「平成の合併」、地方消滅論・地方創生と府中町

人口維持を至上命題にしてはならない

4つめの質問、④人口増を至上目的として、「人口の自然増をもたらす20~39歳の女性」にターゲットすることは女性の人権からみて大きな問題ではないか、という点について「年代を問わずすべての『子育て世代』に府中町で子育てしてもらいたいという趣旨だという答弁でした。

そしてこの基本目標を測る指標の一つとして「20~39歳の子育て世代女性人口の増減」を掲げ、子育て世代の世帯数の増減が20~39歳の女性人口の増減と比例すると仮定した。しかし「この指標は対象年齢を限定しているものではない」とおっしゃる。総合戦略の基本目標ははっきり「20歳~39歳と限定」しているのに「限定していない」という。全く理解できません。

1回目の質問でも言いましたが、人口維持を至上命題にし、「子育て世代が居住を選択するまち」づくりをその手段にする考え方自体が間違っている。根本の考え方がおかしいわけで「表現の問題」ではありません。

社会発展がもたらす人口減

日本は第二次世界大戦を挟んで人口構造も発展途上国型から先進国型へと変わりました。戦前の日本は、出生率の高い国で、老人の比重が少なく年少者の比率が高い。

明治以来1950年までの半世紀の平均出生率(人口1,000人当たりにおける出生数)は32.7でしたが、1955から70年の16年間の平均は17.9(平均出生児数=170万人)でした。この時点で戦前の半分近くまで下がったわけです。その一方で死亡率は20から7へと3分の1に急減しました(林直道『現代の日本経済』86ページ)。

「出生率」の減少は、母体保護、女性の人権保障が進んだことによるものです。1927年生まれの私の父は7人兄弟、1930年生まれの母の兄弟は10人。私が生まれたとき、両方の祖母はもういませんでした。こんなにたくさん産んだら母体はガタガタで長生きできるはずがありません。子どもを産み育てることは命がけです。

世界でも出生率は低下しています。1人の女性が生涯に出産する子どもの数を示す出生率の世界平均は、1969年の4.8人から1994年には2.9人まで減少し、現在はは2.5人です。最貧国においては1969年時点で6.8であった出生率は、1994年には5.6となり、2019年には3.9になっています(『世界人口白書2019』)。

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスを推進する国連人口基金(UNFPA)の努力とリプロダクティブ・ライツを求める運動によって、意図しない妊娠が激減し、何百万人もの人々にとって、より健康的で生産的な暮らしへの活路が開けました。

「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」に対して政府や自治体は無関心、無頓着であってはならず、尊重し守らなければなりません。

「20歳~39歳の女性に引っ越して欲しいという町に住みたいか」と町内外の女性に尋ねてみましたが、誰もがノーと言い、「気持ち悪い」という反応でした。「産めよ増やせよ」ということを目的とする自治体は、そのことが広く知られることになれば敬遠されることになる。それは女性を人口増の手段としていることがミエミエだからです。

「次期総合戦略の策定にあたっては検討する」という答弁でしたので、ぜひ根本的なところから検討し直していただきたいと思います。

結婚しない、結婚できない

人口減は社会発展が必然的にもたらすものだと言いましたが、現在日本で進んでいる人口減少はあまりに急なスピードで進んでいます。これは確かに問題です。人口減少率を緩やかにする必要があります。なぜこんなにも急激に子どもが生まれなくなっているのでしょうか。

明治安田生命福祉研究所が興味深い調査(「20~40 代の恋愛と結婚― 第 9 回結婚・出産に関する調査より―) をしています。

2016年の調査ですが3年前の2013年と比べると20・30 代の未婚男女の恋愛や結婚の意識などが大きく変化しているというのです。

第一に、結婚したいと考えている人は、2013 年度調査と比べて大幅ダウンしました。20 代男性は、67.1%から 38.7%に、20 代女性は、82.2%から 59.0%にまで減っています。

第二に、20 代で恋人がいる人は、2008 年度調査と比べて大幅に低下しました。男性は、45.8%から 22.3%(5人に1人)に、女性は、47.9%から 33.7%(3人に1人)に減っています。交際経験がない 20 代未婚男性は 53%(2人に1人)で、3年前の 1.7 倍です。

第三に、結婚に必要な収入をどのくらいと考えているのか。女性の半数以上が、結婚相手に 400 万円以上の年収を希望しています。しかし男性の実際の年収はというと年収400万円以上の人は、20 代男性ではわずか 15.2%、30 代男性も 37.0%にとどまり、「女性が希望する年収とは大きなギャップが見られ、このギャップが未婚・晩婚化の一因と考えられます」と調査レポートは言っています。

第四に、これが一番ショッキングだと思うのですが、30 代未婚男性の交際経験は、年収 200 万円未満では 42.3%、年収 400 万円以上では 75.8%。年収200万円未満だと4割もの人が女性と付き合ったことがない。レポートは「一定程度の年収がないと恋愛・結婚に前向きになりにくい傾向が見られ、特に男性は年収が恋愛・結婚の意識や行動に大きく影響している実態がうかがえる」としています。

「府中町・まち・ひと・しごと創生総合戦略」が描いている、20~39歳という出産可能な女性に沢山産んでもらい、そういう可能性のある女性に引っ越してきてもらえば人口が増えるというほど現実は甘くないということです。

国勢調査によれば、1990年の生涯未婚率(50歳時点における未婚者の割合)は男性5.6%、女性4.3%で、ほとんどの人が一度は結婚していたわけです。それが2015年には男性23.4%、女性14.1%となっています。男性のうちおよそ4人に1人、女性のうち7人に1人が、生涯一度も結婚しなくなったのです。いくら妊娠する可能性があってもパートナーがいなければ女性から子どもは生まれません。

結婚する、しない、子どもを産む、産まないはそれぞれの自由ではありますが、結婚ないし子育てするための経済的条件が掘り崩されている。ここに問題があります。

経済的条件がなぜ掘り崩されているのか。それは日本で1990年代以降急速に増えた労働者の非正規化です。

1990年には非正規雇用者は870万人(20.0%)でしたが、今年(2019年)は2090万人(37.8%)と2倍になっています。総務省の2017年調査では、非正社員の75%は年収200万円未満。

「働いても働いても生活が豊かにならない」、いわゆるワーキングプアです。労働者の非正規化と低賃金が結婚できない、結婚する気になれない大きな要因なのです。この問題を放置したままいくら「埋めよ増やせよ」といっても少子化は止まらないでしょう。

 

そこで質問です。

⑥非正規雇用者の増加、ワーキングプアの増加と非婚化そして少子化にはこのように因果関係があると思いますが、どのようにお考えですか。

総務企画部長

因果関係はあると思います。しかし、町として何ができるのかという問題があります。

(10へ続く)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください