育て世代の転入増を図ります。

 

ここで述べられているように、「総合戦略」の目的は人口維持であり、「子育て世代が居住を選択するまち」は、そのための手段にすぎません。そのことは「総合戦略」3ページにある図がはっきり示しています。

子育てしやすい町として府中町が発展することは好ましいことであり、その結果として人口が急激に減少しないこともまた歓迎すべきことですが、それはあくまで結果の話です。子育て支援、暮らしやすい町、魅力ある町は、それ自体として追求すべきものであって、人口=納税者数維持の手段ではありません。

地方自治法がいうように地方自治体の役割は、「住民の福祉の増進を図ること」にあり、人口増ではないのです。

柳澤「女性は産む機械」を想起させる目標

こういう課題設定から出てくる「基本目標」は、さらに歪みを増します。

第1は出生率の回復です。

国の長期ビジョンより10年早いペースでの出生率回復、つまり、子育て世代女性 100 人あたり0歳児数 9.23 人(現状 8.72 人)

 

2015年現在は、100人の女性から8.72人の子どもが生まれているが、それを2020年には9.23人にすれば年間30人子どもが増えるというものです。仮に、20~39歳の女性が増えなくても、年間 30 人程度、出生数が増えるようにする。女性はもっと産めということです。

2007年、厚生労働大臣だった柳澤伯夫(はくお)氏の「女性は産む機械」発言を想起させます。「産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と松江市で開かれた自民党県議の集会で発言。「子どもを2人以上持ちたいというのが健全」とも言いました。

柳澤厚労大臣だけではありません。総理大臣、官房長官、議長などが同じ観点から出産をめぐる問題発言を繰り返しています。
首相をつとめ、現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗氏が2003年、「子どもを一人もつくらない女性が年を取って税金で面倒をみなさいというのは本当はおかしい」と発言。

現在、財務大臣で副総理でもある麻生太郎氏は総理大臣だった2009年に「私は子どもが2人いるので最低限の義務を果たしたことになるのかもしれない」と発言し、今年(2019年)2月には《全世代型の社会保障体制》を巡り、戦後、日本人の平均寿命が大きく延びたことに触れて、「いいことじゃないですか。素晴らしいことですよ。いかにも年寄りが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるけど間違ってますよ。子供を産まなかったほうが問題なんだから」と発言。

菅義偉官房長官は2015年、「(子を産んで)国家に貢献してくれればいい」と発言。

現在参議院議長の山東昭子氏は2017年「4人以上産んだ女性を厚労省で表彰することを検討してはどうか」と発言。

どの人も、お国のために産めと言わんばかり。このように「生む機械」である女性の一台あたりの生産性を上げるというのが自民党政権の基本的な考え方であり、「まち・ひと・しごと創生戦略」もまた同様の観点に立っているわけです。

(7へ続く)

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